465. 慰労会~騎士の気持ち
明けましておめでとうございます!今年も宜しくお願い致します!!
戻ってきて、疲れたイーアン(※夕方親方が一番疲れた)は伴侶にただいまをしてから、お風呂へ向かう。そして、お風呂場の前の椅子に、先に座っている誰かを見て、伴侶は大きな溜め息をついた。
「一緒に入ろう」
ザッカリアが待っていた。保護者ギアッチもすまなそうに側に立っている。『この子がね、今日はお母さんに話したいことが、たくさんあるって』ちょっと総長を見てからギアッチは理由を言う。
「慰労会でも良いだろう」
「ダメだよ。煩いから聞こえないでしょ」
伴侶は壁に倒れかけ、ギアッチに支えられた。イーアンは苦笑いしながら『そうね。初めて戦ったものね』と了承する。喜ぶザッカリア。汗もかいたのに、イーアンと入るために待っていてくれたのか、と思えば。
「入ってきます」
「うう。辛い」
壁に凭れる伴侶を慰めて、イーアンは脱衣所へ。ザッカリアはちょっと総長を見て『ごめんね。でも時々にするから、イーアン取ったりしないよ』大丈夫、と総長を撫でた。ギアッチはそんな子供を見て頭を振り『本当に思い遣りがあって、良く出来た子だ』と大人なザッカリアに感心した(※子供な総長)。
で。お風呂。イーアンは最近。いつこんなことがあっても慌てないように、ちゃんと着替えと一緒に大判の布も持っている。もう3度目くらいだから、ちょっと慣れてきた。ザッカリアが先に入ったので、しっかり体に布を巻き、イーアンもお風呂。
毎度のように体を洗い、湯をかけてもらって。背中をちょっと洗われて、お返しにザッカリアの背中を洗ってあげて。ザッカリアが湯船に入ったら、イーアンは急いで髪を洗い、やっと湯船。
気を遣う入浴ではあるが、ザッカリアの子供の心を考えれば、このくらいはしなければと、お母さん宣言をしたイーアンは思う。
ザッカリアは嬉しそう。入浴が一緒というのもあるし、話したいことがたくさんあるのが嬉しい。
体は少し大きくなったが中身は子供のままなので、お母さんイーアンにくっついて、昨日の魔物との戦闘や馬に乗ったことなど。回収も面白かったこと、最後はショーリと馬で駆けたこと。思い出すままに話した。
「ザッカリアは強くなります。来た時よりも、もうとても強いでしょ?もっともっと強くなるのよ」
「俺もそんな気がする。イーアンに近づくみたいで嬉しかった。一緒に旅に出たら、きっとずっと凄く強くなるよ」
ニッコリ笑って、イーアンは自分の肩に、頭を乗せて楽しそうに喋るザッカリアの髪を撫でた。『なります。あなたはどんどん強くなるもの』すぐよ、と一層微笑んだ。
「イーアンは俺と結婚する?」
「それは難しいですよ。ドルドレンが先に約束していますもの。そうでなかったとしても、年が相当離れているのは大変問題です。あなたが大人になったら、私お婆さんです。確実に困ると思います」
「でも龍に乗りたいよ」
「結婚しなくても乗れます。タンクラッドは好きに乗ってるでしょ(※Myミンティン)」
そうだけど、とザッカリアは俯く。『でもずっとは乗れないよ、タンクラッドおじさん。イーアンと結婚したら普通の人間も、ずっと乗れるけど』総長が結婚したら、俺乗れないから困るよとぼやいている。
「普通の人間。私も普通の人間だと思います。ザッカリアは、何が違うか知ってるの?」
「イーアンはここに来て、もう女の龍になったでしょ。あの弓の人もそうだよ。あの人、皆と同じふうに見えるけど違うの。あの人落っこちちゃっただけで、イーアンの親戚だから龍がいるんだよ。俺も龍の親戚なら乗れるけど、違うから困る」
不思議なことを聞いたイーアンは。『じゃ、ザッカリアは誰なの』と急いで言いかけ、もう少し詳しく聞こうとしたが、向こうで伴侶が裏声で叫び始めたので(※我慢限界)ザッカリアは『合図だ、またね』と笑って出て行ってしまった。
『どんな意味だったんだろう』呟くイーアンは、その意味を考えながら、少しして風呂を上がった。服を着て脱衣所を出ると、伴侶がぐったりしていて、今日はギアッチもザッカリアもいなかった(※放置)。
崩れる伴侶を抱え起こし、イーアンとドルドレンは慰労会の広間へ向かう。ぜーぜー言う伴侶の背中を撫でながら、イーアンはさっきの不思議な話をした。荒い息をつきながらも、伴侶は意識を取り戻す。
「何?ザッカリアが、イーアンを女の龍と。オーリンも気になる。彼が落ちたと言ったのか。龍の民は地上にいないと、タンクラッドが話していたが」
「それにあの子もです。あの子は自分が誰だか言いませんでした。でも普通の人間とも違うような」
『それを訊かなかったのか』ドルドレンはイーアンに訊ねる。イーアンは、ドルドレンの叫びで会話が終わったことを話す。伴侶は額を押さえ『俺としたことが』後5秒耐えていれば・・・無念そうに呟いた。
「ぬう。とにかく慰労会だ。明日は休みだし、ちょっと顔を出して早く部屋で休もう」
そうしましょうと答えて、イーアンとドルドレンは皆が待つ広間の席へ入った。慰労会の席はもう出来ていて、32名分のご馳走と酒が並んだ長机に、全員が着席で始まる。
イーアンは風呂上がりで暖炉の側だが、今日は冷えると、着替えは襟のない乳白色のブラウスと、丈の長い青いスカート。冬服を着るのもあとちょっとで、名残惜しさも兼ねて着用。伴侶が横でメロメロしてくれて、お礼を言う。
ドルドレンはイーアンの真横。ザッカリアも真横。子供の横はギアッチ。向かいはトゥートリクス。斜め前にフォラヴとスウィーニー、シャンガマックとアティクが並ぶ。ドルドレンの横にロゼール。
クローハル隊とコーニス隊もその並びにいるが、クローハルはイーアンが見える位置に陣取っている(※毎度)。
「イーアンの料理だけ違います」
ロゼールが総長越しにイーアンに微笑む。イーアンも気が付いていた。総長も『ふむ』と頷く。とりあえず『全員の無事の帰還に感謝』と挨拶して、慰労会開始。それからドルドレンはイーアンの皿を見て、ロゼールに質問。
「これは」 「それ、ヘイズが得意なんですよ。野菜を蒸して潰した料理で」
「うむ。見た目を覚えている。イーアンがヘロヘロになった料理だ」 「そうですね。前作って以来、得意料理に加えたようです」
「黄色いけど。これもそうか?野菜なのか、この色は。見たことないぞ」 「それは基本、卵ですよ」
「肉とかはあるのか。魚とか」 「ヘイズは肉は出汁で使っていましたけど。どうかな」
美味しい・・・少しずつ味わって頂くイーアン。そう。ヘイズの繊細で手の込んだ料理は、とても奥深い。まだ病み上がりだと気を遣ってくれた、この忙しい中での療養食。ちらっと厨房を見るが。
「ヘイズは中ですね。昼から入ってるけど、今は忙しいかも」
ロゼールの言葉に頷いて、イーアンはちょっとヘイズにお礼をと席を立つ。厨房へ行くと、ヘイズが一人で奥にいた。他の料理担当がいない。声をかけて、療養食のお礼を言うと、ヘイズは微笑んだ。
「いつも有難うございます。今もとても美味しい食事に感動していました。もうそろそろ通常食でも大丈夫です。今日は忙しかったですね」
「イーアンが元気になってくれて。お手伝いできて良かったです。ところで相談があるんですが」
ヘイズはイーアンに相談する。何かと思ったイーアンもそれを聞いて、笑顔になる。『良い機会です。どうしようかなと思っていたし』イーアンが了解して、腕まくりすると、ヘイズは笑って『手伝います』と調理台に並んだ。
「帰ってこないな」
ドルドレンは厨房を眺める。料理は半分も食べていないのに、イーアンが消えたまま20分は経つ。ふと、アティクが顔を上げた。総長はアティクの視線に気がつき、そっちを向く。
「あれだ」
無表情な顔で何かを確信した様子。トゥートリクスも、肉を食べながらピタッと動きが止まる。『あ、あの匂い』そしてさっと厨房を見た。ドルドレンは二人の反応の続きを待つ。
「おい。あれじゃないのか」
突然、クローハルが酒の容器を置いて立ち上がる。ジゴロの甘いマスク、その顔が輝く。『何だというんだ』総長は酒を置いて、反応のある部下たちに続きを言うように促す。
その後すぐ、厨房からイーアンとヘイズが出てきて、こっちに来るのを見た総長。手に大皿を持っている。イーアンもヘイズもニコニコしている。
「即興です。ヘイズが一緒に作ってくれました」
今日は時間がなくて作れないかと思った、そう言いながら、イーアンは大皿を伴侶の前に置いた。大好きな良い匂いのイカタコと魚の唐揚げが・・・・・ 『これか!』総長の表情がぱっと明るくなり、すぐに一つ摘まんだ。凄い勢いで、アティクが総長の横から中皿(※微妙にでかい皿)と腕を伸ばし、欲しい分を横取りする。
ヘイズが二皿持ってきて、それぞれクローハル隊とコーニス隊の前に置き『材料の残りが半端だったんですよ。だからもう出そうって話して』これは人気ですからと笑った。
「これ、俺大好き」
ザッカリアは成長期。がさっと皿にとって、ギアッチと分けて食べる。フォラヴも嬉しそうに皿にひょいひょいと盛って『なかなか素敵な演出です』とB級グルメを好んでいる様子。シャンガマックも同様。ざっと空き皿に欲しい分を取って、微笑みながら味わう。
マナーのある紳士スウィーニーは、大柄だからたくさん食べたいものの。料理の皿に少し取って味わうのみ(※躾が行き届いている場合)。皆の勢いに押されたトゥートリクスも、イーアンに取り分けてもらって無事に入手。
ロゼールはクローハル隊の皿から強奪。クローハルにわぁわぁ言われながら『神様の導きで』と会釈して食べた。クローハルも自分の皿に、多すぎるくらい(※躾が行き届いていない場合)盛って独り占め。
コーニスたちも唐揚げが好きな人は多く、特に最近登場した海産物が加わったことで、楽しんで食べている。
こんな賑やかな席。困るのはショーリだけ。『イーアン。これしかないのか』量を指摘され、イーアンは悩む。
「そうなのです。ちょこちょこ揚げていたから、結構使っていまして。もっとあったように思いましたけれど」
ヘイズと二人で顔を見合わせ、大きなショーリには、おつまみにもならないねと困る。総長がショーリに『我慢しろ』と眉根を寄せて注意すると、クローハルも皿を抱えて(※絶対分けないアピール)『贅沢言うな』と叱った。
「食べた気がしない。口に入れた途端、どこか行く」
それを食べていると言うんだ、とクローハルが困って教えるが。実際、唐揚げ一つが、ショーリの親指の先くらいしかないので(※手も口も顔もでかい男)不憫にも思える。
イーアン、ここで思いつく。果たして食べるかどうかは賭けだが。残った箇所は、別の料理にと思っていた部分がある。ヘイズに話すと、ヘイズはちょっと顔色を変えて『ええっと。でもはい、手伝いましょう』と戸惑いつつ了解してくれた。
「ショーリ。ちょっと試してみますからお待ちになって」
イーアンとヘイズは厨房へ走っていって、何か作り始めた。クローハルはショーリのせいで、イーアンが食事が出来ないとぶーたれる。ドルドレンもそこは応援。ショーリのせいだとぶーぶー文句を言った。
だが二人ともショーリに無視されて、全く相手にされないため、ものの1分で黙った。
10分程度で戻ってきたイーアン。後片付けをしておくから、とヘイズが席に戻してくれた。イーアンは楕円の大きい皿を一枚持ってきて、ショーリに出す。ショーリは皿の料理を見て、少し首を傾げる。
「これは何だ。串の。唐揚げだと思うが」
「顔です。イカタコの」
「顔」
あのね、とイーアンは説明。足を取るでしょ?そうするとすぐ上にお顔があって。それを開いて目玉と口を取ってから、串に刺して揚げました・・・『だから大きめ。味は良いですよ』ニッコリ笑って安心を促す。
周囲は説明を聞いた『顔唐揚げ』にビビリ、その長い串に刺さった唐揚げから離れる。
無言で串を持ち上げ、ショーリはじっと見つめてから齧り付いた。すぐに目を見開いてイーアンに『美味い。食い応えがある』と笑顔を送った。
「良かったです。顔だけならまだあります。この串でも、30匹分くらいは刺さっていますから。これならお腹に物足りなくありませんでしょう」
嬉しいイーアンは、厨房から様子を見ていたヘイズに手を上げて『完了』と合図。ヘイズも向こうで笑顔だった。
ショーリが満足そうに、30個の顔唐揚げをもぐもぐしている。イーアンは席に戻って、良かった良かったと自分の食事を再開した。伴侶はじーっとショーリの美味そうに食べるのを見て『イーアン。顔も同じ味か』と訊く。
イーアンは同じですよと答え、今度作ったら、あなたも食べましょうと微笑んだ。ドルドレンは本当に、彼女は献身的な性格だと見つめた。ショーリが人一倍食べるから、それに合わせてどうにかしようとする。自分は食べていないのに。
「優しいイーアン。俺も今度覚える。そうしたら手伝える範囲が増える」
思い遣りのある言葉に嬉しくなって、イーアンはドルドレンの肩に、ちょっと頭を凭れかけてお礼を言った。
ドルドレンはイーアンの髪を撫でて、大好物のイカタコを口に入れた。アティクに奪われたのは、白身魚の方だったので、イカタコはちゃんと確保出来ていた。イーアンにも食べさせ、顔を見合わせて微笑んだ。
料理も飛び入りで増え、賑やかに慰労会の時間が過ぎる中。イーアンとドルドレンは早めに引き上げる。皆に挨拶して、厨房にも声をかけてお礼を伝え、部屋に戻った。
残った輩は、専ら遠征の話で盛り上がる。
西の遠征は、北西が加わって半日で完了したこと。龍や職人のお陰もあること。それに ――どうやってもここに辿り着く―― 凄い装備だったこと。二次会に入り、ブラスケッドたちも加わって、今日新しく入った魔物の材料の話も場を沸かす。
西の騎士たちに羨ましがられ、自分たちの隊を眺めた時に本当に誇らしかったことを、クローハルや部下は満面の笑顔で語った。
ポドリックは『自分用の鎧を早く作ってもらいたい』と溜め息をついた。それを聞いて、ブラスケッドも『自分の鎧も』と言い出す。『そう言えば。今回は支障がなかったが、剣の鞘もぴったりじゃない』と言う声も上がった。
コーニス隊の部下が紙を持ってきて、意見を書き始める。皆で酒を飲みながら、あれこれと付け加えて申請書作成。これをイーアンに渡して、職人たちに見せてもらおうと話し合うが。
「でも。これだけ渡すと嫌味かもな。せっかくあれだけのもの作ってくれたのに、文句言っているみたいだ」
クローハルが呟くと、それはそうかもとコーニスも頷く。『お世話にもなりましたからね。ちょっと悪いよね』そういうつもりじゃないし、と。
「寄せ書きしましょう」
小僧な弓引きアエドックが酒に酔った赤い顔で、『皆でお礼を書けば』と言う。『それに何の意味があるんだ』ブラスケッドが呆れて言う。タンクラッドがそんなもの受け取って、気を良くするとは思えない。
「でも。手紙もおかしいですよ。これだけの人数がいて、手紙にお礼を書いて、続きに要望では。明らかに要望のためのお礼書きに映りそうです」
スウィーニーも顎に手を当てて、寄せ書き一票の理由を伝える。『別でお礼だけを書いて受け取ると、また違う印象では』ちらーっと卓上会議の面々を見て呟くと。
「紙が別になったくらいで、印象変わるか?」
ポドリックが苦笑いする。要は同じことと言い切るが、弓引きのヤンはスウィーニーに賛同する。『弓のお礼は。本当にお礼しかないので、別にして伝えたい』と真面目な顔で言った。
「オーリンは喜ぶかもしれないよ。あの人は明るいし、それとこれは別って感じの性格だから」
コーニスとパドリックは、弓を持ってきてくれた朝のことを思い出して頷き合う。『鎧職人は真面目な親子らしいから、きっと問題ないはず』とも話した。
「ミレイオはお礼を喜びますよ。魂の作品だから、文句・要望は言わない方が良い相手ですが、お礼書きだけであれば気を良くするでしょう」
料理を摘まみながら、そう言うフォラヴは微笑む。あの方は気持ちを汲んで下さいますよ、と妖精の騎士が後押しする。
「タンクラッドは難しそうだな」
ブラスケッドとクローハルが苦笑いする。『イーアンに任せれば良い』容器ではなく、瓶から酒を飲んでいたショーリが助言。『鞘のことは相談の形で話してもらえば良いだろう』それなら礼の紙も機嫌取りにはならない・・・巨漢は2本目の酒を呷って提案した。
「そうか。まぁ。サージの親父のところもダビが行くらしいから。あの二人に剣の話は任せるか」
そうだ、そうだ、そうしよう。といった具合で話はまとまり。
二次会の席で、職人宛のお礼書きの紙に、それぞれが思いを書き込む時間が始まった。酔いは回っても意識は紳士のスウィーニーが、きちんと失礼がないかどうか確認し、要望の紙も職人別に書いたものを添えた。
二次会はこの後も続いて、楽しい楽しい酒の夜が過ぎて行った。




