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魔物資源活用機構  作者: Ichen
紐解く謎々
407/2948

407. イオライの休息

 

 お風呂に入りたくて戻ったと言うイーアンに、残っていた騎士たちは、イーアンの、血のこびりついた恐ろしい姿を上から下まで眺め・・・『当然だ』と急いでくれた。一人ですから、とイーアンは少ないお湯を所望。早く風呂に入れたい騎士たちは、それをすぐに実行してくれた。



「もうちょっと待ってくれたら。湯が少しは深く張るから」


 少しでも良いから休んで行けと言ってくれた。お風呂が用意される間、イーアンは倉庫と工房へ行って、必要なものを木箱に入れ、アオファに置けるように綱を付けた。


 間もなく風呂をどうぞと言われて、イーアンは有難く風呂へ。少し温いお湯で、乾いた血を洗って落とし、どうにかさっぱりした。(ついで)にオーリンも入って良いとなり、オーリンもイーアンの出た後にちゃんと風呂に入れた(※役得)。



 オシーンはイーアンの風呂上りを待ってから、風呂を上がって着替え、少しは・・・傷はあるものの、マシになったイーアンを呼んだ。滅多にない、オシーンの抱き寄せにイーアンも他の騎士もびっくり。


「お前は何でそう。男勝りにも程があるぞ。騎士に任せておきゃいいんだよ。怪我しようが死のうが(※他人事)騎士はそれが宿命なんだぞ。何で女のお前がこんな傷だらけなんだ、いつも」


 困ったヤツだとオシーンは、イーアンの額をデコピンする。冠を首にチョーカーのように下げたイーアンは、そのデコピンに愛情を感じてお礼を言った(※冠があればデコピンは受けなかったはず)。


「叱られて礼を言うヤツがあるか。自覚を持て。お前は何で女に生まれたんだ」


 あー困ったヤツだと嘆かれて、イーアンは苦笑い。すみませんと謝ると、冬の海のような目で睨まれ『謝るのも違う』ときちんと注意され、そこからは何も言えなくなった。


 抱き寄せたオシーンは、娘が男勝り過ぎて老齢に負担を(もたら)すとこぼす。目を瞑って天を仰ぎ、眉根を寄せて、あーあと大袈裟な残念っぷりを目の前で吐かれて、イーアンは恐縮。ごめんなさい・・・何で謝るのか、よく分からないけれど。謝る必要がある気がする。


「とりあえず。貰い手はいるから良いけど(※総長)。お前が死んだら、誰彼問わず俺は恨む」


「それは、あの。それは。とばっちりですから、お止め下さい。私の体力やら気力が問題で」


 再びデコピンを食らい、イーアンは黙る。オシーンは諦めたようにイーアンを見つめ『頼むから怪我はするな』と呟いた。はい・・・頑張ります、と。儚い約束と知っていて答えるのみ。



「無理だろう、おじさん。彼女の通常の姿は、彼女の憧れの姿だ。イーアンは元々戦う鬼なんだ。俺は背中合わせで戦って見たんだ。狂ったように剣で斬り続ける本当の鬼だっだぜ」


 ね、と。風呂上りのイケメン弓職人が、黄色い片目で笑顔を向ける(←カッコイイと誉めたつもり)。イーアンはがっくりして、オシーンの胸に(もた)れた。



 ・・・40半ばで頑張ったのよ。 私しか龍と動けないし、頑張らないと危険だと思ったのに~・・・・・ 怖くても必死に頑張ったつもりだったから、好戦的のように言われ、悲しくなって涙が出ちゃうイーアン。本当は鬼って。あんまりよ~



 すすり泣くイーアンに気が付き、オシーンは驚いて理由を訊ねる。オーリンも、自分がいけないことを言ったのかと(※鈍い)慌てて謝った。


 暫くの間。ふんふん泣くイーアンをせっせと撫でながら、その名をかつて轟かせた剣王オシーンと、東にこの人ありと隠れ人気を誇る弓職人は、どうにか泣き止むように『すごい』『強い』『迫力』『強烈』『無敵』『女じゃないみたい(※とどめの打撃)』と絶賛し(※逆効果)機嫌を取るに徹するが、イーアンは泣き止まない(※傷つく一方とは思わない)。



 支部に残っていた、料理担当のブローガンもこれを見ていた。そして気の毒なイーアンに、差し入れのつもりで『大したものは無いけれど。元気出して』そう言って、串に刺した大振りの茹で肉をあげると。

 匂いに釣られたイーアンは肉を見つめ、ぱたっと泣き止んでお礼を呟き、受け取ったすぐ、鼻をすすりながら黙って食べた(※空腹)。そこからはひたすら肉を食べて、涙は過去のものになった。


 彼女は、肉で片付く・・・と。その場にいた面々が認識する。何かあったら、肉を出そうと決める。オーリンは遠征中のために、干し肉を少し分けてもらった(※餌)。オシーンも、常に可食できる肉を常備することにした(※餌)。



 涙目をちょっと腫らしながら、イーアンは肉をもぐもぐしてアオファに戻って行った。新しいチュニックとズボンに履き替え、血のついた上着や手袋はそのままに、小奇麗になったイーアン。オーリンにアオファに乗せてもらい、準備した箱を持って上がり、オーリンも荷袋(※干し肉)を担いで後に立った。


「では皆さん。お風呂を有難う。ブローガン、お肉を有難う」


 俺に礼はないのかとオシーンが眉を寄せるが、イーアンは時折鼻をすすり上げて、肉を齧りながら巨大な龍に乗って、空を飛んで行った。振り向いたオーリンが、理解したように手を振ってくれた。



 龍飛行中。イーアンはずっと肉を食べていた(※独り占め)。オーリンもその肉がちょっと欲しかったが、これで泣かないなら、そっとしておこうとオーリンは黙っていた。とはいえ自分も空腹なので、支部で分けてもらった干し肉を齧りつつ、イーアンも支えつつ、二人無言で、もぐもぐしながら野営地へ戻った。



 アオファが戻ると、一瞬、野営地はざわめき立つものの、魔物ではないと分かるや否や静まる。アオファが着陸し、迎えに来たドルドレンに荷物を受け取ってもらうイーアン。オーリンがイーアンを降ろそうとすると、ドルドレンはささっと上がって愛妻(※未婚)を抱っこして飛び降りた。


「イーアン。風呂は気持ち良かったか。さっぱりして。傷が痛そうだけど。沁みていそうで」


「有難うございます。とても癒されました。傷はちょっと沁みましたけれど、フォラヴのお陰でほとんど気になりません」


 微笑んで答える愛妻は、串に刺さった最後の肉を、名残惜しそうにちょびっとずつ齧って味わっている。『それどうしたの』随分長い串を見てドルドレンが訊ねると、自分を慰めるためにブローガンが肉をくれたと言う。


「慰める?傷が酷いから?」


 そうではありません、とイーアンは起こった出来事を話す。聞いていて、眉間のシワがぎゅーっと寄るドルドレン。振り向くとオーリンは消えていた(※逃げた)。


「可哀相に。あんなに必死に頑張ったのに、そんな言われ方をされたら、それは泣く」


「はい。とても悲しくなって泣いてしまいました。でもそれで肉をもらいました」


 それと繋げない方が良いんじゃないの、とドルドレンは複雑。ブローガンは多分、愛妻が肉に弱いと知らなかった。偶々、彼が出来る慰めの手段として与えたら、それで泣き止んだだけで・・・


 ドルドレンは愛妻に、ブローガンは慰めたかったことを、ちゃんと理解するようにと教えた。『肉と涙は別だよ。泣いたら肉が来るわけじゃない』伴侶の言葉にイーアンはちょっとむくれた。『分かってます』そのくらい、と頬をぷっと膨らませた。


 機嫌が下降した愛妻に、ドルドレンはちょっとおだてたり、誰も見てない場所でちゅーっとしてみたりして、機嫌を取った(※こっちも単純)。



 総長とイーアンがようやく普段の様子で、いちゃいちゃ仲良くなって落ち着いたのを、他の騎士たちはしっかり見届けていた。


「あの状態って。何度も見ているけれど平和な証拠のような」


「そうだな。早く自分も結婚しようとか思う。平和なんだ」


「見てると腹立つけど。でも()()()()()()、最近不安になるから。()()()()()()()()方が良いのかな」


「うーん、腹立つよ。総長、自分ばっかり。だけどまー、あれが日常に刷り込まれているのは確かかも」


「あれで良いんだろうな。俺たちの日常も」


「それでいいじゃないの。日常化してるから」



 穏やかな性格の騎士たちは、勝手に二人きりの世界に浸る総長とイーアンを見つめ、『あれは平和な証拠』と納得する。平和を感じると、腹が空いたり、眠くなったりする。人間の奥深い安堵のツボを押さえる二人のいちゃつきは、騎士たちにゆとりを(もたら)していた。



 午後の戦闘まで。まだまだ時間はある。既に寝息を立てて眠る者も多く、起きている者の数の方が少ない野営地。


 イーアンも眠くなってきて、仮眠を取る。ドルドレンが一緒にいると言ってくれたので、伴侶の腕の中でクロークに包んでもらって眠った。

 愛妻が眠る顔を見て、ドルドレンは微笑む。そっと頭を撫で、温もりに有難さを思う。暖かい午前の陽射しの中、自分も岩に寄りかかって、暫しの間眠ることにした。



 日の当たる場所に出て、岩壁に凭れたシャンガマック。何度かの吐血はあったものの、フォラヴがちょっと手を当ててくれたために体は楽になった。友を癒したフォラヴも『少し休みます』と言って、一人になれる場所へ行った。


 今。眠気は無いが、途切れ途切れの意識が戻るまでが長い。シャンガマックの人生で、あれほど長時間を耐えたことはない。自分が既に入れ物でしかない状態は、心も何も感じなかった。


 解放された後の疲労は強烈で、全身を自分の存在として取り戻すことから始まった。触っても分からない皮膚の感覚。口が開いているのかも分からない。

 目が見えているが、何に反応しているのか。何を見ているのか。首を動かすにはどうしたら良いのか。言葉を思いつかないまま、ただ見えている景色の中に身を置いて、徐々に自分が戻ってくるのを待っていた。


 フォラヴが来て癒してくれた後は、自分の意識とフォラヴがそこにいることをようやく理解した。もし癒しがなかったら。いつまで廃人でいなければいけなかったかと思う。

 ぼうっとする頭で、太陽の光を見つめ、それより眩く光を放った精霊との時間を思い出す。


 精霊と一体になっていた間。シャンガマックに分かったことがあった。


「魔王。どこの島だったのか」


 精霊が見つけた魔王の姿。それはシャンガマックにも同時に()()()()()。ぼんやりとした黒い背景に沈む、闇の中の誰か。赤くちらつく光が二つの目に浮かんでいた。

 その黒い影は丸い石の玉を見つめ、時々呟いては長い指で玉をなぞっていた。顔らしい顔はなく。ただ、目の位置に明かりがあっただけ。



『太陽の民ドルドレン。龍神の子イーアン。以前より面倒な・・・しぶとくなったか。 だがこの。大地の光バニザットは。ここに一人きり・・・・・ 』


 聞こえると言うよりは。脳にこびりつく音。一瞬吹き込んだ塵の雑音のように。その声は届いた。魔王が呟いた後、精霊の光が増え、シャンガマックの意識は光に包まれた。突然引き離されたように、体が吸い上げられて、ふと、脳裏に浮かんだ映像は、大海の中にある孤島。それも一瞬で消えた。


「思い出せない。周囲も見えなかった。あれはどこなのか」


 もう一度精霊に頼れば分かるのか。そうだとしても、今の自分は、すぐにそれが出来る体力も集中力もない。使い切ってしまったこの体を、褐色の騎士はとにかく回復させないといけなかった。



 ギアッチの側では、ザッカリアが遊んでいた。すぐ眠ってすぐ起きる、最年少だからこその元気。食事を食べたらもう遊びたい。でも振り向けば。『ギアッチは疲れたんだな』ぐーぐー眠るお父さん。


 ザッカリアは思いつく。この隙に。くるっと頭を向けた先には、大きな大きな青紫色の眠る龍。『あいつも寝てる。でも触るくらいなら怒られないかも』どうしてもアオファに触りたいザッカリアは、ちょこちょこ走って、眠る騎士たちの間をくぐり、巨大な龍の側へ行った。


 すぐ近くまで来て、今更怖くなる。あまりにも大きくて、触ったら飲み込まれそうに思えた。じっと見つめる。

 たくさんある首は、全て背中の上に集まり、重なり合いながら動かない。真ん前には、揃った前脚と建物よりも遥かに大きい胸。


 これはお母さんだな。お母さんに言おう。怖いので、そーっとそーっと忍び足で戻る。それから走ってイーアンを探す。

『いたっ!総長に丸め込まれてる(※表現が間違えている)』いたいた、と笑顔で近寄り、胡坐をかいて眠る総長の、大きなクロークに包まれるイーアンを覗き込む。



「イーアン。イーアン。ちょっと起きて」


 イーアンは子供の声に、ふと目を覚ます。うっすら瞼を開けると、綺麗なレモン色の大きな目が自分を見ていた。『ザッカリア』どうしましたか、と囁いて訊ねると、ザッカリアはニコッと笑って、アオファを指差す。


「乗っても良い?」


「後で乗りましょうか。アオファも眠いのです」


 夜に起きて頑張っていましたからね、とクロークの中から腕を伸ばし、イーアンが子供の頬を撫でると、ザッカリアは小さい声で耳打ち。『ギアッチがダメって。今、ギアッチ寝てるの』イーアンはちょっと笑って『私が乗せてあげます』と約束した。


 それから目の覚めたイーアンは、思い出す。シャンガマック・・・・・ 彼は。彼はどうしているのか。そうだった、あれだけ頑張ってくれたのに。私ったら、治癒場に彼を連れても行かずに、風呂入って肉食べて。やだ、どうしましょう。


 意識が戻り、イーアンは僅かな睡眠で回復。気が張っているので、1時間も眠れば気力は戻る(※精神的にタフ)。シャンガマックを連れて行かないと、起き上がって。


「ドルドレンは熟睡なのね」


 ぐっすり眠りこける黒髪の美丈夫。基本的に伴侶は、どんな時も本能に正しく従う(※睡眠・性欲・食欲)。


『そっとしておきましょう』誰かに言って・・・イーアンは、近くにいたトゥートリクスに、自分はシャンガマックを治癒場へ連れて行くと伝え、ドルドレンが起きたら伝えてほしいことを頼む。


「イーアン。俺も乗りたい」


 側にいるザッカリアが言う。『戻ってきたらです。あのね、シャンガマックを運ぶので遠くへ行きます』戻ってきたら絶対に乗せると真顔で言うと。若干、疑いの眼差しを(※年末で覚えた疑い)向けたものの。ザッカリアは不承不承頷く。


 トゥートリクスが笑って、ザッカリアを引き寄せた。『大丈夫だよ。イーアンはすぐ戻るから』良いお兄ちゃんなトゥートリクス。子供も懐いているので、留守番の間、トゥートリクスに遊んでもらうことにした。



 イーアンはシャンガマックを探し、岩の横に座って背中を預ける姿を見つけた。近づくと、眠っているのか瞼が閉じている。


 そーっと頬を撫でると、切れ長の目がすっと開く。何度か瞬きし、漆黒の瞳がイーアンを認識する。『イーアン・・・・・ 』小さな声が弱々しさを伴う。イーアンは、シャンガマックを治癒場に連れて行くことをゆっくり話した。


「まだ動けませんね」


「多分」


 シャンガマックも背はあるし、鎧もあるしで、とてもイーアン一人では運べない。誰かと一緒に行けるかなと、周囲を見渡すと立候補者発見。さっと手が上がる先には、またしてもオーリン。


「よ。どうした」


「オーリンは眠っていなかったのですか。どうぞ休んでらして。私は少し眠って回復したので、彼を治癒場へ」


「ああ。そうなんだ。じゃ俺が運ぼうか」


「行き先は北の山奥です。寒いかも」


「俺のいる山だって寒いから。別に変わんないよ」


「さっきもご一緒下さったので、お疲れでしょうし」


「遠回りに断ってるだろ」


 そうじゃないけど。何度もオーリンが一緒なのもちょっと。人目もあるでしょうに、と。言葉を選びつつも、誤解されたら困るイーアンは申し出を渋る。オーリンはじっと片目でイーアンを見つめ、シャンガマックを見下ろし、ふーんと口端に笑みを浮かべた。


「光の中にいた魔法を使う彼か。君の声じゃないと動かないという」


「言い方に問題があります。そんなことよりも、彼は弱っているので運びませんと」


「またアオファで行くんだろ。君一人じゃ彼は支えられない」


 どっこらしょとオーリンはシャンガマックを肩に背負う。同じような体格で同じような身長なのに、何かに付けて逞しい弓職人。ぐたーっとした褐色の騎士を、イノシシか何かのように肩に乗せ、普通にアオファに歩いていく。


「あなたは。どうしてそう、毎回ご自分で自由に決定されて」


「そういう性格なんだ」


「私の身にもなって下さい。あなたを連れてきた上、一緒に戦闘で被って、お風呂に行くのも一緒って」


「そうだな。そういう今のイーアンは。魂の鬼じゃなく、憧れの姿なんだな」


 最後の部分に、ぴーぴー文句を言っていたイーアンは黙る。この人はまた、そんなことを言って。悲しくなるイーアンを振り向いたオーリンは、ちょっと考えてから続けた。


「魂の鬼って。悪い意味じゃない。前、俺と似てるって言ったの覚えてるか。強くならなきゃいけない時、全てをかなぐり捨てて鬼になる。それは悲しくも犠牲的で献身的なんだ」


 そういう意味だよとオーリンは微笑んだ。俺もそうだし、と。


「あなたも。あなたもですか。そう・・・・・ 」


 イーアンは何となく言われている意味を受け取る。過去なんて話さなくても、見抜く人はいる。この人は我武者羅な強さの裏にある写し鏡を知っている。黙って歩くイーアンに、オーリンは答える。



「誰もが。自分の憧れの姿を演じる。それは悪いことじゃない。どっちかと言うと、人生の目的なんだ。荒削りな憧れは、最初のうち、何度も自分の未熟さで朽ちる。朽ちては打ちのめされて、諦めたり、苦しんだり。

 自分とやり取りして、知らない間に憧れの姿は板に付くんだ。時が立つと、憧れは現実の自分になっている。だけどその憧れでどうにもならない時はね。人は必ず自分の中の、何かに力を頼るもんなんだ。


 イーアンと、俺の場合。それは、とんでもない化け物なんだよ。悲しみから生まれる魂の力は、化け物に変わって、皮肉なことに死ぬまで自分を支えてくれるんだ」



 何だかとても深い話をしてくれた気がするイーアン。オーリンはいつもケラケラ笑って、自由で、鈍くて、好き放題で。そんなオーリンは、彼の憧れの姿なのかなとイーアンは思った。


 自分が、乱暴で粗暴な面を隠したくて、丁寧に我慢強く、理解力を育てて生きようとしているのが憧れのように。



 アオファの前に来て、イーアンは龍にお願いする。アオファはさっきと同じように、真ん中の頭を伸ばしてくれて、そこにシャンガマック、イーアン、オーリンと乗った。イーアンはパワーギアの中で、シャンガマックも同じように固定した。オーリンは補助で支える。


「治癒の洞へ行きます。北の、ディアンタ僧院の奥です」


 イーアンが告げると、アオファは大きな体を立ち上がらせ、音もなく雲へと浮上した。

お読み頂き有難うございます。

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