表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
空と地下と中間の地
515/2951

515. ビルガメスの提案

 

 大きな美しい男龍は、金色の瞳でイーアンを見つめる。質問されそうな部分の答えでも用意しているように、見つめながら考えているようだった。



 そして彼は口を開く。落ち着いた低い声は、イーアンに相談するようにゆっくり流れる。


「あのな。俺の卵。持って帰ってみるか。ダメで元々。何度か試してみるのも手だろう」


「え。地上にでしょうか。持って帰った時点で孵らないのでは」


「試すと言っただろう。もしくはな。俺とお前で、地上で龍になるとかな。これは他のヤツは嫌がるだろうけれど。何が言いたいかと言えばな、お前が地上でも孵せるように、耐久力を付けれないかと」


「た、卵に。耐久力。赤ちゃん未満です」


「だから。俺がそれを体験していれば、俺の卵は影響を受けるだろう。俺はお前の力を借りるが、地上で体を変えるように慣らせば。ミンティンとアオファ。この2頭は側にいるな?」


「います。ミンティンは呼べば来ます。アオファはいつも支部の外にいます」


「龍に手伝ってもらって。一緒に、お前と。体を慣らす訓練をしてみようと思う。お前の力も使うから疲れるだろうが、アオファは相当強いから、アオファに手伝わせれば」



 イーアンは黙る。子作り(※卵作り)のための訓練・・・・・ 猛特訓である。私は平気だけど、ビルガメスは命懸けのような気がする、地上。アオファとミンティンはどうなのだろう。


「そんなことをして、ビルガメスは寿命が」


「減るかもしれないが。試みたことがない以上、何とも言えない。でもお前が地上で、俺の卵を孵せるなら、それの方が良い」


「戦いの日。その日も動かれるのですよね。地上に来て訓練などしたら」


「お前が俺を助けに来るんだろう?イヌァエル・テレンの危機に。お前がいるとなれば、俺が死なないようだから」


 笑うビルガメスに、イーアンはしっかり頷いた。『絶対に死なせません。私は来ます』ぎゅっと涙を拭いて、鼻をすすり上げて、イーアンは約束する。

 自分で決めた約束は絶対に守ってきた。運悪く間に合わなかったとか、相手が消えたとかさえなければ、いつでも約束は守った。この世界でも守る。私はイヌァエル・テレンの皆さんも守るんだ、と決めた。



「よし。じゃあな、訓練は始めよう。それとお前の質問の答えだ。卵を限定する理由だったな」


 ビルガメスは横に座るイーアンの手を取る。『小さな手だ。卵を1つ持ったら両手がふさがる』そう言って手を撫でる。


「もしかして、一つしか抱っこできないのですか」


「いや。幾つも。ファドゥに聞かなかったか。卵と距離があると孵り難いのを」


 イーアンが目を見開くと、ビルガメスは小さく何度か頷き『聞いていないのか』ファドゥ・・・と呟いて視線をすっと横に流す。それからイーアンを再び見て教える。


「ファドゥはタムズよりも、ズィーリーから離れた場所で暮らしたからな。だから言わなかったのか。タムズは母親といる時間が長かった分かな、さほどズィーリーに執着はないが。


 卵を、例えばな。このベッドに幾つも乗せるだろう?お前がいる場所から一番近い場所は、当然精気も多く受ける。距離があれば精気はその分少なくなる。

 卵を孵すことに男龍がこだわる理由の一つは、()()()()()()()()()()()()だ。孵らない卵も勿論あるが、孵る卵、子供の力も、卵が近くか遠くかで左右される」


「ということは。あなたの卵を孵す、と約束しますと。その方の卵を最前列約束ということでしょうか。いつでも最前列」


「そんなところだ。お前の胸の近くだ。一番強い場所は。卵から離れる時間があるが、それも短い。お前が離れる時は、男が卵と一緒だ。精気が途切れないようにする」


 イーアンはちょっと気になる。その男の方は、どなたか。多分、ドルドレンは拒否される(※人間不可)。ビルガメスは気がついたようで、少し笑って教える。



「これが実際、問題でもある。お前と交代する時に、卵の側につく男龍の卵は優秀になる。

 ルガルバンダは、ズィーリーに確認したんだ。『自分の卵を孵す』と。ズィーリーは意味を知っていたかどうか。勿論、彼女も彼を愛していただろうし、とにかく受け入れたんだ。そうすると交代役は、ルガルバンダが優先される。だが一つ、どうにも出来ない部分がある。


 タムズの親は始祖の龍の子で、男龍でもルガルバンダより上だった。ルガルバンダはズィーリーを愛していたから、本当は交代でいつも卵の側に居たかったが、タムズの男親の方が優先された。

 タムズの男親も俺と同じように、自分の余命を知っていたから、ルガルバンダとズィーリーには悪いと分かっていても、力の特権から自分の交代回数を多くした。タムズに龍の要素が強く、ファドゥが龍の子止まりなのは、そういう影響もある。


 約束、とまでは行かないにしてもだ。『自分の卵を孵す』と女龍に受け入れさせるのは、交代に入れる、大事な部分だな。自分の卵への影響を思えば」



 それでなのか、イーアンは腑に落ちた。


 だから。男龍が出てくれば、ファドゥはそもそも入れても、もらえない。彼は龍の子だから。『孵す?=孵します~』の受け入れ効力はあるものの、力の強いほうが優先なら、多分、男龍に全てが回ってしまう。その男龍の中でも、交代勤務は強者争奪だった(※交代勤務職キライなイーアンは信じられない)。


「ではですね。その。もしかしますと。えー・・・・・ 」


 ビルガメスは分かっているような顔で、可笑しそうに笑みを浮かべてイーアンを見つめている。


「あの。ビルガメスはその。この5人の男龍の中で一番もしや」


「そうだな。有難いことに俺が一番強い。タムズは翼があるが、強さで俺の上に出る者はいない」


「その上。『あなたの卵を孵す』と私が受け入れるということは。必然的に、あなたが私の交代にいらっしゃる」


「そういうことだ。他のヤツも一緒に居たがるだろうが、まぁ。たまには良いけれど。どっちみち、精気が強い方が良いんだよ。どの卵にとっても、それは重要な部分だから。だから俺だろうな」



 まー・・・・・ イーアンには何とも言えないが、文化があるのだろうから(※文化ではない)と理解する。それで皆さんは『俺の』卵、となったわけか。力の差があっても、受け入れてもらえるだけで交代勤務に就ける。

 そうなると、『ビルガメスの卵を孵します』と受け入れた上に、彼が最強なら彼しか交代勤務はいないことになる。だから他の皆さんはビルガメスよりも前に、『俺の卵孵す?』を連発したのだ。


 納得した様子のイーアンに、嬉しそうなビルガメス。『お前。俺の卵を孵すんだったな』そう言ったな、と満面の笑みで頷かれた。苦笑いのイーアン。うまく担がれた感が否めない。



 だがまぁそれはさておき。卵問題は理解したので、気持ちを変えて次の問題を考える。地上で孵すとなると、それはビルガメスはどう交代する気か。それも訊ねてみる。


「まだ考えてない。だが、先ほどのお前の治癒場の話。何か覚えがある。ゆっくり思い出してみるし、記憶が曖昧なら空の民にも訊いてみるが。


 治癒場が天に繋がるなら、下にも行けるということだろう。これはお前側の妥協か譲歩になるだろうが、お前が地上で孵す条件を俺が飲むとして、お前にはその治癒場に3ヶ月居てもらうかもしれないぞ。太陽の民の男も居て良いが。その治癒場だけここと繋げて、龍気を満たせれば」


「イヌァエル・テレンの個室。その状態を治癒場に作れば。ドルドレンも一緒に居られる。あなたも卵たちも居られる」


 ビルガメスはハハハと笑う。『荒唐無稽な話だ。ここが一部だけ地上に存在なんて。だが想像できたということは、現実に成る可能性が常にある、という意味でもある』美しい男龍はそう言って、イーアンの手に手を重ねる。



「お前の力は凄いんだぞ。この前、戦っただろう。その上着の傷みは戦いの跡だな。ミンティンとお前しかいなかったはずなのに(※オーリンは天にいた)龍気がここまで届いた。何をした」


「王都に。ハイザンジェルの王都に魔物が来ました。空を飛ぶので、ミンティンと私とドルドレンで倒しました。その魔物の目にオリチェルザムを見たのです。何度か見て知っていましたから、頭にきて」


 ビルガメスは大笑いした。突然大笑いされて、驚いたイーアンは後ろにずれる。ビルガメスは豪快に笑い、それからイーアンを見て笑顔で頷いた。


「魔物の王に『頭に来て』か。ハハハハ、これは愉快だ。それでミンティンとお前だけで、あの龍気。ミンティンもお前が気に入ったようだが、さすがに凄まじいぞ。あのミンティンから龍気を増やすとは」


 下手すると、俺とお前だけでも、地上で龍になれるかもしれないな・・・ビルガメスはそう言ってイーアンの髪を撫でた。



「そうだな、今すぐは無理でも。そうか。というと」


 金色の目がすっと細くなり、部屋の外の空を見た。じっと見て、大きく頷く。イーアンはそれが何を思っているのか、分からなかった。つられて窓の外に目を向けると、龍が何頭も飛んでいた。


 ビルガメスは外を飛ぶ龍を見ながら、イーアンに話しかける。『あれを見てどう思う』遠くに飛ぶ龍たちに、イーアンは何と答えれば良いのやら。全然関係ないことだろうが、ふと、頭に浮かんだことを口にした。


「あの仔たちも。1頭で飛ぶより、多くで飛んだほうが楽なのでしょうか」


 美しい男龍はちょっとイーアンを見て、暫く答えずに黙っていた。イーアンが答えを求めて彼を見る。


「ふむ。イヌァアエル・テレンにいると分からないが。外ではそうかも知れない。オーリンの・・・彼の龍を知っているか?オーリンが中間の地に落ちた後、ガルホブラフは何度も探しに出ていた」


 イーアンはその話を、ファドゥに少し聞いただけで、ガルホブラフについては知らない、と言うと、ビルガメスは続きを話してくれた。


「ガルホブラフは小型の龍だ。龍だから休眠で長く生きることが出来るが、ミンティンたちの特別さとは異なる。オーリンがいなくなって、ガルホブラフは休眠で体を整えると、必ず外へ出た。連れて戻ることはなかったが、見つけたとしても上から見守っていたのだろう」


 何て健気。何て忠誠心。ちょっとホロッと来るイーアン。ガルホブラフは良い仔なのねと、しんみりする。


「休眠をしては、一年で何度か、外を見に行ったような話だったな。俺はよく知らないが。龍でさえ、そうなんだ。外は疲れる。龍気が漲れば疲れもしない。外は()()に等しい。


 その状態で、龍と龍の一族の力を、呼応させて反復させて共鳴を起こし、自分の体を龍に変え、龍の自分から発揮する龍気を味方に呼吸させるように与える。これは相当なんだ。ここでお前に訊きたい」


 はい、とイーアン。ビルガメスの金色の目が真っ直ぐ自分を見る。


「この前。お前はミンティンと一緒に、龍気を上げた。その時は何か、目に見えて分かる変化はあったか」


「白く包まれました。私は怒ると見境ありませんので、あまり状況を把握している冷静さはないのですが。

 そうですね。剣を振るうと、これ。この剣です。この剣の長さよりも倍くらい、延長にいる魔物も斬っていた気がします。ああなったら、片付けるのは早かったですね」


 ビルガメスは目を丸くしている。横向きにしていた体を少し起こして、イーアンの顔を覗き込む。


「何だって。剣の長さが伸びた?」


 そうです、とイーアンは剣を鞘に入ったままで示す。『でもそれだけですよ。ちょっと疲れました。午前中だったし、70頭くらい斬ったし』剣の長さ以外は普通、と教えた。


 ビルガメスはイーアンの顔に手を添える。『お前。自分が何を言ってるか、分かってるのか?』ビルガメスの大きな手で頬を摘ままれては、間違いなくデロンと伸びる気がして、眉を寄せる男龍にイーアンはちょっと怖がる。やめてー。摘ままないでー。ビルガメスの顔が、頬摘まむ時の親方に似てる~



「イーアン。俺が外の龍を見て、何を思うか訊いたのはな。ミンティン以外でも交代で何頭か、お前の地上の生活に付けようかと思ったんだ。その方が、お前の龍気が出しやすくなるから。

 だが、お前は。龍気の扱い方を知らないだけで、ミンティンがいるだけでも、龍に成れる可能性が本当にある。もちろん、オーリンやガルホブラフが加わる方が負担は少ないが。そうじゃなくても、お前はもう、それだけの力を蓄えているのかもしれない」


「そんな。こと。あるのですか。剣の長さが伸びただけです」


「それは剣じゃない。お前の爪だ。お前の龍の時の爪が、剣の周りに被ったんだ。それにお前は疲れていない。ミンティンしかいないのに、疲れていないんだ。序の口といったところだぞ。


 イーアン。今日、ミンティンと帰るだろう?アオファが居ると言ったな。俺はミンティンとだけでは苦しいが・・・よし。これから、お前とミンティンと一緒に行こう。帰りはアオファとミンティンを一度借りる」



 何ですって。どうして今日。イーアンは驚く。何の理由も読めない。私が龍になりそうなのは分かるが、そうだとどうして、この方がご一緒に戻るのか。


「イーアン。龍で戻るんだ。お互い龍で。俺は人の姿に戻れるか分からないが、試してみようと思う。中間の地で、姿を変えることが出来るようになる。その意味は、龍気が増えていることを意味する。お前がいれば、もしかすると出来るかもしれない」


「それは、先ほどの卵の」


「卵もある。だが、お前が龍気の扱い方を覚えれば、俺も中間の地で、お前を支えられるかもしれない」


 えええっ オーリンじゃダメなの?それにあなた全裸!ミレイオが喜びそう(※パパワイフも喜ぶ)だけど・・・それにお年が、お年が。無理すると体に障る~(※さっき死ぬって言ってた)


 イーアンのビックリした顔を見て、ビルガメスは笑う。


「お前の龍気は凄いぞと言っただろう。お前をこの前、太陽の民の男の場所へ送った。あの時。お前が人間だった時だけだ、俺たちが疲れたのは。4人だったからな。さほどでもなかったのかもしれないが。

 イーアンが龍になれば、俺への・・・ミンティンもそうなんだろう。俺に戻ってくる分も多い。お前に助けが必要な時、オーリンよりも俺の方がお前を支えられる」


 オーリン・・・格下げ。でも、問題はまだたくさんある(※とりあえずオーリンは置いとく)。

 全裸。無理はお体に障る。それはどうするのよ~とイーアンは悩む。ちょいちょいなら、お体に支障はないかもしれないが。全裸はまずいですよ~(←出しっぱなし)



 フフンと笑うビルガメス。困惑中のイーアンを見て、可笑しそうにしながら『お前。もうちょっと俺は生きてみたくなったぞ』そう言った。


「もう生き延びることもないと思っていたが・・・卵も、もう良いかと思ってもいたんだが。イーアンが来たからな。もう少し頑張ってみるか」


 イーアンは唖然とする。切り替えが早い!!さすが龍族だっ その不敵な笑みに、心底、切り替えを感じる。

 さっきまで、寿命受け入れようとしていたのに。面白くなってきたら『頑張る』って言ってしまう。ご先祖様くらいのお年なのに、まだ頑張るって。お祖父ちゃんが、孫の運動会で頑張る状態(※このお祖父ちゃん全裸だけど)。



 ということで。イーアンは帰り支度をする。全裸のビルガメスには、とりあえず龍になってもらえるわけで、今回はその注意はしないことにした。


 イヌァエル・テレンの、何もない浮島に二人で降りる。ビルガメスがミンティンを呼び(←名前呼んだら来た)事情を話す。

 その後、イーアンがまずは龍に変わる。ミンティンより大きいもので、ミンティンは『うへ』みたいな顔で見ていた。それからビルガメスが龍に変わる。


 ビルガメスは大きくて、イーアンと同じくらいの大きさだった。またこれが。龍の姿がカッコ良い。

 角はそのまま大きく太くなり、オパール色の隆々とした体はどっしりして、足も尾も長く、波打つ朝の海のような髪の毛は頭から首筋、尾と手足の房飾りになった。顔は細身のきつい目つきで、肉食ユニコーンみたいになってる。よく見ると鱗線が、銀線を巡らせたようにうっすら全身を覆っていた。


 3頭の龍は、一緒に浮島を飛び立った。

お読み頂き有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ