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魔物資源活用機構  作者: Ichen
出会い
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3. 宿屋へ

(※二話目を回想録とし、この話は一話からの続きです。)


 日が暮れた後の冷え込みが早い。城門で指示された宿屋へ歩くドルドレンは、分厚いクローク(※マント)の襟を寄せた。

 王都の城下町は明かりが点り、酒場や飲食店が賑やかになり始めている。昼の店は看板を片付け、衛兵は交代時間で人数が増える時間。初冬の冷え込みにも関わらず、夜の街を楽しみに歩く人々は多い。



「ここは魔物なんか無関心だな・・・・・ 」



 ドルドレンの発した、誰にも聞こえないくらいの小さい声。必死で戦い続けている日常が、久しぶりの城下町を非日常のように感じさせる。この場所には暗がりの危険は囁かれない。ここから一歩外へ出たら、魔性の物が闇を待って血をたぎらせているというのに。



ここでドルドレンは、大きく溜息をついた。



 おかしなことに、と言って良いものか。 飛ぶ魔物もいるのに、なぜか王都は襲われていないままだった。地を這う魔物の類も、城壁を越えることはなかったらしい。城壁の周囲に魔物出現報告が出たのは、本当にごく最近になってからだった。だが魔物は壁の中へは入っていない。


 王都は城下町ごと高い壁で囲まれていて、大型の扉が北と南にあるだけの鉄壁の構えだ。が、魔物の体力や能力からすると、壁を壊すとか飛び越えるとかは可能である。まして、飛行能力のある魔物については何ら襲うに問題ない場所だと思うのだが。


 どういうわけか、王都はこれまで被害の対象外でいられた。魔物が入ってこない。これだけの理由でだ。何かしらの理由があるのだろう、と踏んでいるが、その理由は皆目見当も付かない。


この世界に魔法が使える者はいるし、王城にも確かに数名いるけれど、魔法の存在自体が魔物同様にあまり知られていないので、魔法使いなどの力で襲われていないといった噂も聞かなければ、実際にそれは理由ではない気もする。




 聖地でもなんでもない、ただの王都。 

 そして、なぜか。そう、なぜか。近隣諸国も王都と同じで、魔物被害がないと聞いている。


 ハイザンジェル王国の『王都を除く国土だけ』が魔物の襲撃に甚大な被害を被っているのだ。被害が出始めて間もなく、王都に逃げ込めない国民は、近隣諸国を訪ねて流れ出ていった。民の移動の安全を守るために、護衛に付いたことが何度かある。



 国は流出する民の情報を受けた時、「国外へ逃亡する国民を止めよ」と騒いだ。だが、それはほとんど実行されなかった。騒いだだけで、王都は騎士団を遣わすこともなく、『逃亡する国民』に罰らしい罰も特に出されていなかったからだ。

 だから本気で止める気もなかったのかもしれない。それに、流出がどれほどの影響を国に与えるのかも、大事には捉えていなかったのだろう。流出数を調べるように命令が下ることはなかった。


 そして、2年に一度の税金を徴収する時期になり、やっと人口減少に向かい合うと頭を抱えることになった。ついで、城壁の外に魔物の姿が見られて号外が刷られる騒ぎになった。これが最近。




 ――ここまで被害が及んでいないことには若干の安堵。 そして、城壁の外は無関心とさえ思えるほどの人々の様子へのわずかな苛立ち。



「拗けた性格になったもんだ」



 自分の中にある二つの思いに気が付いて、首を振って思いを振り払う。

 無事な場所があるのなら、理由がわからないでも無事は無事で良いじゃないか。 今後、魔物被害の影響で国は傾くかもしれないが、王都だけが無事でやり過ごせるなら、それなりの進路も計画されるだろう。自分は王都(ここ)以外の町村を守ることに徹するのみ。 命を懸けても、だ。



 ドルドレンは余計なことを考えないよう、冷たい石畳を足早に進んで宿屋へ急いだ。 



 宿屋を見つけ、門をくぐり、建物の扉を開けると、すぐにカウンターの奥から人が現れた。迎えてくれた男は背が低く、少し頭髪が薄くなりかけており、中年らしい腹の出た体型に愛想のある丸っこい顔で、清潔そうな薄水色のチュニックが印象的だった。


 ドルドレンの厳しい顔つきを見上げた男は、一瞬怯んだように頭を後ろに動かしたが、すぐに気を取り直して帳簿を開き、指で帳面を辿りながら、そこにある名前と部屋を確認した。



「お待ちしておりました。ええっと、ドルドレン・ダヴァート様、ですよね? 騎士の」


「そうだ。騎士修道会の者だ」



 はいはい、と目の前の男は帳簿に印を書き込みつつ頷く。騎士修道会と騎士団は違うのだが、その辺りは普通の人々からするとあまり気にしないと分かってはいるものの。働かない印象のある騎士団と一緒にされるのは不本意であるため、何となく言い足してしまった。

 そんなドルドレンの胸中など気にもせず、男は背面の壁に並ぶ鍵から1本選び、ドルドレンに渡した。


「今晩のお代は前払いで国防局から頂戴していますから、明朝はそのまま、鍵だけ返してご出立されて下さい。お客さんの部屋は、階段を上がって3番目のところです。」



 ドルドレンは頷いて鍵を受け取り、指示された部屋へ向かった。一段ごとに軋む階段に、宿屋がずいぶん古くからの建物であることが分かる。丁寧に磨かれた木の床は黒光りしているし、壁の埃も見当たらない。清潔で手入れされている宿屋は珍しいな、とドルドレンは階段や廊下を歩きながら眺めた。


 自分の部屋の戸に鍵を差し込み扉を開け、中へ入る。室内を見渡すと、簡素なベッドには洗ったとわかる寝具が敷かれていた。そのことに少し嬉しかった。遠征中の使いっぱなしの敷物や、遠征で泊った遠方の町の宿の不衛生さなどを思いだした。


 続いて、広くはない室内に置かれた家具 ――机と椅子と手桶など―― を最初に確認する。おかしなものは付いていないと確認が済んだ後、クロークを脱いで壁のフックに引っ掛け、剣帯を外してベッドに立てかけ、荷袋を床に置いた。やっと一息ついたような気がして、ベッドに腰を下ろしたドルドレンは、そのままベッドに背中を倒して天井を仰いだ。


 今日一日のことを順番に思い出し、不快さも諦めも再確認した後、天井を見つめていた目を閉じた。瞼を閉じた途端、一気に体がベッドに沈みこむような睡魔に襲われ、抗えない心地よさにドルドレンは連れて行かれた・・・・・





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