499. 龍族の約束
その頃、北西支部ではシャンガマックとタンクラッドが、オーリンの珠と連絡をつけて、オーリンが来るのを待っていた。ドルドレンは肩で息をしながら、窓の外の虚空の闇を睨んでいる。
ギアッチはザッカリアの側で、彼が何かを意識的に見ようと動き始めたのを見守っていた。他の騎士たちも総長の部屋の前の廊下に集まり、イーアンの無事と、何があったのかをそれぞれが小声で話し合う。
「オーリンめ。あのバカ。何が『今、大変』だ。お前の大変など、どうでも良いくらい分からんのか。こっちはイーアンが攫われたんだ」
「オーリンの声、俺も聞きましたが、慌てていませんでしたか。彼はまだ天空にいるようでしたが」
「お前まで何を言ってるんだ、非常事態だぞ。バニザット、イーアンが何をされてるか。お前は怖くないのか」
心配ですけど・・・褐色に騎士は困惑しながら、タンクラッドの気迫に怯む。何だかそこまででもないような、とは決して言えない雰囲気だが、シャンガマックの中で、どうにもイーアンは無事なような気がしていた。
ドルドレンは怒りを抑えながら、白くなるほど握り締めた拳を見つめる。『イーアンが何をされているか』タンクラッドの言葉が、自分の中の止まない恐怖と苛立ちを掻き立てる。
何も抵抗できない、あの圧倒的な差。あの力。人間じゃないことの、どうやっても越えられない壁を見せ付けられた。あろうことか、誰より大事なイーアンを連れて行かれ、彼女は無抵抗で・・・・・
苦しくて、このまま全てを壊してしまいそうな感情の昂ぶりに、ドルドレンは必死に耐える。オーリンさえ来れば、オーリンに。そこから先、実の所は何が有効な手段かも、怒りに満たされたドルドレンには思いつかなかった。
「どうしたの。ザッカリア、何かあったのかい」
突如、ギアッチの声が上がる。ハッとして全員がギアッチとザッカリアを見ると、レモン色の瞳を天井に向けていた子供は、呆気に取られたように固まっていた。
「ザッカリア。ザッカリア、答えてくれ。どうしたの。何が見えたの」
ギアッチが背中を撫でながら、ゆっくり聞き出そうとする。ドルドレンがザッカリアに駆け寄り、タンクラッドはザッカリアに勢い良く近づいて、その腕を掴もうとしたが、ハルテッドが止めた。『言うから。待って』怖がらせないで、とハルテッドに遮られ、親方は子供の前で待った。
「ザッカリア。大丈夫かい。教えてくれないか、皆が心配してる」
「ギアッチ。イーアンは龍になっちゃった。それで他の男の龍を食べてるよ」
「えええっ」
誰の声ともつかず、何人かの恐れの声が上がる。タンクラッドも眉を寄せて『何て言った?食べて』と呟く。ドルドレンは目を丸くして、ザッカリアの言葉の続きを待つ。ハルテッドはもう嫌そうな顔で、タンクラッドの腕を掴んだまま背中に隠れた。
「イーアン強いんだ。真っ白。真っ白ですごい大きい龍だよ。とっても綺麗な龍。でもね、あ。飲んだ」
「ええええっ」
「大丈夫だよ、噛んでないから出した。美味しくなかったのかも」
ニコッと笑ったザッカリアは少し虚ろな目に変わって、何かを探っている様子に戻る。それから皆がひそひそと話し合う(※イーアンは誰かを食べた説)中、再び口を開く。
「総長。イーアンはずっと大丈夫だった。安心していいよ。
龍になる前もね、連れて行かれてたでしょ。だけどずっと暴れてたよ。男の龍が空に連れてく間にね。何度も蹴ってた。落ちそうだったけど凄い怒ってたから、男の龍がイーアンの足、こうやって掴んでぶら下げて持ってったの」
「何。イーアンは暴れて。逆さ吊りで連れて行かれて」
「そう。でも逆さまでも凄い怒って蹴ってたよ。総長のところに帰せって。元気だった」
元気だった・・・元気って。でもいい。なんか変だけど、無事で良かったことは変わりない。ドルドレンの目から、一粒涙が落ちる。何とも言えないけれど『俺の元へ帰せ』と彼女は抵抗し続けた。そして今、相手を食って、美味しくないから吐き出したと(※それはザッカリアの意見)。
涙を拭って大きく息を吐いた総長に、フォラヴが背中を撫でて癒す。『イーアンは逞しいから。きっと精霊が守って下さったんでしょう』見ればフォラヴもうっすら涙を浮かべて微笑んでいる。総長は頷いた。
タンクラッドの状態は複雑だった。現在と少し前の過去を見たらしい、ザッカリアの言葉に、納得する自分がいるが。
元気で良かったけど。何だ、その状況は。総長の話だと、意思の力だけで相手を封じる強敵のはずだ。なのに、イーアンは、運ばれてる最中に蹴りを入れていたとは。龍同士だから、男龍の力が及ばなかったのか。
想像と違う・・・・・ もう今頃、手篭めにされて(※卑猥)とんでもない事態になっていると(※子作り)。天に辿り着いたら乗り込んで、その男龍のチン○を剣で切り落としてやろうと思っていたのに。
まさか食ってるとは。食っちまった。それも龍になって、相手に齧り付く・・・・・ 想像すると恐ろしい光景だった。
もう、オーリンも要らないような気さえする(※いても使わない)。ザッカリアはニコニコして『俺のお母さんは強い』と無邪気に喜んでいる。普通の母親は龍にならないし、攫われて激怒して攻撃はしない。着いた先で相手の男を食いもしない(※食われると知ってたら攫ってない)。
ふと褐色の騎士を見ると、彼もまた困惑していると分かる表情だった。当然だなと思いつつ、さて。オーリンを呼び出したが、どうすれば良いのかとタンクラッドは作戦変更する。
イーアンを放っといて良いのか。それも選択肢に入ってしまった現在。どっちかというと、放っておいた方が、こちらはただの人間だし負傷者が出なくて済むような。イーアンは何だか大丈夫では、と思い始める。
ちょっと顔を動かすと、総長と目が合った。総長は安堵で少し泣いたようだが、もう落ち着いている。ということは。じーっと見つめていると、総長が頷いた。やっぱり。
「助けに。行くのか」
「多分。行かなくても帰ってくる」
総長はゆっくり頷いて、愛妻を信頼しきった(※世界最強の妻)穏やかな顔でそう言った。その場にいる誰もが、きっとそれが正しいと思った。
そして間もなくして、オーリンが支部に着き、門番に案内されて二階の廊下へ連れて来られた。全員が弓職人の登場を複雑そうな目で見る。
オーリンの表情もまた、何をどうすれば良いのか悩んでいるようだった。そして、彼は少しずつ、自分のいた場所・空の様子を話し始めた。
*****
崩壊したルガルバンダの家の周りは。ちょっとした騒動。
といっても、この場所はイヌァエル・テレンの中でも、イーアンたちが最初に降りた場所より距離があり、浮島になった幾つかの場所の一つ。ルガルバンダや他の男龍が棲家にしている地域のため、男龍と女龍イーアンが一箇所に集まっている状態だった。
龍に変わったイーアンは、怒りのままに、ルガルバンダを口で摘まみ上げて(※これが上半身を食べた光景)その辺にぶん投げようとしたが、上手く出来なくて(※初掴み)もう一度口を開けたら、男龍が全身入ってしまった(※全部食べた光景)。
おえっとすぐに吐き出し、落ちたルガルバンダをもう一度摘まもうとして、ルガルバンダの攻撃を受けた。イーアンの顔の前に光の壁が現れ、イーアンを阻止。
ムカついたイーアンは光の壁に吼える。すんなり、壁は消える。ルガルバンダが少し驚いたように、自分も龍の姿に変わった。白さにうっすらと碧が見える逞しい姿の龍は、ミンティンよりも3倍ほど大きく見えた(※建ぺい率比較による)。
だがよく考えると。イーアンは気が付く。私は彼を見下ろしているような・・・・・ あら。この男、意外にちっこいかもしれない。自分の姿は見えないので、生意気な人攫いヤロウを観察する。これ以上大きくならなさそう。
睨み合う2頭の龍。睨み合ってすぐにイーアンは、自分の見下ろす生意気ヤロウの後ろから、人影(※とても小さい)が4つ近づいてくるのに気がついた。彼らは近くまで来て、男龍とイーアンの間にすすすっと立ち並ぶ。彼らは怖くないのね、と思ったイーアンは、彼らをよく見ようと顔を下げる(※ルガルバンダ眼中にナシ)。
「食べるな。何もしない」
一人の男が叫ぶ。頭から角が生えているので、全員が男龍だとイーアンは理解した。叫んだ男はかなりの本数が頭から生えている。皆さんイケメン・・・じゃなかった。いや、イケメンだけど。そこじゃない。それはともかく。
彼らも、ルガルバンダと同じような性格だったらと思うイーアンは警戒する。食べないけど・・・さっきも食べなかったのに。イーアンがじっとしていると、横の男も歩み寄ってイーアンの爪に触れた。この人は翼がある。
「すごい大きさだな。でもこの大きさはいくらでも変わりそうだ。君が、そうか。来たばかりの」
勝手に触られて嫌なイーアンは、ちょっと手をずらす。男がすぐに手を引っ込めて『怒るな。何もしないから』と笑った。
「戻れないか。龍の状態じゃ話せないのは知ってるか。戻って話そう。こいつが抜け駆けして、怒らせたのは分かってる。でもこいつはそういうヤツなんだ」
皆、そういうヤツじゃないの、とイーアンは疑う。これが性質なのであれば、あの日の帰りがけ、ミンティンが男龍に会わないことを勧めたのも理解できる。きっと。龍の一族でも一番、極端なのが男龍のような。
ルガルバンダに、姿を戻すように言うお友達を見つめる。ルガルバンダは龍になっても強気なのか、嫌がっている様子。
お友達の一人が浮き上がって、イーアンの顔の前に来た。その人は角が10本で、ミンティンみたいな背鰭もある。艶やかな毛を後ろに撫で付け、体は全身模様のある白赤色。
で、イーアンはちょっと困った。この方々は、アレが出しっぱなし・・・・・ 衣服ナシ。見ないようにはしているが、困る。さっきも気がついてすぐ、ルガルバンダに怒ったのも、それが理由に大きくあった(※逆さ吊りだとアレが近い)。
使わないのに何であるんだろう、とイーアンな疑問を持つが、とにかく見ないことに徹底する(※しか出来ない)。
その人は名乗った。『俺の名前を教えよう。ニヌルタ。お前は何という名だ』ニコッと笑って自己紹介する素っ裸の男にイーアン悩む。これは。元の人間状態に戻らないと喋れない・・・けど。それを知っていて名乗らせようとしているってことは。
「ニヌルタ、無駄だ。彼女は人間の姿に戻ったら、危険だと感じているぞ。約束しろ」
下で叫んだ男の声に、ニヌルタは何度か頷いて向き直る。『約束しよう。何もしない』どうだ、とばかりに笑顔。
これで良いと思っちゃってるよ、この人。イーアンは不愉快。攫われて、意味も分からずここにいる私。何だこれはと思う。
まだ仏頂面のイーアンに、別の男が浮かび上がってきて見つめる。その人は、額から縦に並んで生える2本の反り返る角、輝く鱗が体の横にあって、赤銅色に銀色がかかっている体に翼付き。
「私はタムズ。思うに。何も知らないだろう、龍のことも。自分のことも。今、手始めに重要なことを教える。約束と私たちが一度言えば、決してそれは破られない。言葉の裏を突くこともない。これで良いか?」
それでも信用しないでイーアンが黙っていると、別の男も浮いてきて『機嫌を直せ。ルガルバンダの行動は驚いただろうが、興奮しただけだ。何も知らないお前には気の毒だが、きっと話せば理解できる。俺はシム』こめかみと耳の上から大きな角が横に向かって生えた、白と藍色のマーブル模様の男が言う。
「龍は嘘はつかない。それを信じろ。人間は嘘をつく。俺たちはつかない。半分以上が龍だからだ」
シムと名乗った男に説得され、イーアンはちょっと目を伏せた。反応を見て取ったタムズは、イーアンの目の側へ来て、ちょっとだけ大きな瞼を撫でた。
「嘘をつくと思われるのは心外だが。そうした行為と受け取ったなら、それはこちらの落ち度だ。もし嫌なら、もう一度、龍になれ。人間に変わった後、ここに私たちが全員いればすぐに龍に変われる」
ここまで言われると、さすがに交渉に応じる気になるイーアン。イーアンも、聞きたいことはある。
龍になる方法は分かったので、人間の姿に戻ることにした。危なかったらすぐ龍になって、こいつら全部口に入れて、地上に連れてってやると(※ばっちい場所)決めた。
人間の姿の自分は、寂しいかな。ただのおばちゃん。
おばちゃんを想像すると、稀代の女龍は、あっさりとおばちゃんへ戻る。これも情けないが止むを得ん。おばちゃんイーアンは、がっかりされてそうで、ちらっと彼らを見た(※きっと若くて美人だと思ってる気がする⇒現実残念)。
案の定。皆さんは、小さくなったおばちゃんイーアンを見て、目を丸くして驚いていた。呆れているようにも見える。
人間状態だと、ルガルバンダも大きかったが、どうも全員が3mはある様子。私半分(※163cm)。あ~、やだやだと顔を背けるイーアンに、タムズが近くに来て、背を屈めてから顔を寄せた。
「本当だ。ズィーリーそっくりだ。でも。彼女はもう少し、女の要素があった気がする。君はもっと精悍だな。とても綺麗だ」
それはどういう。イーアンは誉められたのかどうなのか、分からない言葉を受けて、タムズの顔を見た。どこかザッカリアの瞳を思い出す、明るいレモン色の瞳を見つめ、タムズの言葉の意味を促す。
「中間の地と似た世界にいたから、体は年齢を経るのが早かったんだな。にしても、こんなにぎりぎりまで女を削るとは。いや、これは見事だ。美しい」
・・・・・悩む言葉。女の要素もなく。ぎりぎり女状態(←好きで削ったわけでもない)。それを美しいとか見事とか言われても、お礼も言えない(※豊満に憧れた、物心ついてからの30年はなんだったのか)。
シムも近づいてきて、跪く。イーアンの頬にそっと手を添えて自分に向かせる。怖がらせないようにしているのは分かるので、イーアンも唾を飲み込んで警戒しつつも従う。
「ふむ。生き写しと言われればそうか。だがタムズの言葉は正しい。俺もズィーリーと間違えるかもしれないが、よく見ると彼女よりも男の風貌だ。年齢もあるのか。ふっくらした感じがないから、男のように見えるのか」
黙るイーアン。もう何も思ってはいけない気がする。きっと彼らの美が違うのだ。そう決定する。他の2人も来て、イーアンを観察する。皆、口を揃えて言うことは一緒。ズィーリーと似てるけど違う。そして聞かれた。
「名前を教えろ。俺たちは名乗った。お前の番だ」
「私はイーアン。ルガルバンダは私を知っていると言ったけれど」
「こいつの力だ。時代を見通す。時間を彷徨う。お前がこの前、空に来た時間を見たのだろう」
「違うぞ、シム。ルガルバンダはファドゥの親だ。名前を聞いたんだろう」
げーっと思うイーアン。ズィーリーさんは、こんな男の。一時的とはいえ、奥さんで良かったのか?嫌そうな顔で、後ろにいるルガルバンダを見る。ルガルバンダは無表情でイーアンを見て、少し溜め息をついた。
敬語で話す気になれないルガルバンダが最初なので、イーアンは他の人たちにも難しい気持ち。とにかく、自分の品評会は済んだらしいため、質問をすることに。
「(イ)教えてほしいの。私はなぜ連れられてきましたか」(※怒らなければ、つい敬語が出ちゃうイーアン)
「(タム)ルガルバンダは一番、君を待っていた。それだけだ」
「(イ)私は何を期待されたのですか」
「(シム)卵を孵してもらいたい。龍の子の女が到底及ばない精気と龍気を、卵は受ける」
「(イ)その場合は、どこで、どうするのです。どれくらいの期間ですか」
「(シム)場所はここだ。お前が胸に卵を抱く。眠る時は一緒に眠る。3ヶ月もすれば孵る」
「(イ)精気に負けると、孵らないと聞きました。負けませんか。私の精気が強ければ」
「(タム)だから卵も強い。私たちの卵だ。今は龍の子の、女に任せている」
「(イ)生まれた子は、龍の子となる場合が多いという話です。それでもですか」
「(ルガ)そうだ。ファドゥを見ただろう。俺たちとは並ばないが、龍の子の中でも、ファドゥは優れている。稀に俺たちのように、男の龍も生まれる」
「・・・・・・・」
ルガルバンダの声で、イーアンは黙る。
嫌われたと分かりやすい態度に、ルガルバンダが眉を寄せて苛立ちを見せた。『根に持つのか。そういうところは女そのものだな』嫌味を吐いて、さらにイーアンのキライ率を高めていた。
「(イ)話を続けます。私が拒否したらどうですか。
私は旅に出ます。あなた方の関わりない、地上の魔物を倒すために呼ばれたからです。あなた方にとって、どうでも良いかも知れませんが、私には重要です」
「ビルガメス。話をしてやれ」
シムが、最後まで名乗らなかった男に振る。ビルガメスと呼ばれた静かな男は、この中で一番体が大きく、透き通るような淡い白や水色の体。オパールのような美しい体に、捻りのある真っ直ぐな角が一本、額から出ていた。長い髪は波打って揺らめき、髪の色も朝の海のようだった。
ビルガメスはイーアンの側に寄り、横に腰を下ろす。それからじっとイーアンを見て、ちょっと顎に触った。
何度か小さく頷いてから『実に可愛い』と呟く。何がどうとか(※女じゃない発言)ではなく、素直に誉められて、イーアンはちょっと微笑んだ(※やっと)。
微笑んだイーアンを見て、ビルガメスの目が見開く。『笑った。笑ったぞ』仲間の男龍に嬉しそうに教え、他の男龍も『見ていた』と笑顔になる。ルガルバンダだけは、つまらなさそうだった。
もう一度イーアンの顎を押さえ、その目を見て、ビルガメスは自分が微笑んで見せた。『俺はビルガメス。精霊と交信する男龍だ』この自己紹介にイーアンは大きく頷く。やっと手応えだと実感した。
「笑ってくれ。イーアン。怒らせて悪かった」
「一度。私は戻りたいです。ドルドレンが心配しているのです。だから」
ビルガメスと他の男龍は視線を交わす。それからすぐにシムがイーアンに提案した。『一緒に行く。お前は龍の姿で行け。そして無事を伝えて、もう一度ここへ』イーアンがそれについて意見しようとすると、タムズが遮った。
「帰さないとは言っていない。今すぐ中間の地へ向かい、無事を告げてここへ戻って、続きを話す。終われば戻す。それなら良いか」
「約束しよう。約束だ。夜の間だけ、ここで話を聞け。明日の朝に帰す」
タムズとニヌルタが交渉。イーアンは時間が勿体ないので了承した。そして、彼らが一緒について来るのもあって、地上でも龍でいられると分かる。消耗するだろうから、それですぐに戻るのかと思い、その場でイーアンは龍になった。
「無事を報告する時は人間に戻れ。俺たちから離れるな。報告したら龍になるんだ」
ニヌルタに念を押されて、イーアンは頷く。大きな白い龍に変わった自分を、ドルドレンはどう思うのか。それも男龍と一緒。きちんと自分の現実を説明する、そういう時なんだと、気持ちを引き締めて地上へ向かった。しかし、ルガルバンダだけは来なかった。
お読み頂き有難うございます。




