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魔物資源活用機構  作者: Ichen
紐解く謎々
417/2948

417. タンクラッドの腕輪・馬車歌解読続き

 

 翌朝。少し遅く起きた二人は、暫くベッドでいちゃいちゃしていた。明るいとやらしいことをしてはいけない、と厳しくされているため、ドルドレンはちょっとちゅーちゅーするのみ。でも不思議とこれで満足(※普段は先へ進みたい)。


「遠征で引き離されていたからか。イーアンとキスするだけで満足な自分がいる」


「引き離されていません。一緒のテントで、一緒に眠っています。ただ営みがありませんでした」


「それが引き離されているのだ。やつらの悪意ある企みのせいで。愛する二人が引き離された」


 皆さんは一人で眠られていますと注意され、ドルドレンは黙る。黙ったついでに、布団に潜り込んで胸にぱくつくが、叩かれ『いけません』びしっと怒られた。


「もうちょっと良いと思うんだけど」


「朝です」


 つまんない~ ドルドレン子供返り。最近、駄々の味を覚えたことを反省し、一生懸命駄々を押さえて男らしくなろうと頑張っているが、遠征やらイケメンやらの緊張で、壊れがちなドルドレン。

 イーアンもそれは分かるので、ちょっと可哀相にも思う。でも朝からやらしいのはいけない。例外はないのだ。


「ドルドレン。今日はお休みして下さい。一日ぼーっと過ごして緊張を解くのも良いです」


「どこか行くとか。あ」


 ドルドレンの目が、窓を見て寂しそうに細められる。イーアンが振り向こうとして、ばっと布団を被せられた。『見てはいけない』伴侶の重い一言が降ってきて、イーアンはそれが何を意味するか理解した。


「呼ばれていますね」


「なぜ分かる」


「寝室で、窓を見て、あなたが嫌そうだから」


 布団の中であっさり察しをつけた愛妻(※未婚)にがっかりして、渋々ドルドレンは愛妻を解放。イーアンが窓を見るとミンティンがいる。裸の時に来られるのもねぇと思いつつ。布団を体に巻いて、イーアンはいそいそと着替えをしに自室へ戻る(※伴侶は素っ裸)。


「イーアン。王だかイケメンだか知らないけど、早く戻っておいで」


「誰ですか、イケメンって」


 ハハハと笑う声が壁の向こうから響く。『ドルドレンのこと?(※分かってるけど伴侶を立てる)』続く言葉にドルドレンは少し嬉しくなる。でも俺もイケメンかもしれないが、厄介な方のイケメン。


「厄介なヤツのイケメン」


 イーアンが笑いながら出てきて、ベッドにちょっと腰掛ける。それからドルドレンに腕を回してちゅーっとしてから『誰のことだか。私は最高のイケメンの待つ場所に、早く戻ってきますよ』冗談めかしてそう言うと、伴侶がぎゅうぎゅう抱きしめて『早くね~』と泣きついていた。


 暖かそうな陽射しと、室内の気温から、イーアンは今日は春服に羽毛上着。一応剣も持つ。靴も革紐で膝上まで編んである、素足状態。でも寒いので、ここに毛皮の足筒(※この辺がおばちゃん)。

 青紫の柔らかい生地で3層仕立てで広がる、ふんわりしたスカート。ブラウスは大振りの青い花が、金色や緑で振りどられて大きく刺繍してあるぴったりしたブラウス。首に。白いチョーカー・・・・・ 冠が。



「これ。アオファ用」


「一応持って行きます。何があるか分からないですもの。アオファにお願いすることもあるでしょう」


 アオファが動くような物事が起こらないことを祈る。それは二人とも思うが、手に入れた以上は、冠も多頭龍もいつでも一緒と、考える癖をつけた方が良いということで。


 ドルドレンは窓から愛妻を送り出す(※素っ裸)。イーアンはミンティンに乗ってから振り向いて、前を隠すようにと伝えた。ドルドレンはあまり気にしていない最近、分かったと頷きながらも、寂しさに負けて裸のまま手を振っていた。


 春服が可愛いなぁと思いつつ。前も隠さないで窓辺に立つ総長は、愛妻が遠ざかる朝の空を見つめる。

 方角が『イオライセオダ』ブスッとした顔で呟く。あいつめーっ! 王より性質(たち)悪いーっ!! 自由自在にうちの奥さん呼びつけやがってーーーっっ 裸できーきー、朝から怒るドルドレンだった。



 イーアンも気がついていた。飛び立って朝日の方へ向かえば王様。朝陽を背中に受ければタンクラッド。


「何かしらねぇ。朝なのに」


 笛を取り上げた方が良いのか、悩むイーアン。でも作ったのは彼だし。いくら何でも伝説の道具を再現して、それも機能まで複製するなんて。その人以外の誰も出来ないようなことをやってのけた人から、『それ預かります』と引っ手繰るわけにもいかない(※多分絶対渡してくれない)。


 やれやれ、と呟いて、イーアンはイオライセオダへ到着した。ミンティンが降りたと同時に裏庭の扉が開いて、極上スマイルが朝一番で贈られた。有難うございますとお礼を言いたくなる笑顔。


「おはようイーアン」


「おはようございます」


「昨日は鎧とチュニックだったが。今日は全然違う。お前は何を着てても似合う気がするが、今日の服はお前によく似合っていて、さらにきれいだ」


 恥ずかしくなるイーアンは俯いてお礼を言う。そしてふと思う。タンクラッドを誉めて、照れたことってあったかしらと。年が年だと照れないのか。いや。違う、同じような年齢だし。そんなことを思っていると、タンクラッドは、龍に戻って良いぞと声をかけて勝手に帰し、イーアンを家に入れた。


「何か御用でしたか」


「いつだって用だ。お前がいることが大事だ」


「そのためですか。私寝てました(※誰とどんなふうにとは言わない)」


「そうか。疲れているのに悪いことをしたな。うちで眠れ」


 できるわけないでしょ!とイーアンは返す。やはり、笛を預かるしかないのか。も~・・・


 タンクラッドはちょっと可笑しそうに、困るイーアンを覗き込み、顎に手を当てて自分のほうを向かせる。『ごめんな。ちゃんと用事があった』少し笑って、イーアンをとにかく椅子に座らせる。


「お茶くらい飲めるだろう。淹れるから座っていてくれ」


 私が淹れますよと言うが、タンクラッドは自分が淹れるからと言って台所へ入った。イーアンはこの時、気が付く。机の上に2つの輪が置いてあることに。一つは少し小さく、もう一つはそれより大きかった。

 継ぎ目などなさそうな美しい白い金属の輪。触らないまま、吸い寄せられるように見つめていると、ぼうっと金色の光が輪の中心に光って、羅列する文字が一瞬見えた。


「それが用事だ」


 お茶を持ってきてくれたタンクラッドが、机にお茶を置いて座る。小ぶりな方の白い輪を一つ取って、両手指で円の外を包み、イーアンに見せた。


「これはお前が多分察しを付けているように。あの金属だ」


「同じ割合ですか。牙がそれほど余ったということですか」


 いいやそれほどでも、とタンクラッドは輪を見たまま言い、イーアンの左手を取って引き寄せる。『お前のものだ』驚くイーアン。こんな輪の話は、伝説にあっただろうか。それとも白い棒の中に書いてあったのか。


 不思議そうに自分を見つめるイーアンの左手に、タンクラッドは落ち着いた様子でその輪をするっと通した。イーアンの拳の大きさを知っている職人だからこそ、あっさり作ってしまった腕輪。でも普通の腕輪と違って。


「タンクラッド。縮みました」


「あ。本当だ。何でだ」


 イーアンの腕に入ったと思ったら、腕輪は少し縮んでぴたりと収まった。手を(ひね)ってみても骨に当たらないくらいの縮み方。でも拳はもう『これ。拳から出ないでしょう。この大きさでは』イーアンは煙に巻かれたように、不思議な腕輪を見つめる。腕輪に金色の光がふっと浮かんで消えた。


 タンクラッドも理解不能といった様子の表情で、何も言わずに、もう一つの腕輪を自分の左手に通した。こちらも通すなり、何故か縮んで腕に沿ってくっ付いた。同じように金色の光が一度浮かび、消える。


「タンクラッドが作ったこれは。一体何だったのですか」


「え。ああ・・・ これか。腕輪だ」


「それは分かります。でもどうして縮んだり、その。あなたの方のも縮みました。どうやって外すのでしょう」


「知らない。こんなことが起こるなんて。説明が出来ない」


 え?イーアンはハッとする。これは。もしや。タンクラッドとお揃い。伴侶が見たら心臓発作。どうしようっ 朝一番で呼ばれて戻ったら他の男のお揃い付きの妻って。いやー!それはダメよー!!


「ど。どう。どうしましょう。これ、外れないのですか」


「あのな。落ち着いて聞いてくれ。こんなつもりはなかった。というか、こんなことが起こるなんて考えてもいなかった。本当だ」



 慌てるタンクラッドは、急いで自分の寝室へ行き、戻ってきて、イーアンにお祖父ちゃんの書いた紙を見せた。


「まだ読めないか。ここな。ここにあるんだが。不思議な言葉があった」


 職人が読んでいて気になった部分。それは、伝説に残っている女の存在だという。『それはそう、教えて頂きました』イーアンが頷く。タンクラッドは続きを教える。


「女はこの世界にどうして来て、どんな約束を交わしているのか。この世界で何をしたのか。そしてその後だ。俺はこの『約束』の一部と、『その後』の部分で暫く考えていた」


 タンクラッドが教える内容はイーアンに衝撃的だった。



「女はこの歌の中で、約束の条件がある。そこに『約束したのはいつでも3つ』と。変な言い回しだろう?いつでも3つ・・・って。3つが一回だけじゃないんだ。

 何か約束する時、何度約束があったのか知らないが、3()が鍵なんだ。逆を言えば、1でも2でも終わらない。確実に3()の数字から動かない」


「それはどういう影響があったのでしょう」


「まだ始まったばかりだ。ちゃんとは分からない。ただ続きというか。『その後』の部分で、この3の数字がまた出てくる。総長は読んだだろう?何か言っていなかったか」


「いいえ。彼は読みましたが、何かと関連していたようではありませんでした」


「そうか。では帰ったらこの話をしてみてくれ。もしかしたら、彼なら何か知っているかもしれない。

 あのな。()()()、女は戻らなかったんだ。この世界で生涯を終えるような感じだ。そして彼女には子孫がいなかった。だからかもしれないが、この世界に再び同じことが起こったら、『あと2回来る』と約束している」


「え。それは。彼女を含めて3という」


「そうだ。伝説はこれが一度目だから、今回は2度目だ。次があるんだ。また何百か何千年かした後、もう一度。お前は、もう一度ここへ来る」


「私の代わりの、誰かが・・・・・ 」


「だろうな。その後の部分に『女は3度呼ばれて、3度応える』と書いてある。ジジイはこれを彼の解釈で俺と同じように、時代を超えていると書いた。ジジイは馬車歌しか知らないだろうに、大した読解力だ。俺には白い棒も手記もあるから、照らし合わせて確証を見つけるが。もしくは、馬車歌はもっと全体像が複雑なのか。

 話を戻って、条件の部分にも『知恵を呼ぶのは誰の声。精霊、勇者、時の剣』とした一文がある。俺はここを考えた。これは思うにだが、3度来るという、お前の時代を超えた登場を呼ぶ意味ではなく、一度来たお前の存在を、()()()()()()()()()()と言っている」


「なぜですか」


「馬車歌の中で『知恵の女と龍引く手』を持つ人物がいる。知恵の女、龍、それを引く誰か・・・の三者だ。さっきの『時の剣』は、直感で俺のことだろうかと思った。勇者は総長だろう。時の剣は、俺が持つあの剣かもしれない。そうすると、総長ではない誰か、だ。総長が時の剣を持っているわけではない様子だ」


「でもあの剣を持っていても、タンクラッドは私を呼ぶことは出来ませんでしたでしょう?」


「そうだ。だから次の言葉に引っかかった。時の剣の持ち主が、知恵の女を呼べるとしたら。ザッカリアが俺に言った。『イーアンと龍を連れて行く』と」


「あ。そういえば。そうですね」


「『精霊の力宿す剣を鍛える男、その手は龍と女の知恵を導く』これは、白い棒にあった言葉だ。俺のことだ。読んですぐに自分だと気付いた。

 だがこの時は、どう導くのか分からなかった。助言とか、近くで支えると言った、バニザットの言葉通りかと。だが違う。それ以上の役目があった」


「だから。あなたが作った笛が使えるの?あなたは」


「簡単に答えを出すわけには行かないが。最初に言ったように、まだ始まったばかりだ。だが俺は思う。俺は試しにあの笛を作ったんだ。そして次に冠。必要に応じて作っている。恐らく、もう一つある。お前を呼ぶためのものが。お前は龍の子。龍を呼ぶ何かを。分かるか?龍を呼ぶということは、お前を呼ぶという、すなわち」


「知恵の女を呼ぶ。それがあなたの力」


「そうだ。こんな大役だとは思わなかったが、思い込みではないだろう。

 ここで途中に話した『3』の数字がまた脳にちらついた。3頭の龍を従える女がお前。お前を呼べる者も3。お前・・・龍を呼ぶための道具もまた3つ」


「あの。もしかして、この腕輪は本来一つでは」


「気付いたか。早いな、イーアン。お前に作ろうと思って、冠の余った金属で作れる腕輪を作った。自分の分もあればなと思ったが、先にお前のを作りたかった。それを作った時、出来た輪がすぐ二重に割れた」


「外と内側。そういう意味ですか」


「そうだ。何か意味を持たせたかったから、ここの言葉を抜粋した。輪の内側に『三度呼ばれて三度応じる』。輪の外側に『知恵の女と龍引く手』。お前がつけても俺の気持ちを含めたかった。それにもう一つ、自分用にも作ろうと思っていたが、割れてしまったから、言葉は内と外に分かたれた」



 ここまで話して、タンクラッドは自分の腕の白い腕輪を見つめる。「俺の方には、俺の意味が。『知恵の女と龍引く手』の文がある。お前には『三度呼ばれて三度応じる』の文が」


 イーアンは鳥肌が立つ。そんなことが起こるなんて、と。これだけいろいろあっても、まだ驚かされる。


「この前の話です。支部で、私とドルドレン、フォラヴ、シャンガマック、ザッカリア、皆の剣を作ろうと話していた時のことです。私とドルドレンは既に作って頂いたので、他3人の剣の話になりました。


 この時、ザッカリアの保護者ギアッチが、彼は子供だから、危険な旅に行かせたくないと嫌がりました」


「あの金髪の。頭の良さそうな男だな。子供を大切にしている」


「そうです。彼はザッカリアを、本当の我が子のように大切にしています。でも私の剣に浮かび上がった仲間の名に『ミコーザッカリア』とあったのです。それを言うと、彼は、この子ではなく人違いではないかと」


「ミコーザッカリア。本当の名前とか、そうしたことではないのか」


「いいえ。実は。私はこの世界に来る前の名前がミコウです。私の国では3種類の文字体系を使い、言葉を表記しますが、多くの名前には、複数の意味を持たせる1種類の文字体系による、名づけが行われます。

 私の名前は『3度呼んで3度応じる』意味を名前にしたものでした」


「 ・・・・・ミコウ。イーアンの名前が、元の世界からすでに。そうだったのか。でも、ザッカリアはどうしてだ」


「その理由は分かりません。でも私の名前の話をした時、ギアッチはすぐ何かを理解したようで、ザッカリアを行かせると了承しました。私はザッカリアの母親役を支部では。そしてザッカリアの目は龍の目」


「ああ・・・本当に。運命はどこまでも。緻密に正確に絡み合う。縁もないはずの出会いから、母となった女の名前を受け取った子供。母は龍の子。なんという壮大な」



 タンクラッドは打ちのめされたように、背凭れに体を預けた。そして腕輪を見て、暫く考えていた。イーアンも冷たくなったお茶を飲んで、不思議な巡り合わせがこれほど自分に絡まることに、思考がついていかなかった。


 ふと、イーアンは思う。『タンクラッド。もしかしたら、この腕輪は最後の龍のための』呟いて剣職人を見る。職人も同じことを考えたようで、小さく頷く。


「何かのきっかけで、この輪が戻るかもしれない。もしくはこの2つを1つとして使うような、そうした場面があるのか。とにかくそれは、最後のグィードのためかもな」


「それまでは、私とあなたのそれぞれの腕にある。そんな感じですね」


「総長が怒るな」


 ハハハと笑う剣職人に、イーアンも思い出して苦笑いした。でもこれはちゃんと意味があるみたいだから、仕方ないかなと思う。


「でも。ならどうして二つに割れたのでしょう」


「分からない。俺もこんな予定じゃなかった」


 笑って首を振る剣職人に、イーアンも頷いた。本当にこんなことになるなんて、タンクラッドは思いも寄らなかっただろうと。ただ余りの金属で何か記念を作ろうとして、こう・・・それは正直なタンクラッドを見れば分かる。



 タンクラッドはじっと腕輪を見つめて、表面に彫り込んだ文をなぞり、その言葉を呟いた。『知恵の女と龍引く手か・・・三度呼んで三度応じる』ふうん、と微笑んだ。

 その途端、イーアンの体が突然、誰かに持ち上げられたように引っ張られる。


「わっ」


 イーアンが叫んだ途端、イーアンはタンクラッドに叩きつけられるようにドンッとぶつかり、背後の窓の外で光が輝き、ミンティンが来た。


「な。何だ?何が」


 目を丸くするタンクラッドは、何かに押されて自分に撥ね飛ばされたイーアンを抱き止めて、窓の外を見る。青い龍がこっちを見て首を傾げているのが見える。


 抱き止めたイーアンを見て、イーアンも親方を見上げて。二人は同じことを考える。


「この腕輪は俺たちが呼び合うための」


「グィードを呼ぶ時は、また違うやり方が加わるでしょうか。来たのはミンティンです」


「お前もな」


 本当ですねとイーアンは驚いたままちょっと笑う。笑いが続かない。タンクラッドは理解した。腕輪は、自分が引き寄せられる場合もあるだろうことを。どちらかが、この腕輪に彫られた言葉を繋げて唱えれば、相手と龍が一緒に寄せつけられる。


「イーアン。俺を呼ぶ時も、2つの文を唱えろ。お前の文から唱えれば良いのか。恐らく、龍と俺がお前のもとへ行く」


「間違いなく。ドルドレンが嫉妬します」



 ハハハハハと剣職人は笑った。イーアンもこれはどうにも出来ないので笑う。でもこの時、王様って何なんだろうな~とイーアンは考えていた。彼はどうして自分を呼べるのかなと。


 時間を見れば、もうかれこれ1時間。8時になる。質問がてら。ちょっとご飯でも作っていこうと(※習慣)イーアンは台所へ行く。ミンティンは外で寝てくれた。


「朝食を作ったら帰ります。タンクラッドに質問ですが、呼べる人は精霊、ドルドレン、あなた。と、しますとね。今の所、フェイドリッドも私と龍を呼べる人なのですが、あれはどういうことでしょう」


 豆と肉を野菜で煮込み、塩漬け肉の3cm厚切りを、脂身がサクサクするまで炎で焼きながら、イーアンは訊ねる。台所の椅子(※椅子置いておくことにした)に腰掛けて、香ばしい匂いに幸福を感じつつ、親方も考える。


「以前、お前が何か言っていたよな。あれはもともと、お前が今持っている笛の殻だと。つまり今回の俺たちの腕輪のようなものかもしれない」


「そうか・・・そう、あれはミンティンが割ってくれて。あの笛があるから、王都は魔物が来ないとフェイドリッドが言うので、持ち出すわけにも行かず困っていましたら、ミンティンが来て器用に割ってくれました。それで中身を私が。外を彼が保管しました」


「魔物が寄り付きにくい、というくらいのものだろうな。実際は。笛を持っていても、遭遇する時はあるわけで。

 つまり王都には、魔物から見たら大して用事がない上、寄り付きにくいだけ・・・とかな。結果、笛の殻があれば無事という解釈じゃないのか」



 用がないから放置。そうなのか~とイーアンは思う。帰ったらドルドレンに教えてあげようと思った。ドルドレンは、王都が無事であることに微妙そうだから。


 そしてイーアンは、サクサク脂身の塩漬け肉を平焼き生地に挟んで、玉ねぎや葉っぱものをどさっと挟んだのを2つと、豆と肉の野菜煮込みをてんこ盛りにして、タンクラッドの朝食に出した。

 タンクラッドは猛烈な勢いで、サクサク脂身肉を齧って、美味い美味いと飲むように食べていた。ちゃんと噛んで、とお願いしても聞かず、煮込みも器を持って飲んでいた。


「久しぶりだから。昨日夕食もこんな感じで食べた」


 笑うイーアンは、頼むからゆっくり食べて、とお願いした。タンクラッドは満足そうに食事を終え(※所要時間5分:早食い)鍋に煮込みがあると聞いて、それは昼にとって置くと言ってくれた。一安心。



 帰る時。イーアンが龍に跨ると、タンクラッドはイーアンに自分の笛を持たせた。


「良いのですか」


「もう俺には要らないだろう。俺とお前を繋ぐ腕輪がある。それは総長に」


 笛を取り上げようと思っていたのを言わなくて良かった~・・・イーアンは思った。有難く受け取って、腰袋にしまい、今日あたりに盾の職人に会う日程を組むことを伝えた。


 タンクラッドは余裕なのか、お腹一杯だからか、とてもおっとりした感じで頷き『早く来いよ』と送り出した。

お読み頂き有難うございます。

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