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魔物資源活用機構  作者: Ichen
空と地下と中間の地
506/2951

506. 親方とブリャシュの朝市へ

 

 前の日は夜9時くらいまで、祝賀会だったイーアンとドルドレン。二人とも徹夜明けだったので、9時を境に寝室へ下がって、会話もそこそこ、いちゃつくこともなく早くに眠った。



 翌朝。


 イーアンは早く起きた。ドルドレンが眠っているので、起こすのを躊躇う。だが起こすことにして、ちゅーっとしてみる。起きない。何度かちゅーを繰り返すと、ドルドレンが覆い被さってきた。


「イーアン。おはよう。しよう」


「ドルドレン、おはようございます。いけませんよ、朝ですから」


 ううっ 嘆く伴侶。昨日寝ちゃったからと粘ってみるが、愛妻は厳しく受け付けなかった(※例外ナシ)。『昨日も一昨日もしてない』もう今日痛いかも。弱音も吐いてみるが、無理だった(※横にどかされる)。


「夜ね。夜。ところで今日は私、出かけます。それで起こしました」


「イーアンは容赦なく切り捨てる。寂しい上に、余韻を感じる暇もなく、上乗せのように出かけるとは」


「約束が先延ばしなのです。やること満載。ですから一日動き回って、ある程度片付けてきます」


 業務的なイーアンを抱き寄せて、ドルドレンはとりあえず頬ずりしながら、どういった用件でどこへ行くのかと訊ねる。


 イーアンの予定だと。まずタンクラッド。市場はないから、東で朝市の魚を買って戻ると言う。文句を言おうとして口を手で押さえられた。『最後まで聞いて下さい』仏頂面で頷くドルドレン。


「ボジェナのお母さんのためでもあります。約束なので、お魚を買ってつみれを作って。それを分けたら、シャンガマックの剣です」


 どこまで進んでいるか分からないから、そこで時間の残りが左右されるらしい。そして次は本部。『盾のお金』忘れていたから受け取ってくると言うイーアン。


「ドルドレンが行っても良いでしょうけれど。昨日の今日では、あなたは町の女性に捕まって閉じ込められる恐れがあります」


 それはいけませんので私が・・・・・ イーアンの言葉に、ドルドレンも盾の代金を思い出し、同時にイーアン単身で向かう案に同意した。『怖かった』呟く伴侶に笑うイーアン。


「それはでも。あんな数の魔物に襲われた時に、白い板に乗って飛び交いながら、輝く鎧の絶世の美丈夫が、剣でやっつけてくれるのだもの。格好良いったらないでしょう。私が見ていても倒れるかも」


「実際にはイーアンの方が倒している。それに格好良さで言えば、龍だぞ。イーアンは。俺は板だけど。絶対にイーアンにも取り巻きがいるはずだ」


「んなわけないでしょう(※なげやり)。私、最近よく思います。私は、とても変わった方たちに好かれる傾向があります。普通の人は私を好みません。まー顔が顔ですから仕方ない(※自分で言ってて自棄)」


「ぬぅ。何か違う方向で、イーアンがヘソを曲げている気がする。俺は何も害のあることは言っていないはずだが。イーアンは可愛いよ。とても綺麗だよ。俺の最高の奥さんだよ」


 ドルドレンは、町の女性に『降りて来い、結婚しろ』と叫ばれたことが嫌だったと、愛妻を抱き締めて震えた。『倒すのは仕事なのに。被害が出る前にと、いつでも命懸けで剣を抜くのに』終わり次第、結婚しろとか好きだとか言われてはたまらん、と悲しむ。感覚が違い過ぎて、近寄りたくないと。


「そういうのはね。私も思うところです。ですが、真剣に全力で戦うからこそ、外から見ている人たちには、非日常的な魅力なのかも」


 私には、そうしたのないな~と思いつつ(※実は王様が、イーアンの戦う姿に町の女状態だけど)元々素敵な男性だから・・・と伴侶を慰める。


「ですので。私が本部へ行きます。お代を受け取ったら、ミレイオの家に届けます」


「イーアンも本部で(つか)まらないと良いけど。ミレイオには(つか)まるだろうが」


「私は本部で捉まりません。恐らくあの方々から見れば、私は『お手上げ』って感じの女でしょう。私よりもずっと強い男の方は私を好むようですが、私のように戦う女は、大抵の男性は嫌だと思います」


 ミレイオには捉まる自信がある、と付け加えると、ドルドレンは頷いた。『それは仕方ない』そう思うと。


「後は」


「多分、このくらいで時間切れです。今日、夜はあなたに読んで頂きたい本もあるし、早く休めるようにしたいです。明日はファドゥに、珠を渡しに行こうと思います」


「本。良いよ。でも明日のファドゥは気になる。どうなのか、それ」


 イーアンは、もう大丈夫ではと思うことを伝える。自分が龍になれる場所で、誰かに閉じ込められると思えないと伝えると、ドルドレンも何となく理解する。


「だけど分からないぞ。男龍もいる。一人じゃ危険だろう」


「約束しました。彼らの約束は破られません。それは真実のようですし、ルガルバンダ以外の4人は、無理やりどうしようと思っていません。あの方は特に信用できると思うのが、ビルガメスです。彼がいれば大丈夫でしょう」


「誰だっけ。ビルガメス」


「一番大きい方。一本角の真っ直ぐ生えた。始祖の龍から生まれたという長寿の男龍です」


 ドルドレンは目を見開く。あれだ、あいつ。あのやたら体がでっかくて(※アレがでかい)一番カッコイイ感じのやつ。見るからに、男龍で最高位の。


「な。なんで信用できるの」


「彼だけは、私を『可愛い』と言います。お孫さんみたいな感覚かなって」


「なに?他のヤツは言わないのにか」


 イーアンは彼らに、微妙すぎる誉め言葉をもらっていることを話す。『男みたいだから』綺麗って言われても。女ギリギリとも言うし、それが気に入られても嬉しくも何ともないと言うと、伴侶はいろいろ怒っていた。


「俺の奥さんにっ 男みたいとは何だ!女ギリギリだと~ 女だ、女!こんな可愛い男がいてたまるかっ(?)とはいえ、気に入られてるのもイヤだ!そこにビルガメスだけは、イーアンを可愛いと言うとか。俺はどうすりゃ良いんだ」


 落ち着いて、とイーアンは宥める。『ですから。ビルガメスは一番、普通に近いような気がするので』だから安心ですよ・・・イーアンは彼が、信頼に値することを強調した。


「そういうことで、私はきっと空へ上がっても大丈夫と思えます。調べたいこともあるし」


 ドルドレンはきーきー言っていたが、とりあえずもう出かけると立ち上がられ、ぶーたれながらも自分も着替えた。イーアンは盗賊ファッションに剣を下げ、焼け焦げた上着を羽織る。


「今日は朝食はどこかで食べます。それでは夕方ね」


 イーアンは伴侶にちゅーっとして、荷物をまとめ、食事も摂らずに裏庭へ向かう。朝食も一緒に食べないなんて、と抵抗してみたが、イーアンは『夕食は一緒だ』と言い切って、龍に乗って行ってしまった(※男らしい奥さん)。


 寂しいドルドレン。愛妻(※未婚)は大忙し。早く家が欲しいなと、裏庭の壁を見るたびに思いながら、建物の中に戻った。



 イーアンはイオライセオダに着いてすぐ、連絡していなかったことを思い出した。が、タンクラッドの家に降りると、戸はすぐに開いて眩しい笑顔を降り注がれた。


「今日は来ると思っていた」


 嬉しい親方は、ようやく二人だとイーアンを抱き締めて、頭にちゅーっとして、満足しながら撫で回した。頭ちゅーは、自然に行われても困る・・・少し目の据わるイーアンに気がつきもしない親方は、イーアンを家に入れる。


「無事で本当に良かった。昨日会いたかったが、我慢した。でも本当に無事で何よりだ」


 優しい親方は、イーアンをもう一度抱き締めて、無事無事と喜んでいた。お礼を言って、イーアンは一緒に出かけようと誘う。親方はちょっと驚いて場所を訊ねた。


「東へ行きたいのです。朝食はまだですか」


 まだだ、と答えると、イーアンもまだと言う。『東の朝市へ行きましょう。魚を買うのです。屋台で朝食も』ニコッと笑う顔に、親方は両手で頬を包んで、もう一度頭にちゅー(※イーアン目が据わる)。


「優しいな、お前は。行こう。ちょっと待て、上着を持ってくるから」


「お金を持ってきましたので、タンクラッドはお金は持たないで下さい」


 そう言われて親方は少し気になり、持って来た金額を訊くと。『分かりません。もらいました』と答えが戻る。心配なので見せるように言うと、イーアンは袋から硬貨を全て手に乗せて見せる。


「ふむ。どれくらいの魚を買う気か知らんが、充分そうだな。食事もこれで買う気か」


 そう、と頷くので、親方は笑ってお願いすることにした。そして上着を羽織って、一緒に龍に乗る。親方がイーアンを抱き上げて飛び乗り、お約束の場所に座らせる(※股間上)。もう座席を気にしないことにしたイーアンは、ブリャシュの町へ向かうとミンティンに告げた。



 親方と一緒に、イオライセオダからブリャシュ。かなりあるので、ゆっくり飛ぶと1時間くらいかかる。『お腹は空いていましたか』イーアンは無理に連れてきてしまって悪かったかしら、と今頃思って訊ねた。


「いや。そうでもない。それより朝食が東の屋台の魚なんて、思ってもいない嬉しさだ。それを思うと腹が減るな」


 ハハハと笑う親方に、イーアンも笑う。『本当。私も言われてみれば、想像しただけでお腹が鳴りそう』以前、ドルドレンと出かけた時に買った屋台の魚の話をすると、親方は美味そうと微笑んだ。


「ところでな。この上着。どうした。こんなに・・・何か焼けたように見えるが」


「そうでした。いろいろお話しすることがあります。まずは昨日の話ですね。実は」


 機構のことで手紙が来ていて、それで日にちを一日間違えていたから、慌てて朝から本部へ行ったと話す。午前中に機構を本登録すると決定したこと。そしてすぐ後に魔物が来て、それを倒したらこうなったことを説明すると、親方は首を振って溜め息をついた。


「休めなかったのか。その上、魔物退治。総長と二人で良かったが、本部の連中は戦わないのか」


「外の支部で活躍された方もいますが、今は屋内です。実戦の業務ではないので、彼らは中でした」


「そうか。しかしお前は。またこれを作るとなると大変だろう。こんなに焼けて。怪我はしたのか」


 親方は機構の設立よりも、イーアンの怪我の心配をしている。イーアンはそれがとても嬉しかった。その優しさに感謝して、自分は噛まれたが鎧があったから無事だったと教える。機構についても、夕方に支部で祝賀会をしたことも話した。


「怪我がないなら良い。剣も役に立っているなら何よりだ。いつでも戦うお前を見ていると、本当に側にいて守れたらと何度も思う。

 だが、お前の働きや騎士修道会の動きで、今回の機構設立まで漕ぎ着けたのだから、可哀相がって同情ばかりしていてもな」


 自分を振り向いているイーアンの頬を撫で、親方は困ったように笑った。それから親方も、自分が昨日調えた剣の段階を話す。『今日はお前の出番だ』それからまた俺だなと言う。



 親方とお喋りしながら、一時間はあっという間。見えてきた東の川の広がる大地に、イーアンは感動する。『何度見ても感動します』素晴らしい光景ですと、笑みを浮かべて下を見つめる。


「そうだな。朝はこんなに煌いて。光の絨毯だ」


 時々ロマンチック(※天然で言ってるから意識してない)な親方に、ちょっとメロるイーアン。ナイスな表現に感謝して、ちらっと親方を見て微笑んでみる。親方は分からないので、とりあえず微笑み返した。


 ブリャシュの町が見えてきて、ミンティンは下降する。ゆっくり町の外に降りてもらい、龍を帰してから二人は町へ入った。


「最初に食べるか」 「はい」


 顔を見合わせて笑顔の二人は、何軒か出ている屋台を物色。どこからも良い匂いが漂う。『決めにくい』笑う親方に、イーアンも笑って頷く。


「私の持ってきたお金で、屋台の食事を2食分買うと、どれくらい減りますか」



 親方。ここで少し考える。イーアンの質問に答えるのは簡単だが、学習させることにした。

 イーアンの世界のお金と物価の関係を訊ねると、ここよりも、イーアンの世界の方が物価が高いと分かった。


 それからざーっと屋台の金額の平均と、反対側に並ぶ店の魚介の金額の幅を見てから、イーアンに質問する。『給料か?これは』イーアンはそうだと思うことを伝える。

『実際は幾らか知りません。でもそう言えば』以前、自分の給料&食材購入額を執務室で話した内容を教えると、親方は何度か頷いた。


「彼らのその言い方だと。そうか。大体の見当だが、恐らくお前の給料は、30,000~40,000ワパンの間。結構もらってるな。まあ、ものづくりなんだから、それくらいはないとな。

 ではちょっと見てみろ。屋台の相場は20ワパンだ。量が増えたり、素材が珍しければ30ワパンもある。だがほとんど20ワパン以内。数字は読めるな?」


「読めます。10とか15もあります」


「ではこっちに来い。この店の店頭にあるこれは?」


「50ワパンです。50ワパンでこの量ですか。この(ざる)の量」


「そうだ。お前は硬貨を覚えていないが、お前の持ち金は500ワパン。どう思う」


「タンクラッドは、3人前くらい朝食が食べられると思います」


 ハハハと笑う剣職人は、イーアンの頭を撫でて頷く。『そうだな。そういうことだ。硬貨を覚えろ』それじゃ買うか、と笑いながら、二人は最初に目を付けた屋台に行って、串焼きの魚と串焼きのイカタコを買う。


 焼き立てを二人で頬張りながら、美味い美味いと喜ぶ。イーアンは自分のを親方に分けてあげる。串を差し出すと、嬉しそうに親方は微笑んで一つ齧った。『美味い。これはあれか、お前が唐揚げにした』これも買おう、と親方は買い物に付け加える。


 それから親方もイーアンに食べさせる。一尾を刺した串で、親方が齧った腹を差し出すと、イーアンは頭を齧った。『違うぞ。腹だ、頭は残せ』急いで教えると、イーアンは口に入れた頭をもぐもぐ噛んで『美味しい』と真顔で頷いた。


「お前は丸ごと食べる気か」


「お魚をよく焼いてあります。食べやすいから」


 うん、と頷くイーアンは、イカタコを食べ終わった次の獲物は、揚げた魚(※一尾)にした。親方はちょっと戸惑いながら、魚のすり身らしきものを見つけ、それを揚げたものを買った。


「もしかして、これもお前が作るつみれと同じようなものか」


「似ています。私もウィブエアハの町で初めて食べて、驚きました。これは揚がっていますが、さらにここから、魚のお腹に詰め込んだ料理を頂いて。塩漬け内臓と豆だったか。あれも最高でした」


 親方は興味深そうに、揚げた魚の身を齧り暫く賞味。『うん。お前のつみれと似ている。だが、こっちはちょっと違う味がする』何が違うのか分からない、とイーアンに差し出す。イーアンも一口頂戴して、親方を見上げる。


「これは魚の身とお芋でしょうか。身が粗切りで・・・ああ、ダビの故郷の料理と近いのか」


「芋?そうなのか。お前のつみれはもっと魚の味だったな。なんと言うか、滑らかで」


「作り方が違うのでしょう。今日、買ったらタンクラッドの家で作っても宜しい?ラグスの分もなのですが」


「そのためにここに来たんだ。楽しみにしている・・・・・が。これをミレイオには言うなよ」


 アハハとイーアンは笑って、今日はミレイオに会いに行く予定だけど、黙っていると約束した。揚げた魚を頭から丸齧りしながら歩き、ぼりぼりムシャムシャ食べるイーアンに、タンクラッドは黙って放っておくことに決めた。

 タンクラッドの頭の中で、きっとイーアンの故郷は、皆こうして魚を頭から食べ尽くす世界なんだと、解釈した(※誤解&迷惑)。


 串しか残らないイーアンの見事な食べっぷりに、タンクラッドは自分はやらないと思いつつ、ゴミを片付けてから、お待ちかねの買い物をする。

お読み頂き有難うございます。

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