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魔物資源活用機構  作者: Ichen
空と地下と中間の地
500/2950

500. 男龍の相談

 

 イーアンが攫われてから1時間半後。


 ザッカリア中継のみを安心材料に、ドルドレンや部下たち、タンクラッドとオーリンは全員廊下にいるままだった。部屋の窓は開いたままで、夜の風がずっと吹き込んでいる。


 誰もその場を動こうとしなかった。仲間の一人が攫われ、相手が人間ではないことに、質問も説明も当然ひっきりなし。ドルドレンに直にそれを訊ねたのは、隊長たち。タンクラッドには誰も聞かなかった。オーリンにも、何人かの弓引きが話しかけたが、この職人も既に人間以外の種族と知られ、少し距離があった。


「イーアン。彼女は龍。突拍子もない話だが、最近その辺に龍がいるから、そこまで信じられなくもないな」


 ブラスケッドの言葉にポドリックが笑う。『なっても変じゃないぞ。イーアンは』違和感がないと言う。コーニスも苦笑い。クローハルは神妙な顔つきで『すごい遠い存在に感じる』と呟いた。


 パドリックは、部下の弓引きと遠巻きにその会話を聞いていて『ますますあの人が怖い』と怯えていた。弓引きの中には首を傾げる者もいて『でも。イーアンが龍になっても。怖いって雰囲気じゃないと思いますよ』とイーアン龍はアリという声もあった。


 ダビは非現実的な話題は苦手。パンクしそうなので、あまり考えないことにした。魔物が出た当初も解釈が大変だった。

 ただ、イーアンが攫われて。タンクラッドや総長が怒るのは分かるけど、心配するのは要らないような(※平気と思う)。あの人、多分死なない、としか思わなかった。



 ザッカリア中継で、時々様子を聞く全員。40分前に来たオーリンの話では、空の中でも騒ぎが起こったそうで、とても大きな力が響いたことにより、魔物が空へ現れたと警戒態勢になったらしかった(※魔物⇒イーアン迷惑)。


 ハルテッドはザッカリアの側にいて、イーアンどう?と何度も聞いていた。ザッカリアは聞かれるたびに『話してる』『人間だよ』と短い答えを伝えてくれるが、大きな流れは見えていないようだった。


「無事なんだ。無事なら。俺はここで待つが、皆は休んでも。もう10時になる」


 総長が廊下に集まった部下に言うと、『気になるから』と全員がそこの場にいることを選んだ。自分たちを助けようと、いつも遠征で怪我をするイーアンを。こんな時。自分たちが放ったらかして眠ることはしたくなかった。


「タンクラッドは。オーリンはどうする」


「俺に訊くな。彼女が戻るまでは、俺を追い出せないぞ」


「俺もここにいるよ。無事みたいだけど、相手が相手だから」


 首を掻きながら、言いたくなさそうに呟いたオーリンの言葉に、総長もタンクラッドもふと不安が生まれる。男龍は一人じゃないとも聞いている。無事に戻るまでは、それだけが気掛かりだった。


「戻ってくるよ。イーアンだ」


 突如、ザッカリアが窓へ走った。慌ててドルドレンたちも窓辺へ走る。『どこだ』『一人か』矢継ぎ早に聞かれる質問に、ザッカリアは夜空に目を凝らす。


「違う。男の龍が一緒。でもイーアンは龍なの」


「どういう意味なんだ。なんで一緒に戻ってくるんだ」


「あ。ほら!あれそうだ」


 指差すザッカリアの示した方向が真っ白に光り始める。空が一面、一瞬弾けるように明るくなり、こっちに向かって白い光が降りてくる。



「イーアン・・・・・ 」


 ドルドレンが見たものは。真っ白い光まではさっきと一緒でも、見るからに違うと分かる柔らかい明かり。白い光の中に巨大な龍がいる。ドルドレンには、それが愛するイーアンだとはっきり分かる。


 ミンティンよりもずっと大きく、アオファの4分の1くらいありそう。

 白い龍は、体を大きな滑らかな鱗に包まれて、豊かな(たてがみ)が首周りと胸まで包み、深く長い毛は、背中から優美な尾に続き、尾の先を包んでいた。


 龍というべきか、肉食獣というべきか。小さい頭に長い首、手足、尾があり、力強い太い四肢は、鋭い爪を生やした指が突き出て、逞しい大きな筋肉が腕も足も体も覆う。鎧のような蛇腹は狭く、全ての板に一つずつ、宝石が埋め込まれて光を跳ねて輝く。


 顔つきは、どことなくイーアンを想う顔。大きな狼のような顔で、鼻は高く、窪む眼窩に鳶色の瞳が輝いている(※ちょっと垂れてる)。耳の上、額から湾曲して、大きく捻れながら後方へ伸びる白い角。豊かな(たてがみ)も、イーアンの髪のようにくるくるしている。


「イーアン」


 ドルドレンが窓に乗り出して大声で名前を呼ぶ。白い龍は嬉しそうに口を開け(※部下は走って逃げる)長く鋭い牙がびっしり並んだ口を見せながら、歓喜の声で吼えた。その声はアオファのそれと近く、でもどこか優しい地鳴り(?)のような。ドルドレンは笑いながら、少し泣いた。


「イーアン、おいで」


 ドルドレンが腕を伸ばして、呼ぶ。おいで、おいでと両腕を広げる。


 横から無理やり前に出たタンクラッドも呆気に取られて、龍に魅入った。『何てことだ、あれがイーアン』何て美しい、と息が荒くなっている(※超巨大なMyワンちゃん)。フォラヴは感動で涙を落とす。シャンガマックも見惚れていた。『遺跡の絵が生きている』小さく呟く声は、親方にしか聞こえなかった。


 隣のイーアンの部屋の窓も、観客が詰め寄せて、ザッカリアとギアッチ、ハルテッドやクローハルはそこから見ていた。『イーアンなの、イーアンもう人間じゃない』ハルテッド凝視。ザッカリアは大喜びで跳ねている(※『カッコイイ』『俺のお母さんだ』『乗せて』『触りたい』)。


 クローハルは何も言えない。首をゆっくり振って、『俺は眠れないかも』と呟く。ギアッチもじっと目の前の光景を見つめ『いやあ。これはまた・・・うーん』相変わらず、続きを言わないで感心していた。ダビも見ていたが、今後一生、絶対に逆らわないと誓った(※小舅廃止案)。


 オーリンは外に出て、ガルホブラフと一緒に少し離れたところから見る。『あれが。女の龍』こりゃ敵わないよ、と自分の龍にぼやく。ガルホブラフも、ちらっとオーリンを見て『敵うと思ったのか』くらいの一瞥を投げた(※サイズが違う)。



 イーアンはドルドレンの側へ寄って、大きすぎる自分の顔を困ったようにウロウロさせてから、よいしょと顔を横に向け、片目だけドルドレンの側に寄せる。嬉しいドルドレンが抱きついて、ちゅーちゅーキスする。

 涙に濡れて『イーアンは綺麗だ。イーアン、良かった無事で』と何度も何度も白い大きな龍を撫でて、頬ずりした。鳶色の瞳が微笑んでいる(※気がする)。再会を喜んでいると、奥から男の声が響いた。


「イーアン。今だけだ。戻れ」


 ハッとするドルドレン。タンクラッドも声のした方を探す。イーアンが大き過ぎて見えないが、(たてがみ)の後ろに4人の男の光に眩むような輝く影がある。


 男の声と共に、イーアンはどんどん縮んでいく。そしてあっという間に人の姿に変わり、男の龍に支えられながら(※イーアンは浮けない)窓辺のドルドレンの腕に掴まる。


「その場所から動くな。説明を」


 後ろに控える4人の異形の男を、誰もが目を丸くして見つめる。イーアンは振り向いて頷き、ドルドレンにまずしっかりと抱きついた。ドルドレンもしっかり抱き締めて、顔を見てすぐにキスした。親方は目を背ける。


「どういうことだ。今だけって」


「ドルドレン。慌てないで聞いて下さい。私はお伝えしたら、また空へ行きます。あちらで話を聞いてきますから、戻るのは朝です。でも大丈夫です。私は安全です」


「イーアン、空?あいつらと一緒に?ダメだ、戻って来れない」


「大丈夫です。約束しました。最初に私を連れて行った男はここにいません。この4人の男龍は、ちゃんと約束しました。だから大丈夫。とにかく急いで報告します」


「報告したらいなくなるんだろ?ダメだ」


「総長。時間を無駄にするな。イーアンが戻ると言ったら、戻ってくる。信じろ」


 タンクラッドに止められて、ドルドレンは抱き締めるイーアンに頭をこすり付ける。『何てことだ』苦しい声で呻く。イーアンは親方を見て頷き、ドルドレンの顔を両手で挟んで、目を合わせた。


「良いですか。報告します。私は」


 イーアンは、今ここに来るまでの間に起こった、全てを話す。それから、自分が彼らに何を確認するべきかも思うことを伝える。親方は横で聞いていて、他に聞くことを付け加えた。イーアンは了解し、ドルドレンに向き直る。


『明日の朝。私は戻ります。何もしない、と彼らは約束しました。絶対大丈夫です』それを伝えられ、ドルドレンはもう一度イーアンをじっと見てから、涙目でしっかりキスをした。親方、顔を背ける。



「イーアン。彼が。相手の太陽の民。彼のために、俺たちのもとへ来ないとは」


 頭から角が横に生える男龍が、呟いたと同時に、かっと光って、表情こそ変わらないものの、苛立ちを含むように筋肉を膨らませる。


「弱い。その弱い男に、種族の命を危ぶまれる運命など冗談じゃない」


 多角の男龍の体も、怒りを含んだのか、ぶわっと筋肉を膨らませ、顔が突然、白赤の龍の幻をまとった。ドルドレンと親方が驚いて身構える。振り向いたイーアンは、彼らの姿に一気に腹が立ち、怒鳴った。


「ドルドレンに触ってみろ。食い殺してやる」


 最強の奥さんの背中に隠れる旦那(※未婚)。最強の愛犬のちょっと後ろに立つ親方(※少し隠れる)。男龍の翼のある者が、とても悲しそうに俯き、首を振る。『折角、心を開いたというのに』やれやれと仲間の二人の肩に手を置いた。


 体の大きい美しい男龍が前に出て、噛み付く勢いの顔で睨みつけるイーアンに近寄って言う。『怒るな。よくあることだ』龍とはそういうもの、と静かに教えた。イーアンは睨むのをやめて頷いた。


 奥さんの背中に守られた可愛い旦那は、すぐにイーアンの腕を掴んで振り向かせた。イーアンもハッとしてドルドレンに抱きつく。ドルドレンもぎゅっと抱き締めて、早口で伝える。


「待ってるから。早く戻りなさい。危なくないように、万が一何かあったら」


「ありません。もし嫌なことをされそうだったら、龍になって(くわ)えて、地上に叩きつけます」


 イーアンの言葉に、窓の外で聞いていた男龍が全員笑った。『やりかねない。ルガルバンダのせいだ(※たった今の、自分たちのせいでもある)』ハハハハと爽快に笑う声。

 その様子に、タンクラッドとドルドレンは目を見合わせる。イーアンも二人の視線の動きを見て、ちょっと理解した。


「来い。行くぞイーアン。お前の龍を支えるのに、これ以上いては俺たちが動けなくなる」


 声をかけた、頭からたくさん角の生えた男龍は、もう平常に戻っている。イーアンは立ち上がった。


 悲しみに飲まれるドルドレンの額にキスをして『明日の朝です』イーアンはもう一度はっきり告げる。それからタンクラッドに『市場は無理かも』と笑った。親方はイーアンの頭を撫でて首を振る。『無事に戻れ』親方にも頷いて、イーアンは窓枠に立った。


 それぞれの男龍が腕を上げると、イーアンは白く輝き、一瞬で膨れ上がり白い龍に変わった。その時には窓枠を遠く離れ、白く光を放って夜空を旋回していた。


「イーアン!!」


 ドルドレンが叫ぶ。白い龍はドルドレンに顔を向けて、思いっきり大きな声で吼えた(※ご近所騒音)。建物が震えるほどの声は、外にいたガルホブラフを逃げさせる。アオファは目を覚まして見つめていた。


 ミンティンは離れた場所でイーアンを眺める。それからミンティンは親方のいる窓辺に来て、乗るように合図した。


 イーアンと男龍が空へ消えていく様子を見つめる親方は、小さく息を落とし、窓枠を越えてミンティンに乗る。『総長。俺は帰る』ちゃんと寝ろよ、と一言挨拶すると、親方を乗せた青い龍は西へ向かって飛んだ。


 ドルドレン、以下。部下たち全員は、広間へ移動した。ドルドレンは一人になりたかったが、ベルが来て『ちょっと酒を飲もうよ』と誘ったので、少し付き合うことにした。


 ザッカリアは子供なので就寝。眠りたい者以外は全員、広間で酒を飲む夜。目の前で見た光景に、誰もが信じられないまま、口数も少なく、でも眠るにも惜しいような。そんな夜だった。



*****



 空へ戻ったイーアンは。ルガルバンダの家を壊したので、シムの家にお邪魔する。彼らの家は似たような造りで、壁がほぼなく柱ばかりの家だが、不思議と寒くはなかった。


 空は夜空だし、時期は冬なのに、暖かいくらいの空気にイーアンはホッとした。明かりも要らない。星も月も明るい雲の上で、彼ら自身も発光している。炎がない家だった。



 後からルガルバンダが来て、5人の男龍と一緒に夜更かしする。床や、やたらと長い長椅子に、それぞれ好きに座ったのを合図として、イーアンは聞きたいことを項目で伝えた。

 彼らは入れ替わりで答え、ビルガメスが詳しい内容を話す。自分が聞きたかったこと、タンクラッドのアドバイスも含め、大凡の話を聞くことが出来た。


 不思議と会話中にお腹も空かず、喉も渇かなかった。気がつけばトイレも行っていない。そういう場所なのかと思うことにした。彼らも誰も、飲み物や食べ物を気にしていなかった。


 イーアンが一通りの話を教わってから、少し考えていると。じっと見ていたルガルバンダが口を開いた。


「もう良いか」


 何がだ、と答えるイーアンの口調のきつさに、ルガルバンダが嫌そうに睨む。『まだ根に持って。ズィーリーはそんなに』そこまで言いかけてイーアンは遮った。


「違うっ、て言ってるでしょ。彼女じゃないの。それに自分が取った行動を考えなさい」


「お前、いつまでそんな態度なんだ。俺にはずっとそうする気か」


「失礼をなんとも思わない相手に譲る気はない。放っておいて」


「俺の卵を孵さない気だろ」


「どなたの卵も『孵す』とは一度も言ってないの。勝手に決めないでよ」


 イーアンの一言に、ルガルバンダは苛立つ。周りも何か気にした様子でイーアンを見つめる。大角が横に生えるシムが近くに来て、イーアンの横に腰掛けた。それからイーアンを見下ろして訊ねる。


「俺のも?誰の卵も孵さないのか」


「あのですね。お手伝いしたいとは思います。ですが、3ヶ月間ここに滞在は無理があります。それでです」


 10本角のニヌルタは、イーアンの座る椅子の下に移動し、床に胡坐をかく(※アレ丸出し)。イーアンはちょっと目を逸らしながら、この人の質問は何かなと様子を伺う。


「滞在する時間が問題なのか。それがなければ、お前は俺の卵を孵す?」


「あなたの、ということではなくです。抱っこするとか、一緒に眠ることに抵抗はありません。でもここで・・・それは私には無理です」


 ニヌルタはイーアンの顔に手を伸ばす。そっと小さな顔に触れ、指先を頬に滑らせて、鳶色の瞳を見つめた。


「お前は。綺麗だな(※精悍な顔だからの意味)。俺の卵を孵してくれたら良いのに。お前が面倒見てくれたら、きっと素晴らしい龍が生まれる」


 そう言われてもなぁと悩むイーアン。卵抱っこくらい、別に何ともないけれど。地上でよしよししてる分には、ドルドレンも嫌がらないと思う(※きっと嫌がる)。でも空に3ヶ月はさすがに厳しい。


 ビルガメスも側へ来る。開いてる場所はイーアンの片側。一番体の大きいビルガメスが横に座って、イーアンの背凭れに腕を置いて、そっと頭を撫でた。


「龍になった時。この髪もそのままお前を包んだ。美しい龍だ」


 くるくるした髪を一房取って、ビルガメスは自分を見上げるイーアンに微笑む。イーアンもニコッと笑うと、ビルガメスは目を丸くして嬉しそうに『また笑った』と声にした。


「笑うと可愛い。とても可愛い顔だ。いつでも笑っていると良い。お前が孵す卵は、きっと可愛い笑顔の子が生まれる」


 え。笑顔は卵にも影響・・・そんなことあるのかと、イーアンは誉められたことにお礼を言いつつ、疑問に思う。

 ルガルバンダは面白くない。自分が絶対に相手にされない自信が出てきた(※間違いな自信)。歩み寄って、イーアンの前に立つ(※アレ真ん前)。


「なぜ俺に笑わない。お前が待ち遠しくて迎えに行っただけだ。そんなのも分からないのか」


「ルガルバンダ。いい加減に諦めろ。ズィーリーは死んだ。似ていようが何だろうが、生まれ変わりじゃない。イーアンは単独で別の存在だぞ。限りある命を受けて生きている存在を、他の人間と混ぜて扱うな」


 ビルガメスの注意は、ルガルバンダに痛かったらしく、苦しそうな顔を浮かべた彼は、背中を向けて出て行った。イーアンは彼が、本当にズィーリーに会いたかったんだなと思った。そしてふと、思う。


「ここに。ズィーリーの孵した卵の誰かはいますか」


「いる。彼がそうだ」


 タムズを示すビルガメス。タムズは頷いて微笑んだ。『私は彼女の息子だ』と、控えめでも誇らしそうに言う。『他の方は』イーアンが訊ねると、龍の子の女に孵されているとした答えだった。


「だが。それも珍しいことだ。俺が親の状態で彼もいる」


 ビルガメスが目を向けたのはシム。シムは頷く。こんがらがってくるイーアン。でも卵なんだから、親子意識はあんまり関係ないような。


「龍の子の男女からも、男龍は生まれますか」


 生まれる、と全員が頷いた。やっぱり個体差の方が大きいのかもしれない。『となりますと、私じゃなくても』呟くイーアンに、4人は驚く。


「何を言うんだ。イーアンが孵したら、能力はこれまで以上か分からないのに。だから頼んでいるのだ」


「ですが、お話を伺うに。皆さんのそれぞれ個体の持ち前の能力で、龍になるような」


「いや。そうじゃないんだ。そうかもしれないけど。でもちょっと、イーアン」


 反対側の横に座っていたシムが、イーアンをヒョイと抱き上げて、自分の上に向かい合うように座らせた。イーアンは驚いて『下ろして』と声を上げる。シムはイーアンに『しー』と口を閉じるように言う。


「重要な話だから、急いでこうして話してる。分かるか。

 女龍が孵した方が、男の龍が生まれる可能性は高くなる。それも強いんだ。タムズに翼があるのは偶然じゃない。ズィーリーが孵したことで、俺たちよりもさらに龍に近いからだ。 

 ズィーリーはここで3ヶ月過ごし、戻った。それでタムズだけだが、3ヶ月で一人、男龍が生まれただけでも凄いことだ。度々子供を見に戻ってはくれたが、以降、3ヶ月滞在することはなかったんだ。


 もしかすると。お前も含む、地上の彼らが魔物の王を倒す前に、空にも魔物は来るかもしれない。さっきビルガメスが話ただろう?イヌァエル・テレンも前回それを受けている。


 その時、ここを守れるのは男龍と龍だけだ。


 ズィーリーの時。男龍の数は多かった。なぜなら、始祖の龍は多くの息子を産んだからだ。空を突き破り入ってきた黒い魔物の大群に、あっという間に勝てるくらいの強さを誇る男龍が、龍が、ここを守った。ズィーリーたちがヨライデに着く前の時だった。


 だが寿命が長いとはいえ、始祖の龍の息子が、ズィーリーの代を越えて、現在まで生きるのは、ほぼ無理だ。ビルガメスは始祖の子だが、残るのは彼一人。ズィーリーはそれを理解したから、ここに来た。そして卵を孵してくれた」


「男龍の数は。今、あなた方の他には」


 イーアンの不安そうな質問に、男龍は困った様子で首を振った。『成長するまでに、どれくらいかかりますか』一応聞いてみると、彼らは顔を見合わせる。


「体が大きくなるのは早いと思うが。成体になってから長く生きるから。10年位かな」


「では。もし今。魔物が。良くない例えですけれど。そうしますと・・・・・ 5人の方で相手をするのでしょうか」


「龍もいる。龍の子の強い男もいる。俺たちだけではないだろう。だが、ズィーリーの時代に比べれば、非常に少ない」


 シムの上に座らされている股間座席(※衣服ナシ)で、考え込むイーアンは、自分が例え、急いで卵を抱っこしても意味がないことを理解する。

 でも空に魔物が来る前に、魔物の王を倒せれば良いのも分かる。で、そんな都合良く行くのかと、そこも微妙。現にズィーリーは自分が旅の最中で、空を攻撃されている。



「今回は。今話したように、ここにいる者たちだけで応戦する。しかし、今後の懸念だ。もし俺たちの誰かが・・・犠牲になるようなことでもあれば。

 戦で勝っても、男龍の数は、これまでよりも減ることになる。龍の子から男龍が生まれることも難しいのに、その上、男龍も少ないとなると。まして、お前も手伝わないなら」


 シムはそう言って、イーアンの目を見つめた。イーアンはその心配を浮かべる瞳を見つめ返し、それでなのかと理解した。彼らには先の心配があるのだ。どんどん龍族が減っているから、気持ちが急いでいる。



 悩みながら気がつけば、外は少しずつ明るさを増していた。徹夜は肌がまずいと今更、気にして凹むイーアン。


「朝です。私は戻ります。少し考えたいと思います。またお話しましょう」


「帰るのか。もう。そうか、約束だな。送ろう。次に来る時、どうしようか」


 シムがイーアンを見てから仲間を見渡す。タムズはじっとシムを見て、『迎えに行くか』その方が早いと提案する。


「でも。私『いつでもどうぞ』とは言えません。最初にお話したように、旅の準備に追われています」


「いい。迎えに行ってダメなら戻る。中間の地に行くと疲れるから、交代で行く。ルガルバンダは」


 イーアンはタムズをじっと見つめ、嫌だと意思表示する。笑うタムズはイーアンを抱き寄せる。『私たちが行こう』それも約束しようと伝えた。


「無理に。ルガルバンダが行こうとしたら追いかける。イーアンは俺たちを恐れないでほしい」



 頷いて、イーアンは約束をお願いした。

 彼らはイーアンを人の姿のままで光に包み、一緒に北西の支部まで行った。そして夜通し起きていたドルドレンが開けた窓に、イーアンを下ろしてから男龍は帰って行った。

お読み頂き有難うございます。

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