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魔物資源活用機構  作者: Ichen
空と地下と中間の地
520/2953

520. シャンガマックの剣完成

 

 イーアンは親方股間座席。でも気にしないことにしたのもあるし、今は何より『いってぇ』たまの振動で歯を食いしばる。肉が焼けて火傷の滲出液が垂れている。『ちきしょう』と呻くのを、眉根を寄せる親方はそっと支えながら宥める。


「痛いな。でももう少しだ。もうちょっと。お前は動くな、俺が抱えていくから」


「申し訳ないです。ご迷惑を。いって」


「いいから。喋るな。それ以上喋ると」


 親方はイーアンの唇をちょっと見た。イーアン黙る。『おい。まだ何も言ってないぞ』親方は読まれたことに少し焦る。イーアンは黙ったまま。


「あのな。喋ったらほら。傷に触るから。でも喋りたいのは止められないから、そういう時」


 イーアンは違う方向を見る。親方、無視を感じる。二人は何も言わず、そのまま治癒場へ到着した。イーアンは目も合わせない。親方は寂しいのでそれは止めるように頼んだ。


 抱きかかえながら龍を降り、イーアンがひたすら目を背けるのを注意。『イーアン。傷つくから止めてくれ』ダイレクトに頼まれては濁しようもないので、イーアンはちらっと見る。親方は鳶色の瞳で、イケメン困惑中の表情。イケメンに弱いイーアンは頷いた(※女にも弱いイーアン)。


「お前に無視されるのは嫌だ。よせ。治癒場に入るぞ」


「有難うございます」


 抱えられながら、イーアンと親方は一緒に治癒場へ降りた。青い光のある場所へ進み、親方はイーアンを降ろす。『俺と一緒じゃなくて大丈夫か』一応訊くと、イーアンは微笑んで頷く。そして青い光の中へ入った。


 光は増えて、銀色の煙がイーアンを包む。イーアンは、何度これに助けられたかと思う瞬間。一般の人も、間違えた使い方を選ばないと約束してもらえたら。ここを教えられたらと思う。


 イーアンは煙が引いたので出てきた。頭を下げて、祭壇の裏から出て、親方に笑顔でお礼を言う。『タンクラッド。有難うございました。お陰でこんなにすぐ癒されました』優しいタンクラッドの行動に感謝して、イーアンはそっと剣職人の胴に腕を回した。これが良くないんだろうなぁと思いつつ(=ドルドレンに)。でも感謝。


 親方はイーアンを抱き寄せて『良かった。痛みが早く終わって良かったな』そう言いながら、微笑んでいた。


 二人はイオライセオダに戻る。龍に乗って30分ちょっと。タンクラッドはイーアンを股間座席に座らせるため、元気になっても股間座席。ただ、親方のこの強引なお願いの効力というか。これに慣れたから、空でも男龍の股間(※こっちは生)でも動揺しなかったんだなと思えた。何がどう功を奏すか分からないものである。


 ちょっとタンクラッドを見上げるイーアン。ニコッと笑って『ありがとう』短く伝えた。親方、コロッとやられる。不意打ちで見上げるなよ・・・ドキッとしちゃうだろ(※47才♂)。ちょっとテレテレしながら、親方は頷いた。

 もう。このまま家に戻って。カミカミナメナメしたいところだが(※その他諸々最後まで)。絶対に嫌われるから出来ない・・・・・ はぁぁぁぁぁ、と長い溜め息をついて、親方はイーアンの胴に回した腕をぐっと締めた(※おえって言う)。


 ちょいっとイーアンの胴に回した腕を見る。気が付いた。片側だけ、服がない。千切れたのか、シャツは左側だけ切れていて、直に肌が密着(タンクラッド腕+イーアン腹)。う・・・あったかい。行きはケガをしていたから、それどころじゃなかった。


 頭上ではーはー言う親方に、イーアンは大丈夫なのかと、時々見上げた。親方も治癒場に入っておけば良かったのかと思いながら、戻ったら休ませようと決めた。



 タンクラッドにとって(※想像する割に純情)長い耐久時間。股間もどうにか硬くさせずに(※これが一番疲れた)イオライセオダに到着。イーアンを抱きかかえて降ろし、そのまま家に入る。


「もう下ろして頂いても」


「治り立て」


 それだけ言うと、椅子ではなく寝室へ連れて行かれ、イーアンはベッドに座らされる。『私は治りました』ベッドが汚れそう(※さっき土埃が付いた服)なので、イーアンが立つと、タンクラッドは肩を押して座らせた。


「そこにいろ。椅子より低いから。腹に障らない」


 優しいなぁと思いつつ。イーアンは有難くベッドに腰掛けて、背中の剣を下ろす。タンクラッドに革袋を渡し、柄は出来たと伝えた。剣職人は嬉しそうにイーアンを見てから、革袋の中身を引っ張り出した。


「鞘。鞘も作ってきたか」


「途中です。もうちょっとで終わりますけれど、そこまで作って昼になりました」


 タンクラッドは鞘を見ながら、その編まれた編みこみの皮を指先でなぞる。『お前。これ何の革だ』何だか触った感じが違う。革ではない気がする、と質問すると。

 イーアンは空に行って、龍の翼の膜をもらってきたと言う。『普通の硬さではありませんでした』白いナイフで紐を切り出した、と教えた。タンクラッドは見事な編み目をなぞりながら、龍の翼の膜で出来た鞘に笑みを浮かべて首を振る。


「凄まじいものを手に入れてきたな。こんなものが連続するなんて。お前が来たこの数ヶ月で。俺の人生になかったものが生まれる」


 剣職人はイーアンを見る。イーアンも首を傾げて笑った。側へ行き、タンクラッドはその笑顔の額にキスをした。イーアン目が据わる。


「そんな顔するな。俺が嫌いなのか」


「違います。でもあんまり普通に口付けされますと、()()()()()()という誤解の対象になります」


「俺は構わないぞ。お前が誤解されても、胸を張って肯定できる」


「それ。違いますでしょう。私の家庭崩壊につながります」


 ちくっとしたタンクラッドは、イーアンに顔を寄せて真剣に聞く。『お前な。総長が好きなのは分かるが。俺の行為がお前の邪魔のような言い方だと、分かってて言ってるのか』イーアンの顎を押さえて訊ねる。


「邪魔なんて。そんなことではないです。タンクラッドだって、オーリンが私の頭に手を置いたら怒ったでしょう。ドルドレンも同じです」


 うっ。独り占めしないって約束したのに、腸詰の時はうっかり忘れた。あの時。指摘されなかったが、今になって言われるとは。イーアンは手強い。


「うむ。そうか。そうだな。分かった」


 大人なタンクラッドはそこで流す。記憶と口げんかで、勝てる相手ではなさそうな気がする(※女は皆そう)。イーアンはタンクラッドをじっと見てから、顎に添えられた手を掴んで、よいしょと下ろした。寂しい親方。

 イーアンはタンクラッドの首に片手をかけ、顔をずいっと寄せて、鼻先が付くくらいの距離で一言『私があなたをキライって言わないで』対等な言い方ではっきり言う。親方。倒れる。


 はーはーはーはー息切れしながら、ベッドに伏して悶絶する親方。


 イーアンは見下ろしながら思う(←勝者)。

 47才男性。よくぞここまで純粋に、生きて来れたものだと思う。結婚もして子供も生まれた聞いているが。でも。それでもこれ。もともとが純粋なんだろうなー・・・と(※他人事)。親方だって、おでこちゅーとか、おでこ合わせとかするのに。それはまた別なのか。天然行為&自分優位だと、気にならないタイプなのかもしれない。他人にされると弱いとか。


 悶える親方を見ながら、あれこれ思いつつ。この手は度々使えると認識(※44才VS47才間のみ可能な技)。次から、しつこい思い違いの時は、これで畳もうと決める。


 タンクラッドはヘロヘロ中。息が、かかった。あとちょっと。あとちょっとで、口も重なった距離。何だあの、一発技は。はー、もう一回食らいたい。頼んでもしてくれない気がする・・・でも頼みたい。悶えつつ、タンクラッドは股間と頭を押さえた。


 一応、ダメもとで訊いてみることにし、赤くなりながら、ちらっとイーアンを見上げる。ベッドに腰掛けて自分を見下ろす、勝者イーアン。

『もう一回』控えめに言うと、あっさり首を振られた(※無表情)。シーツを握り締め、悔しい親方。どうにか復活して立ち上がる。



「では。剣の柄を終えましたから。柄頭を合わせて嵌めて下さい」


「お前は。業務的だ。余韻も何もない。俺の身にもなってくれ」


 ぶつぶつ言いながら、親方は鞘から出した剣を持って工房に行く。イーアンは置かれた鞘の続きを行うため、革袋に一緒に入れてきた、切り出した紐と紐用錐を出す。


 お腹はすっかり治った。治癒場の効力に本当に感謝する。編みながら、あの効力を一般の人たちにも紹介出来る方法を考えた。良いアイディアは出なかったが、今後もそれを思うだろうと感じる。



「お前。ところでな。あの板はどうした。この前から、話にも上らないが」


 工房から親方の声がして、お皿ちゃんについて訊ねられた。お皿ちゃん機能を教え、自分も乗ったけれど危険と判断した伴侶が取り上げ、彼はそれで魔物退治をしたが、彼も昨日、部下(※ロゼ)に取り上げられたと伝える。


 親方が工房から寝室へ来て、眉をちょっと寄せる。『あれ、聖物だろう。解読しないとダメだぞ』情報があるのにと。『総長が部下に取られたのは知らんが。まだ解読もしていないのに』持って来いと親方は言う。


「そうでした。ロゼールにお願いして、お皿ちゃんを返してもらいましょう」


「俺も乗ってみたいもんだな」


 イーアンは思う。タンクラッドも運動神経が良いので、きっと乗りこなせる。伴侶も良いから、早々乗りこなしたし。あれは男心をくすぐるアイテム(←キントウン状態)。でも。


「何だ。乗るなって目つきだな」


「違います。ロゼール・・・お皿ちゃんをドルドレンから奪った彼。彼にこそ、あれがあってもと。ドルドレンもタンクラッドも、とても運動神経が良いので、乗りこなせると思いますが」


「ロゼール?旅の仲間でもないのに、聖物を渡す気か。仮にその男に渡したら、旅に出てても、支部に置いてくことになるんだぞ」


 そうなんですよねー・・・・・ イーアンは呟く。でもロゼールは半端ない運動能力だし。彼に使ってもらう方が、私たちが留守中に心強い存在になるかもしれない。



 タンクラッドは、編み作業を再開したイーアンの横顔が気になって、ちょっと横に座って話を聞くことにした。総長に言われたという、ロゼールの奪い方を聞いてみると、タンクラッドは可笑しくて笑った。


「凄いヤツだな。そんなこと出来るのか。そりゃ大したもんだ。剣より身体能力が武器の男か。総長も赤っ恥だな」


「そうなのです。ドルドレンは可哀相なのですけれど。だけどタンクラッドも言うように、聖物だし。ロゼールから返してもらうのが普通なのでしょうが、どうも。お皿ちゃんが、ロゼールを気に入ったようにも感じるし」


「そうか。俺がそっちへ行くか。後で。バニザットの剣を渡す(ついで)、ロゼールという男にも会って。聖物は絵が描かれていたから、解読が難しそうなら預かるが。俺が話をしよう。どうだ」


 イーアンはその方が良いかなと思って、頷いた。親方はついでの序、明るい内なら、西の魔物の鋏も必要分は切ってやると言ってくれた。



 それから作業に戻り、親方は間もなくシャンガマックの剣を完成させた。イーアンも編み終わりの始末を済ませて完了。


「これは。あの細身のバニザットが使うのかと思うと、何とも不釣合いにも思えるな。重さもあるし、力も相当要るが、使いこなせるのか」


 そう。シャンガマックは細マッチョ。背は186~7はありそうで肩幅も広いけれど、細マッチョ。日本の女の子が見たら取り合いになりそうな、そういった体形。

 伴侶や親方もマッチョだけど、彼らはもっと体つきが大きい。胸板も背中も厚いし、首や肩や二の腕もかなり太い。イーアンはこっちの体つきのが好み。


 それは余談だけど、シャンガマックは細身引き締まり型なので、130cm以上ありそうな顎そのものを振り回す。それが出来るのかどうかは不安が残る部分だった。



「でも。喜ぶんだろうな。部族の伝説を形にして、自分がそれを武器に戦うんだから」


 親方は喜ぶ顔を思い浮かべたらしく、ちょっと微笑んで頷く。『自分が合わせるか』剣に、と呟いたので、イーアンもそう思うことを伝えた。それから鞘に納め、革袋に包む。


「この鞘の材料、膜。これをもらって来たというが、また空へ上がったんだな。何か変化はあったか?一人で行ったのか」


 イーアンは話した。ファドゥとビルガメスの教えてくれたことや、卵のこと、昨日龍になって支部まで来たこと、ビルガメスの取り組み。親方は静かに聞いて、いろいろ考えている。


「やはり。卵はそうだったのか。事情が。説明されれば、なるほどとは思う。強い方が優先なんだな。分かりやすいと言えばそうだ。

 ファドゥはその、母親の相手にイーアンを奪われる方が、気持ちとして辛かったんだな。ただお前は、彼の母親とは違う男龍を選んだと」


 そこで言葉を切って、親方はちらっとイーアンを見る。イーアンはその視線に、含みを感じて見つめ返す。


「選んだんだろ?彼の卵を孵すって約束して。交代に入る相手になって。お前が助けに行く約束で、彼はお前の窮地に助けに来る気になって。だよな?」


「何やら。その言い方の根底に、私の思わぬものが動いている気がしますが。紙に書けばそうしたことでしょう」


 タンクラッド、咳払い。『その男龍。ビルガメスとかいう名前の。どんなヤツだ』俺も見たか?と聞く親方。


「はい。私が4人の男龍に支えられて夜に戻った時。彼らのうちの2人がドルドレンの存在に怒り、それを止めた後ろの2人のうち、翼のない方です」


「翼がない・・・あの、額から角が1本出ていた男か?透けるような体で髪が長くて。体の大きい、お前に諭した」


 そうだとイーアンは頷く。タンクラッドの目が困ったように細くなった。顎に手を置いてイーアンを見ながら、首をゆっくり傾げる。


「あいつか。お前の相手は」


「私の相手って。語弊ですよ。私の相手はドルドレン」


 そうじゃないんだよ!とイラッとして怒り顔の親方。『全く』ちょっとやり切れなさそうに頭を掻いた。イーアンは『もういいじゃないですか』と言いたいところ。


 ビルガメスは寿命もあるし、イーアン的には、そのことが一番気掛かり。彼が『頑張る』と意識を切り替えたのだし、生きている時間を楽しいものにしたい。出来ればもっと長生きしてくれたら、と本当に思う。


「んー。まぁ、ここでお前に言ってもな。ビルガメスとやらは、いつまた来るんだ。訓練するなら地上に降りてくる時があるんだろ?」


 今後は度々あると思うこと、ビルガメスじゃなくても、他の男龍も用事があれば来るような話をしていたことを教える。『私が忙しければ帰るみたいですけれど』イーアンの答えに親方はじっとその目を見る。


「お前が俺と一緒に暮らしていればな。いくらでも守るが。情けない総長と一緒だから心配だ」


 イーアン、かちん。『ドルドレンは情けなくないです。頼もしいし、強いし、責任感も愛情も思い遣りも』言いかけて、イラッとした親方に口を手で塞がれた。


「もう。いい。支部へ行くぞ。荷物を持て」


 親方は大袈裟に溜め息をついて、上着を羽織り、自分の剣と、シャンガマックの剣を入れた背負い袋を肩にかけた。イーアンも破けた(※破いた)シャツの上に穴の開いた羽毛の上着を羽織り、二人は外へ出た。

お読み頂き有難うございます。

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