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魔物資源活用機構  作者: Ichen
空と地下と中間の地
510/2951

510. 報告の問題

 

 意味深なことを言うミレイオ。グィードの話を知っていそうで、イーアンは訊こうとしたが、止められてしまった。

『今のあんたに話す気にならないの。もうちょっと楽になってからね』ということで、心のお師匠さんが話したい時まで待機になった。



 ミレイオはシャツを着て、イーアンにタンクラッドのところへ行くように促した。


「タンクラッドの家に行かないなら、ここに居させたわね。でもまだすることあるみたいだし。盾は近いうちに取りに来なさい」


 イーアンはお礼を言い、盾を見せたら、支部の皆はまた凄く感動する、と話した。ミレイオも笑顔で頷いて、早くおいでと、次の時を楽しみにする気持ちを伝える。

 一緒に家の下まで行って(※コケるから)龍を呼んで、イーアンは浮上する。『詰め込まないのよ』優しいパンクが手を振ってくれる。イーアンは大きな声でお礼をもう一度言って、手を振ってさよならした。



 タンクラッドの家に着いたのは、午後3時前。戻ってきたイーアンに、喜ぶ親方。


「早かったな」


「でも。いろいろとあって。だけど早かったですね」


 おかしな言い方だな、と思い、親方は作業の手を休めたまま、話を聞こうとした。イーアンはちょっと台所を見て、少し料理がしたいと言う。『そうか。構わないが、じゃ。向こうで聞くか』親方は椅子を移動。


 イーアンは、鍋を熱して、漬けておいた血合いの水気を拭いて焼き始める。それからイカタコを切って、水の多い野菜と一緒に煮込む。


 手を動かしながら、本部へ行った時の話とミレイオの教えを話した。親方は、本部の話で口を挟みそうになったが、ションの理解を知って黙った。ミレイオのした話も、あれこれ伏せられていそうな気がしたが(※勘)どうも彼女を救ったようなので黙っていた。



 それと、とイーアンは空の話もした。自分が、男龍たちと話して聞いてきたこと。古い時代に彼らの場所で起こったこと、自分たちの旅について、ズィーリーのこと、彼らの存在、精霊・空の民、卵の話もした。


 ざっくり話して、焼いた血合いを突き匙に刺して、親方に試食させる。呻いて悶える、色気満載の親方を見つめ、血合は美味しいと教えた。『冷めても美味しいです。夜に食べて下さい』置いておきますよ、と皿に取る。


「血合い。お前のしてくれた話を忘れそうになった。恐ろしい美味しさよ」


 笑うイーアンは洗い物をしながら、イカタコの煮物も様子を見つつ、出来事のそれぞれに飽和状態だったと話した。


「それをミレイオに(ほぐ)されてきたか」


「はい。あの方らしい方法で。とても他の人には出来ないでしょうが、ミレイオらしいです。お陰で、すんなり理解しました」


「聞いて良いか。何した」


「タンクラッド。お顔が怒っていらっしゃるように見えます」


 絶対に勘違いも早とちりもしないでくれ、と頼み、親方は嫌な予感がびしばししつつも、頷く。『絶対に怒らないで下さい。良いですか』イーアンが真剣に言うので、親方は仕方なし約束する(※内容聞きたい)。


 イーアンは、ミレイオと盾を見ていたが、その時に彼が突然脱いで自分に被さったこと。脱がすとか抱くとか言われて焦ったことを話した。親方の目が見開く。さっと片手を前に突き出し、イーアンに質問を願う。


「ちょっ。ちょっと、ちょっと。待て。座ってて、いきなり脱いだ?」


 それもかーと思いつつ、寝そべって喋っていたことを洗い(ざら)い正直に話すと、親方は突然、壁に頭を打ちつけた。ビックリして、イーアンが親方の肩を押さえると『離せ、無理だ』と叫ばれた。


 落ち着くように頑張って宥め、最後まで聞いてもらう。で、最後の最後まで来て、ちらっと親方を見ると。もの凄い怖い顔でこっちを見ていた。


「お前は。ミレイオにそんなことをされて。オーリンにも触られて。何で平気なんだ」


「男の方ですが。そういう対象じゃないからです。私から見て、と言うよりも。彼らも、そういうつもりじゃないと分かるからです」


「俺はなぜダメなんだ」


「タンクラッド。想像して下さい。あまり良くないですが。タンクラッドがもし、私の腿やお腹をさわさわしたら、どういう気持ちです」


「うっ」


「では。一緒に寝そべって、横向きに抱き合うような形で、いつものように髪を撫でたり、顔を撫でるとしたら。裸の上半身で、私を抱き締めるとしたら」


「あっ。ムリ。うっやば」


 片手で口、片手で股を押さえた親方に、イーアンは困った顔で見つめる。親方は暫く、目を瞑ってはーはーしていたが、視線を感じてちらっとイーアンを見て、慌てて平常の様子に戻った(※股間は見せないように手を置く)。


「そうなるでしょう?彼らはなりません。至って、普通。

 オーリンはさわさわしても、ケラケラ笑っていました。怒る私を面白がってるだけです。この話は、この前もしましたね。

 ミレイオはどうなんでしょう、あの方は。この前、フォラヴもミレイオの家に一日居ましたから、フォラヴにもそうしていたと思います。ミレイオなりの愛情表現でしょう」


「だが。だからって。そんな過ごし方をイーアンが平気とは。それもおかしいだろう」


「ミレイオは姉みたいな感覚です。男女の別を嫌がるから、ご本人には言えませんけれど。支部にいるハルテッドも、女友達のように思います。女装してくれると本当にホッとします。オーリンは、兄のようですね」



 親方はイーアンの表情を見て、ようやく気が付いた。朝、ラグスの家でも。彼女に抱きつかれたり、キスをされて、イーアンは普通だった。イーアンは女友達が欲しいのか、と分かる。オーリンは置いといて。


「お前。女の友達が欲しいのか」


 そう思うこともある・・・下を向いて呟くイーアン。ドルドレンや皆さんは優しいし、何でも言えるけれど。緊張しないで話せる相手も欲しい。それを言うと、親方はじっとイーアンを見つめる。


「そうか。男と話すと、総長や俺がな。女と話せれば、会いに行くのも何も、咎められないしな。緊張って、周囲に気を遣うほうの意味か」


 そう言えば。一緒にデナハ・バスに、工具を買いに行った時。菓子を食べようと誘ったら、年末に女友達と食べたことを思い出して笑顔だった。


 ちょっと微笑んで、イーアンはタンクラッドにイカタコ煮込みを試食させる。唐揚げも美味しいが、これもまた別の美味しさだと喜ぶと、イーアンはニコッと笑った。


「こういう時間も。私は嬉しいのです。タンクラッドと料理で喜ぶ時間。だけど、寄りかかったり、くっ付いて一晩中話し込んだり・・・それは出来ません。私がそんなことしたら誤解されます」


「誤解じゃなくて本気だ」


「それを誤解と言うのです。ドルドレンには出来ますが、彼にそれを行うと続きが待っていますから、そう簡単には出来ません」


「そういうことを言うなっ」


 頭が疲労した親方は立ち上がり、試食させてもらった皿を洗って、男龍の話はまた後日・・・ということにした。『お前と一緒に居たいが。ミレイオもあっさり帰したようだし。今日は戻れ』シャンガマックの剣を包んだ革袋を出し、親方は背負うベルトを通してくれた。


 有難くお暇することにして、イーアンはイカタコセット(※イカタコ半分・つみれ3玉・干しエビ半量)を持ち、龍を呼んだ。ミンティンが来てすぐ、親方はイーアンを乗せ、荷物を渡した。


「明日。ファドゥに珠を渡しに行きます。その後、この剣の柄を作ろうと思います。明後日また来ます」


「分かった。連絡はしろよ。一日一回は連絡しろ(※毎日電話するタイプの人)」



 イーアンはさよならを言って、支部へ戻って行った。

 見送る親方。ミレイオめ~ あいつに紹介するんじゃなかったと、今更悔しい思いをする(※羨ましいだけ)。


「しかしな。ぬっ。思い出しただけでやばい。自分が上半身裸で、イーアンを抱き締めるとなると。確かにそのままでは離れられない。横にいる状態で抱き合うなんて、恥知らずめ。うっ。想像だけで危険だ」


 覆い被さって笑って終わるなんて、絶対出来ないと呻きながら、タンクラッドはふらついて家に入った。食事で呻いて、やらしい想像で呻いて、今日は脳みそがクタクタだった。



 イーアンが戻ると、時間は5時前。ちょっと遅くなったと思って、急いで執務室へ行く。伴侶はもう仕事上がりのようで、そのまま一緒に執務室を出た。話をしながら厨房へ行き、買ってきた材料を預け、風呂を済ませて夕食へ。


 つみれを持ち帰ったイーアンは、ちょっと厨房で焼いたつみれをドルドレンに食べさせる。ドルドレンもうんうん呻いてくれた。親方もセクシーだったが。伴侶にはメロる自分がいる。あまりにも美しい。

 次はもっと作ろう、と決めたイーアン。ドルドレンは気に入った様子なので、東に行ったら是非、生魚を買おうと話した。


「今日。疲れているな。後でゆっくり聞こう。本も読むのだろう?」


 早い夕食を食べながら、ドルドレンは疲れていそうな愛妻に訊く。寝室へ着替えを取りに行った時に持っていた、あの背負い袋も見たい。早く寝室へ上がろうと促し、夕食の後の酒を持って、二人は2階へ上がった。


 ここから今日の出来事。


 一連のお話しを繰り返し、タンクラッドと同じ部分で同じように反応し、伴侶はきーきー怒っていた。本部の話も激怒しかけたが、ヴィダルやションが分かっている部分は救い・・・と、どうにか気を落ち着かせた。問題はミレイオ。いくら何でもダメだろっ(※常識)この内容できーきー怒る。

 イーアンはそれも、タンクラッドと同じように宥め、自分にはミレイオは姉のようだと話し、本当に意表を突く手段だったが、ミレイオに他意はなしと伝えた。だから自分も別に、それで怖いとは思ってないとも言った。


 灰色の瞳に苛立ちを揺らめかせ、酒を呷ってドルドレンはふーーーっと息を吐く。


「よくタンクラッドが何も言わなかったな。タンクラッドにも話しただろう。どうせ聞かれたのだろうし」


「彼は頭を壁に打ち付けました。急いで止めました」


 それしか突発的に鎮める方法がなかったんだな、とドルドレンも理解する。ミレイオは中性的だが、男の体だ。だが、イーアンが言うように、分かっていてそうした行動を取ったのだとも思う(※本当に理解の広い旦那)。現に、イーアンに誤解されては困る、と笑って終えているし、自分の体の使い方というだけなのか。


「でもヤダ」


「ですね。だけどね。私はミレイオの刺青の方が、気になって仕方なくて。抱き寄せられるでしょ。上、裸でしょ。見事に全部に刺青ですよ。それも物語性ありって分かるの」


「イーアンは気にしなさ過ぎ」


「行為自体は気にしましたよ。ただ、ミレイオはいい人ですから攻撃できません。だから、どうして良いのか分からなかったのです。相手がただの暴漢だったら、私は叩きのめしています」



 ――やるな。これは。絶対にこの言葉が裏返ることはない。ドルドレンは血の気が引く。相手が人間でも、恐らく、危害を加える相手は叩きのめす。イーアンは必ず最初、警告するのだ。短い時間だが、その警告を見誤ると瞬時に豹変して殺される・・・・・



 静かになって、すーっと青ざめる旦那を見つめ、イーアンは咳払いする。『ミレイオらしいやり方です。でもあれでどうこう、って感じはしません。絶対ないです。ある意味、龍族と近いくらい信用できます』だから平気、と愛妻(※未婚)。


「ミレイオがね。さっきも言いましたけれど『驚いたことで、忘れてしまうようなことなんか、所詮どうでも良いこと』そうした話をしました。私がそう受け取ったのですけれど。

 心に残るものを並べると、頭で考える並べ方と違うことを教えてくれました。それが出来ると、自分は追い詰められていないと分かるって」


 ドルドレンは強敵三昧で心が疲弊。でも、肝心の愛妻は何もかも洗い(ざら)い全てを暴露する。ミレイオに『端折って誤解を生むな』と注意されたくらい、俺に()()設定されている。それは隠されるよりは良いとも思う(※聞く内容がキビシイけど)。


「そうです。これも言わなければ。ミレイオは刺青の説明をして下さいました。ヨライデの神話だとか。そして私の刺青の意味も聞かれて」


 愛妻。ドルドレンの前で、両肩をずらして、これでしょ、これでしょと説明し始める。


「待ちなさい。そうやって見せたの」


「そうです。だって、こうしないと見えないもの」


 それでね、と続けるイーアンを引っ張り寄せ、ぎゅ―っと抱き締めて顔の真ん前で威圧。『何てことをするの』イーアン目をまん丸。ドルドレンはとりあえずキスして、ふーっと落ち着く。


「いくらミレイオが相手でも。それはいけない」


 はーい。イーアンは頷いて、話を続ける(※往なす)。『これがグィードかなと。私が言いましたら、あの方知っていそうでした』それを話したかった、と言う。


「何?グィードを?ヨライデにいたからか」


「分かりません。聞きたかったけれど、今の私は大変そうに見えたのでしょう。また今度、ということで帰されました」



 机に置いたままの本に目を留めて、イーアンは書庫から借りた本をドルドレンに渡す。


「龍のこと。そうした話はあるでしょうか。私は疲れていても、執着は消えないみたいで」


 フフと困ったように笑って、イーアンを片腕に抱いたドルドレンは本を開く。イーアンはどこまでも自分のペースだ。誰に撫でられようが抱き締められようが、彼女には目的以上の重さにならない。それが分かっているから、つい自分も・・・怒っても何でも、こうしてすぐ切り替えられている(※駄々を捏ねることもある)。

 『そうだな』少しページを捲り、幾らか目次を見てから、意外そうに額を掻くドルドレン。


「龍。については、なさそうだな。そうした伝説的なものではないぞ。世界各地の、本当に土着の話というかな。地域の昔話・・・・・ だ・と・あれ?」


 膝に座らせたイーアンを片腕に抱えて、ドルドレンは本を机に置いて、ページをざくっと飛ばして読み始めた。


「イーアン。治癒場の話だ。これはどこか。テイワグナか。テイワグナの話に『不思議な洞窟』というのがある。行けば、病気も怪我も治せるという、遠い場所の洞窟だ。

 まだあるぞ、これはどこだ。ティヤーかな、国分けだとティヤーだが。こっちが凄い。天に上って治したとある」


「天。空に繋がる治癒場」


「そう思えば、そうだ。この本には『不思議な洞窟』とか、『隠された精霊の都』とか、そんな名前で話が載っている。天に上って、癒されて戻ったという男の話があるから、これはそうかもしれない」


 二人は顔を見合わせて、空に行けるなら・・・同じことを思う。


「もし。空に繋がる治癒場があれば。ドルドレンも行けるのでは」


「イーアンが卵を孵す間。俺も側にいられるかも」


 それなら一緒に、と抱き合う。『明日。ファドゥに聞いてみましょう。分からなければ。ビルガメスに』イーアンは卵を孵したい。協力したいけれど、ドルドレンと離れたくない。それだけだった。


 ビルガメスの名前に、ドルドレンは一瞬眉根を寄せる。だが。分かる、愛妻の気持ち。自分もそれだけが最後の引っかかりだった。一緒にいられるなら3ヶ月、空でも良い。



 探しに行こう、と決めて。二人は眠ることにする。ドルドレンは3日も我慢したので、ここぞとばかりに頑張った。頑張らないでも充分なのに、頑張られてイーアンは気絶しかけた。

 ドルドレンとしては、愛妻が出かければ確実に、どこかの誰かに触られている日々に苦しいため(※確かに問題あり)夜だけは自分の特権と、張り切るのは自然な流れだった。

お読み頂き有難うございます。

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