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魔物資源活用機構  作者: Ichen
紐解く謎々
435/2948

435. イーアンの休日~お見舞い親方

 

 翌日からイーアンはダウン中の状態に入る。でも、工房でダウンさせてもらったため、気持ちは上向き。工房が一番落ち着く。普段と違う朝から始まった午前中。イーアンは工房のベッドで、ボーっとしていた。



 朝食は、医務室にヘイズが届けてくれた。お腹に優しい食事と聞いて、わざわざ作ってくれたらしかった。

 ドルドレンは側で眠っていたので(※医者と交渉して、健康体だけどベッドを借りた)イーアンは伴侶を起こさないようにして、ヘイズの思い遣り朝食を受け取る。


「お忙しいのに。ありがとうございます。とても嬉しいです」


 小声でお礼を言うイーアン。『イーアン。これは温いと思います。でも治るまでは我慢して。刺激物を避けていますから、野菜も淡いものです。でも汁物は肉で出汁を取ってるから、味に問題はありません』ヘイズも小声で説明。温かな気遣いに、イーアンは頭を下げて感謝した。ヘイズはニッコリ笑って、去っていった。


 こんな有難い朝食から始まり。お医者さんが来るまでは医務室で待機だったので、その間にドルドレンがお風呂を用意してくれ、イーアンはお風呂に入れた。

 イーアンが風呂から上がる時、着替えを忘れたと思ったら、脱衣所に服が畳んでおいてあった。伴侶がちょっと扉を開けて『それ着て』と微笑む。至れり尽くせりの伴侶にお礼を言い、袖を通す。そして今日の服は、一日寝巻きと決定する。


「寝巻きなのですか」


「そう。それならどこにも出られない」


 計画的と知り、ドルドレンに笑って(もた)れかかるイーアン。ドルドレンも笑うが、すぐに寝巻きの上に、毛皮の上着を羽織らせてくれた。『工房は火を入れたから、もう暖かいはずだ』ドルドレンはそう言って肩を抱き寄せ、二人は一緒に工房へ。

 イーアンはベッドに寝かされて、毛皮を上掛けに引き寄せる。ドルドレンはベッドの足元に座って、自分の今日の予定を話した。



「俺は今日。仕事だけど。でも様子を見に来るから、鍵を開けておいてくれ。剣をここに置いておくから、もしクローハルが来たらこれで」


「それでどうするのです」


 笑っちゃうけど、笑ってはいけない物騒さがある。『剣の使い道は一つだから』ドルドレンも笑って、イーアンの額にキスした。愛妻(※未婚)の髪を撫でながら、鳶色の瞳に微笑む。


「大人しくしているんだ。必要なことは何でも紙に書いておいてくれ。俺が様子を見に来た時、もし眠っても、その紙を見れば分かるように」


「ドルドレン。字」


「あ。そうか。そうだったな。でももう、少しくらいは使えるだろう。俺の名前も書けるし、自分の名前も書ける。工房の名前も読めるだろう?」


「だけど。あれです、これです、と書くのは難しいです」


 うーん、と考えるドルドレン。じゃあね、と考えて。絵でも良いよ、と言う。絵ですか・・・それも具体的にはどうなのか。ちょっと考えてからイーアンは、とりあえず眠くはないから起きています、と伝える。


「じゃあ。次に来るまでに、イーアンがこの数日間で動く予定だったことを、書き出しておいてくれ。俺に読んでくれたら良い。今日は何か急ぎはあるのか」


「今日の約束はありません。多分・・・・・ 忘れていないのと良いけれど」


 分かったとドルドレンは頷いてイーアンを一度抱き寄せ、決して工房を出ないことと、作業をしないことを約束させる。愛妻が了解したので立ち上がり、ドルドレンは『1時間後くらいにまた来る』と微笑んで出て行った。



 優しい伴侶。素敵な伴侶。神様にお祈りして感謝するイーアン。皆さんも優しい。本当に、この世界に来れて良かった。人生捨てたもんじゃないとイーアンはしみじみ思った(※以前の世界でボロボロだった人)。



 こうして。イーアンは工房でボーっとしている。自分がこの数日間でする予定を思考中。


 予定①:この前のマブスパールで回収してきた、ヘビの魔物の皮を使いたくて、オーリンに持っていく弓の外側に、あれを使おうと考えていた。

 ・・・・・でも作業は禁止。作業机の上の弓を見つめて過ごすのみ。これはドルドレンに関係ないことなので、自分用のメモに書き込む。


 予定②:①の完成により、オーリン宅へ弓を見てもらいに行くはずだった。魔物の材料も、その時一緒に運ぼうと思っていたし、何よりも明日がその日。これはオーリンに言わないと。


 予定③:ダビもそろそろ様子を見に行く必要がある。彼を修行に出して、3週間目。もうじき卒業かどうか、オーリンの家に行く時に見てこようと思っていた。

 この前、ボジェナの家でキッシュを作った時も、ダビの話題になり、ボジェナはとても会いたがっていた。なので、いつ終わるのかをサインさんに聞きたい。


 予定④:もしまだ卒業じゃなくても。せめてダビの手紙だけでもお願いしようとイーアンは思っていた。


 予定⑤:それにサインさんの片腕用のパワーギアもある。反対側の肩と胴体で、支えて使う形だろうと想像するから、これはダビが横にいる状態で調整すれば、きっとうまく出来る気がしていた。

 でもこれもドルドレンにはムリだから、私が行く用事。とはいえ、ダビがサインさんの工房を切り上げるとなると、一人ではちょっと難しいかも。


 予定⑥:小さい町や村のための、応援道具の企画。これは聖なる力が関わっているなら、もしかするとお祖父ちゃんの歌に、昔々の人たちに与えられた方法でもあるのでは、と思いついたので相談したい。

 東へ行くなら(ついで)だけど。ドルドレン一人では絶対に行かないし、二人で行くべきであるため、これもムリ。


 予定⑦:オークロイが『箱持って馬車で来い』と言ったのが、何日設定なのか。確認してこないといけない。これはお願いできるかも。



 東には用が結構あった。『あるわね。ドルドレンの業務中で回れる感じじゃないけど、どうしよう』かなり時間がかかる気がする。


「うーん。回復したら行きます、って伝えてもらうだけでも。それは大事だものね」


 ベッドの上で紙に書きつけながら、イーアンは悩む。昨日、フォラヴのお陰で体調はとても楽になった。だけどだからといって、すぐに動けない。


 内視鏡がある世界でもないし、レントゲンもないし。血液検査もないし。これといった確認が出来ない以上、『動かないこと』と言われたら従うのみである。折角フォラヴが治してくれたのだし、大人しくして回復するのが一番なのだ。



「そうよ。大人しくしないと。だけど・・・・・ ドルドレンも忙しいのに、こんなに時間を使わせるのも」


 どうしよう~と思いつつ。ちょっと目が机に動く。弓・・・作りたいなと思う。だが我慢。そして机横に丸めて引っ掛けてある、海の洞から持ち帰った綱に目が留まる。


「あ。そうだった。あれもタンクラッドに相談しようと思っていたんだわ。全然忘れてしまって」


「何を忘れていたんだ」


「え、あの綱の。え?」


 答えたものの、突然、背後から響いた声に振り向くと『あらタンクラッド』イーアンびっくり。タンクラッドは、開いている扉をちょっと押して中へ入り、締め切らない程度に閉じた。


「どうだ。痛みはまだあるのか」


「あの。いえ。昨日はご迷惑をかけて済みませんでした」


「謝るな。迷惑なもんか。痛いのか?大丈夫だったのか」


 心配そうな親方は、イーアンのベッドの側の椅子を引っ張って座り、長い腕を伸ばして頬を撫でる。お見舞いに来てくれたのだと分かり、イーアンはとても嬉しい。自分が昨日、フォラヴに助けてもらったことと、ドルドレンが介抱してくれたことを話した。


「医者がいるんだろ?ここにも。そいつは何か言っていなかったか」


「年だからって」


 何ていい加減な!親方がちょっと怒る。『俺のイーアンに()とは何だ。俺にも同じことを言えるのか、そいつは』3つしか違わないのに、俺は健康だと(?)よく分からない理由で、薮医者決定する親方。



「でも、お医者さんはとにかくとして。もしかしたら、本当に酷い状態だったかも」


 イーアンの言葉に不安を過ぎらせるタンクラッドは、その理由を訊ねる。イーアンは、フォラヴのことを話した。

 彼の力は人の世を超えていること、そして『イオライ戦の私を癒した時と、同じことをしたようで』そう言うと、タンクラッドもゆっくり頷く。


「彼は。フォラヴは、この前うちに来た品の良い男だろ?彼が『恐ろしい不安を取り除く』と言ったんだな?で、これまでは彼のその姿を、周囲は見たことがないと。そういうことで、イーアンはそう思うんだな」


 そうですと言うと、親方も少し考えてから『もしそうなら。彼がいなかったらと思うと、本当に怖い』心配を顔に出し、親方はイーアンの肩を撫でた。


「イオライで、オーリンだけは見ていたようです。あの時、私はあまりよく覚えていませんが」


「弓職人か。オーリンなら慌てなさそうだな」


 イーアンの体調が心配な親方。見舞いに来たは良いものの、薬5日分となると、確実に5日間は動けないから、その間で回復する可能性はある。だが、その後が気になる。



「おい。5日間、お前が大人しかったことはあるか」


「いつだって大人しいです。大人しくない時なんかありません」


「口答えするな。俺が聞いている意味が分かってるだろう」


 イーアンのほっぺたを摘まんで、ふるふる揺らす親方。揺らされながら(しお)れるイーアン(※伸びるの心配)。


「お前は日々、何かしら動いている。予定があるだろ。後、思いつき。お前は半分は無計画だ。予定を実行中に思いつきで方向が変わって、さらにすることを増やすところがある。

 5日分の予定を動けなかったら、6日めには動こうとするはずだ。そして6日目以降、再び、用を倍に増やして背負い込む」


 大当たりなので何も言えないイーアンは、目を逸らして頑張る。思いつき半分の女。行動の半分は無計画。何て的確な・・・・・ 



「仕方ない。俺が動いてやる。俺は今、ミンティンと一緒だ。お前が行くはずの場所で、俺で用が足りる場所を言え。それでお前の懸念が減れば、ちょっとは大人しくなるだろう」


 脅迫に近い親方の言い方に、摘ままれているイーアンはちょっと困る。


 ・・・・・この人が行ったら。サインさんとダビはビビる(※老人に容赦なさそう)。オーリンにも何を言うやら分からない(※この前ケンカ売ってた気がする)。ドルドレンのお祖父ちゃんのところは絶対行かせられないし(※暴力勃発の可能性)。オークロイ親子の所もちょっと心配。



 イーアンが困って返事を躊躇っていると。親方はイーアンのメモを見た。じーっと見つめ、くるっと自分のほうに紙を回し、さらに見つめている。

『何でしょうか』メモを見つめる親方に、何かあるのかと思って聞いてみると。


「オーリン。ダビ。?・・・シ・エナ?ジエナ。この前の文字は『ボ』か、ボジェナか。サイ・ン。サイン。後何だ、オー・・・ク?オーク・イ?ん。この前の鎧職人の名前なのか。とすると、これは『ロ』か。後、何だ。?ブ。・・・ブスハ。違う、ブスハ・ール。お。『マ』ブス『パー』ルか。これは『マ』でこっちは『パ』だな」



 固まるイーアン。片手を口に当てて、メモを見つめる親方を凝視。この人、読んでる。


「名前だな。名前だけ、文字が違う。お前の国の表記は3種類と言っていたな。その一つがこれか。これは名前を書く時に使うのか」


 親方の頭の良さに驚愕するイーアンは、あまりに驚いて答えられない。親方は少し眉根を寄せて、同じ質問をする。


「そうだろ?この文字の時は、何か名前を示すんだろう?」


「あの。そうです、そういう場合もあります。その、名前と限るわけではないのですけれど」


「でもこれは名前だ。人の名前と、マブスパールとある。東の、エロジジイのいる町だ」


「読めるのですか。教えたこともないのに。なぜ」


「お前が前、俺に馬車歌を読んだ。お前は自分の字だと言って、俺にここの世界の字で写せと言ったんだ。

 あの時、お前が読んでいる何枚かの紙に、この世界の地図を書き写した、簡単な地図があっただろ。お前が知っている、きっと・・・行ったことのある地名と、聞いて知った地名を書いていた。それと龍の名前も書いてあった。それは皆、同じ種類に見える文字だった。


 お前の読んだ部分と文を辿ったら、この文字は規則性が見えた。この文字は形も分かりやすくて、単純だ。一つの文字で一つの音だと思う。小さい文字になると、手前の文字の発音と重なる。ハイザンジェルの、ジェの部分とかな。だから覚えた。書いていない字もあるだろう。今6つの文字と、発音の印を1つ新しく覚えた」



 唖然として親方を見つめる。こんな人もいるのか。私は中年だからもう、この世界の文字は読めないくらい記憶が勉強が・・・Etc。と思っていたのに(※覚える気ナシ)。


 親方はちょっと笑って、イーアンの頬を離す(※これまで摘まんでいた)。頬をさすって伸びを治すイーアンに、タンクラッドは可笑しそうに笑みを向ける。


「そんなに驚くな。人それぞれ、得意不得意あるだろう。とにかく、どうも東の用事と、後は南だな。ボジェナについては、きっとダビが鏃を作りに行ってるから、それで知らせたいことでもあるんだな」


 イーアンは無抵抗。ゆっくり頷いて、敬服する。素晴らしい親方。何て頼もしいのかしら。



「で。最初に戻るぞ。お前は俺にまだ言っていないことがあるとかだな。綱とか何とか。それは何だ」


 イーアンはタンクラッドに尊敬の眼差しを送りつつ、海の洞の話をした。ディアンタの治癒の洞から、海の洞へ移り、出口を探していたら岩壁に綱を見つけてと。タンクラッドは興味深そうにそれを聞いて、綱を手に取った。


「イーアン。この壊れた金具を見たのか」


「見たのか?って?見えています」


 親方は黙る。黙って金具を見つめて、ゆっくり指でその形をなぞる。イーアンもじっと見ていたがハッと気がつく。


「その角度は。その径は、もしや」


「お前もそう思うか。俺もそう思った。こうだろ」


 タンクラッドは、金具の壊れた欠片に自分の左腕を並べる。そしてイーアンの左手を引っ張って、その横に並べた。『これだろ』鳶色の瞳の親方は、同じ色の瞳を見て呟いた。



「まさか。グィード」


「この綱があった場所で。おそらくグィードのいる場所へ向かうんだ。俺が作った、偶然だったが。最後の一つはこの輪だ。なぜ二つに分かれたのかは知らんが、これだろう」


 そう言って、親方はイーアンの腕輪に目を留める。そしてイーアンの腕をちょっと持ち上げて見つめる。


「お前。これ何かしたか」


 ああ、そうでした、とイーアンはこの前の話をした。ドルドレンの鎧を聖別に出かけて、その時に腕輪と冠が少し変わったと言うと、親方は冠を探した。


「寝室です。ここにはありません」


「イーアン。俺も聖別に行かないと。お前の腕輪にその文字が出てきたなら、俺にも出る」


 タンクラッドの回転の速さについていけないイーアン。でも何か次の動きが見えたのは分かる。イーアンが、その文字について聞こうとした時。



「タンクラッド。もう来たのか」


 ドルドレンが呆れたように、扉を開けた。『遅いじゃないか』親方はニヤッと笑って答えた。

お読み頂き有難うございます。


ブックマークして下さった方がいらっしゃいました。とても嬉しいです!!ありがとうございます!!

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