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魔物資源活用機構  作者: Ichen
紐解く謎々
392/2944

392. 遠征準備でイオライ下見

 

 ドルドレンの白銀羽毛クロークの上着姿は、大変に格好良い。だが、ドルドレンには熱い。熱過ぎる(※体温高い)。支部の裏庭に降りて、熱いから脱ごうとすると、止められた。


「脱ぎたい」


「似合っています」


「熱いよ」


 ええ~ イーアンは嫌がる。着ててほしい~と駄々を捏ねる(※イーアン初駄々)。愛妻が駄々を捏ねるなんて滅多にないので、ドルドレンはうーん、と考える。じっと見てる愛妻が可愛いのもあるが、このままでは、体温が上昇して倒れるかもしれない。


 仕方なし。一度脱ぐ。嫌がる愛妻に羽毛クロークを持たせ、ガバッとシャツを脱いだ。上半身裸。愛妻びっくり。目を丸くして、白昼堂々・お外で・仕事場で・上半身裸になった伴侶に釘付け。


「はい」


 シャツを渡され、代わりに羽毛クロークを羽織ってくれた。上半身裸に白銀の羽毛クローク・・・・・ 


 イーアンは、この世界初の最強の衝撃に打ちのめされて、倒れた。かっ。カッコ良過ぎる・・・・・

 倒れた愛妻に戸惑うドルドレン。『どうした?どうした、イーアン』驚いてイーアンを抱き上げる。羽毛クロークに裸の美丈夫が、自分を抱えていると理解すると、萌えるのもすっ飛ばして魂が飛びそうになる。


 息も絶え絶え、動悸息切れで、顔を真っ赤にして苦しみ呻くイーアンだが、伴侶に慌てないで良いと伝え、工房に運んでもらう。


「お昼。食べていらして下さい」


「要らない。どうした。大丈夫か、急に倒れて」


 ハラハラするドルドレン。イーアンを工房のベッドに寝かせて、顔を撫でて心配する。イーアンは『あなたがカッコイイから』と恥ずかしそうに打ち明け、あまりに衝撃で倒れたと事実を言う。ドルドレンは拍子抜けするものの、笑ってイーアンにキスした。


「そんなに気に入ってもらえたなら良かった。でも倒れるくらいだと、あまり着ないほうが良いな」


 イヤです、ダメです、着て下さいと、イーアンはしがみ付く。イヤイヤする駄々捏ねイーアンに、ドルドレンは笑いながら撫で続けた。


「これは寒い時な。俺は寒さに強いから。また寒い日に着ることにしよう」


 せっかくお揃いだしと、ドルドレンも嬉しそう。それから、昼食を工房に運んでくれた。広間で、総長の変わりぶりに、部下が騒いでいたと笑いながら帰ってきた。

『クローハルに、これを奪われかけた』と笑って、ドルドレンはイーアンに食事を食べさせる。イーアンもそれは笑った。『彼はそういうの、似合いそうですね』と頷く。ジゴロだからねと伴侶も同意していた。



 こうして。二人の昼食は過ぎ、ドルドレンは執務室へ行くからと、クロークを脱いでシャツを着て(※イーアンは夜も見たいとせがんだ)愛妻に送り出されて、ドルドレンは機嫌よく工房から出て行った。


 少し横になって、ようやく回復したイーアン(※中年なので回復に時間が要る)。いつから遠征か。聞くの忘れたと思い、執務室へ向かう。


 執務の騎士にいびられつつも、やたらと余裕で機嫌の良いドルドレンは、イーアンを見て微笑む。『遠征がいつからか分かりますか』イーアンの質問に、ドルドレンは明後日の予定と答えた。

 お礼を言って、出て行くあっさりしたイーアンに、ちょっと寂しい伴侶。でも今日は。夜、保障付きで楽しみなので、頑張って仕事に精を出した。



 工房に戻り、イーアンは下見に行くことにした。遠征する向こうで、どんな魔物の報告が上がっているのか。何も知らない。でも申請の内容でも、きっと現地で見たら違うだろうからと思い、鎧を装着して、剣と腰袋を着け、イーアンは龍を呼ぶ。


「盾の職人さんは、遠征の後だわ」


 遠征が早く終われば、次も早く進む。自分の出来ることはしようと、ミンティンに乗って、イオライへ飛んだ。


 タンクラッドは、イオライセオダの町周辺の、魔物確認の話を出したことがないな、と思い出す。ドルドレンの話だと、イオライセオダの町の周辺も調査対象と。『いつ出ているんだろう』魔物が夜出るなら危険である。イーアンは一応、全体的に下見して、何か必要なものは持っていこうと決める。



「ミンティン。イオライの岩山へ行きましょう。魔物がいても襲われなければ逃げます」


 龍は知っているかのように、首をゆらゆらと揺らす。さっきの綱に反応したことも、治癒場の不思議な移動経験も、龍が喋れたら聞けるのになとイーアンは残念に思う。


「お前はきっと、何でも分かっているのでしょうね。お前と話せたら良いのに」


 イーアンは微笑んで、青い龍を撫でた。大量の鈴を鳴らすような声を出した青い龍は、イーアンの語り掛けに答えているようだった。



 そうこうしているうちに、イオライの岩山上空まで来た。『落ちないように、背鰭で私を固定していて下さい』イーアンが万が一に備えてお願いすると、龍は少し強く背鰭をイーアンに巻きつけた。


「あのね。最初に来た時は、確かこの辺りを上がったのよ。こっち方面から・・・それでこの辺で岩の魔物がいたの。山の裏側には飛ぶ魔物がいて」


 イーアンが喋りながら位置の確認をしていると、ミンティンがぐぐっと体を捻った。


 何か見つけたなと思ったイーアンが掴まると、一気に速度を上げて、龍は何かに突っ込んでいく。剣が必要か分からないイーアンは、とにかく背鰭に掴まって進行方向を見つめた。



「ミンティン。あれは」


 岩山の続きに、何かがチカチカした光を放って(うごめ)いている。岩山に向かって進んでいるような。よくよく見ると、蛇のような形をしている。光る理由は。『あら放電?』いやあねぇとイーアンはこぼす。


「あれ。電気だわよ。冬は雨もないし、ここは乾燥地域だからかしら」


 モデルになった生き物は何かと、頭の中の書庫をざーっと探す。陸生で放電はあまり聞かないなぁとイーアンは困る。ただ、まとまって動いているのは何故か。何千匹もいるような大群が、どういうわけか集まって、お互いを乗り越えたり絡んだりして一定方向へ進んでいる。


「動きは蛇みたい。群れで動いて・・・冬だけど。でも生物的な条件があまり当て嵌まらない魔物だから、習性だけで拾うと。動きはガーターヘビとかあんな感じかしら。だけど放電してるのよねぇ」


 うーんと唸るイーアンは悩む。『ミンティン。一匹取れないかしら。一匹で良いの』それを伝えるとミンティンは急降下。蠢く群れに突っ込んでいくので、イーアンは手袋を付けた手に剣を持ってそれを伸ばす。


「拾いますよ」


 ミンティンが魔物の群れすれすれで、相当な速度に上げて飛び抜ける。イーアンは一匹狙いを定めて、剣の先に引っ掛けた。


「取りました。一旦岩の上へ行って下さい」


 そのまま龍は向かいの岩の上へ飛んで、着地。イーアンは引っ掛けた蛇もどきの魔物を岩棚に放り、すぐに龍から降りて、逃げようとする魔物の頭を剣で突き刺した。体がバタバタ動いているが、触れないようにしてそのまま、頭を地面の岩に固定する。


「ちょっと待機です。これが止まるまで」


 龍はイーアンを引っ張って、自分の手の上に座らせた。襟首を摘ままれるので、イーアンは振り向いて『摘ままないで』と抗議した。龍は無視。もうっ、とぼやいてイーアンは龍の手の上に腰掛け、目の前でのたうち回る蛇魔物を見つめた。10分待つ頃には、大人しくなってきた。



 少し考えて、腰袋からイオライの黒い酸を出して頭にかけた。ブスブス音がして頭が焼けたようになり、動いていた体が引き攣り、止まった。


「神経中枢はこの辺りってことかしらね」


 早速解体しますよと、イーアンは独り言。その前によーく見て観察。


 どうして頭が膨れているのかと疑問に思う。カラフルな体をしていて、ピンクと緑とオレンジと黒のヒョウ柄。大阪のおばちゃんもびっくり(※いや、びっくりしないか普通か)。ふーむ。長い体だけど2~3mといったところ。


「でも太いわねぇ。胴の径が20cm近い。お太りサマな理由は何かしら。ヘビなら、頭が小さめで体が太い印象だけれど」


 ここでイーアンはちょっと思う。もしかして。お太りサマなこのヘビ的魔物は。モデルがヘビじゃなくて。


「そうよね。水関係ないけれど、どっちかって言うと、あっちだわよ」


 頭をぽりぽり掻いて、イーアンは婆くさく首を回し、肩凝りを揉んでから解体に取り掛かる。


 どっこらしょと死んだ体を引っ張って、頭の膨れた部分をまず切る。最後まで切らず、半分つなげておく。焦がした頭頂部から剣で縦に裂いて納得する。『だろうと思ったわ』だからかーと頷きながら、その後胴体も何箇所か決めて切り、断面を確認。


「ふむふむ。それであんな大勢なのね。あれはちょっと嫌な感じ。全体でやっつけるか。バラけたのを皆さんにお願いするか」



 ここでイーアンはちょっと思う。これを持ち帰って説明するのもありだけど。


「戦法指導」


 もし龍がいない場合。自分はどう行動したか。それはすぐ思いつく。あの群れに綱をつけた弓を放ってもらって、一匹だけ引き寄せて捕まえ、同じように死なせて解体する。


「これをする気になるかどうかでも、こういう場合の魔物には、一つ使える方法かもしれません」


 うんうん頷いて、これをドルドレンに話そうと決める。でも一応分解したこれは持ち帰ることにした。タンクラッドの家に行って、空き袋がないか、聞いてみることにして、一度タンクラッドの家に向かう。



 タンクラッドの工房裏に降り立つ龍。ちょっと待っててもらい、イーアンは裏口の扉を叩く。即行開いて、タンクラッドはイケメンスマイルを降り注ぐ。『今日は2度も』言いかけて、イーアンが鎧を着けていることに真顔になる。


「遠征か」


「いいえ。遠征は明後日のようです。今日は下見に来ました。タンクラッドにお願いが」


「何でも言え。ちょっと今は手が放せないが、すぐに」


「あ。では良いのです。ボジェナの所に行きますから。ごめんなさい、忙しいところを」


 イーアンが帰ろうとすると腕を掴まれる。『待て。大丈夫だから』苦笑いしながら、タンクラッドが引き寄せる。


「何だ?俺に何が出来る」


「あの。大した用では。大きい空き袋がありますかとそれだけです。頂いても良いような」


「この前、お前が市場で買出しした時に持ってきた、あの一番大きいのは?あれでは無理か」


 ああ、あれなら入るかもとイーアンは思い出す。舌が入っていた袋なら。あるぞと言って、タンクラッドが持ってきてくれた。


「有難うございます。ではお仕事中にお邪魔して、申し訳ありませんでした」


「ちょっと、ちょっと待て、イーアン。お前は急だ。もう行くのか」


「お仕事中なので、行きます。あっちに解体した体もあるし」


「何?何て?」


 イーアンは魔物を解体したので、放置しておくと誰かに食べられるかもしれないという。食べないだろう、と親方は眉間にシワを寄せて気持ち悪そうに言うが。


「でも。タンクラッドは今手が放せませんし、私も()()を袋に入れて持ち帰るので、また」


「イーアン。どこだ、俺も行くから」


「お仕事」


「良いから。後でやり直す」


「いけません。お仕事されて下さい。大丈夫です、私はミンティンがいてくれますから」


 タンクラッドが困って首を振ると、イーアンは微笑んで『また来ます』と言い、袋を持って龍に乗った。『次。いつだ』親方はちょっと最後に質問。イーアンは、明日ですと答えた。それなら仕方ないかと諦めて、親方はイーアンを送り出した。



 見送る先が・・・・・ 『イオライ?』イオライの岩山の方へ龍は飛んで行った。遠征って、イオライだったのか。


 ここで思い出す。『ああそうか。騎士の剣を作りに、イオライの遠征の時に寄るって言っていたな』そうだった、と頭に手を置いた。もうボケてきたのかと心許ない(※最近傷ついたり苦しんでて、忘れた)。


「そうか。じゃ。あれ?確か、調査依頼を出したと町内報告でこの前あったな。あれだとすると、イーアンはイオライセオダにも来るのか」


 親方はちょっと嬉しくなる。仕事でイーアンが近くに来るなら、会いに行けばいい。で、連れて帰ればいい(※ムリ)。今までも騎士修道会は町の外に野営していたし、騎士たちに余裕があると立ち寄ることもあったわけで。


「イーアンを少し休ませてやろう。うちで。剣を頼みに来るからその時に、イーアンだけ置いて行かせればいいな」


 親方は満足。遠征中は風呂はどうしているのか。うちで入るように言わなければ。女だから、その辺で体を洗わせるなんてとんでもない(※以前は川で水浴び)。

 妄想が膨らみ、仕事に戻ってから結局一回失敗した親方は、意識を集中して今日の作業を頑張らないといけなかった。



 イーアンは。タンクラッドにもらった袋に、魔物の死体を入れた。魔物は皆、血が出ない。体液は出るが、赤い血がない。袋に入れる時もそれほど水分がなくて楽だった。袋を縛って袋の上から素手で触り、痺れたり痛みがないことを確認してから、ミンティンに乗った。


「他にいるかしら。違う魔物は。あれだけってことはないでしょうから」


 ミンティンは一度浮上して、イオライの岩山をぐるーっと旋回した。上から見ているとミンティンが止まる。『どうしたの』気になって小さい声で訊くと、龍は下をじっと見ている。イーアンも下を目を凝らすが。何もいないように見える・・・・・


「どこ?」


 龍に訊ねると、龍は少し高度を下げて、また止まった。これ以上近づいてはいけないということか。イーアンは暫く下を見つめていた。何か違和感を感じる。下方の岩山に、違和感が。


「あれは。あれのこと」


 地面の岩が動き、立ち上がる。最初の遠征にいた、四足歩行の岩の魔物かと思ったら、立ち上がる形がもっと伸びて2本足になった。頭は角のある動物のようなのに、体は人のそれのようにも見える。


「なんだっけ。ミノタウロスだったかな。あの岩版みたい」


 そのミノタウロス岩版は、上空から見ていても大型と分かる。この前、イーアンが倒した傀儡(くぐつ)の雰囲気もある。誰かが動かしているのだろうか。


「いや、違うな。あれそのものが本体で、ボスキャラはいないのね。多分、それぞれが動いている」


 岩で出来た獣頭人体だから、操り人形のようにそう感じるのか。何だかどこかで見たような。印象はミノタウロスでも、材質を思えばゴーレムのようでもある。

 上から見えているだけで、10頭はいる。もっといるのだろうか。彼らは立って歩いては止まり、また岩と化す。動きが緩慢にも見えるが、目的がないからかもしれない。人間を見つけたらどうなるのか・・・・・ 


 岩の飛ぶ魔物もちらほら見える。飛ぶ方は倒し方が分かるから、これは良いとして。新手2種類を記憶する。


「ドルドレンに教えなければ」


 ヒヤッとするものを感じて、イーアンは龍と一緒に支部へ戻った。この2種類だけか、それは分からないが、何だかこれまでの魔物と質が違うのが出てきた気がした。

お読み頂き有難うございます。


ブックマークして下さった方。ポイントを入れて下さった方がいらっしゃいました。とても嬉しいです!!本当に有難うございます!!

イオライにいたヘビみたいな魔物の絵を描きました。絵ではやんわり色付けしていますが、イーアンが見たのは、もっとずーっと派手な色です。



挿絵(By みてみん)

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