458. 夜営地で一泊・民話
2頭の龍が夕暮れ最後の光の中を降りてきて、全員が揃った谷でそれぞれお互いの無事を喜び合った。
「野営地だな。もうこの時間では」
ドルドレンはミンティンを降りて、イーアンに言う。疲れ切っているが笑顔の伴侶に、イーアンも苦笑いで頷いた。『お風呂は明日ですね』汗かいたけれどと寂しそうに笑う。
「オーリンとタンクラッドはどうするのだ」
皆が馬に乗り始め、野営地へ向かう騎士たちが歩き出す中で、ドルドレンは職人2人に今夜の予定を訊ねた。オーリンは『俺は一緒で』とあっさり。タンクラッドは少し考えて『イーアンの具合もあるかな』とイーアンを見た。
「それはどういう意味だ」
何それ、目の据わるドルドレンを無視し、タンクラッドはイーアンを覗き込んで、額にかかる黒い螺旋の髪をちょっとずらす。『お前。戦わないと言っていただろう。どうなんだ、今』様子を聞かれて、イーアンは『それほど疲れていません。痛いところもありません』と正直に答えた。
「そうか。でも何かあったらすぐ、ミンティンと俺がいた方が良いから。今夜は一緒にいよう」
「結構です」
ドルドレンは、自分を無視したタンクラッドの発言を即断り、イーアンと剣職人の間に滑り込んで、愛妻を背中に隠して守る。『タンクラッドは仕事があるだろう。戻れ』しっしっと追い払って、イーアンをクロークに包んだ。
「イオライでは夕食の時間も楽しめた。外で焚き火も良いだろう。お前の親方だし、こういう時は側にいないとな」
丸きり。総長を無視してタンクラッドは微笑み、うーんと両腕を上に突き上げて体を伸ばす。ミンティンに『疲れたな。戻っていいぞ』と声をかけた。ミンティンはちょっと考えて、クロークの隙間から見えるイーアンをじっと見た。イーアンは青い龍の視線で気が付く。
「あら。タンクラッド。あなたには馬がありません。ミンティンはあなたの徒歩を望んでいないようです」
「ああそうか。すまんな。じゃ、先に野営地へ行くか。イーアン、ほら」
タンクラッドは手を伸ばして、総長のクロークの中のイーアンを抱え上げ、さっさとミンティンに乗る。流れるような一連の動作に、周囲はぼうっと見ているだけ。あっという間に浮上して、『ミンティン、野営地だ』と一言告げたと思ったら、青い龍は二人を乗せて野営地へ行ってしまった。
「何だあれは」
「総長にはウィアドがいます。早く行きましょう」
ディドンが側に来て、ウィアドを回す。総長は仏頂面でウィアドに跨る。ウィアドも主のその顔に、心なしか機嫌悪そう。
オーリンも自分の龍に再び跨り、『野営地でな。俺も先に行くよ』そう言ってひゅーっと飛んで行った。
「俺だって。ミンティンの背中で立って戦ったのに。頑張ったのに。俺だけ外して。俺だって」
ちょっとぼやきながら馬を進める総長に、ロゼールが近づいてきて『もうちょっと男らしくした方が』と朗らかな笑顔で、厳しい言葉を刺した。
睨みつける灰色の瞳から、顔を逸らし馬を下がらせるロゼールと交代で、ショーリが『回収はどうする。集めないと』こんな夕暮れで皆が疲れ切っている中、業務的なことを指図する。
「この暗さじゃ無理だろう。お前は後から来たから体力が有り余ってるだろうが、皆はへとへとだ」
不服そうな顔で巨漢は下がる。続いてギアッチが寄ってくる。『何』総長はぞんざいな物言いで用を訊く。『ザッカリアは今日、初めて戦ったでしょ。お腹が空いちゃったって』ギアッチが困ったように、持って来た飴が足りないと言う。
「ショーリ、ショーリ!あいつなら干し肉持ってるから!肉もらって」
そんなことで相談に来るな!と総長は子煩悩ギアッチを追い払う。入れ替わり立ち代り、この後もドルドレンの側に馬を寄せては、騎士たちのそれぞれ、思う所をいろいろと言いに来た。
ドルドレンも疲れているので、もう適当。後半は『後で』を連発した。
自分にも龍がいれば。こんな時、あっさり引き離せるのにーと思う。その思いは、賢いウィアドに通じたのか、突然振り落とされた。
目の前でいきなり落馬した総長に慌て、周囲が急いで助ける。悔しさと恥ずかしさに顔を歪めるドルドレンは、部下に支えられて立ち上がる。ディドンがすぐに、ウィアドの手綱を取って戻ってきたものの、ウィアドが怒って乗せてくれないので、仕方なし、総長はショーリの大きい馬に乗ることになった。
踏んだり蹴ったりだ!俺は頑張ってるし、俺が何したっていうんだ!!
総長はショーリの後ろできーきー怒るが、巨漢は無視する。そしてショーリの馬は大き過ぎて、別ルートのため、総長の文句を聞き続けるのはショーリのみになり。
ずっと、ぶーたれていたら、ついに巨漢に怒られた(※『静かにして下さい』)。怒られてブスッとなり、ドルドレンはそこからは黙りこみ、仏頂面のまま大人しくしていた。
野営地に先に着いたイーアンとタンクラッド。イーアンは西の騎士の野営地で、焚き火跡に火をいれようとすると、すぐに親方が来て代わりに火を熾してくれた。
お礼を言って火を任せ、馬車の荷台にある、お鍋や食材をちょっと拝見するイーアン。暗くてよく見えないが、多分これかなと思うものを見つける。ただ。
「私たち。やはり帰ったほうが良いかもしれません。考えてみたら、食材は、交代の西の騎士たちの分です」
親方にそれを言うと意味を訊ねられたので、イーアンは、自分たちは援護で来たけれど、本当は西の支部に帰る予定だったことや、交代で戻るはずの西の班も全員今日はいることを話した。
「それじゃ全然足りないな。3倍くらいという意味だろう?ざっと見て、合計80人くらいはいたぞ」
「負傷者の方と支部に残る待機陣を除いても、現地に出ている西の騎士は数が多いです。きっと私たち30人くらいを合わせたら、そのくらいの人数はいるでしょう」
「そうだな。テントもないだろうに。野宿にしても寝具がない。体を包むものがないと、ここは雪も残っているし冷える。どうする、あぶれたヤツは運ぶか。ミンティンで」
二人が話していると、オーリンも来て、事情を知る。『なんだよ。逆で良いんじゃないの』オーリンは首を傾げる。逆って?イーアンが訊くと、弓職人はイーアンの頭をぽんぽん叩く。剣職人の目が据わる。
「ちょっと考えれば分かるだろ。食料、こっちに運ぶ方が楽だろ。テントなり寝具なり。ミンティンは、馬車一台くらい持ち上げられそうじゃないか。支部で馬車に荷物入れて、こっちに持ってくれば。帰りの馬はこっちでくっ付ければ良いと思うよ」
イーアンは感心する。タンクラッドも『まぁそれでも良いのか』と頷いた。タンクラッド的には、自分がその発案を出来なかったことに、少し微妙な気持ちだったが、そこは大人なので、隠してさらっと流す。
こうしたことで、最初にミンティンで西の騎士を一人迎えに行き、彼とイーアンは一緒に支部へ向かって、西の支部で事情を話し、食材とテントなどを馬車に詰めた。待機陣が手伝ってくれたので、馬車一台に荷物を入れるのは早かった。
「馬車だけですよね」
そうです、と答えて、イーアンはミンティンにお願いする。人間が乗っていない馬車なので、ミンティンは前足でがっつり馬車を掴んで(※メキッて鳴った)飛び立った。
「初めて龍に乗りましたけれど。凄い早いし、とても力持ちだし、びっくりする生き物ですね」
西の支部版ロゼールみたいな騎士は、龍の背で楽しそうにイーアンに言う。イーアンも振り向いて頷く。『この仔がいることで、どれほど助けられているか』これも祝福ですね、と微笑んだ。
西の騎士も微笑んで腕を伸ばす。『僕はユーリ・オゼノフです』30手前くらいなのか。しっかりした体つきに、明るい茶色い髪、水色の瞳の騎士は笑顔で握手を求めた。
イーアンはその手を握って『イーアンです』と短い自己紹介。彼は笑って、有名だから知っている・・・と言った。
「僕はこの後、料理担当です。良かったら火の側で暖も取れるし、お話を聞かせてくれませんか。あの飛んでくる魔物を倒したんですよね?あれ、子供の頃に聞いていた民話の怪物みたいで、僕は怖かった。あなた達は恐れ知らずで尊敬します」
ユーリの話にイーアンは関心を示す。『民話があるのですか』それはどんな、と訊ねると、ユーリは暗い夜空の中、下に見える焚き火の明かりを指差し『もう着きます。着いたら是非お話を』と微笑んだ。
タンクラッドとオーリンが待っていると、空から龍が降りてきて、野営地に馬車を一台そーっと置く。『この中に全部あるのか』オーリンがミンティンの背中に声をかけると『そうです~』と間の抜けたイーアンの声が帰ってきた。
イーアンはミンティンを空に帰し、ユーリと一緒に馬車の荷台から食材を下ろした。『私もお手伝いさせて下さい』イーアンがお願いすると、まだ他の騎士たちが到着していないのもあって、ユーリはとても喜んで承諾した。
「俺も側にいる」
「俺することないから、ここにいるよ」
何も手を出さないにしても、タンクラッドとオーリンも焚き火側に座った。イーアンはユーリと一緒に、皆さんが戻る前にせっせと調理を始める。騎士たちが戻るまで、まだ10分くらいはかかるとユーリは言う。
「少しでも先に作っておけると。皆お腹空いていますから、きっとホッとしますよ」
ユーリは手際良く、肉切り台で野菜と肉を切って鍋に入れる。水を運んできてイーアンもお手伝い。ユーリが味付けを任せてくれたので、イーアンは使って良い食材を選んで、自分の味に仕立てた。後は煮込むだけ。騎士たちはまだ戻らない。暗いからゆっくりなのか。
煮込んでいる間、ユーリは話をしてくれると言うので、イーアンはブレズを3段に切りながら、ユーリに塩漬け肉をスライスしてもらうことにした。90個近いブレズなので、それを脇に置いて切っていると、親方も手伝ってくれた。オーリンも何かすると言うので、乾燥木の実を鉢に入れて砕いてもらう。
4人で焚き火側に座り、作業を始めると、遠くの方から騎士たちの声が少し聞こえてくる。『もうすぐかな』ユーリは微笑んで後ろを向き、それから話し出した。
「さっきの民話ですけれど。僕が小さかった頃・・・僕は地元なんで、この山よりも、もう少し西側手前の村出身です。お祖父ちゃんがよく話しました。体は人間とヘビで、翼が付いている化け物がいる話です」
ユーリは肉を切りながら話すが、その目は、ずっと昔、幼少の頃を見つめているようだった。
――翼のある化け物は、山奥にある宝を守っている宝の番人。昔々、世捨て人になった王様の隠した宝が、この番人を作った。
遠い国の王様が、ある時、自分の運命を全て捨てて、辿り着いた場所はここ。
この山の奥に、世捨て人たちが集まっていて、そこに加わった王様はすでに乞食のような姿だった。
どこへ行くともなく、当てもなく彷徨った王様は、欲もなく生活する人たちの一人として、ようやく心が落ち着いた。路銀代わりに持っていた宝物は、もう要らない。
それで王様は、ある日世捨て人の集まりから、ずっと奥地へ行って持っていた宝物を隠した。宝はきっと欲を生む。そんなのもう嫌だと、王様は思いながら、石の扉で封印した。
「でもね。王様は悲しいことに、その後、化け物になってしまうんです。王様が世捨て人の集まりに入って、平和に暮らしていた、ある日。
一人の兵士がやって来て、彼が王様だと断言し、王様は宝物を持っていると言うんですね。すると世捨て人の中の何人かが、宝を欲しがってしまいました。
王様はそんなものは持っていないと言うけれど、王様の宝に目の色が変わってしまった、欲を捨てきれない人たちが王様に宝を寄越すように脅かす。それも罪のない人を使って、宝と交換しろと言うんです。
悲しくなった王様は、化け物になってその人たちを殺してしまいました。欲を出さなかった人たちは無事でしたが、王様はもう人間じゃないから、宝の側で番人になってしまったんです」
「王様だったの」
「民話ですもの。イーアンが悲しい顔をすることはありません。王様の話の他にも、他のお年寄りに訊いた話では、欲のある人が宝を捜しに行って、呪われたらその化け物になったとかね。あるんです」
ユーリはこの話を、兄弟で食事や物の取り合いをする時、お祖父ちゃんに必ず聞かされたと、笑って話した。『欲張ってはいけない、醜くなる』と教えられた話だと。
「僕は怖くて。お年寄りが語り継ぐ地方の話ですから、絵本はないけど。家にその魔物の姿の彫刻があったり。山で遊んでいても石碑みたいな石に、それと分かる姿が彫られていたりで。子供にはキツイ話でした」
タンクラッドは鳶色の瞳を焚き火に輝かせながら、黙ってその話を聞いていた。切り終わった材料を組んで、4人が加工ブレズ(※サンドイッチ)を作っていると、向こうから、騎士たちが次々に野営地に入ってきた。
彼らは煮込まれている鍋の匂いに喜んだ。野営地は一気に賑やかになり、イーアンは立ち上がってテントを出そうとしたが、ユーリが止めて『テントは僕らが張りますから、料理を見ていて』と微笑んだ。
賑やかな野営地で、ブレズの続きを行うイーアンとタンクラッド、オーリン。オーリンは黄色い目をちょっと谷のほうへ動かし、沈黙を破る。
「今の話。本当のような気がする」
「お前もそう思うか。俺も同じだ。俺が若い頃に旅をした時。似たような話を聞いたことがある。似ているというべきか。手前と言うかな。罪の呵責に耐えられなくなった老王が旅に出て消えた話だ」
「それはどこでしょうか。本当の話なら」
「お前は今。見当がついているな。当たりだ。ヨライデの王だ。魔物に憑かれて世界を滅ぼしかけた王の行く末の話だった。幾つか残っているがな。死んだとか、自分で海に飛び込んだとか。連れ去られてまだ生きているとか。
そうした話の一つにあるのが、旅に出て消えた話だった。それも魔物の王から奪った秘法を持って」
イーアンは、ブレズに脂を塗って、肉と木の実を挟む手を止め、親方を見つめる。『それがここにあると思いますか』鳶色の瞳同士が見つめ合い、不安そうな光を浮かべる。オーリンは溜め息をついて、鍋をかき回した。
「明日。行ってみれば良い。どっちみち、気になるだろ。帰ったところで」
「帰る前に魔物の回収をします。その後でも、ミンティンと一緒に行ってみます」
オーリンは頷いて、『俺も行くよ』と同行の意を示す。タンクラッドも一緒に行くと言った。『お前だけでは危ない』龍に乗れる者だけが行こうと決めた。
テントを建てて戻ってきたユーリは、今度はイーアンたちの話を聞きたがった。イーアンはタンクラッドが下を向いているので、自分が話した方が良いなと思って、どんな魔物だったかをユーリに教えた。
「歌いますよね。あの歌を聴いて、僕は民話を思い出してしまって。怖くて仕方ありませんでした」
「ユーリの怖い気持ちを、膨れさせたのですね。私も歌を聴いた時は最初、不安ばかりでした。あの歌はそうした・・・人の心の不安を引っ張り出すような武器なのかも。
でもよく考えると、人の不安に付けこむなんて。何てことをするのかって。それに気付いたら頭に来ました。頭に来たらもう、倒すことしか考えられなくて。そうしたら歌は、聴こえなくなりました」
ユーリは感じ入ったようにイーアンを見て、『魔物相手に頭に来るのもなかなか』と笑った。オーリンもちょっと笑い『イーアンは突然、怒るからね』と頷いた。後ろで見ていたけど、怒らせると大変だと思ったと冗談を言う。
「オーリンは聴こえていなかったようでした。それはどうして」
ふとイーアンは思い出して質問。聞かれた弓職人は肩をすくめる。『怖い記憶って、結局は過去だろ。過去はここにないもの』過去があるのは頭の中だけ、笑うオーリンの言葉に、彼らしいなぁとイーアンは感心した。
「聴こえてるかと聞かれれば、聴こえていたよ。でもどうでも良いんだ。上手い歌でもないし」
アハハハと笑って、弓職人は自分の担当分のブレズを終わらせた。タンクラッドはそんなオーリンを見つめ、少し微笑んでいた。ユーリはオーリンにも感動しているらしく『自分もそんなふうに笑い飛ばせるようにならなきゃ』と笑顔を向けた。
食事の用意が出来て、料理担当の騎士たちも加わり、皆が夕食にありつく。遅くなったショーリとドルドレンも、良いタイミングで夕食。戻ってすぐの食事に安心したようだった。
「お帰りなさい」
「ただいま。もう今日はホントに疲れた。精神的に」
イーアンに迎えられ、ぶすっとしたドルドレンは愛妻に駆け寄って抱き締める。『先に行っちゃうんだもの』心のうちを弱々しくぶちまける総長。俺も龍が良かったとか、ウィアドに落とされたとか、ショーリに黙れって言われたとか、頑張ったのにと止め処なく、貼り付いたイーアンに言い続ける。
可哀相なのだけど、ちょっと可笑しくて。イーアンは焚き火の側に伴侶を腰掛けさせ、頭を撫でて慰めた。『ごめんなさいね。でも先に来ましたから、皆さんのお食事も取りに行けたし、テントも持ってこれました』イーアンの言葉に、ドルドレンはハッとする。
「そうか。足りないから。でも今日はどうするんだ。俺と二人で眠れない」
「今日くらいは良いでしょう。どなたかとご一緒で」
夕食を用意して、ドルドレンに渡しながらイーアンが言う。ドルドレンはこの上、眠る時までイーアン以外が一緒だと嘆いた。
「さっき騎士に聞いたが。8人用テントを4~6人が使うらしいな。となれば、俺は一緒でも良いだろうな」
タンクラッドが横で聞いていて、同室を宣言する。ドルドレンが嫌そうに睨むと、すぐ、オーリンもちゃんと頷いて『俺はお手伝いだから』と一緒のテントは当然・・・がっちり言い切られた。
ドルドレンは嫌々。本当に嫌々、おっさん2人(※自分より年上)の同室を認めざるを得ず、愛妻に貼り付いて、この援護遠征を嘆いた。腰に貼りつく伴侶に、せっせと食事を食べさせながら、イーアンはとにかく慰めて励ました。
そして夕食も終えた頃。自分たちのテントをあてがわれた4人は中へ入る。しかし一旦、男3人は外へ出された。
イーアンは『汗だくで嫌』と言うので体を拭く時間。後ろを向きたい職人2人は、総長に本気で威嚇されながら、どうにか耐えた。
イーアンがテントから『もう大丈夫です』と声をかけ、中に入った3人は、口々に自分も体を拭きたいと呟いた。それもそうかと、イーアンは自分が外へ出ている間にと言ったが『そういうつもりじゃなかった』と止められる。微妙な察しはつくものの、それについては深追いせずに、この日は眠ることになった。
ドルドレンはイーアンをしっかり抱き締めて、上掛けの毛皮を引っ張り上げる(※見せつけ&警戒)。『絶対こっち来るなよ』と職人に注意。彼らを背にすると、場所的にイーアンが、テントの裾端に眠る状態になるので、ドルドレンは寒いと可哀相かなと思った。
そしてそれをすぐに親方に指摘された(※『病み上がりなのにテントの端では冷える』正論)。ドルドレンはイーアンに寒いかと聞くと、イーアンは理解しているようで首を振る。が、テントの端から入る冷気に震えていた。
泣く泣くイーアンを真ん中に置いて、イーアンをがっつり抱き締めて、ドルドレンは自分が裾側に眠る(※体温高くて寒くない)。タンクラッドはイーアンの真横。『お前と一緒に眠るなんて夢みたいだ』とドルドレンを逆撫でする発言を、嬉しそうに呟き続けた。
眠っても絶対に離さないと決め、毛皮でグルグル巻きにしたイーアンを抱き締め、ドルドレンは夜も辛い状態で眠りに落ちた(※後からイーアンに『熱い』とぼやかれた)。
オーリンは、彼らのやり取りに可笑しそうにちょっと笑っていたが、あっさり眠った。タンクラッドは時々夜中に目を覚ましては、横にいるイーアンの髪に少し触れたりして、一緒に眠れる夜に心から嬉しく思った(※野郎2名付きでも)。
今日。あの魔物の歌で揺さぶられた、恐ろしい記憶に勝てたことも。イーアンを今後、守って過ごすと決めたからこそ。タンクラッドは大仕事をこなしたような気持ちで、横にいるイーアンに喜びながら眠った。
お読み頂き有難うございます。




