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魔物資源活用機構  作者: Ichen
空と地下と中間の地
511/2955

511. 嬉しい一日の始まり

 

 ドルドレンが起きた時。愛妻(※未婚)はいなかった。腕の置かれる場所に温もりナシ。ハッとしてガバッと起き上がり、見渡す。何もない。昨日寝室へ持ち込んだ背負い袋もない。急いでイーアンの部屋へ行くと、すでに剣もなかった。


 もう空に向かったのかと、大急ぎで服を着て(※股間は無事)部屋を飛び出して1階へ降りると、階段のすぐ下で、ダビとぶつかりそうになった。


「おはようございます。慌ててます?」


 普通に聞かれて、『見りゃ分かるだろ』と大声で返す総長。『イーアンか。工房にいます』あっち、と指差され、総長がばっと廊下の先を見ると、ダビは脇に抱えた紙を持ち直して、そのまま歩いて行ってしまった。



 ドルドレンは走って工房へ行き、扉をドンドン叩いてイーアンを呼ぶ。すぐに扉が開いて『あら』と愛妻が微笑む。


「あら、じゃないよ。イーアンすぐいなくなる」


 がばーっと抱きついて、ひどい、いない、と総長は悲しむ。イーアンは背中を撫でて謝った。『朝ね。剣を見ていたら、つい』作る気になってしまいました・・・で、工房に来たら止まらなくてと話す。


「ダビが来たのか」


「そうです。ダビは矢筒の話をしに来ました。たまたま私も用はあったので、あれこれ作っておいてもらうものを頼みました」


 ドルドレンはさっと時計を見る。6時。早いだろ、と困ったように窘めると『作りたかったの』と逆に困られた。・・・・・愛妻は。そうであった。そうそう。この人は作ると時間も状況も吹っ飛ぶんだった。


「分かった。俺は邪魔してしまった」


「ドルドレンが邪魔なわけないでしょう。朝から空に上がろうかと思っていましたが、作り始めてしまいましたし、終わってから上に行きます。ドルドレン、そこで休んでいらして下さい」


 言われるとおりに、いつもの定位置⇒ベッドに座るドルドレン。火を熾していないと気がついて、暖炉に火を入れてやった。愛妻は寒くても作ると忘れる。これでは体が悪くなる。困ったものだ、と苦笑いしながら、ドルドレンはベッドに戻った。



 見ていると、イーアンはデカイ骨を持って帰ってきたと知る。だけど見た目が変わった。


「これ。どうしたの」


「タンクラッドが金属を入れました。ここを割ってね。それで一旦、全部取り出して形を整えて、そこからはタンクラッド。私は知らないのですが、昨日伺ったら、既にこの形になっていました」


「凄い。もう何か。何と言うのか。これでぶっ叩かれたら、頭が割れるだけで済まないきがする。この・・・歯の部分も全部刃だろう?引っかかるのか」


「さー・・・・・ 私の予想ですと。引っかかって切り裂くのかもしれませんね。これだけ長くて鋭利な刃ですから、綺麗に切り裂くわけではなくて。ざっくり、ばりっばりに」


 うわ~ 嫌そうなドルドレン。イーアンも苦笑い。『少なくとも、引っかかった部分は、この歯の長さは刺さるわけですから、腕ぐらいなら。ショーリの腕くらいの太さでもないと、切り裂いて落とすでしょうね、歯は並んでいるし』強烈ですねと笑う愛妻。


「シャンガマックの印象に合わない」


「本当ね。あの方は、こんな残酷な武器を振り回すとは、ちょっと想像つかない。でも彼のお望みですから」


 イーアンは何の担当なの、と訊かれ、自分はこれから柄を作ると教える。見ていても良いですよ、と向かいに座らせて、イーアンは作業を続けた。



 柄の握りに合わせて木を削り出し、骨の突き出しを覆う金属部分に5mm径ほど穴を穿つ。金属と中の骨を貫通した部分に、木を合わせて印を付け、そこに先ず穴を開けた。

 それから金属の覆いに(やすり)がけをし、その後、木材に何箇所か、凹み部分をナイフで抉って付けた。表裏2部の木材の同じ場所に、慎重に穴を開け、それもまた彫るように開けた。


「それ何」


「これですか。これがありますと、革紐がずれません。ここに通して固定して、その上から絡ませて編みます。大体それで10年は使えるでしょうね。革が切れなければ」


「木の覆いの下は、ぴったりさせたりするの」


「そのつもりでいます。間を埋めて落ちないようにします。それとここに金属の鋲を打ちますから、恐らく大丈夫でしょう」


 先に開けた穴を見せて、金属の細い棒を見せた。ドルドレンにはこの棒をどう、止めるのか分からなかった。『これで止まるの。抜けそうだ』棒を見て愛妻に訊くと、愛妻はニッコリ微笑んで教える。


「この金属の板にこれを挟むでしょ。熱した後です。赤いうちに上から叩いて、片方を平らにします。それを差し込んで、もう片方も突き出した部分を、引っ叩いて平らにしてしまいます。叩き続けると熱がこもって、形がそこだけ変わるのです」


「何だか。言葉だけ聞くとムラムラする。突き出した部分を引っ叩いて、熱がこもって、形がそこだけ変わるとは」


 やぁね、と笑うイーアンに、ドルドレンは背中をぽんと叩かれる。『昨日は頑張ったんだから、朝からそんなこと話してはいけない』とさりげなく注意された。


 イーアンの手元が、何も指示もされないのに次々に動いて、別の作業を取り込むのが、ドルドレンには不思議でたまらなかった。顔つきも違う。目の前の目的しか見ていない。誰かが頭の中に、指示でも吹き込んでいるように思える。


 イーアンは黙々と作り続ける。時折、体の向きを変えたり、物を取ったりするが、ドルドレンを見たり見なかったり。

 時間はもう7時過ぎている。ドルドレンはちょっと工房の外へ出た。イーアンが気がつくかな、と思って振り向いたら、こっちを見てニコッと笑った。笑い返して『すぐ戻るよ』と声をかけて扉を閉めた。



 その後。ひたすら作り続けるイーアンは、ある程度まで進んで、一度固定する段階まで来ると、ようやく休憩。

 ドルドレンは、出て行ったきり戻ってこない。もしかすると、執務の方に捕まったか。そんなことを思いながら、次の作業用の皮を切り出そうとし『魔物の皮で大丈夫かなぁ』と、一瞬気になる。


「もしかすると。ここまで来たら、今日は上に行くのだし、ファドゥに相談してもいいかも知れません」


 魔物じゃないほうが良い、そうした類の可能性もあるなと思い、固定した木の部材が完全に固まったら、空へ出発とした。時間を見て、8時前。ドルドレンを探しに行こうと扉を開けると、丁度扉の前にいた。



「気がついた?開けてくれて助かる」


 ドルドレンは盆を持っていて、湯気の立つ朝食を運んでくれた。『有難う・・・』イーアンは言いかけて、気がつく。机に置かれた盆の皿に、普段の朝食と異なる料理が乗っている。


「ドルドレン。作って下さったの」


「時間があった。厨房も邪魔じゃないみたいだった」


 ニコッと笑う黒髪の美丈夫。メロッと壊れるイーアン。飛びついて抱き締め、伴侶の愛に感謝する。顔を両手で挟んで引き寄せ、ちゅーちゅーして喜び表現するイーアンに、ドルドレンもしっかり抱き締めて嬉しくちゅーちゅーする。


「何て優しいの。何て素敵なことをして下さるの」


 抱き上げられて高さが上がったところで、イーアンは伴侶の首に両腕を回して、もう一度ちゅーーーっとして微笑んだ。ドルドレンも蕩ける笑顔。『俺は幸せだ』そう呟いてちゅっとしてから、イーアンを椅子に下ろす。


「食べよう。俺も一緒だ」


 馬車の家族の料理は、詰め物や焼き物が多い。ドルドレンは朝から、少し手の込んだ肉詰めを作り、香辛料で焼いた塩漬け肉も添えてくれていた。

 イーアンは涙ぐみながら、美味しいと連発して頬張った。そして知る。肉詰めに入っているもの。



「これは。まさかお米」


「どれ。これか、これはブレズの原料だ。もともとの実だな。ベルが持っていたから」


 あいつら時々自分たちだけ食べてる、とドルドレンが話しているので、イーアンはこれをどこで買ったかを訊いた。『東からの行商だと思う』マブスパールにもある、と教えてもらう。


「イーアンもこうして食べるのか。支部ではこうした使い方をしないから、知らないかと」


「いいえ。私のいた以前の場所には、こうした粒の実を蒸し、主食に食べました。また種類が違うでしょうけれど、ここでも、実の状態で購入したくて。ただ、見かけなかったから、真似して使うこともしませんでした」


 今度、東へ行ったら探して買おうと、二人で話し合う。ドルドレンは、イーアンも似たようなものを食べていたと分かって嬉しい。イーアンも、ドルドレンが料理に使ってくれて嬉しかった。見つめ合って、もう一度ちゅーっとして、美味しい朝食の続きを食べた。


 この時。穀物を分けてあげたベルが見に来ていて、感想を聞こうと扉を開けた時。

 ちゅー・・・の真っ最中で固まる。そして、そっと扉を閉めて戻る。『あいつ。いいなー。俺も作れるのに』ぼやきながら、弟の元へ帰るベルだった。



 伴侶の手作り朝食に感激したイーアンは、食べ終わってもまた、ちゅーっとして感謝した。『こんなに喜ばれると、しょっちゅう作りたくなる』ドルドレンは鳶色の瞳を見つめ、ぽやーっとして呟く。


「とても。とても美味しかったです。本当にドルドレンは料理が上手。大好きです」


 ドルドレンの顔中、ちゅっちゅ、ちゅっちゅして(←肉の油付いてる)イーアンは気持ちを表す。頬や額や唇がてかる旦那(※肉脂)は、ツヤツヤでニコニコして頷いた。


「ドルドレン、本当に有難うございました。これで心置きなく出発できます」


 突然、突き放され、旦那はビックリ。『え。まだ行かないだろう』剣の柄を見ると木製のまま。微笑みながらイーアンは教える。次の皮の存在を、空に行って訊いてみる・・・と。


「あなたと一緒の時間が最近、少ないですから。どこかでゆっくり食事をしたり、工房で過ごしたり。そうしたいなと思っていました。そうしたらもう、今朝すぐに。こんな素敵な時間がやって来て」


「だからって出かけるの。早いだろう。もうちょっと、一緒にいても」


 ドルドレンがごねる。立ち上がるイーアンを捉まえて抱き寄せ、ダメダメとごねる。見つめてもみる。


 ごね(ついで)にもう一度、ちゅーとか、さわさわして、ムラムラもしていたら。ごねている最中で、扉が叩かれ『いるのは分かっている』と執務の騎士の声がした(※工房を勝手に開けない礼儀あり)。


 笑い出すイーアンに、眉根を寄せるドルドレン。イーアンが扉を開けると、会釈した執務の騎士3人は、逃げないように総長の腕を素早く取る。『仕事しろ』と時間を示され、嫌がるドルドレンは腕を引っ張られて連行された。

お読み頂き有難うございます。

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