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魔物資源活用機構  作者: Ichen
空と地下と中間の地
502/2950

502. 王都の魔物退治

 

 その後。また少し話を続けて、全員で測量中の現場へ向かった。王様とセダンカは、予定が前倒しになったとかで、午前の増設場所の確認を、午後の話し合いと入れ替えたので、増設場所を見たら王城に戻るという話だった。



「慌しくてすまない。そなたともう少し話が出来たら」


「本部でしたら、私も足を運びやすいですから、またお会いすることも出来るでしょう。王城はどうにも苦手です」



 王とイーアンの会話を聞いて、セダンカは心の中で胸を張る。


 ――私の読みはさすが!イーアンは雑草魂(※イメージ雑草)だから、王城の植木鉢は無理なのだ。

 彼女は青空に向かって伸び、風雨に耐え、踏まれてもにょきにょき生えるタイプ(※エライ言われよう)。温室爽やか植木鉢を喜びはしない。外、外。彼女はお外の子っ(←こっち来るなの意味)


 ああ~ これで騎士修道会に放り投げたから、もう肩の荷も下りたも同然。本当に私は素晴らしいっ 今夜は妻と外食でも良いかも知れない。給料は出張手当もつけてあるから(※ウソ出張)ちょっとご馳走だな。


 晴れた空の下。雪を壁に寄せた庭を歩きながら、セダンカは自分をとても誉めてあげた。『まだ春まで少しありますね・・・』小さな声で青空に呟く、微笑むセダンカの目は、一仕事を終えて清々しい。


 騎士修道会本部の高い壁の向こうは、人々の活気ある声が響き、大げさなくらいに騒いで楽しそう。今日は何の日だったか・・・・・ 思えば、祝い事も業務でこなし、忙しない必死な日々だった。


 前を歩く、王と騎士たち。イーアンと王様が話している間に割って入る総長も、ちょっと離れたところで、びくびくしている若い騎士たちも。上司間で展開を話し合う騎士二人の姿も。


 セダンカにとっては、記念すべき『あの日を思い出すよ』の一場面と刻まれる。


 そう。私は、来年の結婚記念日。妻の肩を抱いて、『魔物資源活用機構設立』最初の話をする。それも、妻との生活を守るためだ、とその瞳を見つめて囁くのだ。



 想像して、良い気分のセダンカ。壁向こうの町の喧噪も気にならない。開放的な気持ちに浸って、両手を天に突き上げ、うーん・・・と気持ち良い伸びをした。ああ・・・本当に爽やかな・・・・・ え。あれ何?


 真上を見たセダンカの目に飛び込んだのは『えっっ 鳥?人間?誰?!(←ガッチャ○ン)』恐怖に引き攣るセダンカは、前を歩いていたヴィダルに跳ね飛ぶように抱きつく。


「何だ?何だ、あれ」


 空を見上げ震えるセダンカの腕を解こうとしながら、ヴィダルも真上を見て驚く。全員が上を見た時、ドルドレンが舌打ちした。『イーアン。魔物の用がここにあるのか』灰色の瞳が捉えたのは、飛ぶ魔物の姿。

 イーアンが上を見つめて『凄い・・・います』どうして、と呟いた。その姿はイオライの飛ぶ魔物のようで、でも。『何か降って来たぞ』イリヤが叫ぶ。『石?』部下のラクーが、壁の向こうに落ちたものに怯えた。


「イーアン。ミンティンを」


 はい、と答えてイーアンは笛を吹く。ヴィダルは急いで王とセダンカを匿い、建物の扉に向かって走る。イリヤと部下3名も慌てて建物の中に駆け込む。先ほどから塀の向こうで聞こえていたのは、町民の恐怖の声だったと、今更ながらに気がついた。


 青い龍がびゅーっと飛んできて、イーアンをぽんと撥ね上げ、首元に乗せた。『イーアン、俺も!』置いていかれて焦るドルドレンが叫ぶと『ちょっとお待ちになって~』と間延びした声が返ってきた。



「ミンティン、ドルドレンも乗せなければ」


 青い龍はちらっと下を見て、無視した。ええっ 私だけ。『私だけで、あの数を相手にする気ですか』やめて~と叫ぶイーアン。目の前には100近い魔物の群れがいる。『なんなの、なんで』ミンティンはイーアンの腰に背鰭をぎゅっと締めた。立てということ・・・・・ 


『私、寝てない』とか『疲れが取れない』とか言いわけしても、ミンティンは一度空を旋回して、飛行する魔物の群れに突進する。げぇぇっ やる気満々の龍に、イーアンは諦めて剣を抜いた。なぜ自分だけに、と思うものの、目の前に迫る魔物の群れに覚悟を決める。


「お前。もし私が倒せなかったら責任取って下さいよ」


 マスク持ってきて良かった、ぼやきながらイーアンはマスクを着ける。魔物は翼開長5m前後。付け根の厚さは60cm未満。イオライの飛行魔物みたいなものかと思っていたら。『違った。顔が人』体はプテラノドンチックなのに、顔だけ人みたいで気持ち悪い。それも不細工である(※美人なら良いというものでもない)。


 魔物は時々、腹の裂け目から石を落としている。その石は熱を持っているのか、煙を上げ、落下した場所に火が見えた。


「何というものを落とすの」


 剣を構えるイーアンは、魔物の群れの真ん中に突っ込むミンティンに合わせて、剣を振り上げた。


「移動して下さい。魔物が落ちたら。町が、人が大変です」


 ミンティンに頼み、イーアンは魔物を攻撃する。翼を切り落とさない程度にざっくざっく斬りながら、魔物の群れを抜ける。『私たちに引きつけて、王都を少し離れますよ』振り返って魔物が追いかけてくるのを見てイーアンは叫ぶが。その目に、一頭の魔物が町を目掛けて滑空する姿が映った。


「あっ!ミンティン、あれを止めなきゃ」


 その一頭が滑空した方向へ、青い龍は急旋回して駆ける。滑空する魔物よりも早く、ミンティンが回り込み、イーアンはその首を()ねた。町の建物のすぐ真上。人々の叫び声が一斉に大きくなる。人の顔の付いた魔物の首は、黒い塊に変わりながら、石畳に落ちた。


 首を失った体がまだ飛んでいる。それを目掛けて飛ぶ龍から、腕を目一杯伸ばし、魔物の首から尻までイーアンの白い剣が切り裂く。その体もまた、斬られた直後から黒い焦げたような塊に変わって落下した。


「イーアン!!」


 ドルドレンが叫ぶ声に、イーアンは急いで答える。『下に向かう魔物を任せます!』イーアンが叫びながら、魔物の大群に突っ込んでいく。ドルドレンは壁の上に跳躍し、町に降下し始めた他の魔物に向かって、剣を抜いた。


 ドルドレンもすぐに気がつく。自分を狙う魔物に、人間の顔がついていることに。イーアンは躊躇せずに切り落とした。ドルドレンは驚いて一瞬空振りし、塀の上に着地する。谷の魔物と似ている。


 『魔物の種類が変わったな』そう言って、ふと思い出す。『板』呟いてさっと背中に手を回し、白い板(※お皿ちゃん)を塀に置いた。落ちたら洒落にならないな、と思いつつ、板の上に足を置いてベルトをかけた。


「頼むぞ。俺を落とすなよ。でもあいつらを斬りに行く。飛び回れ」


 板に急いで話しかけると、途端に白い板はかっ飛んで、町を飛び交い始めた魔物に向かった。町の人間の叫び声で自分の悲鳴は聞こえないはず、と信じ、ドルドレンはわぁわぁ言いながら剣を振るった。


「もうちょっと、おい。もう少し、俺を気遣え。そして速く飛ぶんだ」


 ドルドレンに命じられた、白い板もとい、お皿ちゃんはちょびっと考える。でもよく分からないから、普通に飛ぶことにした(※お皿ちゃんはお皿ちゃん)。


 お皿ちゃんに分かるのは『速く飛ぶ』ことくらい。上でぎゃーぎゃー喚いている誰かは落とさないようにして、魔物目掛けて速く飛び続ける。

 びゅんびゅん飛び回る勢いづいた白い板に、ドルドレンは生きた心地もしない。とにかく、滑空してくる魔物にぶち当たる角度で突っ込むので、その都度、剣を振って斬り捨てた(※お皿ちゃん活躍)。



 イーアンもミンティンと奮闘中。群れの5分の1くらいは下へ行ったらしいが、まだ上にもわんさか残っている。青い龍の背中で、イーアンは魔物の首だろうが翼だろうが、構わずにばんばん斬り落とした。


 突っ込んでは引き返し、また突っ込んで向きを戻して・・・を繰り返す。斬った魔物の体がぶつかると、イーアンの上着を焦がす。中に羽織った青い布があるから、上着が焦げても熱は来ない。


 だが、マスクにドンと当たった時、飛び散った体の熱がイーアンの頭を焦がした。『ぐわああっ』あっちい!!イーアンは慌てて頭を振り、その途端に、魔物に突っ込まれて、左肩と胸を大きな顔の口に噛まれた。間近に寄せられた醜い顔、その赤い目の奥に誰かを見たイーアン。


「おおおおおおおっっっ!!!」


 噴出す怒りが、イーアンの右腕に握られた剣を振り上げ、魔物の齧る首をがんっと突き刺す。魔物の目が即、色を失い黒く変わっていく。熱が入る前に剣を振り払い、齧りついた魔物を返す剣で叩き落した。

 鎧はイーアンを守り、負傷はしていないが、その目の持ち主が誰かを知ったイーアンは吼えた。


「貴様かぁ!オリチェルザム!!」


 魔物の王オリチェルザムの気配を、全身で感じる。魔物の目が全て、イーアンを見ているようだった。ミンティンは大鐘の声で吼え猛る。


 ミンティンは気がついていたと、この時知る。自分が龍になった後だから、オリチェルザムが見に来たのか。この魔物の狙う相手は自分だと理解した。

 私が王都にいただけで、無関係な人々の上に石が振り、建物や人を焦がすとは。だからミンティンは、イーアンだけを引き離した。魔物は人が近くにいれば襲う。それで勝手に降下する魔物はいるが、多くの魔物は、自分の王の目的に従って動くから。


 吼えるミンティンが、魔物の群れに向かい速度を上げた。イーアンも両手に掴んだ剣を構え、自分の間合いに入る魔物全てに突き刺すよう白い刃を繰り出す。


「見たけりゃ、てめえで来いっ このクソ野郎!! ちんたらしてんじゃねえぞっっっ」


 男の(※♀)怒号を響かせるイーアンの力が膨れ上がる。ミンティンの声もどんどん大きくなり、呼応するイーアンとミンティンは白い光に包まれ、イーアンの剣は龍気を纏い、振るうごとに、剣身の倍以上の距離にいる魔物を、光の一線で斬り落とす。


 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああっっっっ!!! 


 空で吼えながら、青い龍の背で戦うイーアンの剣は、飛んでいた全てを凄まじい勢いで斬り捨てていった。



 響き渡る愛妻(※未婚)の怒号に、複雑な心境のドルドレンもまた、降下してきた魔物を斬り続け、残すところ僅かまで来ていた。お皿ちゃんに、強制的に乗りこなし訓練を受けたため(※お皿ちゃんにそんなつもりはない)ドルドレンはスノボ状態。すっかりお皿ちゃんの動きに対応して、残る2頭を斬って落とした。


 クロークを翻して、町の中をスノボ状態で飛び交うイケメン騎士の姿は強烈ヒーロー。恐ろしい魔物を退治してもらい、町の人は大喝采。女の声が凄まじい(※年齢層幅広い)。


 降りたら、女が厄介と気づき、ドルドレンは引きずり降ろされる前に上昇した(※下から『行かないで』『戻れ』『こっち来い』『結婚しろ』と煩い)。



 ミンティンの飛ぶ高さまで行くのも怖いが、少し上がってイーアンとミンティンが戻ってくるのを待つ。王都の壁の外に目を向ければ。雪原に、黒く汚く散った(おびただ)しい量の魔物の残骸を見て、イーアンの倒した魔物を数えるのはやめた。


 離れた場所から近づく白い光が静まり始め、肩で息する愛妻が見える。ミンティンと愛妻は無事に戻ってきた。


 浮かぶ伴侶を見て、イーアンはすぐ分かったようで笑った。『それは(←お皿ちゃん)ドルドレンのために』フフフと笑う愛妻は、マスクを頭の上に乗せた。ドルドレンも剣をしまい、イーアンの真横へついてゆっくり飛ぶ。


「無理やり慣れたよ」


「素晴らしい。ドルドレンだからこそです」


 私なら落ちたと笑うイーアンの肩を撫で、ドルドレンは愛妻の上着が激しく傷んでいることに気づく。『怪我をした?』心配で覗き込むと、イーアンは微笑んで首を振った。


「大丈夫です。一度噛まれましたが、鎧が勝って。助けられました」


 オークロイに報告します、と嬉しそうに言う。噛まれた上着の部分は、大きな口の跡で焦げていた。ドルドレンは?と聞かれ、自分もぶつかったが、鎧があったから無事だと伝えた。


「疲れました。帰りましょうか」


「そうだな。俺は行くと・・・ちょっとまずい。挨拶はイーアンが。龍を降りなくて良いから、上から呼び出せば」


 なぜ『まずいのか』イーアンには伴侶の言葉の意味は分からなかったが、とりあえず待っていてもらい、自分が本部に向かった。



 本部の上に龍が来た時点で、町の人たちの声から理解した。ドルドレンを求めている女性の多さが凄過ぎる。『彼は。大モテ』悲しいかな。伴侶の頑張りは、カッコイイ騎士様で終わってしまった・・・・・ 


「実際、ドルドレンは絶世の美丈夫ですから、これも仕方ありません」


 自分が伴侶の相手だとバレたら、石でもぶつけられそうなので、イーアンは女性の投石が届かない位置にミンティンを留まらせて、騎士の誰かを呼ぶ(※『誰か~』『すみません~』『ヴィダル~』×繰り返し)。


 1分後。中から出てきたヴィダルが手招きする。イーアンは首を大きく振って、帰ると伝えた。ヴィダルが両手を広げ『来い。素晴らしかった』と。感激してくれたらしい様子を示している。


「申し訳ありませんが。疲れましたから戻ります~ ドルドレンも掴まったら帰れませんので、悪しからず~」


 後は宜しく~と、イーアンは手を振る。ヴィダルの後ろからフェイドリッドが出てきて『イーアン!!』の叫び声を響かせた。『またですね、御機嫌よう~』フェイドリッドにも手を振り、青い龍とイーアンはあっさりと去っていく。そして、空の中間で待つ人影を乗せ、そのまま北西へ飛んで消えた。



 切ない気持ちを抱える王様の背中に、そっと手を添えるセダンカは、窓から見ていた光景が信じられなかった。


 龍に乗って戦う女。絶対嫌だ、と思った。男のような声が空から降り注いだが、あれは間違いなくイーアン。とんでもない女だ。

 総長もなぜか。意味の分からない板に乗って、宙に浮きながらクロークを舞わせ、剣をびゅんびゅん振り続けて、ばっさばっさと魔物を片付けてしまった。ただでさえ、騎士修道会最強と謳われる総長に、あんな技があるとは・・・・・(※奥さんは世界最強)


 何という恐ろしい人々だ。魔物より怖い。私の現実にあってはいけない。私の公務員人生は『平穏出世(※座右の銘)』が第一。

 良かった!早めに改善案を実行して。決まったその日に、こんなのに出くわすとは。私はいつも、ぎりぎりで神に助けられているっ!!神様、有難う~


 顔には出さずに、王を労うセダンカ。もう帰りましょうと、優しく声をかけた。フェイドリッドは力なく頷く。『私は。総長のように戦えないな。イーアンには、総長のような男らしい強さが魅力なのだろうな』

 寂しそうにそうこぼした。


「殿下には、人にはない魅力が備わっているのです。他人と比べてはいけません」


 セダンカは静かに諭して、王と共に、王城への馬車に乗る。


 あんた分からなさ過ぎるけど。イーアンの方が絶対強かったって、と・・・セダンカは、心の中で目を向いて叫んでいた。

 総長は板だったのに(←お皿ちゃん)イーアンは龍だったんだぞ!と念を送る。この世に龍を従えて戦う女なんかいるか!!!おっかないったらないよっ!! セダンカは、ピヨピヨひな鳥王様の耳に叫びたかった。


「ああ。次に会えるのはいつなのか」


 キング・オブ・甘ちゃんは現実に目覚めない。セダンカは首を振りながら『昼食を摂って休みましょう』と静かに告げた。二度と会いたくないとしか思わないセダンカには、王様の恋は本当にいい迷惑だった。



 本部でも昼食に時間は、久しぶりに戦いの話しで湧いた。

 龍が戦うのを初めて見た輩は、いつもは書類報告上だったのが現実になり、全員窓に貼り付いて、仕事も放ったらかしていた。


「あれぞ騎士。騎士道ですよ」


 総長は不思議な板に乗って、町に入ってくる全ての魔物を斬り捨てたと、憧れと尊敬の声が行き交う。『あんな剣も鎧も見たことない』あれが魔物製、と興奮覚めやらない騎士たち(※屋内勤務)。


「すごいですね。実際に見ると、迫力が違う。あんな魔物に、何も躊躇わないで向かうなんて」


 すごい総長だーっ 皆でお昼から大盛り上がり。我らの総長はカッコイイ!!凄い凄いと騎士の羨望の的となった(※屋内勤務の彼ら)。



 ヴィダルも思った。総長と言われるだけあると。あれだけ強ければ、総長以外の立場になんかさせられんな、としみじみ思った。が。


「凄いな。イーアンは」


 昼食の席の横に座る、仲間のコート・ションに笑いかける。元・南の支部の騎士だったションも見ていて、ヴィダルの言葉に小さく笑った。


「あんな女とは。報告書は見ていたが、実際にどういうものかとは思っていたよ。まさかここで見られるとはね」


「龍に乗って戦う、と。最初に北西の報告で見た時『ウソだろ』と思ったんだ。だが本当だな。見たか?彼女が笛を吹くとすぐ、青い龍が現れて、彼女を突き飛ばしたと思ったら一回転で首に乗せた。そのまま空へ上がって」


「カッコ良いよな。ビックリしたよ。あんなの見せられたら、もう邪魔しないね」


「それであの声。あの、男が喧嘩するみたいな声。あれはイーアンだ。凄いな。声がホントに男みたいだった。普通に話していると低い声だな、としか思わなかったが。怒鳴り声は男そのものだ」


 アハハハハ、と笑い合う二人。『全部。空にいた魔物を一人で倒しちまった』殺される~(※誰にでも『殺すイーアン』の印象) 面白がって昼食を食べる二人は、暫くこの話しで楽しめると話していた。


「あの。総長はもう。帰っちゃったんですか。もう一回来るとか、何か聞いてますか?」


 ヴィダルとションが笑っていると、会計のホレイソ・ゾーリアスが来て訊ねる。ヴィダルは振り向いて『帰ったよ。戻ってくるように言ったが。疲れたから、またと』総長は町の女に捕まるからってさ・・・とヴィダルはションにまたそれで笑う。


「ああ。そう。折角来たのに。この前のお金を渡そうと思って、用意していたんですけれど。どうしようかな」


 ゾーリアスは鼻を掻きながらそう言って、『分かりました。また連絡してみます』と戻って行った。

 ヴィダルも盾の代金を忘れていたので、それを聞いて少し考えていた。ションは内容を察して『また彼女が来る機会がありそう』と楽しみそうだった。



 老人たちも、突如起こった事態を見ていた。


 彼らはイーアンを侮辱し放題だったので、今後は控えることにした(※聞かれたくない)。それは誰が言い出したわけでもなく、単に自発的にそう思ったことで、互いに話し合うことでもなく。老人たちの席は静かな昼の席だった。

お読み頂き有難うございます。

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