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魔物資源活用機構  作者: Ichen
空と地下と中間の地
523/2951

523. 相手それぞれ

 

 ドルドレンはイーアンと中に戻り、イーアンを風呂に入れる。短い時間でも、夜に袖のない服で外にいた愛妻(※未婚)は冷える。


 脱衣所外の椅子で番をしながら、タンクラッドは何であんなことを言うのかと考えていた。イーアンに知られたら怒らせるようなことを、わざわざ言う理由。フォラヴの朝の言葉も重なる。


「手の届かない相手。だから、か。所詮、一緒には、なれない・・・イーアン」


 それを思うと。タンクラッドに『俺とイーアンの家を建てる』そんな自慢をした、自分の方が悪かったのかなと思うドルドレン。『あなた夫でしょ・・・』さっき、フォラヴはそう言った。


「ベルが言ってたな。『お前は自分が選ばれてる自覚のないヤツ』だと」


 イーアンがダビと工房へ行った後、朝のあの時間。ベルもそんなことを言っていた。



 ――よく考えてみろ。イーアンは、選り取り見取りだろ。お前じゃなくても、お前と同じくらい、彼女を求める男はわんさかいるじゃねーか。支部にも、外にも。


 そんな状況で、どこかの誰かに会う度に触られるだとか、抱き締められるだとか。そりゃヤダろうけどよ。違う方向から見てみろよ、それでもお前と一緒なんだぞ。


 他の誰とくっ付くわけでもなく、距離持って毎日動いてんだ。あの喋り方が変わった相手はいるか?あの態度を変えた男がいるか?どこの誰にベタベタされても、いつだって彼女はお前中心でいるのに、何でそれを分からないんだ――



 朝言われた旧友の言葉に、ドルドレンは額を掻いて溜息。


「まぁな。そうだな。そうだ。そう」


 俺の自信の無さかなぁと呟く。その後すぐ、イーアンが出てきて、座っているドルドレンの肩に両腕を回して、頬にキスした。周囲に人がいると、こういうことをしないイーアンのちょっと驚く行動に、ドルドレンはその目を見る。


「私はあなたのものですよ」


 ニコッと笑ったイーアン。ドルドレンは立ち上がって、ぎゅっと抱き締めた。『うん』うん、うん・・・ドルドレンはちょびっと涙が出た。イーアンは伴侶の背中を撫でて、寝室で待っているからお風呂に入って、と促した。



 ドルドレンは素直にそのまま風呂に入り、イーアンは寝室へ。


「今日は。親方に連絡しません」


 全く何を吹き込むやら、と怒るイーアン。腰袋の下がったベルトを自室に置いて、破れたシャツを手に取り、ドルドレンのベッドに戻る。

 親方は、すぐに治癒場へ行ってくれたり、親切で優しいけれど。『ドルドレンに変な言い方して』大人気(おとなげ)ない、と眉を寄せる。


 手に持ったシャツを見て、ふと、関係ないことを思い出した。『あの人たち』ドルドレンに言わないと。タンクラッドの変な発言で、魔物退治のことを言うのが遅れた。明日ダビを迎えに行って、ダビが帰ってきてから、詳細を伝えるほうが良いのか。


「でも今日のことだから。とりあえずお話ししなければ」


 何とも奇妙な姉妹だったな、と思う。名前や龍から北西支部(ここ)に来るかもしれないし、ドルドレンにも一緒に考えてもらいたい。あんな態度の人、見たことない。



 イーアンがその姉妹の発言を思い出していると、ドルドレンが戻ってきて、夕食へ行こうと誘った。広間へ行く間と食事中。イーアンは今日の魔物退治の話をした。


「もう書類を出すのは遅いから、明日書こう。ダビが戻ってからでも」


「はい。あの。その方々のことが分からなくて、腑に落ちなくて」


 誰?ドルドレンは、イーアンの表情から、何か困ったことでも起こったのかと気が付く。イーアンは細かい部分を全て話し、自分が受け取った感覚も伝えた。


「タンクラッドも何か言っていたか?彼女たちのことで」


「特には。ただ、お礼を言いたいという割には、もてなそうとするのも気持ち悪い、と」


「そうだな。タンクラッドを見てもいたんだろう?その、若い姉妹は」


「そう思います。ちらちら見ていたし、照れているような。恥ずかしがっているふうに見えましたから。タンクラッドが目当てかなと思ったのですが。なぜ私の居場所や、私と約束を取り付けるような言い方をするのか。分からなくて」


「タンクラッドが目当てだとすると、食い違うってことか」


 頷くイーアンに、ドルドレンも考える。姉妹?若い姉妹で、買出しに馬一頭で行くかなと思う。それも変だ。魔物に襲われると思わなかったのか。


「イーアンが男ならな。分かる話だが。確かに変だな。お礼は言われたのだし、それ以上は必要なさそうだが」


「ふーむ。そうです。私はタンクラッドと一緒にいたので、姉の方は『その人は大事な人か』とタンクラッドの存在を訊きました。意味が分かりません。会ったばかりの人に、そんなこと訊きますか?お礼を言いたいって彼女たちは最初に言ったのに」


「イーアンは何て答えたの」


「はぁ?って感じです。タンクラッドは後ろで『そうだと言え』と言っていましたが、まぁ親方ですし、『似たようなもんだ』とは濁しました。何かおかしい質問です」


 一個しか思いつかないドルドレン。でも。愛妻をちらっと見る。首を傾げながら、食事を食べている。どこをどう見ても、女にしか見えないが・・・となると、困る。


「イーアン。落ち着いて聞いてくれよ。一つの可能性で思うことはね」


「はい。何か分かりましたか」


「その姉妹は。イーアンが好きなんじゃないのか」


 匙が止まるイーアン。ゆっくり伴侶を見て『なぜ』と質問。だよなぁ、とドルドレンも思いつつ。


「助けてくれたと連発したんだろう?怪我したとか、それでも戦ったとか」


「言いました。でも私は仕事だからと。あまり多くは答えませんでしたが。って、私は女性です」


「うん。だから。それじゃないの。女性が好きな人たち」


 固まる愛妻(※未婚)。何かを大急ぎで頭に巡らせていると分かる沈黙。匙を(くわ)えたまま、目が泳いでいる。ドルドレンは食事を続けながら、大袈裟ではないように丁寧に説明する。


「騎士修道会は男だけだった。イーアンが来るまで。だが、イーアンだけ女性として、この団体に在籍している。これは本当に例外中の例外なのだ。だから、俺も含めて他の誰も知らないが。


 それを前置きとして受け取ってくれ。おかしいと思っても。

 あのな。俺たちは時々、民間人を助けると好意を寄せられることがある。俺もあるし、シャンガマックやフォラヴなんかもある。ロゼールもあったかな。クローハルやブラスケッドはしょっちゅうだ。隊長だから目立つしな」


「それ。相手は女性ですね」


「そうだな。多くは。たまに同性もあるが」


 愛妻の目が据わる。ドルドレンは静かに食事を続けて、穏やかに伝える。


「だからね。イーアンを女性だと知っても、いや。女性だからこそか。そう、何と言うかな、好意を寄せる女性もいても、おかしくはないかと思うが」


 悩むイーアン。午前中に考えていたことが、自分の身に降りかかるとは。まだ本当のことは分からないが、あの姉妹に会いたいと思えない自分がいる。


 考え込む愛妻にドルドレンはちょっと同情して『まだ、可能性だけだ』ともう一度言う。イーアンも頷く。


「あの・・・変に捉えないで下さいね。もし女性に好かれるなら、まだあなたのお父さんの奥さんの方が良いです」


 げっ ドルドレンびっくり。目を丸くする。イーアンは食べながら、顔の前で手をちょいちょいと振る。


「理由があります。奥さんの方が分かりやすいからです。彼女はあなたにも貼り付いたけれど、私にも貼り付いた上に、キスもされたし好きとも言われました。それは良いんですよ」


「良い?良いの?」


 参ったなぁとこぼしながら、髪をかき上げる愛妻が男友達に見える。


「あの方。私は嫌いではないので、良いです。でも今日の姉妹は、ちょっと無理ですね。好みじゃないのか」


 げーーーーーーっ 愛妻が本気で『好みじゃない』って言ってるーーーっっ!! 


 それも困った顔でもぐもぐして、本当にちゃんと考えてるっぽい発言。『違うんだよね』と呟いて水飲んでる顔が、もう、男と変わらない。イーアン、渋カッコイイ~! じゃなかった。そうじゃない、違うぞイーアン、気が付けっ 相手は女だぞっ


 うーん・・・悩む愛妻は、食べ終わって両手で髪をかき上げる。天井を見て、髪を撫で付けたままの両腕、肩からむき出しの腕には、筋肉が盛り上がる。やっぱりイーアン、カッコイイ~(×2)!!ドルドレン、メロる。


「違うんだよなぁ。あの子たちは胸は大きかったけれど。シャーノザさんも胸は爆乳だったから。雰囲気かなー・・・・・ 」


 うへーーーっっ!!! 胸に意識がいってるーーーっ 爆乳とか言っちゃってるよ、うちの奥さん!顔つきがもう、大人の男の眼差しっ どうしよ~~~(※あなたにはどうにも出来ない)


 違う方向でドキドキするドルドレンは(←ドルドレン『も』)低い声で呟かれるイーアンの本音に、興奮が止まらない。うう、うちの奥さんは、何でこんな魅力三昧なんだ。いつもだって、色っぽいなとか、可愛いなとか思うのに。男みたいになっても・・・うっ。抱いてください、間違えた。俺が抱くんだ。カ、カッコイイから、つい・・・・・(←イーアン年上だし、つい)


 大好きな愛妻を、ちょっと顔を赤くして見守るドルドレン。次の発言を待ってしまう自分がやばい気がする。

 イーアンは暫く考えてから、もう一度首を傾げ『うん。無理ですね』と。どうやら、姉妹を切ったらしい一言で呟きを終えた。

 ドルドレンも内心、ホッとしたような。何となくまた、この話の続きを聞きたいような。愛妻の『年上の男』みたいな魅力にメロる自分がヤバイ気持ち、これを新たに発見して、悶々としながら食器を片付けた。



 二人はその後、寝室へ行って。あれこれと思うところを話した。明かりを消した後は、ドルドレンは()()()()女性としてのイーアンを楽しく愛した。時々『自分がイーアンに主導権を持たれたら』と想像は過ぎったが、それはそれで良さそうな気がした。



 *****



 ダビはイオライセオダ。一仕事終え、工房でボジェナの作った夕食を、親父さんとボジェナのお父さんと自分、ボジェナの4人で食べていた。


 食事も中頃。親父さんがダビに朝の話を聞き直した。『保護した人。レビドに帰したっ、て自警団が言いに来たけれど。ダビは特に何か紙とか作らないでも良かったのか?伝えておくと言って、終わったが』ボジェナは少し気になる話題。女性2人とか。


「別にすることないと思います。支部に戻ったら報告しますけれど。多分、イーアンが先に報告してるんじゃないかな」


「若い女の子だろ?レビドの」


 ボジェナの父・セルメが何歳くらいかを訊ねる。ダビは思い出しながら『見た感じ。ボジェナくらいですね。一人は気絶していて顔をよく見ていません』若いとは思うけれど、不自然ですよねと続ける。


「馬一頭。剣一本。レビドからここまで買出しって。普通、誰でも良いから、男の人と一緒に来ませんか?危ないくらい分かりそうですけど」


 親父さんとセルメが視線を交わした。ボジェナが気が付く。『何?お父さん何か知ってるの?』セルメは娘を見て、どうしようかな~といった感じ。親父さんもボジェナをちょっと見て黙る。


「え。何よ。私に気を遣ってるの?平気よ、ダビに何かあっても困るから話してよ」


 兄弟は目を見合わせて、セルメが話すことにした。ダビも何となく、あまり良い話ではなさそうな気がしたが、黙って聞く。


「うん。噂だから。その人たちがそうとは言わないが。ダマシかな、とね」


「何それ。あまり聞こえが良くない」


「そのまんまだよ。最近は聞かなかったけれど、前に何度か。魔物が出始めて引っ越す人が増えた時、一時的にね、あったんだよ。

 稼ぎ手がいなくなると、女性がね。女性だけじゃないんだが、男女の場合もあったし。助けてもらって、家に連れ帰ってさ。追剥みたいなもんだな。何にもしてなくても、何かされたとか騒いで。金品目当て」


「あんなに若いのに?そういうことする人いるんですか」


 驚くダビ。そこまでして集落に暮らす意味があるのか、と親父さんに訊く。親父さんも首を振る。『分からんが。ほら、年取った親とか、引っ越したくても出られない家族がいるとか。そうした場合あるから』セルメも頷く。ボジェナは首を振って『ええ・・・?』と理解しづらい表情。


「そんなにしてまで。他の手って考えないもの?」


「生活が守られなくなると、誰に頼れもしないとな。理解しようと思うわけじゃないけれど、人間はそうも動くからさ。真面目そうに見えても」


 父親の言葉に、ボジェナは不快そうな顔をする。『だって。もしもよ、それで本当に。家に引っ張り込んで、逆に何かされちゃったらどうするのよ。踏んだり蹴ったりじゃない』変よ、と苦い顔。


「まだ、そうとは決まっていない。ただ、魔物が出ると分かっていて、死ぬかもしれないのに出かけるって。買い物とは思えないだろう?もっと切羽詰ってる理由でもないと、考えにくいよ」


 セルメの言葉に、親父さんもダビも黙る。黙々と食事をしながら、そうじゃないと良いけれど・・・と考えていた。ボジェナは納得いかなさそう。



「でも。もしそうならよ?イオライセオダに来たんだから、誰か捕まえるんじゃないの?獲物。ダビとイーアンは逃がしたんだから、次の獲物必要でしょ。二人だけで戻ったと自警団に聞いたけれど。餌ナシはおかしくない?」


 娘から『獲物・餌』発言が出て、お父さんは驚く。男3人が若い娘の発言に目を丸くして見つめる。ボジェナはさっと見渡して『だってそうでしょ』と料理を食べた。


「金品目当てって感じじゃないわよ。うーん、もしかしたら。追剥じゃなくて、ホントに相手でも探しに来たんじゃないの?養ってくれそうな人とか。女二人でどっちかに食いつけば」


「ボ、ボジェナ」


 お父さんが止める。そんな言葉を使ってはいけない、と注意する。これはお母さんの影響だなと、ひそかに理解した。ダビもボジェナの推理に困惑しつつ、気にしない振りで食事を続けた。


 そして少し。気になることがあった。


「あの人たち。そう言えば。私とイーアンに、また会えるかと訊きました。自分たちは忙しいから無理、と答えたけれど、しつこくて。特に、イーアンにはどうやったら会えるのかと。お礼を言いたいって言い張るんで、仕事で退治しただけで、それを勘違いされても迷惑だと伝えました」


 ダビらしい遠慮ない態度。ボジェナも親父さんもセルメも、何とも無情なダビそのもの、と頷く態度。


「イーアン。あの人たちに狙われないと良いけど。下手に同情煽られても、ホント迷惑ですよ。誰だってその人の人生で生きてるんだから、巻き込まれてもね」


 ボジェナ、安心。ダビのこのすっきり感。あっさり誠実。冷たいくらいに見えても、合ってる。って思える、この感覚はボジェナにとって安心に映った。

 ただ、イーアンが狙われたと聞いて、それはボジェナも心配になる。イーアンは情があるから、その人たちに今後会わないと良いけれど、と願った。



 *****



 人口20人のイオライ・レビドの夜。


 登録数は20人。実際に住んでいる人数は8人。12人は王都、イオライセオダで出稼ぎ中。ミルカの家も二人暮らしの現在。


「レナタ。具合どう?」


 ミルカが食事を用意する。姉のレナタは奥の寝室から出てきて、微笑んだ。『大丈夫よ、ちょっと疲れたのね』椅子に掛けて妹の作ってくれた食事を見て『有難う、美味しそう』とお礼を言う。二人揃って食事を始め、今日の驚きを何度となく繰り返し話した。


「あの人。絶対。また会いたいわ」


「イーアン?」


「他の誰でもないでしょ。魔物相手に素敵過ぎる」


「レナタは見ていなかったじゃない。彼女が戦うの」


「分かるの。気を失っていたけど、あの人の声。迫力があって。帰りに見た時『絶対、運命』って思ったわ。格好良かったじゃない?親切で、誠実そうで。後ろの男の人とは関係に距離ありそうだし」


 ミルカは姉の言葉に、ちょっと気持ちを抑えて頷く。食事を続けながら、話を変えた。『もう。レビド(ここ)から出ても良くない?飢え死にしちゃうわ、こんな生活。彼だって、イオライセオダにいなかったじゃない。逃げたのよ』匙を運ぶ手をぎこちなくしたミルカは溜め息をついてぼやく。


「長く離れちゃダメだって言ったのに」


 妹の言葉に、レナタは面倒そうに首を振る。『あの男。どうせ大した稼ぎなかったから。探しに行かなくても良かったと思うけど。男が良いの?』男なんて金にしかならない、と可愛い顔で吐き捨てる姉。



「レナタも分かってるでしょ。ここから出るのに、男の人の方が自然でしょ?相手は。

 お祖父さんとお祖母さんが死んじゃってから、私たちの生活なんて捕まえた男の人任せじゃないのよ。(まじな)いが効いてるうちは良いけど。

 稼ぎに出して、1日でも延びちゃったら正気に戻るのだけは、どうにも出来ないもの。戻って来るまで毎度ハラハラ待つのは、もう嫌よ。場所が場所なんだから、レビドは・・・・・ 」


「探しに行ったは良いけど。今日は誰も手に入らなかったしね」


 姉のくさくさした言い方に、ミルカも困る。『無駄足って言いたいのね。でも彼にもう少し情が湧けば、私たちを連れて、もっと人の多い町へ出たかもしれないのよ。いつまでもこんなふうには』妹がそこまで言うと、レナタは薄青い目で睨む。


レビド(ここ)を離れるな、って。『影』が前に言ってたでしょ。『影』がそこまで言うなら、私たちが飢え死にすることはないわよ」


「『影』だって、あっちの都合でしか来ないのよ?レナタは『影』に従う気なのかも知れないけど。

 こんな所まで来る人自体、少ないのに。次の誰かを待っているうちに、飢え死にしかねない」


「ミルカ。飢え死になんてしないわよ。売りましょ、貰った物。あの箱の中の物、結構値打ち物もあるわ。綺麗だから売りたくなかったけど、売っちゃえば生活は平気よ」



 姉の口から出ることは、変化を嫌う言葉ばかり。片田舎どころか、辺境の集落で。周囲は年金暮らしの老人しかいない場所だというのに、ここから出ようともしない。ミルカの中で、姉への苛立ちが募る。


 物心ついた時から、このレビドに暮らしていた。ちっとも自分たちと似ていない、お祖父さんお祖母さんが家族だった。

 二人姉妹で遊んでいると、いつからか『影』が来て、いろんなことを教えてくれた。草や木や花、実や動物の材料、石や水や夜の光、時期、時間・・・・・ 上手く組み合わせて『こう言ってご覧』と教わった言葉を言うと、誰かの心が自分の物になった。誰でも。


 それが一番大切、と教わる。『()()()()()()()があると、どこでも生きられるよ』()はそう言った。他にも病気を操ったり、怪我した体を操ったり。()は『操るのが生きるコツ』と私たちを訪れては知恵を授けた。


 姉はそれを使いこなす。私も使う。でも、私は育ての親が亡くなってから思った。操る相手がいなければ何にもならない、この力。最初は便利に思えても、(まじな)いが解ける時間もある。


 使う場所を変えなきゃ、自分たちも動かなきゃ、と何度も姉に言っているのに。



 ミルカは姉の言葉に、もう離れたくなる。自由に空を飛んだあの人のように。どこへでも行けたら良いのにと、イーアンを思った。

 親くらいの年なのかなと顔を思い出す。大人って感じだけど、男でも女でも通じそうな精悍な顔立ち。見たことのない顔つきは、自由そのものに感じた。それに凄く強かった。戦い終わっても謙虚で。あの人なら頼れないかな、とミルカは思う。


 (まじな)いをかける気はないけれど、何か新しい行き先を教えてくれるんじゃないか、って・・・勝手に思う自分がいる。だから、もう一度会いたい。相談したい。力に頼って動かない姉じゃなくて。


 黙々と食事を終え、すっと姉を見ると。姉は自分を見つめていた。


「ミルカ。来て。離れないで」


 姉は両腕を広げる。ミルカは大きく溜め息をついて、側へ行き、姉の抱擁を受けた。姉はそのまま妹にキスをして、恋人のように体を触る。


「離れようとしてるでしょ。ダメよ。イーアンのこと、私も好きだけど。あなたは私から離れちゃダメなの」


 囁きながらレナタはミルカを脱がす。ミルカはちょっと嫌がって体を捻るが、レナタに抱き締められているまま。

『イーアンも捕まえれば良いのよ。あの人なら、きっと何か・・・稼ぐだけの男には出来ない、私たちの道案内をしてもらえる気がする。急がないでも、そのうち捕まえましょう』そうでしょ?レナタはそう言いながら、夕食の食卓の椅子の上で、ミルカと体の夜に崩れた。

お読み頂き有難うございます。


ポイントを入れて下さった方に心から感謝します!ありがとうございます!! 

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