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魔物資源活用機構  作者: Ichen
紐解く謎々
416/2947

416. イオライ遠征慰労会

 

 イーアンとオーリンは、アオファの側にいた。もう夜闇が迫る時間で、会議が終わったらドルドレンが迎えに来ると言われていたので、その間少しだけ、アオファと一緒だった。


「寒いか」


「いいえ。この青い布が守ってくれるのです。精霊が下さいました(※正確には遺跡荒らし)」


「君は、本当に精霊に呼ばれてきたんだな。疑ってるわけじゃないよ。大した存在だと思って」


 そう言ってオーリンは大きな龍を見上げる。アオファは眠っていて、こちらが意識的に話しかけないなら、気にせず眠れるようだった。


「本当ですね。自分の話ではないみたいです。まだ慣れませんが、自覚を持たないとね」


「来てくれて良かった」


「私も来れて良かった。元の世界に戻ろうとは決して思わないです。私はここが良いです」


 オーリンはちょっと微笑んで、イーアンの肩を撫でた。『また会いたい』呟くオーリン。イーアンはニッコリ笑う。『お会いしに行きます。お肉があるし』うんと頷く。オーリンは笑い出した。


「仕事で来るんだろ。肉は(ついで)で」


「そうでした。仕事だった」


 あらあらと笑うイーアンに、オーリンも首を振りながら笑って言う。『目を。治す機会をくれたことに、本当に感謝してる。有難う』弓職人は改めてお礼を伝えた。


「偶然でした。あなたがシャンガマックと一緒に入ったのも、きっと何かの意味あるお導きですよ」


「そうかもしれない。俺はあまりそうしたことを信じないけれど。そんな気がする」


「私たちが旅に出たら。あなたと暫くお会いすることはないでしょう。でも、どうぞ皆さんの力になってあげて下さい。あんなに凄い弓を作る人です。とても頼もしいです」


「見たいか」


「弓ですか」


「そう。でも。そうだな、次に俺の家に来た時に見せてやるよ。ここではちょっとな」


「それは。その意味。あなたが矢を飛ばす際に破裂させる・・・あれの秘密でしょうか」


 オーリンは黄色い瞳を光らせて目の前の女を見つめる。『どうしてそれだと思った』静かな口調に誤魔化しが利かない強さがある。イーアンはそれを受け入れる。


「私の以前いた場所に。とても恐ろしい力を持つ、同じ原理の物がありました。私はこの世界で魔物退治に関わって以来、その存在を作ろうとすれば作れることを知っていましたが、出来ませんでした。

 正確には、私はこの世界にそれが存在しないなら、その方が良いと判断したから作らないでいました。そのくらい」


「正しいな、イーアン。俺もそう思う。俺は偶然見つけたから使うが、他では。まして特別な事態でもないと使わないんだ。同じ理由でね」


 怖い道具ですけれど、とイーアンは続ける。


「でも。使う人があなたなら。大丈夫だと思いました。ただ知られない方が良いと思うし、誠実に見える人でも、状況や感情の不安定さでは。どのようにそれを扱うか分かりませんから、存在しないとさえしてしまった方が良い気もします」


 オーリンはイーアンの髪をちょっとだけ撫でた。『賢い女だ。利口な女は何回も見たが』呟いてから、真顔で約束する。『心配しないで良い。俺だけだ。俺が使う以上、これを知るのは』ね、と微笑んだ。


「素晴らしい武器です。あなたが使う限りにおいて。作り出したことも素晴らしい。その探究心も、努力も、知識も。あなたがどんな人となりかを、その一つに表した素晴らしい武器です」


「有難う。クソ野郎だけどな」


 笑い出したイーアンは、オーリンの腕を掴む。オーリンも髪をかき上げて笑う。


『あなたがそれは』『だけどよ。クソ野郎って言われないぞ、普通』『私は。ほら、あなたがご存知のように昔ね』『差が激しすぎるよ。君は』『だってお尻叩くから。この年で』『煩いんだもの、そこにケツがあったし』オーリンの最後の言葉に、イーアンはゲラゲラ笑ってしゃがみ込んだ。オーリンも笑いが止まらなくなって、二人で夜空の下、青紫の眠る龍の前で笑い続けていた。




「イーアン」


 建物の裏庭口向こうから、背の高い人影が名前を呼ぶ。『はい』ドルドレンに手を振るイーアン。『オーリンも。そろそろ入れ』近づきながら誘い、イーアンの肩を抱き寄せて微笑む総長。オーリンはそれを見てちょっと笑って『先に行くよ』と足早に中へ戻った。


「イーアン。風呂に入れる。湯船は明日かもしれないが」


「有難うございます。では先にお風呂を済ませましょうか」


 イーアンとドルドレンは、慰労会の前に先にお風呂を済ませることにして着替えを取りに行き、風呂へ向かった。愛妻(※未婚)が涙を拭いて笑っている理由は聞かなかったが(※笑い上戸は知ってる)。ドルドレンはちょっとイヤだった。オーリンとも仲良くなっちゃって・・・・・ 白髪が気になる最近。



 さっさと風呂に入ったイーアンがすぐに出て、その格好にドルドレンは悩みながらも、愛妻をオシーンに預け、自分も急いで風呂に入る。預けられたイーアンは、いつものようにオシーンの片づけをボーっと見ながら過ごした。


「お前は英雄みたいだからな。今日は特に気をつけろよ」


「英雄ではありません。それは龍です。そしてドルドレンや皆さんです」


 オシーンは長椅子に座るイーアンの前に立って、腰に手を当てて大振りな溜め息をつく。『謙遜が良いとは教えてない』注意してから、イーアンの首もとの黒い螺旋の髪を少し摘まんで持ち上げた。『お前。この前、首に輪っか着けてただろ』眉根を寄せて呟いた。


「ああ。冠。はい、あれは輪っかではないです」


 冠?オシーンが訊こうとすると、丁度ドルドレンが戻ってきて、さっとイーアンを抱き寄せて『オシーン有難う』と棒読みで礼を言ったかと思うと攫っていった。苦笑するオシーンは首を振りながら『あいつは』と笑っていた。



 広間へ向かいながら、ドルドレンは愛妻をちょっと見つめる。その姿にぽーっとしそうなんだけど。でも気になるので訊く。


「あのね。二人の時は良いんだけど。なぜその服にしたの」


「これですか。皺になってないのが、これだけでした。でも革のコルセット使っていますから」


 ちらっと伴侶を見るイーアン。大量の服を掛ける棚を、作る作る言いながら(※伴侶が)ずっと先延ばしになっているため、掛けられる所には吊るしているものの、服の量が多くて畳んでしまうものは多い。


 伴侶は忙しいからと分かっているため、イーアンは度々自分で作ろうとしたが、『こういうことは俺が』と言われ、その都度止められていた。


「春服は軽いし、とりあえず何段にも重ねなければ大丈夫です。ただ冬服はもう、購入して何ヶ月も経ってますでしょう。壁に掛けたり、もとの服掛けに吊るせるのは、本当に皺になったら大変なものばかりで。その他の服は畳んでいますから、どうしても皺がね。これは生地が皺になりにくいから、無事でした」


 伴侶は何も言わない。目をそっと閉じて『大変よく似合っている』と呟いた(※自分のせいだと自覚はある)。


 ドルドレンの大好きなテロテロ服。碧色のテロテロツヤツヤ、イーアンの体の線に寄り添うような生地のワンピース。お尻くらいまでは貼り付く服はそこから長い裾に向かって広がり、スカートに切込みがあるから、歩くと足も見える。

 このままだと危険なのだが、本人も気にしているのか、胸を覆う焦げ茶色の編み上げコルセットを使っているため。胴体はどうにか無事。しかし。コルセットから下の線と、腿が見える部分にドルドレンは悩んだ。


「棚を」


「私が作ります」


 そうね・・・ドルドレンは抵抗せずに受け入れることにした。自分は彼女に服をたくさん着させたくて、買う時に大量購入するけれど、その続きは、服を着た姿を見るだけで満足。服用の棚はイーアンに任せた。



 広間は既にパーティー。


 山のような料理はとっくに並んでいるし、酒の瓶もたくさん置いてある。何列にもなる机に、ざーっと騎士が並んで座り、ちょっと食べてる者もいる。


「待たせたかな」


 ドルドレンが少し笑って、イーアンの肩を抱き寄せながら、机の列の中を騎士を避けて進む。『総長』呼ばれた方にトゥートリクスが手を振っていた。手を上げ返して二人はその空いている席へ座る。


「イーアンは暖炉の側が良いでしょ」


 トゥートリクスが横に座って笑顔で訊く。イーアンはお礼を言って『夜はまだ冷えますね』と頷いた。暖かいし、トゥートリクスの横なら野菜を食べさせやすい(慰労会=野菜を勧める会)のでイーアンも満足。



 全員が席に着いたのを確認して、別の列のブラスケッドが立った。


『今回も。全員が無事に帰還したことをメーデ神に感謝する。危険な場面もあったがそれを乗り越え、続く退治も、果敢に剣を振るい弓を射掛けた。遠征ご苦労だった。もう良いぞ。好きなだけ食べて、飲んで、疲れを癒せ』大きな声で挨拶を済ませるブラスケッドに、ワッと拍手が起こり、あっという間に宴会。


 遠征の緊張は終わり。全員が揃っていて、全員が無傷で戻れた。神の加護じゃなくて何だろうと、誰も彼もがイオライの谷の話で沸いた。

 支部で待機した騎士も全員併せて、80人ほどが揃うと、誰が何を喋ってるのか分からないくらい賑やか。横にいる人の声でさえ、耳を寄せないと聞き取れない。笑顔が多く、皿にどさっと盛った料理を喜んでかき込んだり、矢継ぎ早に酒を注ぐ楽しそうな姿が広間を埋める。



 長机の上に、隙間なく置かれた料理の皿に魅入るイーアン。美味しいものを食べる時。それもとても美味しい場合は=パパ。パパの幻を想像して食べること。


 目の前に並んだ素敵な色の、素敵なお料理に手を伸ばし、ちょっとずつ皿に集める。ささっと見渡して野菜と蒸し焼きの料理がないことに気がつき、ドルドレンにお願いして取ってもらう。


「こんなくらいじゃ足りないだろう。もっと取れば」


「後で。部屋で頂こうかしらって」


 ああ、そう、と伴侶も納得。じゃ、きれいなうちに別の皿に取っておこうと、もう一枚小皿を用意して、イーアンのお部屋セットを手際良く盛り付けてくれた。優しい伴侶に、イーアンはぺとっとくっ付いてお礼を言う。


 ドルドレンは、くっ付いたイーアンを見下ろして頬を染める。毎度、新鮮って良いなぁと嬉しくなる。


 いつも大好き。いつも大事。いつも可愛い。いつも綺麗。はー、幸せ。はー、早くベッド。30分くらいで切り上げて、部屋入ったらダメかなぁ。良いよね。4日も我慢したんだから(※他の人は全員いつも我慢)。


 ちょっとイーアンの肩を抱き寄せ、頭にちゅーーーっとして(※周囲が凝視)頬ずりして『たまりません』アピールをする。

 笑うイーアンは、アピール伴侶を上手に流しつつ、料理を匙に取って食べさせた。ドルドレンは満喫。美味い美味い言いながら、あーんも最高に喜ぶ。イーアンとしては、何か食べさせておけば大人しいと解釈してのこと(※咀嚼中は頬ずり&ちゅーはされない)。


 まんまと術中にはまって、もぐもぐ食べさせてもらっているドルドレン。イーアンの横のトゥートリクスは自分から野菜を頑張る。気がついたイーアンが誉めると、えへっと笑って『毎日少しずつですよ』と練習を伝える。


「えらいわ。毎日、意識して食べるなんて、素晴らしいです。トゥートリクスは今も格好良いですが、年齢が上がっても、野菜を食べておけばもっと素敵になりますね(※野菜力=髪・肌つやつや)」


 うーんと唸って赤くなるトゥートリクス。誉められて、恥ずかしそうに下を向いて、もぐもぐしていた(※野菜の味が分からない状態)。


「俺も食べてる」


 ムスッとした伴侶が食べ終わったと同時にこぼす。ああはいはい、とイーアンは急いで口に運ぶ。『ドルドレンは好き嫌いしないから、世界一格好良いのです』ねっと笑う。機嫌が直る総長(※世界一)。


「うん。でもな。イーアンの料理が一番好きだ。イカタコとかアワウラのパンとか、また食べたい」


「どちらもまだあるの。干した魚もあるから、明日作りましょう」


 そんなことを話しつつ、ふとイーアンは意識が厨房と料理に向く。机に並ぶ数々のお皿を見る。そう言えば今日の料理は誰によるものなのか。


 ヘイズは帰ってすぐに、これを作ったわけではないと思う(帰宅時間夕方)。よく見ると、下拵(したごしら)えが要るものも多数。作る彼らは今、ちゃんと食事しているのかしら。


 ちょっと考えて、『ドルドレン。ちょっと厨房へ行ってきても良いでしょうか』と相談。どうしたのと訊かれ、料理の件を話す。『お手伝い、必要なのではないかと思いました』イーアンの心配そうな顔に、伴侶は甘く微笑む。


「優しいイーアン。大丈夫だ。彼らは非常に用意周到だから。イーアンが来る前からこうして、料理担当になった、料理が好きで上達した騎士たちは、皆、手際良く準備している。いつものことなのだ」


 あ。そうか、とイーアンも納得。ちょっと失礼な出しゃばりだったかも、と気がついてすまなく思った。


「そうでした。私が来る前からずっと。そうですよね。今日のブラスケッドの話もそうだったけれど」


 ドルドレンはイーアンの唇にちょっと指を触れて、目を見てから頷く。『もう良いんだよ。それはこの席では言わないのだ』静かに、他に聞こえないように囁いた。イーアンは迂闊な自分に再びすまなく思い、慌てて頷いた。


「そうでした、そうでした。ごめんなさい。ちょっともう、別の話題にしましょう」



 せっかくの場なのだから、楽しい状態を大事にしましょうとイーアンは料理を味わうに徹した。


 とはいえ。()()()()付きなので、微笑みながら食べるのみ。味は良く分かっていないが、良い食感であることは理解する。


 大人しく味わっている側で、ドルドレンを見ると、彼も食べさせてもらいつつ、酒も飲みつつ。品良くこの場を楽しむ。見れば、ダヴァート隊の皆さんは何となく・・・品良く食べている。大騒ぎする性質の人物がいないことを、今更ながら知る。


 フォラヴは上品一等級なので、これは置いておく。生きてるだけで上品な気がする(※元が違う)。彼は何をしていても上品といった印象があるので、フォラヴが下品な場面なんて想像もつかない。


 シャンガマックもそう。品の良い顔立ちは得である。例え、カトラリーを使わずに、薄焼き生地に果物と肉を巻いて、ペロッと食べたって。その姿はとてもセクシー。本人はそうしたことを気にしていないので、うっかり誉めると恥ずかしがって固まる褐色の騎士。そっとしておくのが一番。


 元気な子供たちも(※ザッカリア・トゥートリクス・ロゼール)、ムシャムシャ食べるだけで、お下品ではない。お子たまは、ギアッチお父さんに甘やかされ放題で、肉しか食ってないのが気になるが。


 スウィーニーは育ちが良いのか。見た目のゴツゴツした雰囲気とは違って、テーブルマナー全開の食事風景は、資格が取れるレベルである。素晴らしい。よくお嫁さんが見つからないもんだと、違う方向で感心する。


 アティクは?と奥を見ると、肉も魚も鷲づかみだった・・・・・ あの人は。大きい塊がお好きな様子で、むしって食べる。だからなのか。側に1m長さくらいの布が丸めてあった。お手拭が1m。時々、食器を使っているのは分かるが、基本アウトドアなのねと理解する(?)。でも下品ではない。



 そろそろ。嫌な予感がするイーアン。何かキャッチしたイーアンの頭の動きに、伴侶も同じ気配を察知。勘で振り向くと『来た』あの人だっ。


「イーアン。今日の格好もまた」


「隠れろイーアン」 「ここではムリでしょう」


 クローハルは、隊の部下とある程度飲んだり食べたりすると、確実に近寄ってくる。ドルドレンがガバッとイーアンの前に立って腕を広げる。『近づくな』しっしっと追い払う。クローハルは無視。


 するっと横を抜けて『何て綺麗なんだ』の言葉と一緒に手が動いて、既にイーアンの髪を指に巻きつけている。イーアンは、この人の特技は同時進行でいろいろ出来ることだなと思うが、さすがに自分が危ないので身を縮める。


 伴侶がクローハルに唸って『あっち行けよ』と吼える。クローハルは片耳をわざとらしく押さえて『君の声しか聞こえないよ』そう囁きながら、いやらしい目つきでイーアンの体を眺める。無言のイーアン。


「いつになったら、俺と一緒に酒を飲んでくれるんだろう。一緒に喋ることさえ出来ないなんて」


「永遠にそれはない。消えてしまえ」


「お前に訊いてないだろう。大体お前がいるから、こんな回りくどいことになってるんだぞ」


「俺のイーアンだ。もう疲れるから、お前までハエみたいに来るな。元祖ハエだけど」


「聞いたかい?ひどい言い方だよね。君はこんな男で大丈夫なのか。人をハエだよ。ハエ扱いするんだぜ」


「昆虫に罪はありません。習性です」


「そういう話じゃないんだよ、イーアン」


 振り向く伴侶が困って眉根を寄せる。だって、とイーアンが答えると、クローハルが苦笑いしながらなぜか自然体で横の席に座り(※トゥートリクス無言で撤退)イーアンの肩に手を乗せて頬を撫でる。


「ハエなら君に近づいても大丈夫かな。頬が滑らかだな」


 それを見たドルドレンの拳がクローハルに降り注ぐが、頭髪の乱れを直してジゴロは即復活する。復活が早くて、パパやジジイを思い出し、怯えるイーアン。『ハエでしたら、とりあえず退治しますが』と困りながら身を反らせた。


「退治されても良いんだよ。どこで退治する」


 甘ったるい笑顔に、いやらしさをべっとり付けたクローハルは、今日は粘る。嫌そうな顔で溜め息をつくフォラヴが立ち上がり『みっともないでしょう』と吐き捨てた。『いい加減にされて下さい。イーアンが困っています』ぴしっと躾ける。つもりが、利かない。



 こいつめとドルドレンが怒って、ジゴロの首根っこを掴んだ時。向こうから声がかかった。


「イーアン、こっちおいで」


 イーアンが声のした方を見ると、ハルテッド(※女装)が笑顔で手を振っていた。女装ハルテッドはイーアンの安全牌。ささっと立ち上がって『ドルドレン。後はお任せします』と逃げて行った。伴侶びっくり。


 クローハルは女装男は嫌い。ハルテッドはそれを知っているので、自分に走ってくるイーアンを見てから、クローハルにフフンとでかい胸(←作り物)を反らして笑う。ジゴロは完敗。一瞬で負けた。


「おいでおいで」


 イーアンに両手を広げて、化粧済みの女装ハルテッドはイーアンを迎える。イーアンも、お友達設定の女ハルテッドは安心なので、そそくさハルテッドの腕の中に入った。『大丈夫だった?』『お陰さまで無事でした』寄ってきたイーアンに即、串焼きの肉を与え(※これで完璧)手懐けたハルテッドは、イーアンを横に座らせる。


 女二人が揃った席は楽しそう(※注:一人は♂)。あれ美味しいとか、これもスキとか、昔こうやって作ったんだよとか、私の作り方はこうでしたとか。お食事話題に平和に花が咲いていた。


 気がつけばベルも向かいにいて、3人でお料理話題が広がる。そうしていると、笑顔のロゼールもやって来て、厨房近い席からもブローガンやヘイズも加わる。どういうわけかショーリも入って(?)自分の食べたいものを話し始めていた(※大体脂っこくて齧れれば良い)。



 ジゴロも追い払い(※意気消沈して敗退)暫くポドリックたちと話してから、ドルドレンが迎えに行くと、既にオーリンもいて、山生活で獲れる肉や植物の保存や味の話していた。これにはショーリが一番食いついていた。

 イーアンはこの時、ご機嫌ハルテッドに背中から両腕を回されて抱きつかれていた。が気にしておらず、普通にオーリンの話を聞いていた(※もらえる約束の肉の話題に集中)。この前、弟に殴られたベルは、弟の企みに目が据わっていたが、止めなかった。


「何だこの空間は。お料理支部か、ここは」


 総長困惑。イーアンが来てから、確かに遠征慰労会の食事が変わった気がしていたが、ここまで来るとは。


『なかなか戻らないからと思って来てみれば』と言いつつ、イーアンに貼り付くハルテッドを、がさつに剥がし(※『てめえ邪魔すんな』『いらねぇんだよ』『バカあっち行けよ』の抗議は無視)イーアンを覗き込む。


「皆さん。とても料理に詳しいのです。聞いていて楽しくて」


 ニコッとする愛妻(※未婚)に、困ったなぁと呟くドルドレン。早く部屋に帰りたい(※ベッド目的)。


 皆が総長を見上げ、総長は海の食材が好きだとか言い始めて、とにかく座れと座らせる。ええ~と嫌がりつつも、一応イーアンの横に座る。

 よく分からない仲間に入れられたドルドレンは、困った顔のままで、イーアンの肩をとりあえず、ちょっと抱き寄せておいた(※気にしてないイーアン)。



 それから、珍しく遅く。10時近くまで慰労会で過ごした二人は、ブラスケッドたちが二回目の酒の席に突入の流れを見て、そろそろお暇する。お部屋用の小皿盛りは、既に誰かに食べられていた。


 最後にアティクが加わっていたので、イーアンはベルと一緒に、アティクの郷の料理を作ってみようと約束していた。



 仲良くなって何より。そう思えばまあね、とドルドレンが苦笑いする。


 部屋に入って、がっちり鍵を下ろす。ドルドレンは、コルセットだけを外すように命じ、イーアンが恥ずかしそうに、コルセットを外すのをじっくり眺めてから、続きを丁寧に存分に楽しんだ。

 実に4日ぶり。ああ幸せ。ああ最高。ああキモチイイ。これ大事だよな、命に関わるなぁと。しみじみ感じるドルドレンは愛妻を堪能した。

お読み頂き有難うございます。

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