403. イオライ決戦中半続き
(※全体がとても長いです。どうぞお時間のあります時にお読み下さい)
ひと時の安息。真夜中までの4時間。治癒されて戻ったとはいえ、衝撃を受けた騎士たちの疲れを癒すには足りない短な休息。瞬く間に時間は過ぎ去る。
イーアンは死んだように眠った。フォラヴが注いでくれた、温かで柔らかな命の息吹に、イーアンは気力も体力も癒されていた。怪我はすぐに治らないが、心の中の苦しさや恐怖は拭われ、精神力が漲り始めていた。傷ついた箇所は表面の傷は残るものの、驚異的な速度で、裂傷や打撃の傷が内部から回復していた。
ドルドレンも張り詰める意識が限度を超え、疲労困憊。10時間近く戦い続けて、さらに負傷者を6往復で北へ運び、一人ずつ抱えて治癒の洞を下りることを人数分繰り返し、戻った最後、イーアンを運ぼうとして力尽きた。
オーリンはドルドレンが戻ってきた時、そっとイーアンの側を離れた。ドルドレンは周囲が見えていない状態で、ふらふらしながらイーアンに近づいて、両腕にイーアンを抱いたそのまま、眠りに落ちてしまった。オーリンはそこを離れた。二人とも死んだように動かなかった。
想像以上のイーアンの『鬼』を知り、一緒に戦った姿を思い出すオーリン。自分も意識を切り替えてからは、気が触れたように撃ち続けていたと思う。あまりちゃんと思い出せない。龍が避けるたびに、向きが変わり、自分が前になると壊れる魔物の破片を体に受けた。
イーアンはその倍の時間、それ以上の破片を受け続けていた。こびりつく血は顔にかかった螺旋の黒い髪を貼り付け、時々振り向く表情の無いイーアンの顔を、黒い渦が描かれた、赤い血に染まる仮面の如く見せた。
「まさに鬼だ。目さえどこを見ているか分からない、血に染まって。意識もなく、剣だけを繰り出していた」
自分が戦いに使った、最強と呼べる弓を見つめる。弦が切れて、金属で作っていた弦の掛けがもげていた。
オーリンの呼ぶ『最強の弓』は、オーリンが作った火薬を高速で打ち飛ばす、擬似銃のようなものだった。片腕に装着し、はじけさせる火薬は僅か。小さな短い筒の中で、爆発させる威力で飛ばす。弦は筒の方向を操るためにある。だから、使う矢は、矢であって矢ではなく。何でも矢に変わる。
オーリンはこの弓に、飛んでくる岩礫を取って、矢の代わりに使い応戦していた。使う火薬は僅かだから、2000回までは持つくらいの量はあった。しかし火薬が切れる前に。
「これが潰れるまで使うとはね」
笑いも出ない。本当に疲れた。何度も『これは死ぬかもしれない』と覚悟を決めた。無心で剣を振るうイーアンの背後、背中合わせでイーアンの斬りそびれた魔物を撃ち続けた。自分の弓の限界を知らなかったが、イーアンの剣に負けたのは分かった。彼女の白い剣は、刃が欠けることもなく、彼女の腕と化して攻撃に耐えた。
「イーアンは。俺と戦ったのなんて覚えてないだろうな」
龍に乗った時、既にイーアンの両目は血で覆われていて、自分の名前を呼んだ声も途切れがちだった。恐ろしいほどの傷付き方をしているのに、痛みも感じていないのか、表情も無く、ぼんやりした目つきでまだ前を向いて、剣を構えた姿に鳥肌が立った。
「男のような声で、腹の底から唸っていた気がする」
自分の工房に会いに来て、総長と笑っていた姿が別人のように思えた。自分が支部について行くと言った後、ぷんぷんして怒っていた彼女は。苦戦しそうだと弱気で困っていた彼女は。
『さっきまでのイーアンではない。何て凄まじいんだ。何て変わりぶりだ』首を振って、オーリンは弓を引き続けて痛めた肩を擦る。
他の騎士のいるテントに戻る気になれず、オーリンは焚き火の番を申し出て、火の側で考えこんでいた。あんな女がいるなんて。何か、別の場所から来たような気さえする・・・・・
暫く。オーリンは燃える炎をじっと見つめ、小さい弓を取り出して修理を始めた。次の戦闘がないことを祈りながら。
真夜中になる頃。地響きがした。眠っていたり、ぼんやりしている騎士たちは、緊張と不安が一気に再発する。全員が目を見開いて谷を見た。ドルドレンも地響きで目を覚まし、ガバッと起き上がる。
金色の壁が範囲を広げていたことと、ミンティンが氷漬けにしていた谷の温度が上がったことで、獣頭人体の魔物が動き始めたと知る。その姿が谷の方から近づいてくるのを全員が見た。光の壁の向こう・・・だが。
「金色のこの結界。少しずつ広がっていないか」
誰かが気が付く。野営地までは距離があったはずなのに、夕方に再び結界が張られてから範囲が広くなって近くに来ている。
ドルドレンもそれに気が付く。自分が眠ってしまったことを知り、イーアンをさっと見る。眠るイーアンは、傷はあるが血が流れていないことに、ひとまず安心する。急いで立ち上がって金色の壁を見つめ『シャンガマックが』彼の力を超えていると呟いた。
その声に目を覚ましたイーアンは『シャンガマック』とその名をなぞり、金色の壁の広がり方に意識を戻す。慌てて起き上がり『いけない、壁が。精霊の力が強過ぎる』そう叫ぶと横に立つ伴侶に気付く。
「イーアン!良かった、少しでも回復したか」
「ドルドレン、あなたこそ。無事でしたか、良かった」
ほんの僅かな時間、お互いを抱き締めあって生存を喜び合う。涙を流してお互いの体に顔をすりつけ、生きていることに感謝する。
そして喜び合うのも束の間で、ドルドレンは急いで今までのことを伝える。『負傷者は全員治癒場で回復した。だが精神的な疲労は拭えない。それにシャンガマックも中だ。それと、すまない。イーアンだけ最後になってしまって、俺は運べずに倒れて』ドルドレンが謝ると、イーアンは微笑んで首を振る。
「ありがとうございます。あなたも少しだけであっても休めて、本当に良かった。私は大丈夫です。フォラヴが癒して下さったと知っています。彼も無事?」
「無事だ。命の限界まで使って、君を助けた。イーアンに命を与えた」
イーアンは涙ぐむ。『今すぐ彼にお礼を言いたいですが』今は魔物を、と頷く。ドルドレンはイーアンの肩を押さえ『行くな。俺が龍と行く』と止める。イーアンは受け入れない。『あなたのような体力も、身体的な能力もない私には、ミンティンがいなければお役にも立てません』そう言うイーアンに、ドルドレンは辛くて仕方ない。
二人が魔物に向かおうと決めた時、空が明るくなり、ミンティンが来た。二人はそれを見てお互いを見る。『笛は?』『ここだ、借りたままだから』訊ねるイーアンにドルドレンが笛を返す。『王?』ドルドレンは青い龍が降り立つのを見て、こんな時にと舌打ちした。
「分かりませんが、とりあえずミンティンが急いでくれるでしょうから、行ってきます。すぐに戻ります」
ミンティンの態度も少し変だった。急かすようにイーアンの体を口先で動かす。傷だらけだから気を遣っているようだが、それでも早くしてほしそうに急かしていた。不安そうなイーアンは伴侶をさっと見て頷いてから、龍に乗る。
「イーアン」
浮上しようとする龍に待ったをかけて、アティクが来た。『どうしました』イーアンは急ぐ。アティクはすっと岩の上を指差し『上からシャンガマックのもとへ運んでくれ』そう頼んだ。急ぐ龍は嫌そう。イーアンもハッとして『分かりました』と答え、アティクを乗せた。
「ではドルドレン。気をつけて下さい。急ぎます」
イーアンはそう伝えて、すぐにアティクをシャンガマックのいる岩の上へ連れて行った。
ドルドレンは気持ちを入れ替え、もう一戦かと気合を入れ直した。近づいてくる魔物の影は、野営地にかかり始める結界の壁を目指している。
壊れた鎧をちらっと見て、無敵の剣の柄を握る。治癒場へ負傷者を抱いて中に入った自分も、何度となく光に包まれた。体は戻っている。大きく息を吐き出し、灰色の宝石を月の光に銀に煌かせ、総長ドルドレンは聖なる剣を抜き払って光の壁に進んだ。
アティクを岩の上に運んだ後、即、青い龍が向かった先はイオライセオダ。『まさか、タンクラッドが』イーアンは思い出す。彼が冠を作ったら呼ぶと言っていた事を。
タンクラッドの工房の裏庭に降り立つと、既に扉は開いていて中から光が漏れていた。タンクラッドがすぐに出てきて、イーアンを見て愕然とする。
「何て姿だ。何てことを。死にそうじゃないか」
抱き締めるわけにもいかないほど血が付いた姿に、うろたえるタンクラッドは大声で心配する。イーアンは職人を落ち着かせ、自分を癒してくれた騎士のお陰で、見た目ほど酷くはないと言って聞かせた。
「ああ、可哀相に。俺がいれば。いや、ここからは俺が一緒だ。イーアン、出来たんだ」
剣職人の背後から差す部屋の明かりに、彼の大きな手で差し出された、細く美しい冠が輝く。
「タンクラッド・・・すごい。有難うございます」
そっと抱きついて、感謝を伝えるイーアン。傷が痛々しくて抱き締められないタンクラッドは涙目で、イーアンの背中をそっと撫でる。『治ったらな。治ったら、もう一度抱きつけ』それは約束させて、微笑んだ。
タンクラッドは抱きついたイーアンの頭に、血で固まった髪の毛を少しずらして、ゆっくり白銀の冠を被せる。冠は少しの間はそのままだったが、10秒経つかどうかの時に、ふわーっと白く柔らかな光に包まれた。
「やはりあなたは」
「そうだな、そしてお前もやはり」
二人は少し見つめ合って、するべきことを感じて頷く。青い龍が後で急かす。イーアンをちょんちょん押して、早く乗るようにと促す。
『俺も行く』タンクラッドはそのつもりだったようで、分厚い革の手袋と革靴に、体を包む長い革の上着を羽織り、大剣を背負った。開いたシャツの首には龍の牙が鎖で下がっている。
「その姿は」
「俺が。昔、戦いながら旅していた時の格好だ」
普段なら半端ない格好良さに打ちのめされるイーアンだが、さすがに今は意識が朦朧としていて、素晴らしいと感動を呟いて終わった。
イーアンを抱きかかえて、タンクラッドはミンティンに乗る。『落ちたら困るからこのままだぞ』親方が厳しい目で、何か言おうとするイーアンに先に告げる。抵抗する元気はないので、イーアンは大人しく従った。
「ミンティン。行くぞ。アオファの眠る山へ」
青い龍は一声、喜びのように大きな声を上げて浮上し、凄い勢いで西の山へ飛んだ。
一方、野営地では騎士たちを鼓舞し、総長が隊を班に分けて配置させていた。馬車で待機するギアッチはザッカリアがいるので、自分は何も出来ずに苦しかった。
「光の壁の中に入ったらもう、ここも危険ですよ。だけど外は暗い。私たち皆に不利です」
ギアッチは横に来たヨドクスに不安を呟く。ヨドクスも顔に流れる冷や汗を拭って頷く。『どっちが良いのか分からないですね。中に入れば、いざという時に出られない。だけど外に出たら魔物がどこへ行くか。暗い中では我々も動ける範囲が厳しい』ギアッチとヨドクスは、少しずつ広がり続ける光の壁を見つめた。
この時、岩の上のシャンガマックは、既に意識が消えていた。精霊に体を貸し、全てを聖なる力に託し、精神力が持つ限り、精霊の力を受け入れてほとばしらせている状態だった。
精霊が体も意識も全て掌握した状態は、精霊の力にシャンガマックの制限が効かない。光の壁の増幅は、本体の人物の意識が飛んでいるからこその事態。
彼の人生で初めて、ここまで精霊に身を預けている長い時間。シャンガマックは何時間も前からもう、自分自身も分からない状態。ただ、精霊に頼んだそのことに従うだけ。
――誰かが自分を解くまで。もしくは、聖なる力が結界と同調して吸収するまで、結界を張り続ける体を提供した。生きた命を持つ体を介さないと、精霊はこの世界に手を出すことは出来ない。
その光の球体の中にいるシャンガマックに。岩を登る魔物が近づく。
魔物を制限する力を見くびっていた魔物の王は、光の影響がもどかしい事態を起こしていると気付き、魔物の攻撃標的を一部変える。
球体を壊すことは出来ないが、攻撃の隙に、中の人物を押さえることは出来ると考え、遠く離れた孤島から、魔物の王はシャンガマックを倒すように魔物を動かす。
魔物が来ることなど、意識も出来ない褐色の騎士。魔物が一頭、岩の上に腕をかけた。大きな体をぐうっと岩の縁に持ち上げて腕を伸ばす。
球体に触れた途端、魔物の腕は弾ける。だが傷みも何もない魔物は、何もなかったように同じことを繰り返した。それが一頭、続いて2頭め、3頭めと連続した時、球体が少し揺らぐ。
精霊の結界を張る力が敵を意識し、シャンガマックを通して精霊の力を放出する。その力は、岩壁を登る魔物を振り落とす。だが本体のシャンガマックに衝撃が大きく、血を吹いた。
精霊の力が少し収まる。シャンガマックという本体を壊すと、結界も壊れる。本体が壊れることは、彼が解かれるのと同じ意味。
意識のないシャンガマックは、顎を垂れる血もそのままに、光の中で結界を張り続けるため立ち尽くす。暫くして再び上がってきた魔物に、精霊が意識を向けた時。何かが球体の横を飛んで、魔物が同時に落下した。
「聖なる大地の化身。俺はパウロージ・アティク。北の精霊の部族だ。バニザット・ヤンガ・シャンガマックを守りに来た」
精霊に憑かれているシャンガマックは微笑む。『パウロージ・アティク。ロロンギットの末裔。この男と民の約束を守れ』何人かが重なる声は響き、アティクは頷いた。
アティクは飛ぶ刀を使い、夜闇を照らす金色の球体の光を背に、登り来る魔物を打ち取り落とし続けた。
同じ頃。野営地では夜戦を強いられている。
最初、近づいてきた魔物は、光の壁の中から出てこれなかった。ドルドレンはこの状況が何を意味していて、どう動くことが一番有利なのかを急いで考えていた。
しかし考える時間は短く終わる。一度光の壁が揺らいで、シャンガマックのいる岩の上が閃光を放った。その時、魔物が出てきてしまった。魔物が3頭出た後、すぐ結界は戻ったが。
「出てきやがった」
槍を持つベルが舌打ちする。回復した弟ハルテッドは髪を結んで、リベンジ戦に腸が煮えくり返る。腕の戻ったクローハルもマスクを下ろし、馬に乗った。治癒場で復活した騎士の全員が呼吸を整えて、目の前の影を睨む。
「でも暗い」
呟くポドリックは夜に目が弱い。まして光の壁を背に立つ魔物は目が慣れない。突然屈んだ魔物が、土を蹴って突進し、馬に乗る騎士に突っ込んだ。わあっと声が上がり、慌てる騎士たちが馬を走らせて散る。
戦闘が突然開始し、それぞれが魔物の頭を壊すことに集中した。結界から出た魔物は額が光らない。とにかく頭だと狙いをつけて、跳躍して攻撃できる者は地面を跳んだ。
「明るければ弓が使えるのに」
パドリックが矢を番えながら、部下のビッカーテに言う。名手ビッカーテもやきもきする。さっき岩で胸を打たれて死にかけた。回復した今、やり返したい気持ちが猛るのに。暗い中で矢を放てば、それが見えない剣士が怪我をするかもしれないために、こちらが射掛けることが出来ない。
弓部隊が剣士の攻撃を補佐することが出来ず、剣士も目が慣れない中で苦戦するのを見つめる。
馬車隊と弓部隊が待機する陣で、ギアッチは暫くそれを見ていたが、やおら荷台から壷を運び出した。荷台の後に壷を並べ、数える。『この壷には・・・ここ一周分はあるかな』小さく呟き、鎧を身に付ける。
「ギアッチ。どこ行くの」
心配そうなザッカリアが御者台を降りて、お父さんギアッチの鎧を見つめる。ギアッチは微笑んで子供の頭を撫でた。
「お父さんはね。皆の戦いを応援するんですよ。危ないから、ザッカリアは待っていなさい」
「俺も行く」
「ダメです。お母さんがいたら叱られるよ」
「叱らない。イーアンは連れてってくれる。お父さんも俺を連れてく」
ザッカリア・・・・・ ギアッチは困る。この子は何かを察している。自分を一人では行かせないつもりだと分かる。気が強いわけじゃないけれど、しっかり者で判断力に長けて、優しくて、思い遣りがあって、頭も良くて、顔も良いし・・・・・
「それは毎日聞いてるから、いいよ。俺も行く」
言葉にしていないつもりでも、涙ぐみながら声にしていたらしいギアッチは、涙を拭きながら頷いた。『馬ですよ。馬に乗るから、絶対に落ちないようにね』いい?と決意して訊くと、レモン色の瞳をきらっと光らせて子供は元気よく頷いた。
子供用の鎧はないけれど、ザッカリアはイーアンの縫ってくれた羽毛の上着を着込んだ。『お母さんが守ってくれる』大丈夫だ、と胸を張って馬に乗った。そして用意の済んだギアッチが後に乗る。
「今はお母さんだけど。いつか俺の奥さんになるんだよ」
「ザッカリア。それはきっと総長が嫌がる」
ギアッチはちょっと笑って、子供の頭を撫でてから『さあ。掴まって』と声をかけ、馬を走らせた。
馬が走り出すと、後に繋いだ壷がひっくり返った。ザッカリアが振り向き、上を見てギアッチに知らせる。ギアッチは微笑んで『これが目的ですから』と答えた。
波打つ地形を馬は走り、壷はガンガン揺さぶられて中の液体が飛び散り流れ、地面に線を残す。光の壁の手前を駆け抜け、一周して戻ってくると、ギアッチは一旦馬を下りて別の壷を付け、反対方向から同じように一周、馬を走らせた。
それを5回繰り返した後、6度目にギアッチはザッカリアに仕事を頼んだ。『良いかい。この中にある石を、一つずつ。地面の黒い線あるでしょ?そこに向かって投げてね』投げる時間は、1、2、3って数えて1つだよと教えると、子供は分かったと了解する。
「ここからが派手ですよ。ザッカリアと初戦闘だね」
ギアッチは賢い茶色の瞳を煌かせ、馬を走らせる。ザッカリアは数えながら、黒く見える後方の線に石を投げ続けた。そして6周目を終えた時、ギアッチは全体に叫ぶ。
『中央に寄って下さい』すぐに声に反応した仲間は、全体が真ん中へ動いた。ギアッチは黒い線に走り、火をつける。黒い線から火が上がり、小さな低い背丈の火の波がゆっくり広がり始めた。
ザッカリアとギアッチも線から離れ、火の波がゆらゆらと左右に広がるのを見ていた。それは突然に火を噴いて柱になり、一箇所が火柱を上げると、次々に円を描くように火柱が立ち上がった。
自分たちと魔物を、ぐるりと取り囲む炎の輪と火柱に、騎士たちは驚く。ギアッチは大声で鼓舞した。
「炎があるうちに矢を射掛けるんだ。剣士はそれを避けて、一の矢が終わったら斬りつけろ」
ワッと弓部隊が声を上げる。息を吹き返したように、弓部隊から攻撃の号令が飛んだ。総長は剣隊を下がらせ、魔物3頭の炎に浮かび上がる体、目掛けて、一斉に矢が放たれた。一の矢完了の号令が出た後すぐ、剣隊が動く。『火で見える』剣隊も明かりの効力に喜び、魔物の足と腕を斬りつけながら、倒しにかかった。
お読み頂き有難うございます。




