表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
空と地下と中間の地
505/2951

505. 魔物資源活用機構 ~北西支部内祝い2

 

 イーアンは着席。ザッカリアが抱きついて『イーアンはすごい』と頬ずりしてきた。総長がじっと見ているが、ザッカリアは気にしないで頬ずりし続ける。


 イーアンも苦笑しながら受け入れ(※ちょっとずつ慣れてる美少年)その隙に。野菜を巻いた肉を用意して、さっと目を合わせた子供に食べさせた。真顔に戻って、嫌そうなザッカリアは離れる。『こんなちょっと。何も変わんないよ』と生意気なことを言いながら、むちゃむちゃ食べていた。


「イーアン、俺イーアンに乗りたい」


 ごくっと、野菜巻き肉を飲み干した子供は、気持ちを入れ替えたように、目を輝かせて言う。イーアンはちょっと目を丸くして驚いて見せ、『私に乗りたいって』ニコニコして聞き返す。龍になってすぐ、この子が乗りたがるな~とは思っていた。


 このやり取り。二人以外は、ぎょっとして振り向く。総長の目が怖いことを知るのはギアッチのみ。


「だから、イーアンの上だよ。イーアンが俺を乗っけてさ。あれだよ、すごい動くなら、イーアンに紐とか付けて(※紐が間に合わない大きさとは思っていない)」


 シャンガマックは俯く。真っ赤になっていろいろと想像中(※人間イーアンに乗る⇒自分()が上⇒動きの激しいイーアンを紐で・・・etc)。イーアンの服も肌が多く見えるので、それも刺激。フォラヴはシャンガマックを見て苦笑い。

 ギアッチは頑張って、無表情を決め込む。総長の目が怖過ぎる。爛々と光って子供を見下ろしている。


 ダビは見当をつけている。おそらくあの巨大な龍に乗って、我が物顔でイーアンにあちこち行かせたいんだろうと理解している(※Hな発想ない人)。自分は絶対遠慮する。


 なぜかアティクも『あれはすごい。乗ってみたい』と。総長の怒りを煽るような発言をしながら、鶏の蒸し焼きを食べる(※総長関係ない男)。

 アティクの横に座るスウィーニーは、可笑しくて笑いたくても、ひたすら静かに食べていた(※マナー大事)。


 悩むトゥートリクス。イーアン龍は、青い龍よりもずっと大きかった。怖いはずなのに。

 でもその姿を見て、自分も触れてみたいと思い、背中に乗せてもらえないかと思えた。言ったら総長に監禁される気がして言えない。若い騎士に出来ることは。ちらちらと『自分も乗りたいビーム』をイーアンに発するのみ。


 イーアンが気が付いて、向かいの席のトゥートリクスを見つめ、ニコッと微笑む。『あなたも私に乗りたいのね』その言葉に嬉しいトゥートリクスは、えへっと笑う。同時に、頭上に圧し掛かる重圧。真横の灰色の瞳が、自分をロックオンしていた。急いで目を逸らす。トゥートリクス横に座るシャンガマックも乗りたい(※別の意味大)。


 ロゼールも気掛かりだった。

 昨晩。先に窓に走った皆が『イーアンは龍になった』と騒いでいて、どんな姿と思えば。とても綺麗で真っ白。滑らかな鱗はビロードのようで、どんな触り心地なのかと思った。撫でたいなぁ・・・と思っていたので、この際だと勇気を振り絞って(※席が総長の横)イーアンに言う。


「俺も。乗らなくても良いんですが、触りたいっていうか。撫でたいです」


 瞬時に降り注ぐ威圧。ロゼールはさっと顔を逸らす。イーアンは、灯台のように威嚇する伴侶を止めて、座らせた(※立ち上がっていた)。


「次にもし。私が龍になったら。ここでなるのは簡単ではないようですが。でもそうしましたら、ザッカリアも、トゥートリクスも、ロゼールも。あら、アティクもさっき言っていました?乗りましょうね」


「俺も乗りたい」


 漏れたくないシャンガマックは、総長を絶対見ないで呟く(※出来れば人間で乗りたい)。イーアンは微笑む。総長は目を見開く。


「はい。シャンガマックも是非、乗って。皆で初体験ですね(←イーアン龍飛行の意味)」


 トゥートリクス咳込む。シャンガマックは気絶した(※純情No1.)。フォラヴは赤くなって俯きつつ『私も』と囁いた。ブレズを齧ったダビが『私、いいです。落とされたら怖いから』とあっさり断る。


「いやねぇ。でももし、振り落としてしまったら。すぐ(くわ)えるから大丈夫」


 可笑しくて笑い出したスウィーニーは、即、瞬きしない総長の目で黙る。『あの口で銜えたら死ぬでしょ』ダビは一層恐れていた。意識が一瞬戻ったシャンガマックは、銜えられる想像で脳の回路が飛ぶ(※場所が違う)。総長お怒り状態で、サーチライトのように部下を睨み続ける中、ザッカリアはさらに火に油を注いだ。


「やっぱり俺、イーアンと結婚する。そしたらいつでも乗れるもの。夜も乗れるでしょ」


 スウィーニーは後ろを向いて肩を震わせる。ザッカリアの嬉しい思いつきは続き、『夜ずっと、乗れるかも』『今は子供で寝なきゃいけないけど、大人になったら乗り放題!乗りっぱなし!』とイーアンを抱き締めて喜んでいた。総長の目はすでに、魔物を相手にするのと変わらないくらいの絶対零度。


「大人になっても、夜は眠ります。ちゃんと寝ましょうね」


「いいよ。でもイーアン(※龍)の上で寝る」


 シャンガマックは意識が戻ったばかりで、固まる。自分が乗りっぱなしのイーアンの上で眠る・・・このまま部屋に帰りたい。妄想に耽りたい。布団丸めてしがみ付きたい。そして気を失った。



 後ろの席のブラスケッドは、ずっとその会話を聞いていて、一人クスクス笑っていた。ザッカリアは見た目は既に若者。中身は子供だが、見た目との差がかなりある。イーアンは子供と割り切っているが、傍から聞いていれば、内容が笑える。


「おい。殺気立つなよ」


 いい加減、怒り続けるドルドレンに笑うブラスケッド。ドルドレンの目がブラスケッドに冷たく刺さる。『殺気立つ。知ったことか』重い低い言葉に、苦笑いする片目の騎士。


「ドルドレン。お食事」


 イーアンにトントンと腕を叩かれ、仏頂面のドルドレンは口を開ける(※本能)。はいどうぞ、と卵料理を食べさせてもらい、嬉しそうに笑顔(※単純)。『そんなに怒らないで。シワが増えるでしょう』綺麗な顔なのに、と心配するイーアン。


「心配するよ。皆が乗りたいと言う」 「だってそれはそうでしょう、身内が龍ですよ。普通じゃないですもの」


 一般的な意見を返されて、ドルドレンの眉が寄る。イーアンに眉間を2本指でぴっと伸ばされ、再び挽肉料理を口に運ばれた。ぱくっと食べて『美味しい。でも龍だから乗るとかどうなの』と困り顔で愛妻に訴える。


 ドルドレンには、いやらしい発言が連発しているようにしか思えない。『龍に乗りたい』を、男独特の『君に乗りたい』に挿げ替えている気がする。だが愛妻は鈍い。全く相手にしないから、どうぞ乗って、是非、皆で初体験~とか・・・・・ 


 何てことを言うんだねっ!!!君は!!! ・・・と。目をむくようなことを、平気で優しさに包ませて言い放つ。

 本当に乗られちゃったらどうするのっ 本当の初体験だったら(※純情シャンガマックはその恐れ有=33歳)。トゥートリクスは、20だか21だか22だとか言ってた気がするから(※年齢覚えてない)真面目に経験ないとして、恥ずかしがってるだけだろうが。乗られちゃうかもしれないのは、シャンガマックだぞっっっ!!! 


 総長はキッと褐色の騎士を見る。固まって動いていない。3分前同様の状態で、食事中の匙が料理を掬ったまま。有難いことに、コイツに限っては()純情そうだから、とりあえず、すぐ危機ではないが。



 イーアンは、次の一口を伴侶に差し出す。『心配されないで大丈夫ですよ。龍なんか見たら。男の子は皆乗りたいでしょ』そういうものよ、とニッコリする。


 男の子。一人しかいないだろーっ(※ザッカリア)男が君に乗るんだったらどうなのーーーっ 目で訴えるドルドレン。

 そんなわけないでしょうとイーアンは、困ったように笑いつつ。『あのですね。中年のおばさんにあれこれ思いませんって』・・・やだわ~ アッハッハと笑う、下町のおばちゃんみたいなイーアン。


 ドルドレンはたまらなくなって、イーアンを抱き締めた。笑うイーアンはドルドレンの背中を撫でて『心配しないでも』と何度も言うが。イヤイヤダメダメ喚きながら、イーアンに頭を擦り付ける総長に、ザッカリアは、困った総長だーと溜め息をついた(←言いだしっぺ)。



「今日は。祝いなんだろう?魔物資源活用機構の」


 後ろの席のブラスケッドが背凭れに肘を乗せて、酒の容器を差し出す。イーアンは微笑み、自分の酒の容器を合わせ『神様に感謝して』と言葉を言った。イーアンの風習と知っているので、片目の騎士も微笑む。


「イーアンが来てから。4ヶ月とは。もっと長く一緒にいるような気がするな」


「勘違いだ」


 貼り付いているドルドレンの言葉に、イーアンは彼を止めてブラスケッドに答える。『濃厚な日々でした』だからでしょう、と頷いた。


「思えば。遠征に付いて行かせて頂くことも。工房をすぐに提案頂いた事も。住まいを許され、仕事を与えられ、居場所を受けたことも。ブラスケッドの仰るように、4ヶ月前なんて、とてもとても思えません。皆さんが私を受け入れて下さったから」


「誰もが受け入れるだろうな。イーアンなら」


 ちょっと意味深な探り目でブラスケッドは顔を向ける。ドルドレンが遮る。『50cm以内に近寄るな』がっちり愛妻を抱き締めて告げる。


「話しているだけですよ」


 困るイーアンは伴侶に苦笑いする。大丈夫でしょう、と言い聞かせると、ドルドレンは抱き締める手を緩め、渋々、会話をさせた。


「タンクラッドが随分と。イーアンにのめり込んだな。あんなになるとは思わなかった」


 ブラスケッドの言葉が、一々ムカつくドルドレン。イーアンもちょっと困って『優しい方だから』とやんわり答える。『優しいのとは違うだろう。あいつは誰にでも素っ気無かったんだ。家族もいなくなってから、剣しかないように』家族がいてもあまり変わらなかったかもしれないが、と片目の騎士は酒を飲んだ。


「それが。よっぽど気に入ったんだな。誰が来ても、あいつの工房にいられる時間なんか15分が限度。それがイーアンは一日帰ってこないだろ?ほぼ毎日みたいだし・・・あいつが支部に乗り込んでくるくらいだ」


 ドルドレンの表情が険しい。イーアンは宥めながら、ブラスケッドに苦笑い。

『いろいろでしょう。剣の話もあるし。特別な素材もお好きだし、とても頭の良い方ですから、この委託内容が面白いのだと思います』大事にして頂いています・・・イーアンが笑うと、片目の騎士もちょっと笑って、総長を見てからそれ以上は言わないでいた。



 一気に機嫌を悪くしたドルドレンのために、イーアンは料理を食べさせながら、空の話をし始める。『朝お話した。ミンティンたちの居場所のこと』あれを絵に描いてみましょうか、イーアンの一言でドルドレンは意識が戻る(※単純)。


「頼む。見てみたい。待っていてくれ。紙とペンを」


 ロゼール、と声をかけて、横のロゼールに紙とペンを持ってくるように言う。ロゼールはすぐに厨房へ行って戻ってきた。『インク、少ないですが足りるかな』どうかなぁと言いながら、イーアンに渡す。


「ちょっと描くだけですから、大丈夫です」


 イーアンは受け取ってお礼を言い、紙に自分が見てきた空の島への道のりを描く。ドルドレンは手元を覗き込んで、不思議そう。ザッカリアも興味津々。皆で、どんどん広がる白い紙の上に現れた『空』の絵を見つめる。


「ここ。ここがアムハールの大地です。断面図ですけれど、下から見ると、上に空が丸く見える孔があって」


『断面図って何』ザッカリアがギアッチに聞いて、『こういうことだよ』と巻いた肉を切って、切り口面を見せた。


「この穴をずっと上に進みました。どれくらいか。雲の上からさらに上昇して、それで・・・こんな具合で霧がかかっているのです。これ、霧。霧のつもり。で、ここを抜けますと。これがビックリ。なんと向こうの島はこちらを向いています」


 ドルドレン驚。『落ちないのか』イーアンを見ると、イーアンも絵を描く手を止めて頷く。『落ちません。というべきなのか。逆なの。多分、重力が』と言って。重力観念あるかしら、と思う。ドルドレンは怒ると加重圧攻撃をかますが、ご本人は理解していないから・・・どうかなと見つめると。


「重力。それは何だ」


 あら、やっぱり。ちらっとギアッチを見ると、ギアッチは何となく知っている様子で、話を簡単に引き取ってくれた(※『物を落とすと落ちるでしょ⇒これは重力って呼ぶ力です』簡潔!!)。


「そうか。じゃあ、地上と向かい合ってるような場所だ。広いか」


 イーアンはうーんと唸って、空いている箇所に違う絵を描き始める。


「それが。どうかしら。一部しか動いていませんので、広いのかも。実は辿り着いても、ここと同じような風景が広がっていまして、大地と木々や海のような風景が続きます。ずーっと進んで、湖の近い所に大きな一枚岩がありました。龍の民たちは、この一枚岩の。これ、一枚岩のつもり。この中にいました」


「大きい岩のようだが、刳り貫(くりぬ)いたとしても狭い気がする」


「ええ。私も意外でした。これがまたビックリです。だってこの中に、空と海がありますの。ええっとね。こう。ちょっと違うか、こうかな。どこへ繋がっているのか分かりませんが、天窓でもあるのか、光も差しています。奥は海です」


 ええ~と声が上がる。皆驚いて、絵を見つめ、フォラヴが遠慮がちに絵を指差す。『この岩の向こうに海がありましたか』空色の瞳はとても知りたそうにイーアンを見る。イーアンは首を捻って『いえ。分からないのです、私は。私とオーリンはここから、龍の迎えに乗って移動したので』他の場所は、ほぼ知らないと答えた。


「オーリンは私が帰った後も残っていましたから、彼は全貌を見てきたでしょう」


 ちょっと気掛かりそうな目で、大きな緑の目を向けるトゥートリクスが質問。『昨日、攫われたのはどこですか』ここの中?と言われて、イーアンはこれも首を振る。


「分からないです。夜空でしたし、あのバカ。いえ、あの、何。あの男。あれは私の足を掴んで、連れて入ったので、空のどこに入ったか分からないままです。でも浮島のようでしたね。昨日のあの男の家は」


 ドルドレンは眉を寄せ、少し考える。『イーアン、もしかして。岩の中に入っていないのかも。空の島とは呼ばれていても、実際はとんでもない広さかもしれないぞ』この様子だと、と絵を見つめる。


「そうですね。これ、もし地上(こっち)側を向いているなら。地上と同じくらいはあるってことですよ」


 ダビも目を細めて絵を見ながら呟く。『そこ。昨日行った場所って、岩の中みたいな風景見えました?』ダビに訊ねられて、イーアンは見えなかったことを話す。全体的に浮島ばかりだったような、と答える。


「じゃ。やっぱり違う場所なんだ。もっと離れてるのかも。ここに男龍(かれら)の家があったんですね」


「ええっとね。一つの浮島に、一つというのか。見たのは2つだけです。あの男の家は私が壊したから、別の男龍の家に行って、昨晩はいろいろ伺ったの。他に家は見ていません」


 家を壊した・・・・・ 誰もがそこで固まった。ドルドレンは咳払いし『イーアン。家を壊したの』と詳細を訊ねる。愛妻(※未婚)は頷く。『だって、龍になったら大きかったのです』仕方ない、と言う。



「家に連れ込まれて。足を持ってぶら下げたままですよ。人を燻製肉の腿みたいに。『俺の家に来たから諦めろ』と言うのです。冗談じゃありませんよ。誰がお前の指図なんか受けるかって怒りました。

 それであのアホ、ぶら下げたまま何か考え込んで。それで私、もしかしてこの場所なら龍になれるのではと、頑張ってみたら、家が壊れるくらい大きく育っちゃって」


「育っていない。あの大きさが、イーアンの龍の大きさなんだろう。それに、アホとか言ってはいけないよ」


「んまー。ドルドレンったら。私必死でした。好きな女性と似てるからと攫われた上に、受け入れろとか。バカ言ってんじゃねぇよって思うじゃありませんか。知るかって言ってやりましたが、離さないのです。しつこいったらないのです。

 だから逃げようとして。そうしたら『こんな女、初めて見た』と笑われました。頭に来て、嫌なら離せ、帰せと怒鳴り散らしです。あんな聞かず耳、アホ以外の代名詞が思いつきません」


 苛立つ愛妻は柄が悪くなっている。『あいつ、どんなだったっけ』と睨み顔で絵に描こうとして、インクが足りないことに気づき、舌打ち。『インクにまで嫌われてっ』ちぇっ・・・腹立つヤロウだ、とインク瓶にペンを叩きつけている。


 今日の衣服がまた。毒々しい紫色の鱗に包まれたベスト。中に白っぽい皮を編んだ服。ズボンは黒い皮で、足の側面は紐編みで見えている。そこになぜか、靴だけは春用のサンダル。両肩が出たその格好は、筋肉質な腕が丸出しで、黒い龍と黒い花のような絵が、どかーんと肩と胸を飾る。

 

 ・・・・・これは、賊だ。盗賊頭が女だった場合だ。完全に世界最強の奥さんだ。背凭れに片腕を引っ掛けて、足を組んで舌打ちする妻よ・・・・・ 怖い。俺も怖い。ペン先で額を刺されかねない。腕も顔も古傷が付いていて、インクがないとぼやきながら、ペンに八つ当たりしている姿は、誰も逆らおうとしない。



 ドルドレンはこれ以上。愛妻に思い出させてはいけない、と理解する。ちらっと部下を横目で見ると、全員がちょっと席に戻っていた(※さっき腰浮かせて絵を見ていたのに)。

 ふと後ろを見れば、ブラスケッドも聞いていたようだが、こっちを見ずに静かに酒を飲んでいる。ささっと周囲に目を配ると、周囲の連中は全員、空の島の話を聞きに近くに寄ったらしかったが、椅子を離して戻っていく姿が見える(※逃げ)。


 総長は皆の気持ちを汲んで、愛妻に『これ以上はまた今度』今は違う話にしようねと、やんわり笑顔で提案した。


 思い出して怒る愛妻はぷりぷりしながら、ヘイズの作った美味しい肉団子を、一口でばくっと口に入れてムシャムシャ食べては『ちきしょう』『なめやがって』とぶつくさ言っていた。総長はそっと、手元のインクとペンを抜き取ってロゼールに返した。



「ちょっと良いですか」


 愛妻のご機嫌取りにハラハラひやひやしていた総長は、救いの声に反応する。さっと振り返って『何だ』と声の主を探すと、執務の騎士が手を上げて来た。


「盾の工房。この前探していたじゃありませんか。あれはもう済みました?」


「いや。そうだ、今日あたり。お前たちに聞いてみようと思っていたんだった」


「忘れてたんですね。総長らしいや」


 ぬっ 祝いの席でもいびりか、と総長が嫌そうな顔をすると、ぽっちゃりさんは生意気な笑顔で仰け反る。『じゃ、教えてあげても良いですよ』あるんだから!とばかりに胸を張る。ドルドレン、続きを待つ。


「知らないだろうなー。北にいるんですよ。デナハ・デアラと対立して、デナハ・バスの町を出て行った鎧工房が北に。そこは鎧よりも、盾とか馬の防具が得意だったみたいで。今も北の支部は、そこに頼ってるらしいです」


「え。北の支部が。騎士修道会は一律だろう、購入先は。なぜ北だけ」


「固定じゃなくて。近いからですよ。盾や脛当とか。腕覆いが壊れた時は、顔が利くからって、そこだと話していましたよ。あれも家族工房だったかな。サンジェイ・アイヤって職人です。『グジュラ防具工房』の名前でやってるとか」


「初めて聞いた」


「イリジャ(※執務の騎士:愛称『中肉さん』)の友達が北の支部にいるんですよ。この前、この話をしたら『グジュラ工房なら人数がいるから、複数製作をやるのでは』と」


 総長は大きく何度か頷く。『分かった。連絡を取れたら取っておこう。早めに行かねば。もう原型が出来る』呟くように落とした言葉を、ぽっちゃりさん(※(ついで)に紹介:彼はサグマン)はしっかり拾い『了解しました。明日早馬で』それだけ言うと、去って行った。



 盾の工房を、思いも寄らない執務の騎士に紹介してもらえたドルドレンは、ふとイーアンの様子を見る。すっかり落ち着いて、美味しく品良く、料理を食べている(※さっきは突き匙でがんがん突いていた)。笑顔だと、わらわらと部下たちに囲まれる。龍になった時の話をあれこれ質問されていた。



 もう。イーアンがどこから来た誰なのか。なぜここにいるのか。それを知らない者は、北西支部には殆どいない。それを嫌がる者もまた、いない。


 国も絡んだ大きな取り組みに、自分たちが築き上げてきた、命の柱が(そび)える。


 今後どれくらいの魔物がハイザンジェルに出るのか分からないが、騎士修道会の動きが、仲間の一途な思いが、今こうして形になったことで、必ずこの国を建て直せるだろうと、ドルドレンは信じた。



 盾の話は明日にでも教えようと思い、今日はこのまま。ドルドレンはイーアンの横に座り、一緒にもう少し、祝いの席にいることにして。この夜は仲間と、新しい武器や防具の話に花を咲かせた。

お読み頂き有難うございます。


この歌の存在を、どこで使おうと思っていたのですが。『Superhero』(~Simon Curtis)という曲があります。もの凄く素敵な曲で(※私視点)もう、ですね。誰でもスーパーヒーローになれるんだよ、と言う曲です。お前はなりたくないのか?と訊くのですよ。高めて戦えと言い続けるのです。かっちょええとしか思えない曲なのです。そうなの。誰でも成れる。誰だってその力を持っているのです。

クリーガン・イアルツアの騎士全員。実は名前も特徴も全て私のノートにあるのですが、彼らは出て来ない。でも全員、いつでもスーパーヒーローなのですね。この魔物資源活用機構は、主役が決まっていますが、全員。命を落とした皆も、ここに席をおいてお酒を飲む皆さんもヒーローです。スーパーヒーローです。騎士修道会全員に、この曲が一番似合う夜の話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ