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魔物資源活用機構  作者: Ichen
紐解く謎々
384/2946

384. お祖父ちゃんの想い

 

 ドルドレンが眠る中。イーアンはお祖父ちゃんの頭を抱き寄せて、髪を撫でて慰めた。お祖父ちゃんはイーアンの細い体に腕を回してはいるものの、やらしい感じではなく、力もこめずにただ縋りついているようだった。


 イーアンは、こういう時。泣き止まない悲しい人に、歌も歌う。パパが泣いた時も歌った。ドルドレンが泣いた時も。イーアンは小さな声で歌い、髪を撫でて、慰める。

 お祖父ちゃんはその歌声に気がついて、大人しくイーアンの胸元に寄せた顔を俯かせて聴き入った。低い声で歌う、優しい歌が。聞いたこともない言葉で歌われる声が。お祖父ちゃんの心に沁みる。


「お前は。イーアン、お前は。良い歌を知ってるんだな」


 ちょっと呟いたけれど、お祖父ちゃんはそのままの姿勢だった。上着の隙間の、ブラウスに直に顔をつけてイーアンの体の温もりに癒される。胸はほぼないと知る。逞しい筋肉と胸骨。イーアンは女なのに、女よりももっと手に入れたくなる存在だと感じた。胸板を通して聞こえる心臓の音が、お祖父ちゃんには嬉しかった(※逞しいイーアン)。



 イーアンは歌を暫く歌ってから、撫でる手を止めてお祖父ちゃんを覗き込む。『大丈夫ですか』ちょっと声をかけてみて、お祖父ちゃんの顔が少し自分に向けられた。


 長い睫が濡れていて、老後のドルドレンが泣いているみたい・・・・・ 可哀相。豊かな髪の毛が額にかかって、目が見えないので、ちょっと額に手を当てて髪を上げる。微笑んで、もう一度『大丈夫ですか』と訊ねた。



 お祖父ちゃん。ノックアウト。もうダメだ。俺はこの女のために死ねる。俺、イーアンが好きだ(※三世代を魅了する女)。白銀の瞳をイーアンに向けて、じっと見つめる。イーアンは微笑んで、額をそっと撫でる。


「何か。食べますか。ちょっとなら料理できると思います」


 意外な展開に、顔には出さないがお祖父ちゃんは驚く。イーアンは慰めるつもりで、食事でもと思うから言い出したことだが、お祖父ちゃんにはどうして料理なのか・・・優しさだろうと思うものの、そんな気の遣い方をする女に会ったことがなくて、答えることもなく見つめ続けた。


「あのう。お好きか分からないけれど。今日ね。ブリャシュで魚の干物を買いました。煮たり焼いたり揚げたり。調理方法でお好みがあれば、そうしますので。いかがしますか」


「うん。あの。何でも。魚は好きだから。でもそんな使うなよ。俺はそれほど食べないから(※凄い食べるけど遠慮)」


 イーアンはニッコリ笑って頷いた。それからお祖父ちゃんをちょっと強めに抱き締めて(介護に似る)『待っていて下さい。今作ります』と言ってから腕を解いて立ち上がった。



 台所に行くと分かって、お祖父ちゃんも急いで立ち上がり、涙に濡れた顔を拭きながら台所へ案内し、使って良い食材と、調理器具を一通り説明した。イーアンは理解したらしく、表へ一度出てから干物の魚を5~6尾持って戻り、台所に置いた。


「それでは作ります。台所をお貸し下さって有難うございます。ちょっとお待ちになって下さいね」


 そう言うと、ブラウスの袖を捲って調理を始めた。お祖父ちゃんは意外な展開に、ただ呆然として見ていた。

 側に立つお祖父ちゃんに、イーアンは『もし見ていらっしゃるなら』と笑って、椅子を持ってきたらと言う。お祖父ちゃんは、それもそうだなと、椅子を一脚台所に運んで座った。



 イーアンはタンクラッドの家でするように、ちゃっちゃか、ちゃっちゃか料理をし始めた。材料を用意して、鍋を火にかけて。干物の骨をはずして、切って炒めて、煮込んで。お祖父ちゃんの歯の具合が分からないので、少し柔らかめに干物を煮込む。

 芋と香りの強い野菜と、馬車の家族が使う香辛料を合わせて煮た。それからお祖父ちゃんの家にある買い置きの主食を薄く切って炙り、そこに脂を塗って香辛料をかけ、香菜を巻いた。外した骨を少ない脂で弱火にしてじっくり火を通す。


「それ。イーアンの料理か?お前の国の」


「いいえ。いろんな国のです。でもそうですね、私のいた世界の料理です」


 ニッコリ笑って、イーアンは揚げた干物の骨を取り出し、指でつまんで少し味見した。骨が柔らかくて美味しい。辛い香辛料をちょっとかけて、お祖父ちゃんを見る。『どうしましょう、骨なんですけれど。お食べになる?』笑顔のイーアンに言われ、お祖父ちゃんは断るわけはない。


「食べる。食べたい。くれ」


 はい、とイーアンはお祖父ちゃんの口に揚げた骨を差し出した(「味見あーん」は普通の行為)。イーアンを見てから、お祖父ちゃんはそれを食べる。飲み屋の女に毎晩食べさせてもらってるのに。何だか嬉しいこれ。ちょっと家庭って感じ。骨・・・カリカリサクサクしていて、骨も美味しい。


「イーアン。美味しい」


「本当。良かった」


 嬉しそうなイーアンに、お祖父ちゃんは骨を食べながら骨抜き状態。与えられた骨の乗る皿を片手に、サクサクポリポリを続け、イーアンの料理をする姿を見つめる。



 ――可愛い。可愛いぞ。これは無理だ。我慢するなって方が悪だ。イーアンより若い女も、同じ年くらいの女もいるけど。そいつらも可愛いけど。

 イーアンは何だこれ。何でこんな可愛いのか。これは好きだろ。もう好きしかないじゃないか。引き継がれた先祖代々の好みかもしれないが、俺の血が呼んでいる。彼女を呼んでる(←他大勢にも適用する表現)。



 お祖父ちゃんが孫の嫁に骨抜きになって見つめてると、料理が終わったか、イーアンは火を止めて皿を探し始めた。意識を戻して、お祖父ちゃんが皿を用意してやると、イーアンはニコッとして『いっぱい食べて頂けると良いな(※老人=食細いイメージ)』と呟き、いそいそ料理をよそる。



 ――うえ~ 可愛い~ これ、手を出さないって世界的な犯罪だろう(※手を出すのが犯罪)。出さなきゃ男としてダメだ。俺、まだ夜大丈夫だし。絶対神様が俺にイーアンを遣わしたんだ。俺が良い人だから(※思い込ませると病的)。イーアン可愛い~(←23才下)



「ちょっと熱いですが。でももう、お食べになります?冷まさなくて良いですか」


「もちろんだ。今食べる」


 台所にある食卓に、イーアンは煮込んだ干物&野菜の皿と、炙った生地の皿を置く。『どうぞ』と勧められて、お祖父ちゃんは目の前の食事とイーアンを交互に見つめ、何度か瞬きした。


「有難う」


 素直にそれしか浮かばない。お祖父ちゃんの言葉に、イーアンは笑顔で肩をすくめた。『お口に合うか、分からないけど』えへっと笑うイーアン。お祖父ちゃんは魂が抜かれそうだった。


 とにかく食べる。男として、お祖父ちゃんはちゃんと感想を伝える義務がある。煮込んだ干物を一口食べて、香ばしい香りの残る煮物に『美味い』と呟いた。イーアン嬉しそう。


 炙りの生地で巻いた香菜を、イーアンはちょっと手にして、煮込みにすっとそれを引っ掛けてから、お祖父ちゃんの口に運んだ。『こうしたら、馬車の家族の味に近いからお好きかも』はい、と出されて、骨抜きジジイは口を開ける。


 今なら毒殺されても良い。メロるジジイは、青年のような初々しい気持ちで(ほだ)されていた。いや~美味い。美味いのは何故なのか。イーアンの料理か。行為か。俺がやられたからか。垂れ目が可愛い。こんな家庭生活良いよな~(※浮気ばっかで家庭円満無縁人生)



 お祖父ちゃんはメロりながら、食事を続ける。早い夕食を全て味わい尽くして、皿を舐めようとして笑って止められた。


「止めないで良い。これを水で流すなんて勿体ないだろ」


「でも。お皿を舐めないで。美味しいと思って下さったのですね。良かった。あの、少し元気になりましたか」


 心配そうにイーアンが白銀の瞳を覗きこむ。その顔が優しくて、お祖父ちゃんは溜め息をついた。


「なった。有難う。大丈夫だ」


「そう?なら良いですが。でも少しまだ。・・・うん、でも。当然ですね。悲しいのだから。何か食べたくらいでは」


「あ、違うぞ。違う。大丈夫だ。本当に」


 お祖父ちゃんは急いでイーアンの頬に手を伸ばし、撫でた。『美味しかった。嬉しかったから、大丈夫だ。俺は』そこまで言いかけて、お祖父ちゃんは少し笑った。イーアンはお祖父ちゃんを見つめる。


「違うんだよ、イーアン。お前が優しいからさ。俺は嬉しくてちょっと驚いただけだ。もう・・・その。ドラガのことも大丈夫だ。一人、夜になったら懐かしんで泣くよ。でも今はもう、お前のお陰で大丈夫だ」


 笑いながら、イーアンを撫でるお祖父ちゃん。イーアンはちょっと微笑んで『無理しないで下さい』とその手に、自分の手を添えた。お祖父ちゃんは、年甲斐もなくドキッとした。ちょっと恋した気分(※病的好色67才に珍しい状態)。



 それからイーアンを見つめて、お祖父ちゃんは訊ねる。自分に出来る、彼女へのお礼。


「数え歌。解読したか」


 イーアンは首を振る。ハルテッドが手伝ってくれて、ベルも協力してくれたけれど、正確な解釈は難しいと話した。お祖父ちゃんは少し考えて、イーアンに暖炉の側へ行くように促した。


「洗い物をしますから。ちょっと」


「いい。俺がするから。それより数え歌を」


 お祖父ちゃんはイーアンを暖炉の側に連れて行って、長椅子にかけさせた。自分もその横に座り、数え歌をもう一度歌う。突然歌い始めたので、イーアンはすぐに仕事モードで聴き入る。言葉は分からないものの、韻律だけでもと。


 聴いていて思う。この前と違う気がする。この前は訳してくれた歌を朗読のように聞かせてくれたからか・・・でも違うことを歌っているような。



「イーアン」


 お祖父ちゃんは歌を止めて、イーアンを見つめる。白銀の瞳が真っ直ぐに注がれる。イーアンは彼の言葉を待つ。



「俺がこの前教えた歌の繋がりを、今歌った。これはドルドレンが起きていたら、すぐに気がついた」


「はい。私には言葉が」


「そうだな。俺の訳を伝えよう。お前の歌だ。お前がこの世界に来た時・この世界で何をしたか・それからどうなるか。今のはその回の歌だ」


「私。過去に生きた、私の前の人でしょうか」


 そうだ、とエンディミオンは頷く。イーアンに字が書けるかを訊く。書けないと言うと、すんなり、エンディミオンは自分から紙に書き写した。かなり細かく書いてから、イーアンに差し出す。


「ドルドレンが起きたら。これを見せろ。おそらくこいつなら、すぐに気がつく」


「この前、シャムラマートという占い師に会いました。私が夏の終わりに旅立つと」


「シャムラマート・・・俺は覚えていないかもな。馬車の家族だと思って伝えてくれたなら、すまない。デラキソスの女だとすると、入れ替わりが多いから思い出せない(※自分もそう)」



 分かりましたとイーアンは了解する。大事な紙を渡されて、イーアンは読めないことを悲しく思う。今すぐ読めれば。そんなことを思いながらも、エンディミオンに頭を下げてお礼を言った。


「エンディミオン。教えて下さって有難うございます。数え歌は沢山あると聞きました。ハルテッドもベルも、訳したことがなくて苦戦したと言っていました。

 言語に通じる仲間も騎士にはいますが、生まれてから歌を聴いて育ったあなたと、同じ感覚で訳せる人は、いないかもしれないと思います。今こうして、私に授けて下さったことに心から感謝します」


 お祖父ちゃんはイーアンをそーっと抱き寄せる。そーっと抱き寄せて、怖がらせないように少し力を入れて腕の内に入れた。


「お前を好きだからだ。お前は優しかった。俺の家族だな」


 イーアンは嬉しくなる。家族と呼ばれて、とても満たされた。お祖父ちゃんの腕の中で、ちょっとだけ頭を(もた)せかけ、その温もりに感謝する。お祖父ちゃんはそんなイーアンに微笑む。髪を撫でて、螺旋を指に巻きつけて遊んだ。


「イーアンのこときっと・・・俺の息子のデラキソスもお前が好きだったな。俺もお前が好きだ。困ったことに、孫がお前を手に入れた後に」



 ハハハと笑うお祖父ちゃん。年齢を訊かれ、44とイーアンが答えると、お祖父ちゃんは残念そうだった。


「俺はまだ67だ。お前と親子くらいだろ?全然ありだよな(※ない)。デラキソスなんか、ドルドレンの親だけど、普通はお前くらいの年でも良いんだからさ。

 何だか運命は皮肉なもんだな。イーアン。お前は可愛いなぁ。ちょっとだけ、俺と一緒に暮らさないか」


「いいえ。暮らしません」


「何てはっきりと傷つけることを躊躇わないんだ。可愛いのに、切り口がでか過ぎる。そうだ、切り口と言えば。お前は魔物を退治すると、東の騎士に聞いたんだけど。本当か」


「そうです。時々ですが、私も退治します。剣を頂きましたものですから、頑張りませんと」


「剣も使うのかよ。龍にも乗るし、イーアンは格好良いな。俺の女なら良いのに」


「申し訳ありませんがお気持ちだけ感謝します。ドルドレンの奥さんですもの」


「うーん。若い方が良いのか。でも俺も夜は問題ないと思うんだけど」


「夜がどうとかじゃありませんよ。お父さんもそんなことを仰っていましたが。別にそれは、私には大して意味を持ちません。ドルドレンを愛していますから。ドルドレンも夜は大層なものです」


「イーアン。あのなぁ。そう孫を愛してるとか、はっきり言うな。夜が凄いとか。お前にそんなことを言われるなんて羨ましい。ドルドレンめ。そういうの、こっちも男だから傷つくんだぞ」


「エンディミオン。あなたは今でも女性にとても人気でありますでしょう。私など、男勝りと笑われるようなくたびれた女に勿体ない。気にされないで下さい」


「ああ。お前がほしいな。そんなこと言う女、他にいないんだから。なぁ。本当に俺とは無理か?息子ほど頭も悪くないし(※パパ馬鹿決定)顔もそんな悪くないと思うんだけど(※皆似てる)。お前がいるなら、他の女は切るよ」


「心遣いに有難い限りです。でもドルドレンを愛していますのでお断りします」


 イーアン~・・・お祖父ちゃんはイーアンに打ちのめされて、抱きついたまま、イーアンの髪の毛に顔を埋める。気の毒な老人に、イーアンもよしよしと背中を撫でる。『ごめんなさい。でもまたお食事作りに来ても宜しい?』少し介護な感じで提案するイーアン。



「当たり前だろ。毎日来いよ。ここに住んでほしいのに。お前は料理も上手いよ。もう、こんな老人を放って帰るなんて罰当たりだぞ(※都合に合わせて老人化)。毎朝毎晩一緒でも良いくらいなのにーっ」


「甘えてはなりません。甘えると老いが進行する速度が早いと聞いています。是非、夜毎にあなたを愛する多くの女性と親しく楽しんで下さい。私は時折、一年に1~2回は来ます」



 つまんない~ ジジイはイーアンに貼り付いて嫌がる。ドルドレンと一緒・・・・・ 親子どころか、三世代で同じ行為。『やだ』とか『ダメ』とか。


「イーアン。俺はお前がいないと死ぬかもしれないぞ。良いのか。老人が孤独死しても」


「脅さないで下さい。山のような女性があなたを好きでしょう。彼女たちにお世話をお願いして下さい」


「やだ。あいつらも可愛いけどな。でもイーアンが良い。どうにかしてくれ。手紙でも来ないんだから、孤独な老人を労わる方法を教えろ」


 孤独な老人に思えないんだけど、とイーアンはぼやく。貼り付かれて撫でつつも、呼ぶ方法なんてとイーアンは悩んだ。


 何故この家族の男は甘えん坊なのか。それも悩む。パパもジジも同じような感じで、イーアンはほとほと困る。ドルドレンは伴侶だから良いにしても、ジジもこれかと思うと、会う度、どうすれば良いのやら。



「イーアン。あのな。自警団あるだろ?でも俺より強いヤツがいないんだよ。たまに魔物が出ると俺が殺すんだけど、もうほら。俺も年だから。な?

 でさ。どうしたら良いかってやっぱり思うじゃないか。呼び寄せた理由はホントなんだよ。どうすればお前を呼べるんだろう。何かないのか」


「うーん・・・・・ あるけれど。でも今のところ、それはフェイドリッドだけですね」


「誰それ」


「え?王様です。フェイドリッドは。彼だけなのですね、私を・・・と言いましょうか。龍を呼べるのは」


「王?この国の?王がお前を自由に呼べるっていうのか。何だそれ、王だからって」


 お祖父ちゃんはイーアンに貼り付いたまま、ちょっと怒っている。この状態に危険を感じないイーアンも慣れて、お祖父ちゃんに貼り付かれたまま髪を撫でて、普通に会話を続ける(※順応は早い)。


「仕方ありません。彼が龍を呼ぶきっかけを作った第一人者です。彼に呼ばれると、龍は私を迎えに来ますから、已む無し私も彼の元へ」


「ええ~ ダメだろ。そんな自分勝手な(※お祖父ちゃんも自分勝手に呼びたい)。何かあるんだろ、それ。何がある。笛か」


「笛、ですけれど。これは復元できませんでしょうね。伝説のものだし」


「復元できないと言ったな。ということは復元できそうな気配を見つけたな」


「全くエンディミオンはなかなか。会話に困る相手です。イオライセオダの優秀な剣職人が、同じ素材を見つけましたから、もしやと思ったことはあります。でも彼は誰にもそれを伝えないでしょう」


「なんで」


「彼が作れるとしたら、彼が自分のために使う気がします。龍や私を(※主に私)。でも他の人に作ることはありませんね、あの性格だと」


 タンクラッドがお祖父ちゃんに教えるわけないなとイーアンは思う。お祖父ちゃんは、そいつが誰なのか、もの凄く気になった。そいつにどうにか、イーアンを呼ぶ笛(※正しくは龍)を作らせられないか。



 こんな会話を続けていると。 ドルドレンがようやく眠気から解放される。そして目を開けた直後に、愛妻(※未婚)がジジイに貼りつかれて撫でている姿が目に入り、慌てて起き上がった。


「あら。お目覚めですか」


「何を落ち着いて。『あら、お目覚め』ってイーアン、ジジイから離れないと」


「よく寝たな。ドルドレン。眠り過ぎだ」


「お前、俺に何した!俺の妻に何しやがった!」


 心外なと、お祖父ちゃんはしかめっ面。勝手にお茶飲んで寝たんだろと言われて、ドルドレンはお茶の容器を見た。

 このお茶・・・ハッと気がついて、知ってて飲ませやがったな、と怒鳴ると。お祖父ちゃんはイーアンに抱きついて『孫が怒る~』と弱音を吐いた。なぜかイーアンも同情的。



「大丈夫ですよ。ドルドレン。特に何もされていません」


「今。貼り付いてるんだぞ、エロジジイが。何かされてるだろ」


 ああ、そうですねとイーアンも意識を戻す。それからお祖父ちゃんにニッコリ笑って『はい。では離れましょうね』と腕を解いた。ジジイは名残惜しそうに、目を潤ませながら離された(※意外と素直)。


「つまんない。イーアン。もう帰るのか」


「はい。必要なことはお聞きできました。それではまた、ご縁があったら」


「お前はどうしてそう・・・孤独な老人を容赦なく切り捨てるんだ。好きなのにーっ」


「気持ち悪いこと言うんじゃない、このボケ老人っ」



 愛妻を奪い返すドルドレン。イーアンは紙を持っていて、抱きかかえる伴侶にお祖父ちゃんが書いてくれた紙を見せた。『見て下さい。エンディミオンが教えて下さいました』ねっ、と微笑むイーアンに、ドルドレンは少し落ち着く。本当に無事そう。


「イーアン、眠って悪いことをした。でも無事だったみたいで本当に良かった」


「無事ですよ。大丈夫」


 イーアンはニコッと笑って、抱きかかえる伴侶の顔を引き寄せてキスする。ドルドレンも嬉しいので(※&見せつけ)ちゅーっとキスした。目の前でいちゃつかれ、お祖父ちゃんは苛立つ。


「こらイーアン。ダメだろ。孫とそういうことして」


「ドルドレンを愛してますと言いました」


 うぐっと唸るお祖父ちゃんを見下し、ドルドレンは愛妻を抱えて立ち上がる。『俺のイーアンだ』ねーっと笑顔で愛妻に頬ずりしてから、すたすたと玄関へ向かった。


 ちょっと待てと止めるお祖父ちゃんを放って、ドルドレンは外へ出て、イーアンに龍を呼んでもらう。エンディミオンのテント近くまで龍が降りてきて、町の人が騒いでいた。


 通りは広いので、一応ミンティンが降りることは出来る。荷物を積んで、イーアンとドルドレンは龍に乗る。


「ではエンディミオン。また会う日まで」


「じゃあな、ジジイ」


 二人はあっさりと浮上し、お祖父ちゃんが止めるのも聞かず、空へ飛ぶ。孫が目を覚ましてから、呆気なく帰ってしまった恋した女に、お祖父ちゃんは胸が張り裂けそう。


「イーアン!まだ数え歌はいくらも残ってるんだぞ!俺しか知らない歌が」


「有難うございます。その時また伺います」



 空から降ってきた声を聞き取るも、姿は見えない。次に会うのはいつなのか。どうすれば会えるようになるのか。

 分かった情報は『王以外は龍もイーアンも呼べない』ことと、『イオライセオダの剣職人は、笛と同じ素材を見つけた』ことだけ。どうにかしてイーアンを呼び寄せる方法を考えるエンディミオンだった。

お読み頂き有難うございます。

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