408. シャンガマック回復
(※一度投稿したのですが、内容の違いがありまして即取り下げ、変更いたしました。大変申し訳ありませんでした)
ディアンタの僧院と言っただけで、アオファはちゃんと北へ向かう。アオファも行ったことがあるのかと、イーアンは思った。ミンティンと同じ空路で進んでいる。
「ディアンタ・ドーマン。だったよな」
オーリンが質問。イーアンはそうだと答えて、友達が名付けてくれたことを話した(※98話)。『どういう意味だっけ』意味を聞かれ、ディアンタの世界だと教えると、オーリンは何かを考えているようで黙った。
そういえば。イーアンは思い出す。フォラヴはすぐに、その名前をつけてくれた。タンクラッドも、工房名を聞いてすぐ、その意味を口にした。
「オーリンに質問です。私の工房の名前は、いつの時代の言葉でしょうか。もしくは、別の国の言葉でしょうか」
オーリンは『?』の状態。『いや。俺は詳しくないんだ』言葉は難しいから、という答え。『でも、初めてお会いした時、何だかご存知でありませんでしたか』イーアンは、オーリンが意味を知っている印象だった。
「知らないよ。ただ、ディアンタ自体は知ってるから。それでイーアンを見て、ディアンタと名乗ったから、なるほどなって思った」
工房名は、東の騎士に聞いて知ってただけらしく、オーリン曰く『ハイザンジェルの言葉だけでも、昔からある地域の言語は相当ある』ということだった。
イーアンは腕に抱える褐色の騎士を見た。世界中の言葉を知ると、精霊に言われ、本人もそう自己紹介する、この人って。すごい頭が良いのかもしれない(←失礼)。大変、頼もしいと、改めて実感するイーアン。
じーっと眠るシャンガマックを見つめていると、オーリンが後からイーアンの頭をぽんぽんと叩いた。振り向くと、冷めた目つきで見ている。『どうしました』何だか見下されてる気分で用を訊く。
「そんなに間近で見るな」
「間近でしたか。あらやだ。屈みこむと、年だから、ほうれい線が深くなっちゃう」
「何言ってるんだ。ほうれい線とかどうでも良いだろ。間近で見るなって」
せっせと頬を伸ばすイーアンに、呆れたように眉を寄せるオーリン。『何かしてるみたいに見えるぞ』嫌そうに言われて、状況を第三者的に考えてみるイーアンも気が付いた。
上から見ているオーリンには・・・『ああ。そうでしたか。分かりました』シャンガマックにちゅーとかするわけないのにね、と思うものの。誤解されても困るので、素直に気をつける。
あまり細かいことを気にしなさそうなのに、変なところで神経質なのかもしれない。オーリンは読めないので、イーアンは黙っていることにした。
そうこうしている内に、ディアンタが見えてきた。『アオファ。あの崖上の森の中です』そして言いながらイーアンは気が付く。アオファは入れない。大き過ぎて、谷にも降りれない。急いでアオファを止め、暫し浮上で待機してもらった。
「どうした?違う場所か」
「そうではないのです。アオファは大き過ぎて、ここのどこにも着陸できないのです」
いやーん。忘れてたー。どうしよう、とイーアンは頭を抱える。オーリンは頭を掻いて『ここから降ろしてもらえば。ダメなの?』ちょっと呆れて言う。え?こんな高さで?イーアン聞き返す。
「首を伸ばしてもらえよ。行きも帰りも。それで済む話じゃないのか」
ちらっと下を見る。アオファの首を伸ばしてもらって、100mを斜めに下る。斜めなので角度が凄すぎる。浮上地点から直線距離100mほどの地点に、首の長さおよそ200mのアオファが傾斜で頭を下げる。前に伸びるのではなく、下に向けて伸ばされる。
『いやいやいやいや、死んじゃいますよ』落ちたらどうするの!イーアンは、怖くて素で喚く。無理言うな、無茶言うな、死んだら責任取れんのか!(※三連発は伴侶に似る)・・・・・ 煩いイーアンにオーリンは苦笑い。
「分かったよ。俺が抱えるから。死ぬとか言うんじゃねぇ」
そう言うと、オーリンはイーアンの頭に左腕を回し、ぐっと体に寄せてから、右手で下を指差して見せる。『見えるか。用があるのはあの隙間だろ?アオファの頭が下がったら顔を滑って降りれば良い』抱え込んだイーアンの顔に笑う。イーアン仏頂面。小脇に挟まってるのもイヤ。
「戻りはどうするんです」
「バカだな。普通に首持ち上げてもらうだけだ」
そうだった・・・悔しいイーアン。バカ扱いされてしまうことを、苛立ちに任せたせいで発言してしまった。もうこの人の中で『イーアン=おバカちゃん』の設定にされた気がする。くきーーーっっ何だかとってもイヤーーーっ(※感情の出し方も伴侶と似る)!!
見るからに悔しがってる顔が総長と同じで、ハハハと弓職人は笑う。
「おう。アオファ。あの隙間に頭を一つ着けてくれないか。ここから下へ行きたい」
アオファはオーリンの声に戸惑ったようだったが、イーアンが一緒なので、とりあえず言うとおりに動いてくれた。アオファの鼻先だけなら、治癒の洞の手前に入る。
それからオーリンは、パワーギアを外したイーアンをまずひょいと肩に担ぎ(※イノシシ同様の抱え方)シャンガマックをギアに挟んで『行くぞ』と面白そうに口角を吊り上げた。
次の瞬間。アオファの首はそのまま下げられる。
『うっひゃーすげえ!』板もないのにサーフィン状態で喜ぶオーリン。お尻が前、頭が後の姿勢で担がれ、怖くて喚くイーアン(※『わああああああああ!!!』)。
急傾斜なので角度が凄すぎる。浮上地点から直線距離100mほどの地点に、首の長さおよそ200mのアオファが、上にあった頭を下へ降ろすため、ほぼ落下。
わーわー叫ぶイーアンの体を腕にがっちり締め付けて、煩い!と、オーリンは尻を叩いた。
「失礼な!!お尻叩いたわね!」
「楽しめよ」
馬鹿言うんじゃないわよっっ、このクソ野郎!ぐわあああああああ・・・・・ 丁寧さが壊れたイーアンは、怖いのとムカつくのとで、ぎゃあぎゃあ叫びながら、ようやく着陸した時には、降ろされたと同時に地面に倒れた。
オーリンは即、アオファに戻り首を持ち上げてもらって、二回目、シャンガマック版を繰り返した(※シャンガマックは意識ナシ)。
倒れるイーアンの横を通り、オーリンは洞の入り口を見つける。大きなイーアンに似た石像があり、その下に穴が見える。
シャンガマックを肩に担いだまま、イーアンに声をかける。『おい。行こう、あそこだろ』大丈夫かよ、と(※他人事)地面に突っ伏して震えるイーアンに眉を寄せる。
イーアンは歯軋りしながら顔を上げ(※伴侶そっくり)黒い螺旋の髪をかき上げて、むしゃくしゃしながら弓職人を見もせずに、ずかずか大股で薮の中へ歩いて行った。オーリンはイーアンの後をついて行き、褐色の騎士を洞の奥へ運んだ。
洞の中を初めて見たオーリンは、殺風景なその場所に神聖さを覚える。『こんな場所が』呟いて奥を見ると、仏頂面MAXのイーアンが、無愛想に白い祭壇の奥をぴっと指で示した。
オーリンはシャンガマックを担いだ状態で、不思議な青い光を見つめ、そっと近づいて白い祭壇の裏に入る。それからイーアンに確認。『ここ。ここに彼を置くのか』青い光がふわふわしている場所を見る。
「そうです。早く」
機嫌悪いイーアンは、必要最低限の言葉で会話に応じる。オーリンは頷いて(※鈍いから気にしない)褐色の騎士と一緒に、中へ入った。青い光の中、足を踏み入れて騎士を置こうとすると、銀色の煙が立ち上り二人を柔らかく包み込んだ。
「これは?何が起こっているんだ」
中から聞こえるオーリンの戸惑う声を、イーアンは無視。じっと腕組みして、クソ野郎(※恩はあるけど、それとこれは別)とシャンガマックを見つめるのみ。
暫く待つと、銀色の煙は薄れて静まる。青い光が揺らめく場所に、シャンガマックを担いだオーリンが立ち尽くした。『あ・・・ここは・・・』担がれているシャンガマックが目を覚ます。
「シャンガマック!」
褐色の騎士の声に、イーアンは歓喜の声を上げる(※オーリン不在状態)。駆け寄って、シャンガマックを下ろさせ、自分の足で立つ彼に抱きついて喜んだ。
「イーアン。ここは?どこだ」
「良かった。良かったです。ここはディアンタの奥の治癒場です。元気になりました!」
シャンガマックも、喜ぶイーアンが胴体に貼り付くのが、可笑しいやら嬉しいやらで、抱き返してお礼を言った。『遠くまで運んでくれて有難う』すっかり回復した自分の体に、あの疲労を思い出せない違和感はあるものの。
「あのな。運んだのは俺だ。ここまで来たのはアオファ」
シャンガマックが顔を上げると、片目の職人が鬱陶しそうな顔で自分たちを見ていた。イーアンはシャンガマックに貼り付いたまま、じろっと弓職人を見て『そうでした。ありがとう』棒読みでお礼だけは言う。
「オーリンが。私もあなたも、山の獲物でも取ったように、肩に担いで運んで下さいました(※嫌味)」
「イーアン。すごい刺々しいぞ。君はさっき俺に、クソ野郎って言ったよな」
「あなたが私のお尻を叩いたからでしょ」
「え!イーアンの尻を叩いた?何てことを」
尻を叩いたことをバラされて、オーリンは分が悪い。そんな大したことしてない。そこにケツがあった(※担いだから)だけ。ぎゃーぎゃー煩いから、ちょっと叩いただけなのに。
蘇った褐色の騎士にも怒りの眼差しを向けられて、オーリンは面倒臭いから謝った(※謝罪力0)。イーアンはシャンガマックに守られて、オーリンには近寄せない状態を維持。
「そうだ。イーアンもその傷を治さないと」
シャンガマックは、後ろに隠したイーアンを振り返って、青い光を見る。イーアンも思い出して頷き、中へ入った。イーアンの体を銀色の煙が巻き込む。ぐるぐると煙が回り、やがて収まる。
怪我だらけの顔から傷が消えて、白銀の羽毛や鎧や手袋に付いた血もなくなっていた。イーアンは青い光に頭を下げて出てきた。
「シャンガマック。あなたの鎧」
出てきたイーアンは気が付く。言われて、シャンガマックも自分の姿を見た。イーアンの作ってくれた、鎧も。脛当も。手袋も。強化装備も。
「こんなことが起こるのか。何と美しい」
イーアンの鎧と似て、赤紫色の素地の色が柔らかく混じる真珠色の鎧。グラデーションで、上から下に赤が和らぐ真珠色の脛当と手袋。金粉でもまぶしたような琥珀色の強化装備。シャンガマックは微笑んだ。
「あ。では。オーリンも、もしかして」
イーアンはハッとする。居心地の悪いオーリンは、少しむすっとしてる顔でイーアンを見た。イーアンは近寄って、そっとオーリンの革の眼帯に触れた。
「何する」
驚いたオーリンがイーアンの手を掴む。そしてオーリンも気付いた。『そんなまさか』眼帯の下の瞼が動いた。神経が切れて開かなくなった瞼が。イーアンの手をゆっくり放し、鳶色の瞳が自分を見つめる中、弓職人は眼帯を自分の手で外した。
「目が」
瞼の上をなぞる。指先に傷の跡が分からない。瞬きすると、瞼が両方動くのを感じた。戸惑う弓職人を二人は見守る。片目を触りながら、オーリンは少しずつ覆った手指の隙間から光を取り込み、目を慣らす。
「見える。目が、眼球ごと使い物にならなくなったはずの目が」
呟きながら、床に向けていた顔を上げ、オーリンの両目がイーアンを捉えた。『見える。見えるぞ、イーアン。君がちゃんと』震える声で伝える。
オーリンの黄色い瞳は両目が揃い、その美しい野生の色にイーアンは微笑んだ(※過去は水に流す)。シャンガマックも嬉しそうに笑みを浮かべる。
「あなたの目は。魔物のために傷ついた目だったのですね」
「直に傷つけられたわけではなかったが。戦った後に疲れて谷に落ちて、その時」
オーリンは静かに笑った。『生きていると。不思議なことがあるな』そう言って、両目をしっかり開け、眼帯をベルトに押し込んだ。この時、誰も気づかなかったが、オーリンの強化装備も琥珀色に変わっていた。
無事、全員が治癒を受けたので、3人はアオファのいる地上へ戻る。
ここでイーアンはちょっと恨みがましく思い出した。アオファの首が降りてきて、乗れる状態。オーリンがイーアンに近づくと、シャンガマックがイーアンを流れるように両腕に抱え上げ、イーアンにニコッと笑った。
「助けてもらったお礼に」
「有難うございます」
イーアンは騎士の礼儀正しさに心から尊敬する。そうよそうそう、女性にはこうしなければ。尻を前に肩に担ぐなんて、人攫いじゃあるまいし。ご機嫌イーアンは尊重してくれる人が好き。シャンガマックの腕に大人しく収まって、ぴょんとアオファに飛び乗ってもらった(※シャンガマックの照れない貴重な紳士的意識)。
「このまま帰るか」
「この状態ではドルドレンが怒りますから。私はここで」
アハハと笑って下ろしてもらい、イーアンはパワーギアの中心にはまる。不思議そうに見ていたシャンガマックは、イーアンの横に立つことにした。揺れるから掴まってとイーアンに指示を受ける。
鈍いなりに、自分の分の悪さを理解している様子のオーリンも飛び乗り、ちらっと二人を見て咳払いして後に立った。
「オーリンの目が治って良かったです」
「両目で見ると、君は一層、格好良い」
ご機嫌取りと分かる一言に、おだてられてもねと、イーアンはちょっと笑って意地悪く呟く。オーリンが笑ってイーアンの頭をぽんぽん叩き、『もう尻は叩かない』とよく分からない宣言をしていた。
シャンガマックは、この二人のセットはよく知らないけれど、何のかんの言いながら、二人が似た者同士のような気がした。総長よりも。ダビよりも。タンクラッドさんよりも。
年齢が近そうだからか。雰囲気なのか。イーアンの意地悪なんて聞いたこともなかったのに、イーアンがそれを言う相手で、言われてもあっさり受け入れて返す相手。イーアンもそれで良さそう。突然加わった弓職人は、いきなりイーアンと絡み合う配置にいる。オーリンは何者なのか。シャンガマックは考えていた。
この人は旅の仲間でもないし、星に出てきてもいないのに。なぜか関係があるような気がしてならなかった。それが今すぐに分からなくても、これは偶然でも気のせいでもないような。遠征から戻ったら、オーリンのことを調べることに決めた。
アオファに飛び立ってもらい、3人は皆の待つイオライの野営地へ向かった。話題はシャンガマックの偉業と、新たに聖別を受けた防具だった。
防具の話になると、シャンガマックは照れて口数が減っていた。自慢の防具で、彼は本当に、できれば剣もイーアンに作ってもらいたいと心底思った(※純愛)。
3人が到着する頃。
イオライの野営地では、早い昼食の準備が始まっていた。
お読み頂き有難うございます。
この度の、内容のご迷惑の件を心からお詫び申し上げます。以後、しっかり気をつけます。どうぞ今後も宜しくお願い致します。




