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魔物資源活用機構  作者: Ichen
空と地下と中間の地
530/2950

530. ミレイオと夕食


 イーアンは夕食をミレイオの家で食べたいということで、執務室へドルドレンに報告へ行った。


 ミレイオとお食事するため、夕食に出かけると伝えると、ドルドレンはとても嫌がった(※『え~』『俺はどうするの』『支部で一緒に食べれば』)。が。イーアンとミレイオを廊下に出して、タンクラッドは総長に歩み寄って小声で言う。


「ちょっと聞いてくれ」


 ドルドレンに、ついさっきの話をし、オーリンが何をしたかを伝えた。タンクラッドの話を聞いて、ドルドレンは剣職人の鳶色の瞳を見る。


「何だと?ミレイオが。オーリンは帰ったのだろう?まだなにかミレイオにあるのか」


「総長は()()()知らないのか。良いだろう、それも。恐らく、イーアンが戻ってくれば、本当のことを聞いているはずだ。その時は俺にも教えてくれ。

 ミレイオは今は普通だが、落ち着くまでイーアンと一緒にいたがると思う。そうした方が良い」


「タンクラッド。待ってくれ。安全か?行かせるのはどうも、事情もあるらしいが。ミレイオに何が。イーアンは大丈夫なのか。お前も一緒じゃないんだろう?」


「大丈夫だと思う。ミレイオはイーアンには、今日も言っていたが・・・手を出さないんだ。どんな意味でも。イーアンが苦しむことも、イーアンが憂いを抱くことも、ミレイオは望まない」


 ドルドレンはタンクラッドの視線を捕らえて、静かに訊く。『何か。知ってるのだな、タンクラッドは』剣職人は灰色の瞳を見据え、僅かに頷き『ミレイオは良いヤツだ。それは知ってる』と答えた。



 ドルドレンは不安に思う。タンクラッドに珠を持っているか確認され、頷くと、いつも持っているようにと言われた。『問題はないだろうが。俺もあるし、総長も持っているなら、連絡は取れるだろう』一応なと剣職人は扉を見た。


「ミレイオが変わるくらい怒る。そうしたことは、まずないんだ。本人がそれを嫌っている。だが、ミレイオは大事な存在を見つけたから。そのためならいくらでも」


「イーアンが大事な存在」


「そうだ。あの気に入り方は前と同じだ。

 昔、ミレイオがこの国に来たばかりの頃。大事な存在がいた。不幸があって、数年後にはいなくなったが。その相手が生きていた頃も、ミレイオは度々怒ることがあった。大変なんだ、怒ると」


 これ以上は、と首を振った剣職人に、ドルドレンは頷いて『分かった』と答えた。イーアンが自分で言っていたなと思う。『私を好むのは変わった人たち』と。『私よりも強い方は好むようだ』とも。彼女を通して、彼らは様々な自分の一面を見るのかもしれない。



「ミレイオに挨拶を」


 ドルドレンは剣職人の肩を叩いて、横を通り、扉を開けて廊下を見る。ちょっと向こうにイーアンとミレイオが見えた。側へ行き、ミレイオにイーアンを早く帰すようにお願いした(※遠回りに遠慮がち)。


「やぁね。何にもしないわよ」


「そういう意味ではないのだ。イーアンは明日、空へ行かないといけない。眠らないと」


「あ。そうなの?そうか。じゃ、食事だけにしよう。お酒はやめようね」


 イーアンを見て、微笑む刺青パンク。イーアンはちょっと『お酒もあるのか』と期待したが、あっさり潰えたので頷く(※お酒に強くないけど好き)。


「ドルドレンも来る?」


 ミレイオは気を遣って誘う。ドルドレンは微笑んで首を振り『俺は待ってるよ』と愛妻の頭を撫でた。『俺が行くと食料が減る』笑った総長に、ミレイオも笑う。『食べそうだもんね』また今度ね、とドルドレンの肩に手を置いた。


「じゃ。行こうか。おいで」


 手を握って、ミレイオはイーアンを連れて廊下を歩く。イーアンはドルドレンを振り向いて『早めに戻ります』でもちょっと遅いかも、と矛盾したことを言っていた。笑うミレイオに引っ張られて、二人は裏庭口へ続く通路に消える。

 タンクラッドも総長に『またな』と挨拶して、二人の後をついて出た。ドルドレンは、ミレイオにも何か不思議な巡り会わせがあるのかと、この時、ふと感じた。


「しかし。凄まじい強さだったな。剣なんか持たせたら、ミレイオはどうなるやら」


 タンクラッドが強いのは知っているが、ミレイオも驚かされた。ロゼールのような動きで、容赦ない盾の攻撃をかます。『ありゃキビシイな』あんなのに怒られたら死ぬな、と笑いながら執務室に入った。



 龍でイオライセオダへ最初に行き、タンクラッドを降ろす。今日のお礼をイーアンが言うと、タンクラッドはニコッと笑って『また支部へ行こう』と言ってくれた。取り巻きが呼んでいる。


「帰り。一人じゃ、夜は危ないからな。あれだったら、龍でここへ来い。俺が送るから」


「ミンティンと一緒ですから大丈夫です。それではまた今度」


 寂しい親方。確かにミンティンと比べられたら、自分のが弱いけど(※龍>親方人間)。それに龍になれるイーアンに比べても自分のが弱いけど(※イーアン龍>親方人間)。


「大丈夫よ。あんた要らないから」


 ミレイオに抱えられたイーアンは手を振って遠ざかる。手を振り返す親方はとてもとても寂しかった。『股間の上にも座らせられなかった(※帰りはミレイオに奪われた)』距離があるなぁと頭を掻きながら、早くお皿ちゃんの解読をして、早くまた呼ぼうと決め、家に入った。



 親方の家から5分もしないうちにミレイオの家。


 二人は龍を降りて、ミンティンを一度空へ帰す。それから家へ向かい、夕方近い時間にミレイオの家に入った。


「一緒に台所に行きましょ。何を料理するか見たいでしょ?」


「見たいです。ヨライデはどんな料理ですか?海があるから、海の料理?」


 イーアンを台所へ案内しながら、ミレイオは上着を脱いで廊下のフックにひょいとかける。イーアンの上着も脱がせて同じ場所にかけ、背中を押して歩かせる。


「うーんと、ね・・・そうね。海も山もあるから。全部、海の食材ではないね。イーアンは海の料理が好きなの?」


「私は海のある島国で育ちました。小さな漁港がたくさんある町です。でもお肉や野菜も大好きです」


「そうなんだ。違う世界から来たって言っていたけど。似てるのね、環境が。海がある世界」


 台所は扉がなく、廊下から刳り貫きの通路で中へ入った。イーアンは台所を見て入り口でビックリした。『船みたい』目を丸くして天井や壁の作り、台所の様子を眺めて呟くと、ミレイオは嬉しそうに頷いた。


「そっちの世界も同じような感じだったのかな。船はさ。こういう感じの台所なのよ、それは同じなのね」


 すぐ分かってくれる人って、あんまりいないのよ、とミレイオは食材の入った篭を引っ張り出す。イーアンはときめく。中へ入って嬉しくて、あちこちを見ては、わぁわぁ感動した。


「昔。ここ自分たちで建てたって話したでしょ?ザンディは、海に出たかったんだって。でも機会がなくて、結局船乗りにはなれなくてさ。で、私とくっ付いちゃったから、もうここに住むしかないってことで。

 だから、じゃ台所だけでも船っぽくしてあげようか、って思ってさ。ザンディは船知らないから、意味なかったんだけど」


 アハハハと笑うミレイオに、イーアンはニコッと笑う。『ミレイオは優しいです。こんなことしてもらえたら、とても嬉しかったに違いありません』とても素敵、とイーアンは言う。


 ミレイオは食材を台に並べ、瓶詰めの保存食も出しながら、イーアンを引っ張る。それから片腕に抱き寄せて頭にキスする。『あんたも喜んだ』良かった、と笑顔を向けた。



「さて。ゆっくり出来ないみたいだから、もう作るか。ちょっと多めに作って、ドルドレンにも持っていっておやり。あの子は馬車の子なんでしょ?」


「そうです。ドルドレンは自分で料理しますが、馬車の家族の料理を作ります。あれもとても美味しいです。私も馬車の家族に入れてもらいました」


 ニコニコするイーアンに、微笑んで頷くミレイオは『あんた。馬車って感じよ』と誉めた。きっとヨライデの料理もドルドレンは好きじゃないかな、と言い、食材を洗って切り始める。


「ヨライデはね。混ざってるのよね、本当に海沿いだと魚介だらけだけど。山間でも魚を食べるし。山まで距離がないから。これ、このままでも食べれるのよ。口開けて」


 平たい容器に入った、紙に包まれた肉をスライスして、イーアンの口に入れる(※出されれば何でも食べる)。口に入った肉に、イーアンは驚く。


「生じゃないですね。でも生みたい。あ、私。これ知っているかも。新年夜会で支部の料理に出たような」


 ミレイオがちょっと意外そうに『え?ハイザンジェルにあるっけ』と聞き返す。イーアンが食べた夜会の料理の話をすると、『あ~・・・ヨライデの食材だ、それ。熟成させるの、多いもの。誰か親戚とかいるんじゃないの』じゃないと知らないよ、と言われた。ミレイオはテイワグナから来る行商から買うと教えてくれる。


 ドルドレンも知っていたと話すと、『そうか。馬車の民がいるからか。じゃ、知ってるか』とミレイオは頷いた。


「ヨライデも馬車の民はいるのよ。でもたまにしか見ないし、あまり人数多くないような。最近は全然あっち行かないから知らないけれどね。

 でもそうよ、馬車の民って合流することがあるみたいだから、食材なんかは入ってくるかもね」


 むちゃむちゃとスライス肉を噛んで、呻くイーアン。再びこんな形でこの肉と出会えるとは・・・うふうふ言いながら身悶えして喜ぶ。


 ミレイオはそんなイーアンをじっと見つめ、『ちょっと聞いてもいい?』瞬きせずに訊ねる。飲み込むのが惜しいイーアンは、困った顔で刺青パンクを見て頷く。


「ごめんね。違ったら違うって言って。誘ってないよね?」


「あまりに美味しくて」


 美味しいと呻いてしまう、と教える。ミレイオは笑って『誘われたかと思った』と肩を抱く。頭にキスして『肉で呻くよ、この子』と可笑しそうに、何枚か切ってくれた。


「誘いません。ミレイオは男女の別をなくした付き合いです。そんなことはしません。お肉があまりに美味しかったから」


「いいのよ。別に誘ったって。あんたが女だから、私の体はそのまま使えるってだけで。でも肉なのね」


 じゃーこれも好きじゃないの、と油漬けの魚の切り身を出してくれる。鱗を取った皮が付いていて、香草と塩と油で浸けているという。


「加熱?してあるわよ。ええっとね。瓶に魚と油と入れるでしょ。それをそのままね、蓋はしないのよ。そのまま鍋に入れて、湯でさ。少しずつ加熱するの」


 だから皮が剥がれていないんだーと、イーアン納得。綺麗なまんまである。ミレイオは大盤振る舞い。デカイ切り身を出して、それもナイフでさっさっと切って、指に摘まんでペロッと食べる。ニコッと笑って『美味しいの』と言い、イーアンに口を開けさせ、摘まんだ厚切りの切り身を押し込んだ。


「うふっ・・・うーん。うー・・・あ~、いやんどうしよう」


 もじもじしながら、赤くなって呻くイーアンに、ミレイオはゲラゲラ笑う。『魚でも呻く』笑いつつ、魚と肉の切り身を一皿に盛ってくれて『これは、せっかくだからこのまま食べるか』と言ってくれた。


 この後も、ミレイオが幾らかの食材を調理しながら、イーアンはお手伝い。あれ取って、これ持ってて、これ混ぜての指示に従って、いそいそ手伝いながら、どうやって作っているのかを見ていた。あれこれ一緒に作りながら、4品出来て、後は煮えるのを待つだけとなる。



「ちょっとだったら、どうだろ。まだ6時でしょ。お酒一杯飲む?」


 ちょっと悩むイーアン。あまり強くないことを伝えると、小さな容器にお酒を注いでくれた。ミレイオも自分の金属の容器に注いで、これは向こうのお酒で、材料は穀物だと教えてくれる。


 イーアンが容器を合わせると、ミレイオはちょっとイーアンを見た。『何?』訊かれて、あっと気がつき、自分が前にいた世界は、お酒を入れた容器を飲む前に合わせて、言葉を言うと話した。


「何て言うの?」 「何でも良いのです。健康に乾杯とか、無事に乾杯とか、出会いにとか。乾杯の言葉は、昔、飲み干すことでしたが、近年は飲み干さない場合が増えているようでした」


「そう。素敵な習慣ね。じゃあ、私とイーアンに乾杯しましょう」


 二人はニコッと笑って乾杯する。ちょっと当てるだけ?とか、一回飲んだらもういいのかとか、ミレイオは詳しく聞いた。イーアンは知っている範囲のことを教え、好きなようにと笑った。


 お酒はとても香りが強く、穀物のひなびた風味と不思議な力強い海の香りがした。岸壁の土が海藻を貼り付け、長い年月で固まるのを崩し、燃やして作るんだと言われ、ウィスキーと似ていると思った。


「ヨライデの人でも嫌がる臭いって評判なの。でも私は好きなのよ。どう?」


「私も好きです。とても良い香りです。豊かな強さです」


 イーアンを抱き寄せたミレイオは、幸せそうに笑顔を向ける。食卓に置いた肉をぴっと摘まんで、座布団イーアンに食べさせる。嬉しいイーアンは、ニコニコしながらふんふん呻く。それが可笑しくて、ミレイオはせっせと与えて、呻くのを見ては笑った。座布団は、次々に肉も魚ももらえて幸せ絶好調。


 料理も出来て、煮込んだ海の食材の皿と、串に刺して焼いた油漬けの魚と玉子、野菜を敷いた上で蒸した肉、油漬けの魚の皮に包んで焼く、なめらかに潰した野菜の焼き皿が、食卓に並んだ。



 船の台所のような場所で、大きなランタンと丸い窓が並ぶ天井から夜空が見える。赤い布をぴっちり張った、綿の詰まった連結する長椅子に座り、磨き上げられた焦げ茶色の頑丈な木の食卓には、編んだ草のマットが敷いてある。

 そこに落ち着いた金色の金属でカトラリーが置かれ、不思議な香りの酒と、美しい皿に盛られた料理。壁一面に、様々な形の焼き型が吊るされている。


 そして目の前には、優しい刺青の男がいる。目の色が左右違って、スリーブロックの髪の色も金と赤がラインで混ざって、顔のピアスは炎の明かりでキラキラしている。顎から下は全部刺青が入って、全ての指に豪華な指輪。薄い襟ナシのシャツが、体の線に沿って貼り付いている。


 じーっと眺めるイーアン。凄い友達が出来たことに、とても満足だった。お酒を少し飲んで、初めて食べる美味しいヨライデの料理にうっとりし、奥の暖かな暖炉の炎が時々、薪をはぜる音を聞く。


 音楽だけがない。でも充分、何もかもの、小さな音がこの空間の音楽なんだろうなと思えた。


「美味しい?何だか酔っ払ってるみたいに見えるけど」


 ボーっとするイーアンに、ミレイオがちょっと笑う。イーアンは大きく頷いて『大変に美味しい、ミレイオの料理はとても好き』と伝えた。

 そして今。自分が何を考えていたかを伝える。この場所と、あなたと、この時間。この素晴らしい料理を、自分が夢ではなくて実体験している満足を話す。


 ミレイオは真顔で見つめて、細かに語られるイーアンの表現に、耳を澄ませていた。話し終えたイーアンが満足そうにふーっと息をつく。そして一口また料理を口に運ぶ。ハッとした顔で匙を置いた。


「え、どうした」 「私。ドルドレンにもあげるのに、食べ過ぎています」


 ミレイオはそれを訊いて、笑顔で首を振り『大丈夫よ。取ってあるから』と鍋を見た。『お食べ。嬉しいわ、あんたとこうしている食事が楽しいの』もっとちゃんと食べなさい、とイーアンの皿にがさがさ乗せた。

 有難く美味しく、イーアンはたらふくお食事をご馳走になった。ミレイオは自分の横にイーアンを呼び、向かいから横に座らせて肩を引き寄せる。


「今度、私も作っても宜しい?私の料理がお好きか分からないけれど。作って食べてもらいたいです」


 イーアンが見上げると、刺青パンクは目を細めて微笑む。『当たり前じゃない。どんな料理か楽しみよ』食材使っても良いのよ、と言う。



 お酒を飲んで、イーアンの横には刺青のお姉ちゃん(オカマ)。美味しい料理に素敵な部屋。最高~ はあぁぁぁ~ (とろ)けるイーアンは、ミレイオに寄りかかる。ミレイオも腕に入れて、背凭れに体を預け、二人でまったり。


「イーアン。今日、私あの坊主に怒ったじゃん」 「ええ」


「怖かった?」 「いいえ」


「怖くない?」 「もちろんです。でも怒らせて悪いことをしました」


 見上げる鳶色の瞳に、ミレイオも見つめる。『あんたのせいじゃないわ』ちがうよ、と鼻先をちょんと突く。


「でも。オーリンを止めれば良かったです。私は彼を止めることが出来たはずでした」


「いいじゃない。私があいつに先に仕掛けたんだもの。イーアンが悪く思うとこんがらがる」


 うーん・・・イーアンはちょっとお酒を飲んで、考える。そうなのかもしれないが。でもオーリンと自分の話しだから、ミレイオが自分を思って怒ってくれるとなると、ミレイオは怒り損のような。


「あれ。何の話だったか。聞いてもいい?」


 ミレイオは黙るイーアンに、内容を訊ねる。イーアンは昨日の話をして、オーリンがそれまではそうではなかったことも説明した。


「何てこたぁないじゃない。単に、決め間違えて焦ってるだけでしょ。アホくさい。どうせ結婚なんか出来ないわよ。可哀相だけど、相手の女とイーアンを比べるもの。それ、放っておけば勝手についてくるわよ。

 ただ・・・あいつ。本当に龍の民。タンクラッドがちょっとそう言ったけど、ホントかなぁと思ったのよ。でもそうなんだ。それで、あんな勝ち気。

 タンクラッドもそういうところあるけど、無謀じゃないのよ。でもオーリンは無謀ね。ぶっ壊れて笑って怒って、って感じ。結婚も、ケンカも、のめり込みも。そうか~ そのまま龍の民、あの気性だわ」


「そうなのですか。ミレイオはいろいろ知っています。私は知りませんでした」


「だって。あんたは別の世界から来たんだもの。知るわけないわよ。あれ、あんたも龍になるんだっけ」


 頷くイーアン。『だけど、こちらに来てからですから。以前いた場所では、ただの人間です。何の取り得もないおばさん』そこまで言うと、ミレイオがイーアンの顔ど真ん前に、顔を下ろした。


 唇が少しだけ重なって、両目の色が違う瞳が視線を捉えている。驚いたイーアンだが、唇は僅かにしか触れていない。驚きで黙った。


「そういうことを言わない。言うと食べちゃうよ」


「それは困ります。言いません」


 笑ったミレイオは離れて『これはドルドレンには言わないように』と。絶対、誤解するからと言うので、イーアンも笑って頷いた。『誤解なのか、真実なのか』呟く声に、ミレイオは笑顔を向ける。


「ドルドレンが驚いちゃうでしょ。うっかりたまたま偶然、触れちゃったのよ。ってだけ。でしょ」


 料理の残りを食べて、ミレイオがもう一度イーアンを両腕に抱える。咳払いして『あのね』静かに話し始める。


「私もちょっと違うの。それ、言った方が良いのか分からなくて。言わなくても良いのかなと思ってたんだけど。

 オーリン、龍の民ね。あんたも龍。で、私は人間ですかって言うと違うのよ、この流れだから」


 イーアンは黙って聞く。ミレイオは何かを打ち明けようとしている。それが何であっても、しっかり聞こうと思う。


「私は反対なのね。私はヨライデから来たって言ったでしょ?グィードのことも知ってる。グィード、どこにいるか見つけた?」


 まだですと答えるイーアン。地図では海の中のような、地下の国のような表現だったと伝えると、パンクは頷いた。



「正しい。グィードのいる所から私は来たのよ」


 固まるイーアン。グィードを知っているミレイオは、その場所にいた人。続きを聞きたいと思い、すぐに『私は元気になりました。話して下さい』と頼んだ。呆気に取られて見るミレイオ。そして吹き出す。


「何のことかと思ったわ。そうか、私がこの前。あんたがあれこれ悩んでたから、喋らなかったことね」


 イーアンの頬を撫でて、『良いでしょ。まだ1時間くらいは居られるだろうから』話そうかと酒を注いだ。

お読み頂き有難うございます。 


ミレイオは男女関係なく愛せる自由人です。この話を書いている間、『Sugar』~(Robin Schultz)という曲を聴いていました。

ミレイオの視点でのイーアンに思う気持ちを重ねます。ミレイオの気持ちは会話には、言葉で上がるものの、ほぼ出てきません。

手を出したいような大事にしたいような、他の人間はそう思うんだろうなと客観的な面もある、そんなミレイオの大人な視点が、ちょっと被る曲です。

格好良い曲なので、関心がありましたら是非聴いてみて下さい!

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