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魔物資源活用機構  作者: Ichen
空と地下と中間の地
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501. 魔物資源活用機構登録

 

 ドルドレンはイーアンを抱き締め、窓を閉めてからしっかりと抱き合って離さなかった。背中や頭を撫でて、髪に顔を埋め、イーアンの無事に心底ホッとした。本当に怖かった。


 二人はベッドにすぐに入る。夜明けの時間は早く過ぎると分かっていても、一緒に眠るいつもの幸せを、少しでも味わいたかった。


「愛してるよ」 「愛しています」


 一生懸命キスをするドルドレンに、イーアンも微笑む。とてもとても長い時間だった気がした。引き離されている時間がこれほど、精神的に負担になるとは。二人はそれを身を以って実感した。


「何もされなかったな」


「はい。タンクラッドよりも何もしません」


「それ。それは、その言い方は。あいつは君に何をいつも」


「ですからね。撫でたりとか。頭にキスするのもないです。料理もしないし」


 ちょっとは髪を触ったりありますけれど、とイーアンが言うので、ドルドレンは不安を抱えながらも了解する。体の上には座ったが、それはタンクラッドもだから問題ないと言われて、ドルドレンはそこには大いに反対した。


「おかしい。おかしいんだよ、イーアン。タンクラッドも天然でやばいと思うけど。あれだろ、ミンティンの上でよく、イーアンを自分の股の上に乗せるあれ。男龍なんか全裸なんだぞ。あれをやったのか」


 興奮して大騒ぎする伴侶を落ち着かせながら、イーアンは自分の意見を伝える。あの人たち、きっと気にしてないと言うと、伴侶は『そういうことじゃない』とイーアンの頬を両手で挟んで、真っ向から反対し続けた。



 伴侶の反対を頷いて応対しながら、イーアンは自分が空で何を聞いたかを伝える(※反対は往なす)。


 彼らの知っている・話せる範囲でお願いし、旅のこと、一度目の魔物の時代について、精霊の存在、空の民について、彼ら自身の存在について、イヌァエル・テレンに影響すること、ズィーリーのこと、そして自分に求められた相談についてを、ざっくりと聞かせた。


「自分に求められた部分は、最後に聞いたのです。聞く予定はなかったのですが」


「聞きたくなかった、ということか」


「そうですね。タンクラッドは、ファドゥの意図は子育て(※『子作り』表現は伏せる)と。私、それを直に聞きたいと思いませんでしたから。男龍もそうかと思って、話を避けていました」


「でも。やはりそうだった。ズィーリーは3ヶ月も空に。イーアンもそうしそうだ」


「悩みます。彼女の時代はもっと男龍が多かったそうです。現在は5名。それも一人は始祖の龍の子で、あの、ここで私に諭した体の大きい方。寿命が。だけど3ヶ月もあなたと離れるなんて」


 二人は抱き合う。ドルドレンもそんな話を聞くと、本当に卵抱っこするだけならまぁ、と思うものの。離ればなれ3ヶ月計画は、どうにも頷けなかった。

 あの、体の大きい一際強そうな男龍(※アレもでかかった)は、始祖の龍から生きているなんて。死にそうな気がしないけど(※アレがでかいから、というだけで)言われてみれば何百年どころか、千年以上なわけだろうし・・・・・



「困るね。同情はするが。条件が飲めないからな。

 そう言えば。ちょっと違う話だが。どうしてイーアンは龍でここへ来たのだ。あいつらも一緒だったのには何か理由があるのか」


 それについては、イーアンも空に戻ってから聞いたので教える。彼らの誰でも。一人だけが、人間イーアンを送ると疲れる。2人でも疲れる。とにかく、地上は彼らにとって疲れる。だから、イーアンが龍になっている方が、共鳴で増幅するから双方にとって楽、という話。


「男龍同士は共鳴しない・・・龍気は増幅しないのか」


「少ないのでしょう。出来ても。もしくは嫌なのか。

 私が龍になると、彼らから吸い取る分も多いけれど、私から戻されて中に入る量も多いから、気持ちが良いと言っていました。それを続けている分には良いのでしょう。だから地上で、私が人間になってしまうと、それは厳しいという」


「イーアン。彼らから吸い取る。イーアンが戻して中に入れる。気持ちイイ。その表現はいけない」


 またおかしい方向で!と笑うイーアンは、胸にしがみ付いてイヤイヤするドルドレンを撫でる。『そう言えば』ドルドレンは思い出す。昨晩、苦しむようなイーアンを、ミンティンたちが迎えに来て、逃げたことを。


「そうだったのですか。ミンティン・・・アオファも。でもきっとあの仔たち、逃げ出したのではないかも」


「でもあの男龍が近づいたら、いなくなったぞ。凄い勢いだったのだ。逃げたように見えた」


 イーアンは少し考えて、ふーっと溜め息をついた。その眉は寄って、何か不愉快そうだった。


「今思えばですが。彼らの説明を繋げると。あいつ。あの、ルガルバンダというのですが。彼は、人の姿の私から無理やり龍気を取って、一人でここへ来たのかしらって。

 ミンティンやアオファの龍気は強力ですから、あいつが使おうと思えば、吸われてしまいます。増幅する気はなさそうな男なので、恐らく吸い取るだけでしょう」


「酷いヤツだ。だから一人でも来たのか。イーアンが苦しんだのは、あいつが地上に入ってからか。

 ミンティンたちは、イーアンを逃がそうとしたんだな。でもあいつが来たら使われるから・・・って。そっちの方が、イーアンを守るより重要だったとは」


 伴侶の顔が嫌そう。そんな薄情か、とぼやく。イーアンは笑って訂正。


「そんな言い方しないであげて。ルガルバンダは、とても思い込みの激しい男のような。私で足りなければ、ミンティンたちからも龍気を奪って、自分の目的を果たそうとしたでしょう。

 ただ、彼は私を殺す気はなかったから、それでミンティンたちが、あの場は引いたとも思えます」


「ミンティンたちが嫌がることをしたら、ただじゃ済まなさそうな気もする。だからかな」


 ルガルバンダはズィーリーを待っていた。それは龍も知っていただろうから、それでイーアン(自分)と男龍=ルガルバンダを会わせたくなかったのでは・・・イーアンがそう見当をつけると、伴侶も頷いて『ファドゥが伏せたのも、そういうことかも』と呟いた。



「に、しても。一方的過ぎるだろう。愛する女性を苦しめると分かっていても、龍気を奪うとは。で、反省の色ナシ」


『いろいろ心の仕組みが異なるのですね、彼らは』怒ったり、笑ったり、寂しがったり、心配したりと忙しいようだし、とイーアンが苦笑いで言うと、伴侶も、男龍たちを思い浮かべて頷く。


「そんな感じだな。大きい彼と、翼のある彼はそうでもなかったが」


「翼のある方。タムズは、ズィーリーの子ですって。大きい方、ビルガメスは始祖の龍の子です。孵す女性の影響が大きかったのかも」


「イーアンの。もし、イーアンが卵を孵したら。ずっと笑ってるのか」


 二人で大笑いして、そんなわけないでしょうと、イーアンが伴侶の胸に突っ伏した。怒ったら怖そう、と追い込まれて、イーアンは笑いながら首を振って否定した。


 こんな話をしながら、段々光が差し込んでくる。短い夜明けは過ぎ、二人は朝の光を受けた。ドルドレンの腕にしっかりとイーアンが抱かれ、お互いの体温を感じながら、朝を迎えた安心を感じる。


「今日。どうするの」


「タンクラッドの家で、シャンガマックの剣を。魚は無理そうですが」


 ドルドレンはイーアンにキスして、まだタンクラッドの方が家が近いから良かった、と思った(※行かないに越したことはない)。イーアンは眠っていなかったらしいが『不思議にも眠くない』と言うので、そのまま起きることにした。



 二人が朝食を摂りに行くと、広間にいた騎士や厨房の騎士たちがイーアンを見て、笑顔で寄ってきた。『皆、イーアンを心配した』ドルドレンの言葉にイーアンは感謝する。頭を下げてお礼を言って、皆さんが肩を叩いたり背中を撫でたり、ちょっと抱擁したり(※総長の目を盗む)の好意に応えた。


 誰もが龍の話を聞かせてもらいたがった。イーアンは、あの姿が恐れられなかったことを、心から嬉しく思う。後で話すと約束して、食事にした。


 ドルドレンとイーアンが食べながら、昨晩のことで話していると、困った様子の執務の騎士が来て、総長に書類を見せた。


『これ。今日ですよ』指差された箇所を見つめ、総長は齧っていた肉を丸ごと飲んだ。咳き込みながら、書類を奪って目を凝らす。執務の騎士が、総長の背中をドンドン叩いて(※いびり延長上)大丈夫かと心配する(←ウソ)。


「ぐぬうっ。死ぬかと思った。最近死にそうになる機会が多い。うむ、これは。何ということだ。場所も曖昧と思ったが、日時もいい加減だったか。誰だ、こんな書類送った奴は」


「今、文句言っても仕方ないですよ。これ、でも本部だと思うので。本部に行けば良いんですよ。『1時から』ってありますが、手前で『増設相談』の一行が怪しく挟まってますから、多分午前にもう。出た方が良いんじゃないですか」


「明日だと思ったぞ。1時からだと思ってたし」


「ですから、今言っても。今日か明日ってことじゃないですか?『今日予定がずれたら、明日は確実に~』みたいな。そんな書き方ですよ。だから明日の日付は入ってるのかも」


 よく見つけたな、と咳き込んだ涙目の総長に見られ、執務の騎士は『怪しい予感がした』と答えた(※総長の仕事=再確認必須)。



 向かいの席のドルドレンと執務の騎士のやり取りを見て、イーアンは眉根を寄せる。今日。本部へ出かけるのだろうか。今日も明日も大差はないが、徹夜だし、頭がついていくかしらと心配がある。


 執務の騎士が下がった後。伴侶は困ったようにイーアンに頷く。『そういうことらしい。朝食が済んだら、支度をして本部へ行こう』仕方ない、と呟いた。


 理由も聞いていたし、イーアンも従う。二人は朝食を終えてから、あれこれ支度を整えた。イーアンは親方に報告する。親方は『明日来るように』と了解してくれた。親方も、イーアンの無事な帰りを喜んでくれている言葉の方が多かった。



 ドルドレンは執務室と厨房に用事を言いつけ、それから寝室へ行って、白い板を持ち、イーアンと一緒に鎧と剣を装備した。二人は裏庭へ出て、ミンティンを呼び、王都へ向かった。


 『白い板を持ってきたよ』ドルドレンがちょっと言いにくそうにしている。どうして、とイーアンが聞くと『王都の外の草原で、練習させようと思った』と。『私に』イーアンが笑顔で訊ねる。伴侶はちょっと笑って『俺の見てる前で練習だから』落ちても恥ずかしくないよと言う(※落ちる設定)。


「雪もあるから。草原の上の雪だから、どこで落ちても痛くない」


 そこまで言われると悲しいイーアン。でも伴侶の思い遣りに感謝して、頑張って乗りこなしたいと答えた。目を見合わせて笑い、『俺も乗るよ』とドルドレンは言った。きっと彼の方が早く乗りこなすと、イーアンは分かっていた。



 ミンティンはいつもどおり。昨日の今日でも普通。イーアンはミンティンを撫でる。それにも青い龍は、特に反応しなかった。普通にゆらゆら、首を揺らすだけ。

 イーアンは何か、ミンティンが何でも知っていてくれるようで嬉しかった。ドルドレンもまた、前に座るイーアンとこの青い龍を見つめ、二人が特別な絆を持っている気がした。



 静かな朝、王都にすんなり到着し、二人は壁の外でミンティンを降りて空へ帰した。『ミンティンたちがいる場所も見たのか』歩きながらドルドレンに質問されて、イーアンは『見ていない』と答える。


「空。ちょっと分からない空間です。逆さまなの。後で図にして説明しましょう。ミンティンたちは外かも」


 言っている内容がピンと来ないドルドレンは頷き、図説を待つことにした。

 王都の中へ入り、本部へ向かって二人は歩く。朝から人の多いこの町は、いつ来ても平和そのもの。支部へ向かいながら、イーアンは以前、タンクラッドの見解で聞いた、『王都は魔物に用がないから、放置されている可能性』があることを伴侶に話した。


「笛の殻があって、それで来ないのでは」 「一応来ない、の範囲かしらね」


 笛を持っていても、襲われる時も遭遇する時もあった、とイーアンが言うと、伴侶も納得していた。『ここは用無し』呟いて苦笑いするドルドレンに、イーアンもちょっと笑って頷いた。


「魔物から見れば。王様とかあまり関係ないかも。意図的に倒す相手は、私たち等、狙いをつけた相手でしょう。寄り付きにくい防護策でもなければ、手当たり次第、攻撃しているようですものね」


 騎士修道会(自分たち)が必死で戦っていた、以前の状況を思うドルドレン。それから横を並んで歩く愛妻を見つめ、彼女が来なかったら今頃どうなっていたかと、しみじみ、運命に感謝した。



 そうして本部に着いた二人は、中に入って、以前も来た部屋に通される。『ここでお待ち下さい』部下の騎士に言われて、暖炉前に立って二人は待った。


「今日。誰と会うのかも知らないのだ。本部の連中だろうが」


「書類も一枚でしたね。何枚かあるのかと思いましたが。同席する方の名前とか」


 二人がひそひそ話していると、間もなく扉が開いて、この前の騎士・本部の警護長ヴィダルが入ってきた。『凄いことになってるな』笑うヴィダルの開口一番はそれで、機構のことを彼も説明されたと知る。


「もうじき、王も来るだろう。セダンカ・ホーズも一緒だ。後は本部(こっち)の連中が4~5人だな」


「窓の外に誰かいたが、業者か。まだ午前も早いのに」


 ドルドレンの言葉にヴィダルはちょっと、窓辺へより外を確認した。『こっちじゃないと言ったんだが』あれ?と呟く。


「彼らは測量するんだ。雪がない方、って、さっき話したのだが。雪を掻いといてやったのに」


 場所が分からないのかも、とヴィダルは言い、ドルドレンたちに待っているように告げると、一旦部屋を出て行った。

 ヴィダルと入れ替わりで入ってきたのは、本部で働く4人の騎士だった。3人は若く、20代半ば。一人は40代に見えた。皆、チュニックとズボンで、剣も下げていなかった。彼らはドルドレンに挨拶した後、すぐにイーアンを見た。



「はじめまして。この度は事業の進展をお祝い申し上げます。私はイリヤ・アベルブフ。イリヤと呼んで下さい。本部の執務室長を任されています。本業は騎士なのですが」


 イリヤは、真面目そうな優しい表情を浮かべ、少し金色の頭髪が後退している中肉中背の男だった。ちょっとダビの将来を見るような印象(※ダビも頭髪の危機あり)。


 続いて紹介された3人の騎士は、イリヤの部下で、茶髪で細身の人がバルナバ・デルカ、黒髪で肩幅のある男がモイセイ・ラクー、金髪で華奢な男はマチェイ・プラティディと名乗った。


 イーアンも自己紹介。いつもどおりで短め。彼らはイーアンを見つめて、少し微笑んでいた。総長の目が据わっているので、イリヤが苦笑いして理由を訊くと『何か企んでいる』と総長に言われて笑う。


「何も。初めてお会いして。母くらいの年の女性だと思っていたから。鎧も着けているし、意外でした」


 華奢なマチェイが総長に笑いかける。鍛えるのと無縁そうな彼らの仕事から見れば、女なのに鎧で現れた中年女性は意外だったかと、イーアンも頷いた。

 黒髪のラクーはイーアンを見て微笑み『何て頼もしい』と誉めた。微妙な誉め言葉に笑うイーアン。有難く頭を下げてお礼を言う。


「総長。今回の話ですが。私は無理でしょうが、彼らを推薦したいのです」


 イリヤは自分の部下たちに、機構の運営に携わらせたいと言う。彼らは優秀だし、若いから長い期間を支えると思うし、彼らが覚えた頃に新しい職員を育てることも出来るかららしい。


「総長から、王にお話下さいませんか」


 ドルドレンはイーアンを見る。イーアンは無表情。ちょっと背中をとんとん叩くと、イーアンが見上げた。可愛いなぁと思いつつ、咳払いして。『どうなの』と訊ねると、イーアンは首を傾げて『私が決めることではありません』とざっくり切り落とした。皆さん驚く。


「イーアンが決めるわけではなくても。イーアンも意見を言うのだ」


「あら。でも私、あまり関係ありませんでしょう」


 ええ~ 総長は困る。イリヤも突き放されたようで戸惑っている。若手も動揺。その時、扉が開いて、ヴィダルに付き添われた、セダンカと王様が入ってきた(※自由な王様)。



「イーアン。鎧が何と素晴らしい」


 フェイドリッドはすぐに笑顔で両腕を広げて、ソフトハグ。『ああ、会いたかった』と総長の前でメロメロする。総長の目が見開く。イーアンは目を閉じて耐える。セダンカは扉の近くに待機(※走って逃げる準備)。他、騎士たちは驚き、目の前の光景に釘付けになった。


「それほど日も経っておりません。お招き預かりまして」


「良い。そんな挨拶は要らない。さあ、座ると良い。立って待たずにも良かったのだ。立ち話は、普段の疲れを増すであろう。さぁ、ここへ。私の横へ来ると良い」


「おいでイーアン」


 総長は腕を伸ばしてイーアンを抱き寄せ、暖炉を背中にする席にイーアンを座らせ、その横に自分が座った。そしてすぐにイリヤを見て『イーアンの横へ』と顎で示す。イリヤはどうして良いのか分からないが、とりあえず上司に従ってイーアンの横に腰掛けた。


 寂しそうなフェイドリッド。青紫色のつぶらな瞳を潤ませて、はかない溜め息をつく。


『どうしてそう。総長はいつも。ほんの僅かな時間さえ、許してくれないのだろう』はぁぁぁぁ・・・長い溜め息を吐き出す王様は、仕方なし、イーアンの向かいに座った。


「妻ですから」


 仏頂面で答えるドルドレン。イーアンは苦笑いで俯くのみ。セダンカは、極力、総長から距離のある席に座る。他の騎士たちも着席し、ようやく話が始まった。



 大体のことは、セダンカが引き受けて説明する。1時間近く書類を元に話を聞き、この前、相談を受けた内容と変更された部分は、特に目立つものはなかった。詳細の取り決めは、かなり区切られてはいるが、大きい骨組みに支障をきたすような抜け穴はないと、総長は判断した。


「それが通った案の全てと言われるか」


「そうだ。持ち帰ってすぐに、議会によって決定し、通過したものだ。」


 セダンカが頷く。イーアンを見て、セダンカは目で異論がないか訊ねる。イーアンは微笑んで首を振った。『良かったです。有難うございます』イーアンの答えに、セダンカもホッとする。


 総長は、確認をする。幾らか分かりにくい部分を反芻し、自分の理解が正しいかどうかを問う。セダンカは書類の写しを総長に渡していたので、それを捲って、一つ一つ答えた。

 同席した騎士たちも緊張しているようで、二人の問答と書類を覗き込みながら、真剣に内容を理解しようとしていた。


 質問が終わると、ちらっと王様がセダンカを見た。セダンカも了解しているようで、イリヤと他3名の若い騎士を見た。


「彼らは昨日、私と面談しているのだが。本部で機構を動かすにおいて、人員を配置したいと思う。総長から推薦があれば、その人物も考慮しようと思うが」


「推薦する人物は特定していないが、拒否したい人物はいるぞ」


 セダンカが眉を上げて視線で続きを促すと、ヴィダルと総長が目を合わせてちょっと笑った。『本部にいる老人はごめんだ。あれらの参入と影響は拒否する』総長がはっきりと言うと、セダンカも可笑しそうに鼻を鳴らして笑う。


「機構は国のものだ。騎士修道会に場所を置くし、管理を任せもする。だが内容の全ては、国が決定した状態でしか実現しない。議会で通ったものだけが、機構の内容になるのだ。

 人員も同様で、騎士修道会内だけで決定することは出来ない。逆も勿論だぞ。国の推薦で、突然に貴族や王城の人間が入ることはない」


「最初のうちは、仕事も記録管理くらいだろう。資金の動きや物品の数等、それが続くと思われる。慣らすのも形を作るのも、早いうちが良いだろうから、騎士修道会からは、この3人を推薦する」


 イリヤは部下をさっと見て、嬉しそうに頷いた。部下たちも緊張を抱きながら、小さく会釈を返す。総長はイリヤにも、移動した方が良いのではと訊ねた。


「私もですか。でもそうしますと、私の後任は」


「最初は仕事が少ないと言っただろう。部下3人の年齢は若い。彼らだけでは不安だろう。お前がついてやると良い。お前は彼らの仕事を補助するだけで、兼任扱いにはするが、実際の業務はさほどではない期間が続くはずだから、現在の室長もこなせる」


 イリヤは降って湧いた提案に、有難く参加する意志を伝えた。自分も心配だったから、様子を毎日見ようと考えていたことを話すと、総長は微笑んで『丁度良い』と答えた。



「それでは。今日のうちに登録するぞ。良いか。彼ら3人の名前と、イリヤの名前はこちらで次の議会に出す。今日の日付を以って、ハイザンジェル王国魔物資源活用機構を設立する」


 セダンカが大きめの声で、自信を持ってその名を呼んだ。フェイドリッドも満足そうに微笑み、拍手をした。

 王様の自画自賛拍手に、イーアンも笑って拍手を重ねる。ヴィダルとイリヤ、部下たちも拍手し始め、総長はイーアンを見て笑ってから拍手をした。

お読み頂き有難うございます。


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