516. 支部と龍の午後
ドルドレンは絶好調の午後。自慢も合わせて、執務室の監禁を逃れた自由を満喫していた。
朝に執務室へ連行された後。泣く泣く嫌々仕事をしたが、11時になってすぐ、ブラスケッドに呼ばれ、雪かきに出された。まだ雪かきの方がマシということで、我が家の建築のためにも、せっせと裏庭の雪かきに精を出した(※測量待ち)。
雪が降り積もると丈が嵩む。2~3日晴れると、固まって氷になる。そうなると次に雪が降った時、手に負えなくなるほど崩せなくなって面倒なので、総動員で雪かき(※屋内勤務の騎士は、部屋の中から見るのみ)。
そうして良い汗をかいた後は、昼食。騎士60人ほどで雪かきをすると、50代以上の中高年を除いても、元気なのが多い(※ぴちぴち世代)北西支部なので、裏庭の雪もかなりの量でどかされた。
ということで、午後は久しぶりに全体演習。全員出してきて(※屋内勤務以外)体を動かす。
「それはないですよ」 「総長までそんな裏技」 「龍じゃなきゃ良いわけじゃない」
久々、目立てる合同に、ドルドレンはお皿ちゃんを持参して、これ見よがしに見せ付ける。部下はびっくりして、宙を飛ぶ総長に攻撃がままならない。総長は乗りこなし方もサマになっているので『ひゃっほう』の状態。
「魔物も飛ぶのだ。攻撃できるようにしておけ」
総長は透き通る青い鎧を陽光に煌かせ、高笑いと自由に暴走。お皿ちゃんも絶好調。くるくる回転しながら、びゅーっと飛び回る(※危険極まりない)。
「ドル、お前は一人で遊んで」
ベルが怒る。槍を突き出して(※これも危険)総長を止めようとするが、お皿ちゃんには敵わない。勢いをつけるお皿ちゃんは『くきっ』と急角度で上昇。総長は『はーっはっはっは』の爽快な笑い声を残して、真上へ飛ぶ。
「さすが聖物。イーアンはこの白い板を『お皿ちゃん』と名付けていたが。お皿ちゃんは大したものだな」
誉められた!お皿ちゃんはちょっと得意になる。嬉しいので、お皿ちゃんはびゅんびゅん速度を増し、仲間の騎士たちに猛攻撃のように突っ込んでいく。部下は走って逃げるが、総長もナチュラルハイで笑いながら突っ込んでいる。
そんな総長の暴走に、一人だけ立ち向かう男が跳び上がる。突然ドルドレンの背中が誰かに取られた。
『うおあっ』背中から両腕を羽交い絞めにされて、ぎょっとした総長が慌てて振り向くと、真後ろに、ニヤッと笑った、森のような深い緑色の瞳が見えた。『ロゼール!』こいつか、と総長が目をむいた瞬間、緑の瞳はふっと消えて、体が軽くなった。
「落ちたか」
バッと下を見ると、一気にぐらりとお皿ちゃんが傾いた。『なんっ?!』ビックリして屈むドルドレンは見た。
お皿ちゃんの裏に、ロゼールが重力も関係なくしゃがみこんで、こっちを見てにやついている。ゾッとして、慌てる総長はお皿ちゃんにロゼールを振り落とせと命じた(※部下なのに)。
そしてお皿ちゃんはぐるんと回転。落ちたのは総長の方だった。ぐわっと叫んで足がベルトから抜け、落っこちる。とりあえずショーリが助けてくれたが、ショーリも翻弄された後で顔が怒っているので『ごめんね』と小さく謝っておいた。
すぐ拍手喝采が起こり、恥ずかしくも悔しいドルドレンは、拍手する部下たちの視線の先を見た。
「ロゼーッルッ!!!」
空中を自由に滑りまわる、鎧ナシ・外套だけのロゼールは、翼を手に入れた鳥のように、見事にお皿ちゃんを乗りこなしていた。
お皿ちゃんを奪われた上に、奪い方がロゼール以外の誰にも出来ない、尋常ではない人間離れした業なので、総長はきーきー怒って地団太を踏んでいた。
片やロゼールは、実に気持ち良さそうに風を切って、お皿ちゃんと意気投合中。その自由に解ける優雅な笑顔は、仲間の集まりを駆け抜ける時に、男の取り巻きを増やすほど危険な色香(※ご本人にそんな気はない)。
素っ気無い、騎士修道会のくたびれた外套をはためかせ、柔らかいオレンジ色の髪をなびかせながら、青空を踊るように飛び回るロゼール。
「うわぁ。凄いや。こんなに気持ち良いんだな」
ロゼールは、お皿ちゃんの猛スピードにも急旋回にも楽しむだけ。イーアンが龍に乗って空を飛ぶのを羨ましく思っていたが、龍は怖いから何だか乗れなかった。でもこの板なら、自分は楽しめるなと嬉しかった。
下を見れば、総長が一人でわーわー騒いでいる。仲間は勝ち組のように、自分に声援を送ってくれる。いつもと違う時間に、ロゼールは純粋に楽しかった。
『そろそろ総長に返さないとね』独り言を呟くロゼール。それを聞いて、お皿ちゃんはちょっと寂しかった。ロゼールが自分に文句も言わず、最初から相性が良い、とお皿ちゃんには分かっていた(※総長は煩い)。
ロゼールが降りようとすると、お皿ちゃんは浮く。あれ?と思って、ロゼールは『どうしよう、降りれないな』と呟くと、お皿ちゃんは、くいくいと動いて、嫌がってるアピール。
「ん?もしかしてお前。気持ちがあるの?俺が乗ってると楽しいの?」
お皿ちゃんは意思が通じて嬉しかった。びょんと前を撥ね上げる。ロゼールは笑って、しゃがみ込みながらお皿ちゃんを撫でた。『そうか。言うこと分かるんだね』頭良いな、とよしよし。お皿ちゃんは大喜び。
その様子を。総長は離れたところから睨みつけていた。重圧が増している総長に誰も近寄らなかったが、誰が見ても。総長よりもロゼールが、お皿ちゃんに気に入られたことは理解できる光景。
「ロゼールめ」
総長が低い声で怒りを押さえ込んで仁王立ち。ロゼールはお皿ちゃん付きで戻ってきた。そして総長にタイマン。『総長。この板。俺が良いみたいです』ざっくり告げる。灰色の瞳をかっぴろげ、総長は真上から睨む。『降りろ。お皿ちゃんは俺のだ。イーアンが俺に渡したのだ』ど真ん前でタイマンを切る部下に真上から威圧。
お皿ちゃんはロゼールのために、ちょっと上に動いた。お陰で総長の顔にロゼールは頭突きをする羽目になり、仰向けに倒れた総長にビビって、ロゼールは逃げた(※お皿ちゃんがダッシュ)。
「ぐ。っぐぬぅ。ロ、ロゼール・・・・・ お前はそんなやつだったか」
鼻血が出てたら許さん!鼻と額を押さえながら、ドルドレンは荒い息で体を起こす。よりによって鎧のない無防備な顔。俺の顔に傷をつけるとは、こんなイケメンに恥かかせやがって!!イーアンに言いつけてやるっ(※世界最強の妻に託す)
ううう、と呻く、総長に気の毒になったギアッチとザッカリアが、背中を撫でてあげた(※爺と息子の慰め)。
「大丈夫ですか。でもあれ。ロゼールが気に入ったみたいだから、許してあげては」
ギアッチがやんわり促すが、総長は顔を押さえて睨みつけた。そんな総長に、ザッカリアは、総長は子供だから玩具を取られた気持ちなんだ、と理解した(※当)。
「もうすぐイーアンが帰ってくるよ。男龍と一緒なの。座ってたら笑われちゃうよ」
ザッカリアは空を見上げて、地べたに座る総長を立たせようと腕を引っ張る。そう聞いた総長は、顔を押さえながら渋々立ち上がり、ギアッチに『顔は無事』と確認させて、大きく肩で息をついた。
「また男龍と一緒か。ってことは」
「来たよ。凄いっ 龍が3頭だ!!」
うえっ ドルドレンも空を見上げ、驚く。白い龍はイーアンと分かる。青い龍はミンティン、もう一頭いる。『何だあれ、イーアンと同じくらいあるぞ』でかい!やばい、と声に出して、はしゃぐザッカリアを小脇に抱え、ギアッチに逃げろと叫んで走った。
「全員、中へ入れ」
皆もさっきまでくすくす総長を笑っていたが、空に龍が出てきて、それも大型のが向かってくるのを知り、大慌てで建物の中に駆け込む。総長の声で拍車がかかり、詰め込むように裏庭口に騎士が入った。
「イーアン?イーアンとミンティンは分かるが。あれが男龍の龍の姿か」
イーアンと色が似ているが、角も生えているし、筋肉の付き方が違う。それにデカイ・・・・・ 『あ。あいつ』ドルドレンはハッとした。
「あいつだ。ビルなんたらだ。イーアンが相談したのか」
あんな大きさかと目を丸くする。とんでもないデカさで、イーアンも巨大だが、引けを取らない。『・・・に、迫力が』男と分かる顔つき。イーアンは龍になっても、どこか優しい顔をしているが、横のあれは怖い。もう人間味0。俺は狙われてるっぽい気がするから隠れてないと(※この前の記憶)。
龍は近くまで来たが、なぜか地上に降りてこない。そのまま裏庭の真上の空に浮いて、近い距離なのに高度も下げず、ゆったりあちこち動いているだけ。
「何してるんでしょうね」
総長がさっと見ると、真横にロゼール。『お前・・・・・ 』灰色の瞳がギラッと光る。ロゼールの目がすまなそうに上目遣いになる。
「悪気はなかったんです。ただ、この板が」 「お皿ちゃんという名前だ。イーアンが名付けた」
「え。お皿ちゃん。そうですか。そお、まぁ。お皿ちゃんの意思がどうも、俺が良いみたいで」
歯軋りする総長が怖いロゼール。しかしお皿ちゃんのためにも、意思を尊重するように総長に申し立てた(※お皿ちゃんは離れない)。総長は瞬きせずに、小柄で勇敢な部下を睨み続け、吐き捨てた。
「今日は貸してやる。だがな、お皿ちゃんがあるのだ、お前は。イーアンの側へ行って、様子を見て来い(※意地悪)」
この言葉に、近くにいた部下は一斉に、総長の人でなし加減に目を見開く。ロゼールも『げっ』と声を漏らす。ギアッチが総長を睨むが、総長はお皿ちゃんを取られて恥もかいてで、腹の虫が治まらない(※総長なのに大人気ない)。
「行け。嫌なら俺が行く(※ウソ)」
お皿ちゃんを置いて行くか、それとも龍の側へ行くか。二択のロゼール。
お皿ちゃんはロゼールを信用して絶対に離れない(※足の裏に密着)。ごくっと唾を飲み込み、森のように深い緑の眼差しで、総長を睨み返した。
「行きます」
ロゼールは言い切ると、ベルトに挟んでいた、イーアン製の白い板の付いた手袋を着け、ぱんぱんと総長の顔の前で両手を打ち鳴らした。一瞬驚いて後ろに頭を逸らした総長を、きっと睨み、『行くぞ、龍の所へ』ロゼールは一言、相棒のお皿ちゃんに命じた。
お皿ちゃんは瞬間、裏庭口をかっ飛んですり抜け、青空の3頭の龍に突っ込んで行った。
ロゼール、カッコイイ~ 仲間は総長にタイマン張ったロゼールに歓声を上げる。ぴーぴー指笛が鳴り、拍手と声援がロゼールのはためく外套の背中に捧げられた。総長苦虫。
龍があっという間に間近になり、ロゼールは怖くなる。あまりにも大きい。青い龍でさえ大きいと思っていたのに。ちょっと泣きたくなった時、ぐんぐん近づくお皿ちゃんが止まった。『え?どうしたの』こんなところで止まるって、と慌てる。
すると龍の一頭が気が付いた。イーアンじゃない龍がこっちを見ている。ロゼールは縮み上がる。『や。やば。やばい、逃げなきゃ』歯がかちかち鳴る。
その龍はイーアンの顔に鼻を押し付け、イーアンをロゼールに向かせた。気が付いたイーアン。あっさり近寄ってきた。いくらイーアンだと分かっていても、とんでもない大きさにロゼールは体が引く。
イーアンはロゼールを見て、小さく口を開けて、精一杯大人しめに鳴いてみた。ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・ ちっこい地鳴りのような声(※親愛の挨拶のつもり)。ロゼールが『ひぃっ』と仰け反ったのを、イーアンは寂しそうに見つめる。
寂しそうに俯く白い龍に、ロゼールは何度か瞬きして、ちょっと可哀相になり、そっと近づくことにした。『お皿ちゃん。これ、イーアンなんだ。驚かさないようにゆっくり目の近くに行ける?』ロゼールの言葉に、お皿ちゃんはちゃんと従って、ゆっくり動いて龍の目の横に来た。
「イーアンでしょう?大きいけど、目の色が同じだ。目を見るとやっと、ホッとするよ。イーアンだね」
そーっと瞬きする大きな龍の目を覗き込み、ロゼールは微笑む。龍のイーアンも嬉しそうに頭を動かした。ロゼールは綺麗な滑らかな鱗に、ゆっくり手を伸ばして撫でた。短い毛が生えているようで、すべすべしていて、とても気持ち良い手触り。
「イーアン。とても気持ち良いよ。綺麗な龍になって良かったですね」
笑顔のロゼールに、イーアンも極力ちっこめに声を出す。ゴゴゴ。終わる。
イーアンは首を下げて、ロゼールに角を見せる。ロゼールは鳶色の瞳を見つめてから、『角の近くにいれば良いの?』と訊く。龍がそのままなので、お皿ちゃんを移動して、イーアンの白い捻れる角の側へ行った。角を触ると、それもひんやりしていて少し起毛がある。腕を回せないくらいの太さがあるが、ロゼールは手を添えた。
「ここにいろ、ってことかな」
お皿ちゃんには乗っているものの、足元はイーアンの白い鬣に埋もれて見えない。くるくるした真っ白な長い鬣が、草原のようにロゼールの足を隠す。
「すごい。凄い光景。凄いことになってる、俺」
嬉しかった。こんな素晴らしいことが起こるなんて。自分は空飛ぶ板に乗って、龍の友達の角の間にいる。向かいにも大きな龍がいて、横にも青い龍。人生で一番最高の日だ!ロゼールは胸が高鳴った。
イーアンはロゼールが喜んでいるのが分かる。それがとても嬉しかった。
ちょっとビルガメスを見ると、ビルガメスは笑っているようだった。イーアンはビルガメスの首に、自分の首をこすりつける(※『少し動きます』の挨拶)。それからロゼールを連れて、ビルガメスを中心に遠ざからない範囲で、ぐるーっと空を回った。
「わぁ~ 凄い!!イーアン、凄いよ、こんなこと初めてだっ」
角の間でロゼールが大喜び。角に手を添えて、イーアンの動きで風を受けながら、青空のメリーゴーラウンド状態。たなびく雲と、降り注ぐ午後の陽射し。白い鬣の草原に立つ自分は、龍の角に手を置いている。
イーアンは嬉しいので、笑顔。イーアン龍は笑うと、ちゃんと笑顔になる(※声は怖い)。それを見ていたビルガメスは驚いて笑った。そしてイーアンの横に動いて、一緒に並んで飛んだ。ロゼール大興奮!!
ミンティンもお側から離れないように、と言われているので、2頭の大きな龍の上を飛ぶ。ロゼールは感動で泣いた。涙が風に乗って後ろへ飛ぶ。凄い。本当に。これしか言えないけど、凄い。
真横にいる大きなオスみたいな龍も、自分をたまに見ては優しそうに瞬きして前を見る。イーアンの首に、自分の頭をこすり付けて遊んでいるようにも見える。
「イーアン。この龍はイーアンが好きなんですね」
ロゼールの言葉に含みはない。総長もイーアンが好きだけど、この龍でも良いんじゃないの、と思ってしまう(※上司に厳しい)。
イーアンは笑って速度を上げた。声は地鳴りでも、顔がいつものイーアンみたいに笑う。表情が一緒で、ロゼールは高い場所から覗き込み、『イーアンは龍でも笑うんですね』と頷いた。
もう一頭の龍も一緒に速度を上げ、イーアンの体に絡むように滑る。ぐるぐると女龍の周りを旋回する男龍。イーアンもロゼールに気を遣いながら、ちょっとビルガメスの動きに合わせて、なめらかな腕を広げくぐらせたり、一緒に絡まるように旋回した。それは本当に、遊んでいるようで、そんな光景を見たことのある者は一人もいなかった。
下にいる騎士たちは。そんな光景を見つめるのみ。
「すごい仲良さそう」 「あれ。オスだろ?」 「笑ってるのイーアン」 「ちっこいの、いつもの青い龍だよな」 「遊んでるのかな」 「ロゼールの笑い声も聞こえる」 「楽しそうだな」 「綺麗だな、龍がじゃれてる」
仏頂面を通り越して、怒り心頭総長。
――イーアン~っっ!!!君は何を楽しげにサービスしてるんだねっ!!さっきから、男龍が君の周りを飛びながら、隙あらば顔をこすり付けているってのにーーーっ
笑っちゃってるよーーーっ 絡んじゃってるしーーーっ うちの奥さんは堂々といちゃつき過ぎだーっ(※龍)大体、ここで何やってんるんだ。俺に見せ付けに来たのかー!!!
「俺も乗りたい」
え?後ろから聞こえた声。振り向くと、レモン色の瞳がウットリした表情で空を見つめていた。『ダメだよ、落ちたら大変だよ』ギアッチが止めるが、ザッカリアは何かを決意した顔に変わる。総長も、ヤバイと思って『おい』の声で止めようとしたが。
「ザッカリア!」
ザッカリアは走り出し、裏庭口を飛び出て空へ大声で叫んだ。『俺も乗りたいーーーっ』総長は慌ててザッカリアを引き止めに出ようとして、ハッと止まった。龍が3頭、気が付いてこっちへ来た。
大喜びするザッカリア。シャンガマックも走って出て行く。フォラヴも笑顔で駆け出す。トゥートリクスも続いた。知らない間にアティクが先頭にいた。 うはあっ ビビる総長。俺の隊は、俺の隊は。
2頭の大きな白い龍が裏庭の外に降りて、青い龍も降りてきた。
すぐにロゼールが角の間から、お皿ちゃんで滑り降りてきて、駆け寄ってきたザッカリアの伸ばした腕を取る。『おいで。落ちるなよ』ぎゅっと両腕で背中からザッカリアを抱き締め、笑いながらザッカリアを抱き締めたままイーアンの上に飛んだ。ザッカリア大はしゃぎ!!
イーアンは首を下ろして、顔を地面にぺとっと付けるように見せた。駆け寄ってきた笑顔の全員が、イーアンの顔をよじ登る。アティクだけは毛を引っ張ったので、イーアンに一瞬睨まれた。
角の間に全員が移動した時、彼らの体の下半身は、白い草原に波打たれて包まれる。
柔らかで、ツヤツヤした白い温かな草原に、フォラヴは一房を腕に巻いて撫でた。シャンガマックも角に口付けして、偉大さに敬意を表する。ザッカリアは、鬣に全身埋めてモフモフモフモフしながら喜んでいた。トゥートリクスも喜びに浸る。
『イーアン。皆乗りましたよ』ロゼールはお皿ちゃんで目の前に移動して教える。イーアンはニコッと笑って、ゆっくり頭を上げ、立ち上がって男龍を見た。男龍もイーアンの上にいる人間を見て目を細め、浮かび上がる。
3頭の龍が再び上昇し、煌く太陽の光を浴びて、ゆっくりと空を飛ぶ。支部の上を舞いながら、さっきと同じように遊んでいる。一緒に上がった騎士たちの喜びと嬉しい声も響き渡る。
「俺も乗りたいって言えば良かった」
ハルテッドは、今更ながら。楽しそうな声にうずうずする。ちょっとデカ過ぎで引いたけど。乗りたくなる~ そんな弟にベルは苦笑い。『落ちたら死んじゃうぞ』すげぇ高さ・・・無精ひげの顎を撫でながら、ベルは空を眺める。
その少し横で。悔しいやらムカつくやら。奥さんに相手にされないやらの総長は、苦々しげに空を睨んでいた(※自分も行けば良かったと後悔)。




