446. 北西支部の装備万端一歩前
「ミレイオたちが帰っているかもしれない」
支部に着いて、ドルドレンは荷物とイーアンを抱えてアオファから降りる。中へと思って、即イーアンを見る。『イーアン。上着どうする』羽毛上着はヨダレ(※アオファの)で洗わないと厳しい。
「良いでしょう。ちょっと元気そうに見えてしまうけど」
「タンクラッドとミレイオに、もの凄く怒られそうな気がする」
ドルドレンがげんなりする。イーアンは『自分が出ると言った、とちゃんと言うから大丈夫』と励ました。そして工房へ戻る。まだ誰もいない。
「良かった。鍵は開いていたのに、いません。まだ戻られていらっしゃらないでしょう」
「広間に剣と鎧を戻しに行こう」
二人はお金と剣と鎧を持って、広間へ向かう。向かうと徐々に聞こえてくる騎士たちの歓声・・・・・
「絶対いる」
「そうですね」
二人は広間の入り口をそっと覗いた。ミレイオが盾を持って、騎士たちに高笑いで自慢している姿を発見した。タンクラッドは横で座っている。
「怒られる・・・・・ 」
大丈夫、とイーアンは伴侶を励ます。『あなたは私に隠れていて下さい。絶対分かって下さいます』親方もミレイオも心が広いもの、とイーアンは微笑む。違う気がすると、ドルドレンは心で反対した。
イーアンはドルドレンを後ろに、荷物を持って広間へ入った。さっと見つけたのは親方。すぐに立ち上がって『イーアン!』の声と共に駆け寄る。人を分けて駆け寄ってきて、目の前に来て驚いた。
「あ。あ・・・・・ イーアン。その格好は」
後ろで見ているドルドレンは、愛妻を隠したい衝動を我慢する(※我慢しないと自分がやられる)。タンクラッドは明らかに『ぽー』の状態。赤くなってイーアンを見つめたまま、立ち止まって動かない。
「ちょっと。いろいろありました。でも大丈夫です。元気ですもの」
「いや。そうか、そうなら。でも。その、その、何だ、格好が。あの」
「自分で作りました。魔物の皮の切れ端を繋いで。私が何をする人間か、それを見て伝わるように」
「きれいだ。いや、違う。何て魅力だ、お前は。お前は何て美しい」
ドルドレン我慢。ひたすら我慢。親方タンクラッドの人目憚らない天然誉めっぷりに、拳をわななかせて我慢する(※じゃないと自分がやられる)!!周囲の騎士の目は、お昼の連ドラを見てるような食いつき方。
イーアンはちょっと笑った。『自分に、きっと似合っている格好の一つです。だから、そう見えるのでしょう』そういうものですよ・・・と流した。タンクラッドは目を瞑り、顔を赤くしたまま、イーアンの肩に手を置いた。
「お前が。本当に・・・いいや、でも。こうして目の前にいることに感謝しよう」
ドルドレンは目一杯我慢する。くっそーーーっっ!!!俺の奥さんだっつーの!!旦那の前で肩触ってんじゃないよこの天然イケメン!!口説いてるだろーーーっ!!
「ミレイオに。お代を用意するために支部へ行きました。だから」
全然口説かれていない様子のイーアン。伴侶は、あれ?と思うものの、タンクラッドが一人赤くなって、はーはー勝手に息切れしている様子を見て、いつもこうなのかな?と展開を見つめる。
ちらっとイーアンを見ると、荷物を持って先へ進もうと、騎士たちの間を動いている。親方を無視。
・・・・・俺の奥さんは。口説かれ慣れているのか、無視って・・・そうなのか。ちょっと安心するドルドレン。
本当に自分のペースなんだと、初めてそういう場面を見て、少しホッとした。そうなんだ、いつもイーアンはこんな具合で過ごしているのか。だから気にしてないのかもしれない・・・・・そう思うと、何となくいつもの肩の荷が下りた。
「あらっ!イーアンどこ行ってたの!」
肩の荷が下りた途端、ドルドレンの脅威ミレイオの声が広間を駆け抜ける。イーアンはさっと片手を上げてニッコリ笑う。『ミレイオ、あなたは何て素晴らしい盾を』騎士たちが感激して集まっている、どっさり置かれた盾の作品にイーアンは嬉しそう。
「それより、どこ行ったのよ。探したのよ・・・って。何その格好」
「私。ドルドレンと一緒に本部へ行きました。まだ足りないと思いますが、相談して半分くらいはお金を頂きました」
そこまで報告すると、ミレイオはイーアンの側へ歩いて、上から下までじーっと見渡した。『その格好で?本部へ』ミレイオの呟きに、イーアンは力強く頷く。
「そうです。私が誰で、何をしているのか。彼らはほとんど知らないから。だから自分らしく、ちゃんとすぐに分かるようにしました」
胸はありませんが、とちょっと小さく呟く悲しげなイーアンに、ミレイオは溜め息をついて抱き締めた。
「素敵。すごく素敵よ。あんたは私のかわいい妹よ。ホントに何て子なの。何て素敵な、カッコイイ子なの(※50代から見ればガキ)」
イーアンは誉められて嬉しくなる。手に持った荷物のうち、お金の入った袋を抱きつくミレイオに見せた。
「請求書を見ていませんが。ここに300,000ワパンあります。後200,000ワパン、後日に都合して下さるって。私たちは、あなたの作品を買えますか」
ミレイオはイーアンを見つめる。半開きの口で、目が少し潤んでいる。イーアンも微笑を引っ込めて、幾らなんだろうと思いながら反応を待つ。周囲は、連ドラシーン状態で、ハラハラしながら見守る(※きっと膨大に高額と予想)。静まり返る広間。
何度か瞬きした後、ミレイオはイーアンの顔を撫でて、刺青だらけの両手で頬を包んだ。鳶色の瞳を間近で覗きこんで『足りてる』としっかり答えて頷いた。それを聞いて、ニッコリ笑って『良かった』と安堵の一言を漏らすイーアン。周囲が一斉に、拍手喝采。
後ろでドルドレンも、笑顔で頷きながら拍手。タンクラッドもなぜかつられて拍手。気がつけば広間に北西支部の全員がいた。感動的な、高額な盾を手に入れた瞬間に盛大な拍手が響いた。
「お聞き!野郎共っ。私の作品はここにあるわ。イーアンと総長がお前らの命のために、本部に掛け合って手に入れたのよ!この私の盾で命を落とすわけがない。イーアンと総長の想いに守られて、お前らが命をくれてやる相手なんかいない。思う存分戦っておいで!」
パンクなミレイオの叫びに、広間が歓声(※皆ノリは良い)!!拍手喝采でお祭り状態に変わる。
わーわーピーピー騒いで、『おうっ』と野太い男の誓いが返ってきた。ほーっほっほっほっ!!高笑いのミレイオに引っ張り出されたイーアンも(※両手でヒヒに持ち上げられるライオ○キング状態)祭り上げられる(※やめてーと叫んでも聞いてもらえない)。
「あんたたちには戦う女神がついているのよ!私のイーアンよ(※違う)お前たちのために命をかけて、魔物の脳天をぶち割って、皮を剥いで内臓を引き裂く女よ(※誤解の生じる紹介)!さぁ、行っておいで!ハイザンジェルの誇り高き戦士たちよ!!」
ミレイオは既に(なぜか)英雄。ノリの良い騎士たちは、鎧、剣と続いて盾も手に入れ、興奮状態でわーわー沸いた。ちょっと前までパンクを恐れて逃げ隠れしていたと思えない、熱狂ファン振り。
ライブが凄い。半端ない盛り上がり。ドルドレンも長い騎士生活で、こんな状態は初めて見た。タンクラッドも普段は無縁な群集の昂ぶりにビックリ。パンクの威力は凄過ぎる。パンクが総長でも良いような。
『弓。まだだよね』 『矢もね』
囁き合う弓部隊長の二人。忘れ去られていそうで心配。剣隊が多い北西支部だから仕方ないのだが、剣隊は大盛り上がり。弓引きは微妙な気持ちで見つめながらも、剣隊の無事は祈れるのだし、一緒にお祝いはしようと決める(※良い人たち)。
実の所。パドリックもコーニスも、ミレイオは自分たちと同じくらいの年齢と聞かされて衝撃を受けた。生きる世界の違いをしみじみ実感した朝。お祝い参加表明は、登場して一気に、騎士の心を鷲づかみにしたパンクな同年代に、エールを送る気持ちもあった(※頑張る50代仲間応援)。
(パ)「私は、ああはなれない」 (コ)「私だって、なれないよ」
(パ)「あの迫力。あの存在感。私の影の薄さと対照的だ」 (コ)「絶対、お友達になれないタイプだろうね」
(パ)「友達になる・・・使用人ならなれるかも」 (コ)「そこまでして。同じ年かもしれないのに」
(パ)「イーアンの友達は派手だねぇ」 (コ)「偶々じゃないの。でも気に入られてるね」
(パ)「私、イーアンも女性としては怖い。良い人だけど」 (コ)「豹変するからね。それがたまらない人だけは好きなんだよ(※当)」
(パ)「類は友を呼ぶ。イーアンが来てから、ここの支部の雰囲気が」 (コ)「明るいと言うか。派手というか。異質と言うかね。年齢層は高いけど、やけに活気があるよね」
終わらない会話をぼそぼそと続ける弓部隊長たちは、刺青パンクが机の上でライブしてるのを眺めていた。
この日。お祝いモードにして良いのではないかとした流れで(※個人の判断が個人で適用)厨房も記念日並みの料理を作り始めた。
「まぁな。確かに前日の夜に鎧が来て。翌朝に剣が届いて。その午前中に、とんでもない盾が来たんだから。そりゃ記念日かもしれないが」
ドルドレンも認めざるを得ない。後は弓矢かと思いながらも、西へ剣隊を連れて行く不安は消えたわけで、充分な実りある午前だった。
イーアンはミレイオに抱え込まれて戻って来ない(※『妹』と言っていたから放っておく)。ちょっと様子を見ても、可愛がられているので遠くから見守るのみ(※あまり近づきたくない)。
「ミレイオ。あなたの盾に感謝します」
「何言ってるの。イーアンの心に私、感謝だわよ」
ミレイオは優しく微笑んで、抱き上げたままのイーアン(※降ろさない)の顔を撫でる。『だけど。あんたって子は。そんなに直向じゃ、前の世界でバカなやつに使われたわね』ちょっと困ったように微笑んだパンクの呟きに、イーアンは目を伏せた。
「ごめん。当たっちゃったのね。でも。今は私に会えたわ。ドルドレンも、タンクラッドも良い男よ。あんたの良さを理解できる男がいるの。だからもう幸せよ。元気出して」
目を伏せたまま微笑むイーアンに、ミレイオは急いで慰める。『ホントよ、私たちはあんたが好きよ。だからもう、あんたのままで良いの。そのままでいて頂戴』ね、と覗き込むミレイオに、イーアンは笑顔で頷く。
「知っています。過去はもう、どうでも良いのです。私は今、本当に幸せです」
少し涙目のイーアンを見て、ミレイオは可哀相になる。覗き込んだ瞳を見つめながら『私があんたのツレだったら、絶対このままキスしてるわよ』と囁いた。
イーアンは頷いて『ええ、そうでしょう。ミレイオは優しいから』と微笑む。男が相手でも女が相手でも、この人はそういった慰め方をするだろうなと分かる。
ミレイオは、笑った顔のイーアンを撫でて、皮の服から出ている肩に触れる。少し冷たい。
「工房。戻りましょうか。この格好は素敵だけど、腕も出てるし冷えると思う。ベッドに入りなさい」
ミレイオはイーアンを抱えたまま、机の上から降りて(※乗ってた)工房へ歩き出す。受け取ったばかりの盾を持って、これはどうしたら良いかとパンクを見つめる騎士たち。
視線を受け、ちらっと見て『もうあんたらの盾でしょ。大事になさい』ミレイオは微笑み、廊下へ消えた。ドルドレンも、ミレイオがイーアンを運ぶのを見て、後について行った。タンクラッドも一緒に行く。
「剣の代金を。今貰ってくるから。請求書はあるのか」
「サージからな」
「タンクラッドの分は」
「俺はこの前、請求書を出した」
サージの分だけだ、とタンクラッドが言うので、ドルドレンは了解して、工房で待っているように伝え、執務室へ代金を取りに行った。
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