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魔物資源活用機構  作者: Ichen
空と地下と中間の地
513/2951

513. ズィーリーとルガルバンダの馴れ初め

 

 ファドゥが悲しんでいる横で、イーアンは最初から話した。


 夜にルガルバンダが来て攫われたことや、彼の家を壊して自分は龍になったこと。他の男龍と一緒に地上へ行き、ドルドレンに説明した後、再びシムの家で様々な話を聞かせてもらったこと。

 ファドゥは、ルガルバンダが攫いに降りたことを知って、とても苦しそうな顔で、気の毒なイーアンを見つめていた。


「私が龍になった時。彼の家を壊した時です。こちらにも影響があったように聞いています。龍の民のオーリンから。そうですか」


「あった。事情は大雑把しか知らないが、イヌァエル・テレンが振動した。全ての龍が飛んだ。女龍が吸い続ける龍気に止めが入るまで、龍は気力を増した。私たちもだ。吸い取られては、叩きつけるように戻ってくる龍気に、何事かと思った。

 あれがイーアンだったとは。最初は分からなかった。だから魔物の攻撃が来たのか、何か。異常事態としか。後から男龍に聞き、本当に驚いた」


 大騒ぎ。大迷惑。ごめんなさい。そんなことになっていたとは。夜間にお休み中だっただろうに、本当に申し訳ないですと、イーアンは心の中で謝罪した。そして間を置いてから、話を続ける。



「私はその後。シムの家で、話を聞きました。私たちの旅に関わる話や、この空における話、一度目のイヌァエル・テレンの危機。女龍の存在。そして私に望まれる話等です」


「ルガルバンダもいたのか」


「いました。私が怒って龍になった後。他の男龍が来て私と交渉し、人間の姿で話し合うにあたり、無事と安全を約束をしました。それでシムの家で話す場にも、彼は来ました。先に帰りましたが」


「あの日。イーアンと私が出会った日。ルガルバンダは私の元へ来て、何があったかを訊ねた。言わないわけにもいかない。私は話したのだ。彼はとても気にしていた」


 それから、ファドゥは少し黙った後、ぽつりぽつり、母・ズィーリーの話をし始めた。


「母は。この世界に来て・・・イーアンと同じで、多くの人間と仲間になり、ミンティンたち龍とも関わった。そして龍の民に案内されてここへ来た。母は龍に変わる前だったので、龍の民がもう一人降りることになった。龍の民2人がいて、3頭の龍と一緒に動いた時、彼女は地上で龍の姿に成れたと聞いている。


 3頭の龍は、龍の民の連れている龍2頭と、ミンティンだと思う。アオファとグィードは動ける範囲が決められているから。


 母が龍に度々変わるようになり、難航していた旅路も進み始め、もうじき終わりに近づく頃。つまり、魔物の王を目前にした頃だ。

 ここイヌァエル・テレンも攻撃を受けた。その時、男龍と龍がここを守ったそうだ。その力はこの世界最強と謳われた。彼らの数も多かったからな。


 この・・・男龍の中に、ルガルバンダもいる。彼は地上で動く女龍を見て、助けに行ったことがある。


 それは偶然だったのか。イヌァエル・テレンが攻撃に応戦した時の龍気は、凄まじかったのだ。地上さえ包むほどの龍気が満ちた。だからルガルバンダも、龍の形で地上のズィーリーを助けに行けたのだろう」


 とした出会いで。ズィーリーを気に入り、どっちみち、女龍を連れて空に戻る気だったルガルバンダは、彼女を連れて帰り、男龍に紹介した。事情を知ったズィーリーは、一度地上に戻って話し合いをした結果。


「母はここで卵を孵してくれた。後にも先にも、その一度だけだが、3ヶ月ここにいてくれた。そして私はルガルバンダとズィーリーの子として生まれた。男龍のタムズもズィーリーの子だが、始祖の龍から生まれた男龍が、タムズの父としていた。父の方はもういないが」



 イーアンは分かった気がする。


 親が龍族同士でも、龍の子は生まれるし、龍族が生まれることもある。この前聞いた話で、知ってはいたが、女龍さえいれば、龍族の男が生まれる確率が上がる分、男龍の卵が優先されるのだろう。

 ファドゥは私を隠したかったのかもしれない。男龍の卵を優先されれば、龍の子の男は卵を孵してもらえない状況が起こるのかも。


 それでかな~と思いながら見つめるイーアンに、ファドゥは小さな溜め息をついた。


「イーアンを連れて行かれる。私はこの前、すぐにそう思った。


 ズィーリーはルガルバンダを愛しただろう。だから彼も別れを苦しんでいた。母が地上に戻って、ルガルバンダは何度も地上に降りたと聞いている。だがそれは並大抵のことではなく、母が龍気を支えたのだと思う。

 母も空には来てくれたが、数日はいても、長くはいなかった。そうしていつの日か。彼女は空へ戻ることはなくなった」


 寂しそうな顔。とても寂しそうで、イーアンは気の毒に思う。卵のこともあるだろうけれど、それよりも、またルガルバンダに、私を取られると思っている。そっちの方が不安だったのだと知る。



「私はね、ファドゥ。ルガルバンダに攫われて抵抗しました。あなたが思うように、連れて行かれることは今後ありません。もしあったら、他の男龍の方が助けて下さると約束頂きました。ズィーリーは彼を好きだったかも知れませんが、私は全く関係ないので大丈夫」


 安心して、とイーアンは微笑む。ファドゥはちょっと笑みを浮かべ、頷いた。でも、と続ける。


「だとしても。やはり私の元へは来れなくなるかもしれない。男龍が、自分たちの卵を孵して欲しがるだろうから。イヌァエル・テレンは広い。こちらで孵さず、彼らの元で見守ると思う」



 会いに行くことは出来るだろうけれど、男龍のいる中に自分が行くのも・・・ファドゥは困っているようだった。

 そんなファドゥを見て、イーアンは卵のことも少し、話を聞きたかった。方法があれば。いろいろ解決に繋がる気もする。

 イーアンは咳払いをして、自分は『卵』について、もう少し知りたいと伝えた。


「3ヶ月。私はいられません。ズィーリーは来たようですが、私はドルドレンと3ヶ月も離れられません。1日離れるのも嫌です。半日くらいなら良いけど。

 男龍の事情には、心から理解もしますし、同情もします。だけど3ヶ月も無理です。せめてドルドレンも一緒なら良いのですが」


「人間はイヌァエル・テレンに上がれない」


「でしょう?私も地上に卵を持ち帰れません。だから無理」


 ファドゥは愕然とした顔でイーアンを見る。口が開いている。呆気に取られたとは、この表情だなと分かるほど、見事な呆気の取られ方。がーんっ て感じである。


「男龍の方々にも言われました。それがどうにかなれば、卵孵すのかと。どうにかなれば孵します。3ヶ月ここに籠もらずに済み、ドルドレンと毎日会えれば。いえ、会うってちょっとではないですよ。半日は」


「通いという意味か」


「そうです。通いなら引き受けますけれど。そうではありませんでしょう?夜も卵と一緒に眠るというのですもの。私、夜はドルドレンです」


 銀色の髪をぐいっと両手でかき上げて、ファドゥは天井を見ながら大きく息を吐き出す。『そんなことが可能だろうか』どうすれば良いのかと悩んでいる。


「本当なら、地上で育てたいくらいです。でもそれは、地上が汚れているから無理でしょう。孵したくないとは思いません。出来ればお手伝いしたいです。3ヶ月は無理、というだけで」


 ファドゥ。項垂れる。


「イーアンは厳しい」


「そんなことありません。条件は『3ヶ月滞在無理』『毎日ドルドレン時間有り』だけです。この世界で真っ先に私を愛したのはドルドレンです。私も彼を愛しています。だから離れません」


 辛そうな金色の瞳。その目は潤み、美術品のような顔を向けて、くるくる髪の女を見つめる。


 イーアン負けない。こういう綺麗なお顔立ちの方に、ちょっとずつ免疫がついて良かった、と心から北西支部の皆さんと親方たちに感謝する(※イケメン揃い)。この世界に来る前の自分なら、やばかった(※即行、引き受ける自信がある)。


「私も愛してもらえるか」


「別の意味で愛していますよ。お母さんと同じ気持ち。なら、愛しています」


「ん。ん?母と同じ気持ちで私を愛している」


「そうです。同じように思えます。お母さんにはなれませんが」


「では。なぜ口を合わせないのだ。母と同じ気持ちで愛せるなら」


 ぬわっ 薮蛇っ! 咳払いをして『それとこれは違う』とイーアンは真面目な顔で教えた。『卵の話から逸れています。卵については結論が出ませんから、男龍にも相談します』そう言うと、ファドゥは溜め息をついた。



 それから、時間を確認しようとすると、ファドゥは『もう帰るのか』と驚いた。『さっき来たばかりだ。もう少し一緒にいよう』ここで少し眠っても、と誘われ、丁寧にお断りする。


「うう。イーアンは冷たい」


「皆さんよくそう仰います。ドルドレンにも言われます。でも冷たくありません。私には、することがたくさんあるのです」


「帰るのか・・・・・ 」


「いいえ。男龍の誰かにお会いします。ルガルバンダ以外の方。質問があります」


 背中に剣を入れた革袋を背負い、イーアンは立ち上がる。ファドゥはそんなイーアンを見つめ、自分も立ち上がって、少し抱き寄せてから部屋を出た。一緒にバルコニーまで歩く間、イーアンのことをもっと知りたい、と伝えた。


「私ですか。今はどなたとも、ゆっくり話す時間がありませんね。旅に出たらもっとなのかも知れません。ですが、オリチェルザムを倒して平和になったら、ゆっくり。その時はゆっくり出来ますね」


「魔物の王の名前を口にして。恐ろしくないのか」


「どうなのか。恐ろしいですよ、と言えばそうですが。腹が立つ相手です。迷惑です」


 イーアンの無表情で冷たい言葉に、ファドゥは興味が生まれる。『イーアンは、魔物の王に命が奪われる怖さはないのか?』そう見える、と言うと、イーアンはハハハと笑った。


「私が死ぬか。相手が死ぬかなら、怖くないです。私が怖いのは、私の大事な人たちが危険なことです」


 だから腹が立つのです、と笑顔を向けて答えた。そんなイーアンに、ファドゥは何度か頷いて、心の中に熱が膨らむのを感じる。母とは違う別人だけれど。母も戦う人だった。男のように戦った、と聞いている。イーアンもそうなのだ(※ちょっと脱線する人)。


「イーアンが戦う姿を見たい。龍でも、人間でも。龍になったイーアンは、いつでも見たい。人間のイーアンは」


「たまにが良いですよ」


 ファドゥは苦笑いを浮かべて黙った。『一生、側で見たい』と言おうとして、言えなかった。イーアンは前を見て歩いている。気がつけば、上着が傷んでいることを知る。これは戦った名残なのか。


「忙しいのか。でも。出来ればいつでも、会って欲しい」


「そうします。だけど、今日からは珠があります。これを持って考えると、私と交信します。正確には珠を持つ者同士です」


「あ。そうだな。では今日、夜にでも使ってみる」


 夜は時間帯によっては出られない、と伝え、自分から連絡することにした。ファドゥは楽しみに待っていると、はじける笑顔で喜んでくれた。



 バルコニー近くに来て、ファドゥはイーアンに待つように言い、それから龍に変わって飛んで行った。暫く待っていると、銀色の龍が戻ってきてバルコニーに人間の姿で降りた。


「これで足りるか」


 丸めた筒を見せてくれて、イーアンはそれが膜だと知った。大きさ、2m長辺に他2辺が短い変形三角形。それを数枚丸めてあって、初めて見る龍の脱皮チックな膜に、イーアンは喜んだ。お礼を言って膜を抱き締める。


「それと。連れて行ってやりたいが、どうしたものかな。自分で呼ぶほうが良いのか」


 男龍は呼ぶことが出来るそうだが、あまり呼ばれることを好まない様子。自尊心が強く、怒りやすいからとファドゥは言う。困った性格なのは承知なので、イーアンはとりあえず、どう呼ぶのかを訊ねる。


「名前を呼ぶ」


 普通だった。それは叫ぶのかと訊くと、そういうことらしい。『ファドゥはどうして今日私を知りましたか』呼んでもないのに来てくれたことを不思議に思う。


「イーアンが来たと感じた」


 そんな優れた感覚も持ち合わせるとは、素晴らしい能力と感心する。そして思う。『もしかしますと。彼らも気がついているでしょうか』この前も、確か魂を感じるとか言っていたような。


「そうだな。別の龍が入ってくると分かる。気がついているかも知れない」


 ファドゥのお返事にお礼を言って、イーアンはバルコニーから叫ぶことにした。『ここで呼びます』ファドゥは悲しさを堪えるように目を伏せ、頷いてからイーアンを抱き締めた。


「また来てくれ」


「大丈夫です。来ます」


 それからイーアンはバルコニーに立ち、手すりに掴まって叫んだ。『ビルガメス』その名前に、ファドゥは意外だったようでビックリした顔をした。イーアンは振り向いて笑い、『彼が一番話しやすい』と教えた。


 イーアンがファドゥにそう言って、またバルコニーの外に振り返った時。大きな体のビルガメスが浮いていた。


「呼んだか」


 その顔は笑顔で、イーアンに腕を差し出す。『お呼び立てして申し訳ないです。お話しを聞きたいのです』イーアンは荷物を持つ腕を伸ばせず、どうしようかなと思っていると、ビルガメスはイーアンを抱き上げてニコリと笑う。


「勿論だ。俺の家へ行こう」


 はい、と笑顔で頷いたイーアンに、ビルガメスはまた目を開いて嬉しそうに『可愛い』と呟いた。そしてファドゥをちらっと見てから、ビルガメスはひゅっと、自分の家のある方向へイーアンを抱いて飛んだ。

お読み頂き有難うございます。


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