425. ザッカリアの夜
丁度、昼時。支部に戻れば当たり前のように、見越したまま以上の騒ぎが起きた。
最初は、龍の降りるのを見て迎えに来たギアッチが、唖然として、暫く見つめるところから始まる。
「ザッカリア」
瞬きしないで、口ぱくのように呟くお父さん。ニコッと笑うザッカリアは、両手を広げて父親ギアッチを抱き締める。『俺、大きくなったの』ギアッチも頷きながら抱き返すが、ゆっくりと自分の顔を動かして、自分よりちょっと低いくらいの身長のザッカリアを見つめる。
「そう。だね。ちょっと見ないうちに(※1時間前)・・・大きくなったね。お腹は空いた?」
お父さんは言うことが普通のようで、もう普通を超えている。お腹まだ空いてないよと、お兄ちゃんな状態の息子に、ギアッチは作った笑顔で一生懸命笑いかける。
「あっという間に立派になって(※受け入れ態勢)」
それしか言えない。それ以外思いつかない。どう言や良いんだ。目が点。『あのね。お昼だよ。食べようか』とりあえずギアッチ父さんは、お昼の時間に食事しながら、何があったのかを聞こうとする。
ザッカリアは早く鏡を見たがっていて『鏡見たら。そしたらお昼食べる』と、はち切れんばかりのイケメンスマイルで嬉しそうに答えた。
そうか、そうしようねと言いつつも、あまりの変化に放心状態のギアッチ。とんでもなく目立つ鎧も着けて、背中に盾もかけて、突然思春期に育った息子に呆然。そんな放心のお父さんは、はしゃぐ息子に腕を引かれ、鏡のある部屋へ連れて行かれた。
「あれで。ギアッチは大丈夫なのでしょうか」
「もともとギアッチは心が広いから。きっと大丈夫だ」
そうですね・・・そうだと思う・・・ぼそぼそ呟く二人が裏庭口をくぐると、支部の中が騒がしくなっていた。間違いなくザッカリア問題だろうと、二人は広間を見つめる。
背丈が15cm近く変わると、こんなに皆さんの反応も変わるのかなぁと思うイーアン。だけどハイヒール履いたわけじゃないし。成長しちゃったからかーと思い直した(※恐らくハイヒールでも反応は凄いはず)。
昼食時の広間で掴まったザッカリアとギアッチは、取り巻きに囲まれてほとんど見えなかった。ザッカリアは嬉しそうな声で答えていたけれど、『鏡見たい』と何度も訴えていた(※見に行く途中で掴まった)。
「いろいろ事情があるから。ザッカリアを解放しろ」
総長は後ろから声をかけて、取り巻きの部下を『ほらほら』と追い払った。改めて見ると、ザッカリアの変わりようはもう、ど新鮮でしかない。こりゃ未来が大変そうと(※愛妻を狙われている)内心危機を感じるが、総長は咳払いして、ザッカリアとギアッチを逃がした。
部下の騎士たちは総長に事情を聞きたがったが、総長は『神のご加護』と目を閉じて頷いた。それ以外はない、と言い切って終わり。イーアンにも鎧だとか何だとかで取り巻きが始まったので、総長はイーアンも工房へ逃がした(※注文殺到)。
部下たちを散らかしてから、シャンガマックとフォラヴを呼び、彼らにはザッカリアの成長理由を教えた。それを聞いた二人もまた『確かに神のご加護でしかありませんね』と納得する。
「でも。ザッカリアの成長ぶりも驚きましたが。あんな鎧と盾・・・素晴らしいものを受け取りましたね」
シャンガマックは自分もそうだから、とイーアンの作品に感銘を受けたと話していた。フォラヴはとても切なそうな表情で『私もあんな美しい装備なら』と呟いて首を振っていた。
ドルドレンは、フォラブの気持ちは理解できる。シャンガマックが羨ましくて仕方なかったのに、さらにお子たままで芸術品に身を包んでしまった。俺は伴侶。なぜ。と思うが、今回のザッカリアの鎧等に関しては、小さい寸法だから取り組みやすかったのかもしれない。自分の鎧は特注(※XL)だったし・・・・・そこで気が付く。
「あ。俺、鎧壊れてるんだ」
この前のままで鎧は壊れた状態。こりゃまずいとドルドレンは焦る。次の遠征が入ったら出られない。部下2人に『ではそういうことだ』と言い残し、イーアンの待つ工房へ相談に急いだ。
鏡を見つけたザッカリアとギアッチ。鍛錬所の鏡は曇っていてよく見えないので、風呂場へ行って全身を映す。
「わぁっ」
ザッカリアは自分の顔も体形も違うことを、鏡に映る姿で認識した。首に下がった金属の鏡を使わず、全体を見たくて楽しみにしていた分、初めて自分の姿を知って言葉を失くす。
「凄い格好良いでしょう?ザッカリアは大人みたいだよ」
後ろで微笑むギアッチは、鏡に両手をついて覗き込む息子に言う。自分越しに鏡に映ったお父さんの顔が、ちょっと寂しそうなことに気がついて、ザッカリアは振り向いた。
「俺。大きくならない方が良かった?」
「そんなわけないでしょう。だけど大きくなる所を見たかったなと思うんだよ。一緒に行けば良かった」
「そうか・・・・・ あのね。でも見れなかったと思う」
どうして?とギアッチに聞かれて、ザッカリアは凄い光の中だったと一部始終を説明した。驚いて座っちゃって、気がついたら光が消えててと教える。
「そうだったんですか。じゃ、総長とイーアンも見てないんだね」
「うん。俺を見つけて驚いたもん。俺も何で驚いたのかなって思ったよ。でも、何かあの青いところに入ったら、俺大きくなるかもしれないって、それは分かってた」
ザッカリアはそう言うと、ニコッと笑ってギアッチを抱き寄せる。『早く大きくなった。でも俺は俺だよ』と安心させる。それを聞くお父さんも微笑んで『もちろんだよ。ザッカリアは、私の大事な優しい息子なんだよ』としっかり抱き締めた。
腕を回した体もしっかりして。ギアッチは、息子の背中の盾を見つめる。それから鎧を見て、手袋、脛当てを見て感嘆の溜め息をつく。
「お母さんは凄まじいものを贈ってくれた。ザッカリアを守るために。これは伝説の絵が描かれているんだね」
ギアッチはザッカリアに話す。イーアンは2日間、眠りもせず、食事も摂らず、一度も休まないで工房で作業していたことを。それはこれを作っていたのだろうと教えた。ザッカリアのレモン色の瞳がお父さんを見つめる。
「イーアン。そんなに頑張ったの」
「きっとそうだよ。総長が言っていたもの。止めようかどうしようか、って皆で相談したけど、総長はイーアンが夢中で作ってるからやらせてあげようってね。そう話していた。それがこの、ザッカリアの」
ザッカリアは自分の鎧を撫でる。手袋の着いた両腕を揃えて見つめる。そして脛当てに視線を動かし、背中の盾を取って目の前で見た。
「俺。お母さんにもっとお礼言わなきゃ」
「もう分かってると思うよ。イーアンにはちゃんと伝わっているよ」
さあ、食事をしましょうとギアッチは息子の背中を押す。大きくなった息子は、ちょっと寂しいような、でも嬉しいような。大きくなったから一杯食べなきゃねと、涙が出そうになるのを誤魔化して笑った。
この日。ザッカリアは鎧を風呂に入るまで脱がなかった。食事の時も、授業の間もそのままでいた。そうして過ごしたかった。嬉しいのもあるけれど、特別なんだと思うその気持ちを味わっていた。
風呂に入る時になって、寝室で着替えを見て考える。鎧をようやく外して部屋に丁寧に置き、着替えを出して悩む。
「もうこれじゃ着れないよ」
「あ。そうか。でも大人用なら、いくらでもあるから」
ギアッチは一緒に倉庫へ行こうと行って、二人は倉庫へ行って大人用の小さい寸法のものを選ぶ。それを5着くらい用意して持ち帰り、棚にしまった。
「靴もだね。今履いている靴は、一緒に大きくなってくれたみたいで良かったけれど」
「この靴。イーアンが作ってくれたんだ。俺、これ捨てたくない」
「捨てないで良いよ。記念にとっておきましょう」
ニコッと笑うお父さんは、ふと思った。ベッドも。そうだ、一緒にはもう眠れない大きさだなと思う。それを伝えると、一人の部屋だ!と喜ばれてちょっと寂しかった。
「総長に言わなきゃ。あと、もうお風呂は。総長や私と一緒じゃなくて、一人でも入らないとね」
「うん。でも皆と入るんでしょ。皆と入っても平気だよ」
それはトゥートリクスとか、若い騎士たちとの方が最初は良いかな、とギアッチは提案する。おっさん連中だとからかわれたりしそうで(※しかねない人がいる)気掛かりだった。ザッカリアは頷いた。
「あのさ。俺はイーアンとは風呂に入れないの」
「もう~・・・ムリだろうねぇ。午前までのザッカリアなら、もしかしたら入れたと思うけれど。それもこれまでなかったんだし(※総長の拒み)。さすがに大問題になると思うよ」
「でも。俺の年は変わんないんだよ。ちょっと大きくなったけど」
「ザッカリアはイーアンとお風呂に入りたかったの?」
「うん。だってお母さんと入ったことないの、何か悲しいもの」
ああ~・・・・・ そうかー。 ギアッチはそういうことは考えていなかった。親として、自分か総長かな、と思っていただけで。ザッカリアも、自分が大きくなったから、もしかして可能性が減るのかと感じたらしい質問だったと理解する。
「ダメなのかな。でも我慢したんだから、これ以上大きくなる前にお風呂入るの、頼んでみたらダメ?」
「そうねぇ・・・そうだねぇ。そうか。ザッカリアは支部が家族だものね。お母さんもちゃんといるし、お母さんとだけお風呂は入れないのもね。何でだか分からないよね(※分かって)」
息子に甘いギアッチ。総長に大目玉くらいそうだなと思いつつも、とりあえず一肌脱ぐことにした。『総長はイーアンの旦那さんだから、もし総長がダメって言ったら諦めるんだよ』一応それを言う。
「言うに決まってるよ。いつも言うの。だから頼むんだよ」
正論である。この子は本当に頭が良くて、しっかりしていて、思い遣りがあって、観察力に優れていて・・・ギアッチが歩きながら考えていると『いつも聞いてるから、それはいい』と止められた。独り言で呟いたのを止められ、寂しいお父さん。
かくして。工房から出てきたばかりの総長とイーアンに、勇気を持ってギアッチは話す。見る見るうちに青ざめていく総長に、目が合わせられず、ギアッチは顔を背ける。ちらっとイーアンを見ると、口が開いてる。
「あのね。俺、お母さんとお風呂は入りたいんだよ。でもまた大きくなったら入れなくなるでしょ。だから」
「ダメ」
「知ってるけど。でもお母さんなんでしょ。どうしてお父さんと入れるのに、お母さんと入っちゃダメなの」
「ダメだよ。ダメなの。ザッカリアはもう大きいんだから」
目が怖い総長が、怒らないようにして威圧。灰色の光り輝く瞳を向けられて、困るザッカリア。どうしたら分かってもらえるのか、一生懸命考える。その顔がたまらなく○○○で、負けそうになる総長&イーアン。
「あの。この子が来てからまだ半年も経っていません。ザッカリアは今日突然育ちましたが、中身は毎日のザッカリアです。一度くらい一緒に入っても」
「イーアン。俺の心臓が裂けるかもしれないことを言わないでくれ」
「ほら。布を巻いて入れば。まだ子供なのです。ね」
「俺、一度しか入れないの」
「一度で充分だろう」
目をギラッとさせる総長に、ザッカリアはレモン色の瞳を悲しそうに向ける。じーっと見つめて『総長とは何回も入ったよ。どうして』と理由を訊く。総長はさっと目を逸らす(※負ける)。
結果的にこの押し問答は10分続いて、ザッカリアは初のイーアンとお風呂を叶えることになった。総長は折れたが、涙が出そうだった(※出てる)。ギアッチも小声で『すみません。家族ですから』と労った。
イーアンは、ザッカリアの気持ちも分かる気もする。最初に一緒にお風呂に入ろうとした時、この子はお母さんを知らないんだろうなと思っていた。だから心細いだろうと心配だったのを思い出す。それは数ヶ月で消えるものではなく、彼の我慢で過ごしていたのかと思えた。
「ドルドレン。ザッカリアは。その、確かにね。大きくなりましたけれど。あのまんまですから、大丈夫よ。それに私はもうおばさんですから、本当に大丈夫だと思います」
「そうじゃないんだよ~。イーアン、俺はどうしてこう、次々に苦行が降り掛かるのか」
「苦行はね。越えられる人にしか起こらないのです。あなたは立派な方だから」
「ザッカリアのアソコ見ないでね」
イーアンは笑い出して、伴侶の腕に凭れかかった。『見ても何とも思わない』と笑ったが、その一言で伴侶は猛烈に嫌がっていた。意識的になんか見ないから、と笑うイーアンにへばり付いて『俺が何したって言うんだ』と運命を呪っていた。
「洗っちゃダメだよ。おっぱいとか触らせちゃダメだよ(※ちょっと壊れ始め)」
「洗いません。そんな胸なんて触らせません。あなたが胸のある娘と入るとしたら、洗ったら犯罪です。あなたのあの部分を触れさせるなんてとんでもない。私だって、この場合は逆ですからしません」
娘なんか要らないもんと、へばり付きながら伴侶は嫌がっていた。そんな恐ろしいことが起こったら、確実に自分の生命が絶たれる。イーアンは命は絶たれないけど(※そんなの困る)あのザッカリアを洗うなんて、絶対止めてほしかった。
慰めながら、イーアンは着替えを持って風呂へ。『大判の布を持っています。これを巻きますから』そう言って、脱衣所に入った。ザッカリアも既に着替えは持っていたので、嬉しそうにイーアンに続いて、脱衣所に入って行った。
ドルドレンは死にそうなくらい息切れして、脱衣所の外の椅子にぐったり凭れ掛かっていた。ギアッチも真横にいて、励ましたり慰めたりしていた。
表はそんな状況で、脱衣所ではザッカリアはさっさと裸になっていた。イーアンは?と振り返られて、急いでイーアンは脱ぎかけの服で体を隠す。
『布を巻いて入ります。だから先に入って下さい』と微笑むと、ザッカリアは嬉しそうに頷いて、風呂へ入った。
イーアンは大急ぎで服を脱いで、体に布をくるっと巻く。胸が無いから布落ちてくるよ~と悲しい声を漏らすが(※筋肉はある)どうにもならないので、渋々手で押さえて自分も風呂に入った。
風呂場に入ると、いつもそうしているのか。座ったザッカリアは、石鹸で既に体を洗い始めていた。イーアンも洗ってからじゃないと浴槽には入れない。どうしようと考えて、とりあえずちょっとずつ体を洗うことにした。
出てるところから洗って、胴体は少し布を開けてさささっと洗う。ちらっと見ると、ザッカリアがニコニコして見ていた。
げーっ 一瞬声が出そうになって、イーアンは慌てて布を巻く。そんなイーアンを見るのも嬉しいみたいで、石鹸の付いたお母さんの体に、ザッカリアは湯を汲んで、かけてくれた。
「有難う」
「ううん。もっとかける?」
「はい。もうちょっと」
「髪の毛どうするの」
「あなたが湯船に入ってから洗います」
ザッカリアを見ると、濡れた髪を後ろに撫でつけた美男子。湯に濡れた濃いブラウンの肌は、細い筋肉を照り輝かせ、透き通った明るいレモン色の瞳は自分を見ている。もう崩れそうな美しぶりで(※完敗)イーアンは直視を避けた。
ニッコリ頷いたザッカリアはすくっと立って、湯船に入る。『いいよ』と声がかかったので、湯煙に紛れるのを救いに、イーアンは頭を早く洗って早く泡を流した。布が時折ずれるけれど、見えていないので急ぐ。
そしてよいしょと布を巻きなおし、いそいそ湯船に入った。目の前には育っちゃったザッカリア。向かい合って、ちょっと笑った。
「初めて。お母さんとお風呂だ」
「そうね。ずっと我慢させてごめんなさい」
「いいよ。今一緒だもん。そっち行く」
え?イーアンが答えるより早く、ザッカリアはイーアンの横に来て、そっと抱きついた。顔はイーアンの肩に乗せてぴたっと止まった。
ひえ~どうしましょ~!! おばちゃんイーアンでもこんな展開想像したことないので、くっつく美男子に戸惑う(※裸)。これはやばいのか、どうなのか。
でも次の言葉で、ハッとする。ザッカリアは両腕をイーアンに巻いて目を閉じて微笑み、『お母さん。俺、お母さんがいるんだ』と呟いた。そしてとても安心したように、大きな息を吐いて、顔を上げてニコリと笑った。
イーアンもその目を見て。それから手を伸ばして、自分の顔の横にある無邪気な微笑みを撫でた。
「そうよ。ザッカリアは私の子です。ずっと、これからもずっと私の子なの」
嬉しいザッカリアはイーアンの頬にキスした。心臓が止まりかねないイーアンは耐えたが、ザッカリアは抱きついた腕をもっと強くして、喜びを力にこめた(※風呂で心筋梗塞起こしかねない行為)。
「鎧、有難う。本当に有難う。イーアンが凄く頑張ったって、ギアッチに聞いたの。盾もカッコ良い。手袋も最高。脛当も最高。本当に有難う。イーアンの龍みたいな絵、俺も大きくなったら入れるんだ」
「鎧や盾はあなたを守ってくれるでしょう。私もそれは嬉しいのです。私の龍の絵。そうね、ザッカリアにもあるとカッコいいわ。きっととても似合います」
濡れた黒髪を撫でながら、イーアンは龍の話をした。自分が子供の頃から龍が好きだったこと。大きくなってすぐに、龍の絵を体に入れたこと。
抱きつかれながら、髪を撫でながら、二人は湯船で龍の話をした。いい加減時間が経ったのか、脱衣所の扉をばんばん叩く音がして『イーアン!!』と裏声で叫ぶ声がした(※限界)。
ザッカリアはきょとんとして、イーアンを見つめ『総長。俺とイーアンの話が長いからイヤなんだ』と笑った。
「じゃ、出よう。俺、熱いから先に出る」
そう言って、ザッカリアはざばっと立ち上がり(※イーアン即俯く)すたすたと脱衣所へ戻って行った。『また一緒に入って』と笑顔で言われ、イーアンはちゃんと『はい』と答えた。3分ぐらい待って、イーアンも出て、そそくさ着替えて脱衣所を出ると。
ドルドレンがものすごい勢いで抱きついて泣いていた。無事ですと伝えて、せっせと慰め、風呂上りはオシーンではなく寝室で待つことにした。
ドルドレンも急いで風呂に入り、即戻ってきて『どうだった』と質問攻めだった。イーアンはちゃんと、どう過ごしたのかを伝えた。イーアンが湯船で貼り付かれた部分で、伴侶は咽び泣いていた。でもそれはきちんとどうしてかを説明し、彼は本当にお母さんの存在が欲しかったのだと教えた。
伴侶はどうにか、壊れかけた思考でそれを受け入れたらしく、ザッカリアがまだ子供なんだと理解したようで泣き止んだ。
『触ってない?アソコとかおっぱいとか』『触るわけないでしょ』親子なのよ!と念を押し、今後も年が増えないうちは大丈夫でしょうと言うと、それはすごく嫌がっていた。
この後、夕食も部屋で済ませることになり、ドルドレンは出来るだけイーアンから離れなかった。
ザッカリアはその夜。ベッドを一台ギアッチの部屋に運んでもらい、並べて眠ることになった。
夕食前。執務室で部屋の相談をした時、執務の騎士も、育ったお子さんを見て唖然としながら事情を理解し(※飲み込みは早い)空き部屋を用意するが、ギアッチの横の騎士に動いてもらうと言ってくれた。
「ようは。見た目が大きくなっただけですよね。それ以外は今までどおりのザッカリアで」
「そうです。彼は何も、見えている部分以外は変わっていませんから」
「でもね。体が大きいから一人部屋で自立。その方が良いかもしれないですね。いきなり離れると心配もあるでしょうから、とりあえず3日間くらいはベッドをもう一台使って同室で。
横の部屋を空けてもらって、そこにザッカリアが入れるようにします。横はメルドロンかな。私が後で話しておきます」
執務の騎士の思い遣りに感謝して、ギアッチとザッカリアは3日間は同じ部屋で過ごす。
ギアッチはどんどんザッカリアが手を離れていくようで、それが心配でもあり、怖くもあった。でもその恐れは自分の問題で、彼はこうして、運命に逞しさを与えられ始めていると理解した。
部屋の明かりを消して、ギアッチがお休みを言う。ザッカリアも答えて挨拶し、初めて一人でベッドで眠ることを考えていた。
暗い部屋に目が慣れてくると、見慣れた天井やギアッチの寝息に、なぜか少し距離を感じた。今日はいろんなことがあったなと思い出す。
自分用の鎧やいろいろもらった。大きくなった。食事もたくさん食べたくなった。服も大きいのに変わった。イーアンとお風呂に入った。で、今こうして、一人でベッドに寝ている。自分がどこに行くのかなと思うが、それはあまり見ないようにしていた。
「後。剣か。あ、おじさんに大きくなったって言わなきゃ」
タンクラッドは自分を抱っこした時、重さに合う剣を作ると言っていた。きっと今の自分だと変わっている。ギアッチに言おうと思って横を見るが、ギアッチは寝返りを打って眠っていた。
ずれた上掛けを直してあげて、それからギアッチの頬にちょっとキスした。
そして自分の鎧を見つめ、一番小さい贈り物の手袋を手にとって、ベッドに入れて一緒に眠った。明日になったら剣の話をしようと思いながら、ザッカリアの忙しい一日は眠りについた。
お読み頂き有難うございます。




