439. お使い親方4~お手伝いの存在・鎧受け取り
エンディミオンは嫌々、タンクラッドを家に入れた。『ホントは男なんか入れたくないのに』とぼやく。タンクラッドも舌打ちして『俺だってジイさんの家に上がる気はない』と返した。
「お前な。年上なんだから、俺にじいさんとか言うな。ちょっとは敬え」
「年上だから敬うという習慣がない。相手に尊敬できなければそれまでだ」
「もう~ 何でこんな高圧的な男が、時の剣なんか持っちゃったんだよー。ヤだよ、俺。こいつー」
タンクラッドも困惑する。ジジイは何かに従わざるを得ない様子。性格上、きっと本当に嫌な事態を渋々我慢しているのだろう。それは何故なのか。
「ほれ。そこ座れ。端っこな、端っこ。あ。足広げるなよ、エラそうだ」
「煩いジジイだ。さっさと話せ。すぐ帰ってやる」
「あー。こんな年になって、こんな可愛げのないエラそうなおっさんに、従わないといけないなんて。俺が何したって言うんだ」
煩いわ、先に進まないわ、もうタンクラッドが嫌だった。早くしろと急かした。茶を出そうとするジジイに『俺は毒殺される気はない。要らない』と断ると、ジジイは恨めしそうに睨んで『本当にヤな奴』と茶器を置いた。
「エンディミオン。俺の質問に答えろ。増えたからな。無駄なことは言うなよ。まずは一体、なぜあんたは俺に従うんだ。こっちも理解できないと気持ち悪い」
「俺が気持ち悪いよ。女なら最高だったのにー」
タンクラッドに怒りの形相で睨まれて、分かったよと話を戻すジジイ。『理由ね』やれやれと溜め息をついて肩を落とす。
「こんなこと。記録なんかじゃ残らない。歌にあるんだよ。龍が呼べる3人いるだろ。その3人にはお手伝いさんがいるんだよ。
『勇者には、空の民。知恵の女には、龍の民。時の剣を持つ者には、太陽の民』ってな。
馬車の家族は『太陽の民』だ。その中で、その時代に生まれた知恵を司る役目の人間が、時の剣を持つ男を支えるんだよ」
あれ?タンクラッドは思い出す。『精霊・勇者・時の剣』・・・だったような。イーアン即ち龍を呼ぶのかと思っていた。ちょっと確認。
「俺の知っている内容だと。精霊と、勇者、時の剣、だったぞ。龍を呼ぶってイーアン付きの龍じゃないのか」
「どんな情報の捉え方してるんだよ。精霊が呼べるのは当たり前だろ。その3つの存在で言う『精霊』は、イーアンだよ。精霊の加護でこの世界に導かれなきゃ来れないんだから。
他のヤツが呼んだら、イーアンは龍と一緒に来るのかもしれないが、別に条件じゃないよ。龍がイーアンを好きなだけだろ」
そうなんだ。タンクラッド、ちょっと納得。ミンティンはイーアンが好きそうだし慕っている。それで龍だけでも来たことがあったのか、と理解する。
「一応、言っておくけどな。俺の解釈だと、他の歌から思うに『お手伝いさん』も龍を呼べるんだぞ。つまり俺もな。空の民と龍の民は、呼べて当たり前だろうが。だから来てほしいのに~(※目的はイーアン)」
「(※ジジイの解釈は無視)太陽の民は馬車の家族?ということは、空の民や龍の民も人間なのか。名称が抽象的なだけで」
「違うよ。ちゃんと聞けよ、聞きたいんだから。龍の民は人間かもしれないけど、ビミョー。地上にいないし。空の民も地上にはいない。空の民は滅多に現れないから、ドルドレンはお手伝いさんに会えるのは、まだ先だろうな」
「空の民。滅多に現れないとは」
「地上にはいないんだよ、だから」
タンクラッドは考える。『空の民は何者か』それを訊くと、ジジイは萎れて教える(※嫌々従順)。
「空の民は、精霊みたいな存在だ。精霊と言い切るのは違うだろうが。人でもなく、だからって他の何かってわけでもないし。
もう一つの存在だな、言ってみれば。精霊と人間と、また別の。時々しか出てこないだろうな。でも絶大な力を操り与える、特別な民だ」
「歌の中では、彼ら空の民が、俺たちの存在を選んでいるのか?」
「精霊と、空の民ね。歌では、魂みたいな存在だから。言って分かるかなぁ。精霊はその世界の聖なる力だろ?空の民は時空なんだと思うよ、俺の思うに。時も空間も動くような」
タンクラッドの記憶の中にも、思い当たる存在がない。似たような印象を受けた話等は思い出す。それは参考までに留めておこうと思った。
「じゃ。龍の民は何者だ。微妙と言ったな。どういう意味だ」
「人間かと聞かれたら、見た目はそうだけど。半々が鍵なんだ。彼らは昼と夜、光と闇、愛と虚、両極端を内包する民だ。全員ね。人間の種族として考えると異様だろうな。会えば分かる」
「その・・・・・ 両極端の民は、イーアンの手伝いに付くのか。理由でもあるのか。俺とあんたみたいに」
「その言い方、気持ち悪いからやめてくれよ。・・・あーあ。あるよ。イーアンそういう所あるだろ。この世界の人間じゃないけど、ここでも生きてる。女だけど男みたい。若くもないし年寄りでもない。半々だろ。存在が既に半々。両方持ってるのが条件なんだ」
「性質もか?見て分かる存在や役目の他に」
「そうだよ。手伝いに付くのは、3人の役目とか中身とか、そういうのが似通う民だ。さしずめ、お前は俺と似てる・・・って、んなわけないよ」
「二度と言うな。人が聞いたら俺の信用がなくなる。知恵の部分だけだな、今回は」
「ヤな奴ー。俺の言葉だ。何でホント、コイツなんだろー。もっと可愛げのある男が良かったよ」
「(※無視)というと。イーアンは・・・その龍の民に、何を手伝ってもらうんだろうか」
「バカだなぁ。共鳴なんだって、言いたいのは。
お前は知恵をこねくり回して謎解きする役目だろ。で、イーアンと龍を先に促すんだよ。そういう知恵。それは俺がでっかい情報源だから、俺と繋がってるの。イヤだけど」
「で?イーアンは」
「それはまだ言わない」
タンクラッドが睨む。『言えって言ったろ』脅す剣職人。エンディミオンは不愉快そうに顔を背ける。
「ちょっとは自分で考えろよ。とりあえず今回はここまでだ。で、ほら次。次の質問。俺はお前と延々、お喋りしてる暇はないんだよ」
舌打ちして、タンクラッドはイーアンが持たせた質問に移る。
「面倒なジジイだ。止むを得ん、イーアンの聞きたかったことを教えろ。」
「あー。可愛くない。おっさんが可愛くても気持ち悪いだけか。なんだっけ、イーアンの質問な。道具かどうか分からんが。
『夜明けの色した花びらは、涙の夜を終わらせる。怖い夢には花びらを。土に広げて風に乗せ、闇も涙も追い払え』って感じかな。
『焦れ歌』ってあってさ。願いとか祈りとかが詰まった歌があるんだよ。
この前後はあいつ・・・ハイルが歌えるんじゃないかな。孫の支部にハイルってヤツがいるから。可愛い顔した男だけど。あいつも口は悪いけど、素直な小僧だから歌ってもらえば、その場でちょっとは訳してくれるだろ」
「何となく曖昧だ。他にないのか。それだけってことはないだろう」
「俺が、これって選んでるんだから。何も知らないお前が好き勝手言うな。ちょっとは言うこと聞けよ」
「『花びら』は物体だろう。この前の白い石だって物体だ。物体を示している歌詞は、幾らもあるだろうが。それを言え。俺が選ぶ」
「コイツ嫌い~。馬車の家族でもないのに、何勝手なこと言うんだよ。俺は馴染んでるから知ってるんだって言っただろ。・・・って、白い石?何で知ってるんだ。あれはイーアンに教えて。あっ」
「そうだ。あんたは知らなかったのかもしれないが『白い命と白い石』こそ、龍のための道具だった。それをイーアンがあんたに聞いて、材料を選んで俺が作った。大当たりだったな」
悔しい~!! エンディミオンは目に見えて悔しがる。そうじゃないかって思ってたけど、と。ぐちぐちこぼしては『イーアンだと思ったのに、こんな男に』と銀色の目で睨む。
「お前の知っている情報は、俺の歌とは違うところから手に入れたな?馬車歌は、俺たち馬車の家族のものだ。伝説で他に残るのは、遺跡か聖物くらいだ。だがそれだってもう」
「そうだな。損壊が激しくて部分的にしか読めない。だが聖物はイーアンが集めてくる。俺はそれを受け取って情報を得ている。あんたの馬車歌と併せて読むと答えが出てくるんだ」
ジジイ、歯軋り(※歯は丈夫)。悔しがり方も総長そっくりで、タンクラッドは眉根を寄せる。でも総長がこんな性格じゃなくて何よりだと思えた(※ママ似)。
「さて。まぁ良いだろう。イーアンには花びらの話は伝えておく。後はさっき、あんたが言っていた『始まる』とは何だ」
「頭良いんだろ?自分で考えろよ」
睨みつけるタンクラッド。『時の剣の持ち主の手伝いだろ、あんた』一言どすっと投げつけると、ジジイは萎れる。
「こんな苦しい日になるなんて。今日が俺の命日かもしれない・・・イーアンとやりたかった」
言い終わる前に、ぶん殴られるジジイ。拳を戦慄かせるタンクラッドが、床に倒れたジジイに吐き捨てる。『このエロジジイ。本気で命日にしてやるぞ、二度と言うな』腐れジジイめ!と荒い息をしながら見下す。
「もう良い。次の用があるまで、来ないでやる。逃げても無駄だぞ。死ぬまでこき使ってやるからな」
怒りのタンクラッドは『気分が悪い』と言い捨てて、エンディミオンの家を出て行った。エンディミオンは、孫にも殴られ、自分の仕えなければいけない相手にも殴られ、老人なのにと嘆いた(※自業自得)。
大股でザクザク歩いて町を出たタンクラッドは、すぐに龍を呼んで跨る。
「ミンティン。オークロイの家だ。南のルシャー・ブラタへ行く。分かるか」
ミンティンはふわーっと浮いて、すぐに南方面へ向かって飛んだ。タンクラッドはムカムカしていた。あんなジジイに、よくイーアンは撫でたり料理してやったりしたもんだ、と思うと。
「総長は知ってるのか、それ(※ご存知)。親切にも程がある。やり過ぎだ。あんな男に親切にする必要なんか全くない」
この後もオークロイの家に着くまで、タンクラッドは愚痴を言い続け、聞いているミンティンはそれを無視する。そしてちょっと速めに飛んで、煩い親方をとっとと降ろすことにした。
遠目にデナハ・バスの町が見える手前。山の丘陵が続く場所まで来て、牧草地と川が増えた所で、平屋の1軒に龍は降りる。
「ここか」
いつも降りる裏庭に青い龍はすーっと降りて、親方を降ろすと、空に帰ろうとした。『待て。すぐ終わるから』親方に目ざとく見つかって、イヤだけど待つミンティン(※愚痴っぽい人嫌い)。
タンクラッドは扉の前に来て、ここが裏なのか、前に回った方が良いのか。少し考えて扉を叩くのを躊躇う。すると戸が先に開いた。
「お。どちら様」
若い男は、初めて見る、背の高い客人に挨拶する。タンクラッドが自己紹介しようとすると、すぐに青い龍を見て『あれ?イーアンも?』と訊いてきた。
「ああ、あれは。あのだな。俺はイオライセオダで剣工房を営むタンクラッド・ジョズリンだ。イーアンの用で言伝を」
「そうなんですか。ちょっと親父を呼びます。待っていて」
若い男は一度中へ戻り、それからすぐに父親を連れて戻ってきた。厳しそうな風貌の男を見て、この男が鎧を作ったのかとタンクラッドは納得した。男の勢いがそのまま鎧に現れている気がした。
「剣職人だって?あの総長とイーアンの剣。それと俺の工具を作った人か」
「そうだ。イーアンの鎧を作ったのは、あんただな」
「俺はラウフ・オークロイ。これは息子のガニエール。工具を有難う」
タンクラッドは握手して、自己紹介をもう一度してから用件を伝える。親子は目を見合わせてすぐに教えてくれた。
「もう出来てるから、来たらいつでも良いって伝えてくれ。25体ある。でもどうした、何かあったのか」
簡単に、イーアンが過労で倒れたことを伝える。ここで詳しいことを言うのは、心配かけそうで、タンクラッドは控えた。彼らはとても真面目に見えた。
オークロイもガニエールも、倒れたと聞いて眉を寄せる。『しばらく動かなくて良いと。鎧は配送するから』彼らは気遣って、卸しの方法を変えてくれた。
「そうだな・・・・・ 箱だとかなり嵩張るな」
「だが。休めと言ってくれ。あいつは止めても戦闘に出るから。どこかで休ませた方がいい。試作も作るし、気力が持たないだろう」
イーアンの動きは。職人には同じように映る。いつ作っているのかと思われる。
作れない時の方が多い最近、遠征前や予定を詰めて空けた時に、一気に作ると聞いていたタンクラッドも、親子と同じように思った。
「今日。ミンティン・・・この、龍で運べないだろうか。袋の方が良いのか」
「いや、運べる袋さえ間に合えば、両側に吊るして持って行けそうだけど。お前さんが運んでくれるって言うのか」
「俺じゃない。龍だ」
ちょっと笑ったオークロイは、背の高い剣職人の腕をぽんと叩き『一緒に袋に入れるの、手伝ってくれ』と中へ通した。
3人で鎧を袋入れして、太い綱でそれぞれをまとめる。1時間もしないうちに荷造りは完了し、これを外に運び出して嫌そうな龍の背中にくくりつけた(※聖獣なのに)。
「これ。落ちないと良いが」
「ゆっくり戻るから大丈夫だろう。請求書はどうする」
送るよ、とオークロイが言うので、タンクラッドは頷いて龍に乗った。『イーアンは1週間近く療養だ。以降、ここへ来るだろう』感想を楽しみにな、と剣職人は微笑み、ちょっと手を振って北西の支部へ飛んだ。
見送る親子は呟く。『あれが剣職人か』『総長も気苦労が絶えないだろうな』『かなり男前だったからね』『あの様子だと、あいつもイーアンが好きなんだろうな』感激されるたびに、肋骨折られる可能性があるぞと、笑う親子。
「俺は骨折はイヤだから、普通の女の人にするよ」
「それが良いと思う。親の俺も安心だ」
イーアンは良い人だけどね、と困ったように笑う息子の肩を叩きながら、父親も笑って同意した。二人は工房へ入って、仕事の続きに入った。
お読み頂き有難うございます。
コメントを下さった方に、お名前の間違いをして気づかないという、大変に失礼なことをしてしまいました、それも何度か!!本当に申し訳ありませんでした!!以後、絶対に間違えないことを誓います!!本当に申し訳ありませんでした!!!




