表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
紐解く謎々
379/2948

379. 手袋10組とパワーギア完成

 

 どこにも出かけない日が少ない最近。今日は一日支部にいる。イーアンは午前の作業に、自分の剣の鞘を作る。白い皮を楽に切れるようになり、穴開けも苦労しなくて済む分、作業は早い。


 白い皮に紐通し穴を開け、塩抜き後に戻しておいた魔物の腸を細く切って、かがり編みでぴっちり隙間なく木型の鞘を包み上げた。鞘の上部も、白い皮の下地に薄い革を当ててそれを巻き込み、上部口を紐でぎっちり編み込み完成。


「ちょっと時間はかかったけれど。でも素敵。腸が乾いたら、もっと白っぽくなるから、4面が白い皮で、4辺の編み目が白っぽくなれば、オフホワイトの編みは綺麗に見えるわ」


 剣の鞘の出来に満足してから、編み目にくぐらせたベルト通しも編んで、自分のベルトに装着。よしよし、と誇らしい気持ちになる。



 丁度迎えに来たドルドレンに見せて、二人で歓喜。『俺の愛妻は素晴らしい!』と誉めるドルドレン。『有難う、素敵でしょっ』と胸を張るイーアン。笑い合いながら一緒にお昼へ。


 ドルドレンとお昼を済ませて、明日の準備を初める。ドルドレンは午後は演習に出るそう。『何かあったら、裏庭の外にいるから。壁の向こうだよ』合同だから壁の外、と教えられて、イーアンは伴侶を送り出す。


 ダビが入れ替わりで裏庭口に来て、弓矢を渡してくれた。『確認して下さい』一応大丈夫だと思うと、幾らか考慮点を伝えてイーアンに弓矢を任せると、彼も演習へ向かった。



 午後は。1時間半を厨房のおばちゃんで過ごすことにし、最初に、木の実のパウンドケーキを2台。

 焼いている間に夜の食事の準備。昨日は夕食に、肉で巻いたチーズのパイを焼いたので、今日は芋とチーズのピロシキ。


 だけど。イースト及び酵母が支部にはないので、現在イーアンは酵母仕込み中。


 今日のピロシキは卵生地で代用し、茹でて潰した芋とチーズを包んで、油で揚げた。もう一つは、焼き釜で煮込む野菜の牛乳煮込み。


 (かね)てから誰かに聞きたかった、この世界の『牛乳』の正体を尋ねると、意外にもヤギだった。

 牛乳はあるけれど、地域が違うということだった。『牛の地域もありますから』あまり気にしてないと言われた。



 ケーキが焼けたので、イーアンは一台を料理担当へ渡す。決して、ケーキの存在を、ザッカリアに知らせないという誓いを交わす。そしてもう一台をザッカリアに届けようとしたが。


 ギアッチとザッカリアは演習中だった。これは伴侶にも何か言われかねないと思い(←ケーキを欲しがる)お子たま用ケーキを持って厨房へ帰る。後でザッカリアに渡すことにして、イーアンは午後の作業へ戻った。



 棚を見て考える。手袋がてんこ盛りある。ダビが持ってきてくれた、受けの金具もある。硬質の皮を切り出してしまえば、金具に嵌めるだけの手袋製作。

 こんな金具があるなんて。ダビは本当に細かい作業が上手で正確で、発想力も良い。『何て便利なの』イーアンは感謝する。そして型紙を出して、感謝の勢いで皮を切り出した。


 手袋に使う皮は比較的薄い部分。ナイフの切れ味も良いので作業が早く、気持ちが乗ってきているため、失敗もない状態で、手袋部品は1時間半後に10組分作れた。切り出してちょっと休憩。


 休憩中にきちんと並べて、お茶を飲んでから金具で手袋にはめ込む。これが楽しみだった。金具位置も手袋に薄く印をつけて、金具を裏から当てて手袋を間に、切り出した革の部品をぱちっと嵌める。


「楽しい・・・・・ 」


 縫い付けるわけでもなく、ぱちっぱちっと嵌めていく。快感になりそうな出来上がっていく姿を見る、この時間。ニヤニヤしながらイーアンは、ぱちぱちと皮を嵌めて、手袋10組を仕上げた。仕上げのこの作業は10組でも30分。



「早かったわ。気持ちが上向きだと手も軽いものね。このタイプの手袋作りは楽で良いわ」


 時間を見るとまだ4時過ぎ。もう一つ。長らく放ったらかしだった、パワーギアも棚から引っ張り出した。途中までで終わっている、これ。


「フォラヴに測らせてもらったサイズで、図案どおりに作ってみましょう」


 自分の鞘を編む時に出した、魔物の腸。すぐ使えるので、作りかけにこれを足して作り始めた。

 ソカの製作時と同じように、乾いた後も伸縮が利くように、幅と固定位置までの距離を調整する。伸び方を確認しつつ、ちょっと自分には大きいけれど出来た部分から試着。



「こうやって。腕をこう、引いて。わあっ」


 イーアンはびっくりした。凄い力で撥ね戻される腕に体が持っていかれかけた。乾きかけだから、完全に乾いてから再び試してみることにする。


「乾いても、同じくらいであれば。これだったら力の強くない人でも、威力のある弓を引けるかも」


 魔物の材料の凄さに感心しつつ、イーアンは残りの半分も仕上げる。幾度か調整して、そこそこ形になるものを仕上げることが出来た。

 最初のパワーギア。名前をつけようと思って、呼び名を考えているとシャンガマックが来た。ノックされた時間が伴侶の迎えに来る時間前後で、ドルドレンかと思って開けた。


「あら。シャンガマック」


「イーアン。謝ろうと思って」


 突然何かと思えば、剣を作ってもらいたいと頼んだことだという。『まさか泊り込みなんて』そんなに大変だと思わなかったと、褐色の騎士はすまなそうに話した。


「気にされないで下さい。私だって驚いたのです。ただね。剣は専門的なものだし、命を預かる品を作るものですから、私のようにこの前から関わった人では作れないものです。タンクラッドはそうしたことも考慮して、泊まりこみの話を出したのでしょう」


「そうか。でも大丈夫だ。よく分かったから。剣はタンクラッドさんにお願いする」


 シャンガマックは微笑んで、戻ろうとしたが、彼の背を見てイーアンはハッとし、シャンガマックの腕を掴んだ。驚いた騎士は振り向く。


「すみません。ちょっとお願いが」


「何だ。言ってくれ」


 イーアンは作りたてのパワーギアを見せる。暖炉の部屋にあるから、乾きが早い。硬くならないように擦りながら、シャンガマックに説明した。


「つまり。これを体に着ければ良いのか」


「はい。腸ですけれど、気持ち悪くなければ」


 気持ち悪いかと聞かれれば、気にしないとも言えないが。イーアンに言われるままに、シャンガマックは腕を後に伸ばした。お礼を言って、イーアンは有難く試着してもらう。両腕に輪の部分を通し、シャンガマックの肩にかける。

 前に回って、輪に繋がる2本の線を交差させ、肘と腕、胸周りにかけた。この作業の間。シャンガマックは恥ずかしいので、目を瞑って赤くなっていた。


 そこへドルドレンが来る。扉は開いていて、戸口近くでこれをしていたので、戸の開きから中を見たドルドレンは慌てた。『イーアン、なぜ』なぜ抱きついてと言いかけて、二人と目が合う。何か試着中。


「ドルドレン。丁度良かったです。彼に打って頂きますので、受けて下さい」


「何?」 「え?」


 あー良かった、とイーアンは笑顔で離れる。それから伴侶に、両手を開いて彼の拳を受けて、と頼んだ。


 突然『部下に打たれろ』と愛妻(※未婚)に命じられ、疑問符がたくさん出るドルドレン。とりあえず両手は広げたが。



「ではシャンガマック。ドルドレンに打ちつけて下さい」


 部下よ旦那を殴れと・・・・・ 俺の愛妻は、俺が疲れて仕事を終えてきたのに(※今日は演習)何を。戸惑いながらイーアンを見ていると、『分かった。総長いきますよ』と部下がニヤッと笑った。


 シャンガマックは右肘をぐっと後に引く。引いた直後、『ああっ?』の一声と共に、焦った表情の褐色の騎士は、勢いづいた拳を総長に突き出した。ドルドレンも一瞬目を見開いて、急いで拳を受ける。ドルドレンの手の平が、自分の頭の後くらいまで押され、両者は目を見合わせて驚いた。


「何だ、これは」


「シャンガマック。お前こんなに力が」


 イーアンは嬉しそう。『どうでしょう。打った人と、受けた人の感想は』ニコニコしながらそれを訊かれ、困惑する褐色の騎士から先に答える。


「自分の腕ではないみたいだった。いきなり反動がついて持っていかれたから」


「そうだな。シャンガマックの体が動いて、拳に連れて行かれたようだった。速度がある力強い拳だ」


 二人がイーアンに何を作ったのかを質問し、イーアンはそれに答えた。これは、力の弱い人を手伝うための道具を作りたくて、と話すと納得するシャンガマック。ドルドレンは危険性を感じたので、それを言う。


「剣と同じように意識した方が良い。素手の力でも、そのくらいの差がある。これを着けて、武器を使うと人によっては危険だろう」


「総長。総長の言うとおりだと思います。気をつける必要はあります。でもこれ、使いたい男はたくさんいますよ。俺や総長のように元から腕力があれば、要らないでしょうが」



 そうねぇとイーアンが意見を聞きながら考える中、ドルドレンもちょっと着けてみたい気持ち。でもイーアンがちらっとドルドレンを見上げ『あなたは要りませんから、良いでしょうけれど』と呟いた。


「俺が使えばもっと凄くないか」


「総長は充分でしょう」


「そうですよ。ドルドレンは恵まれています。それにこれ、あなたの体には小さいです」


 ぴっと指差して、パワーギアのサイズを認識させるイーアン。確かに・・・自分には肩幅や胸周りとか。腕の長さが小さい。ドルドレンはつまんない。


 とにかく。シャンガマックは『これは凄い』と新たな道具に感動した様子で、試着を終えた。イーアンが外し(※伴侶の目が据わる)お礼を言って、シャンガマックを戻した。



「それ。誰用なの」


「先ほど言いましたけれど、やはり力の弱い方に装備して頂きたいです。特定はありません」


「ふーん。俺も欲しい。でも作ってくれないだろうな」


「そんな言い方して。ドルドレンは要らないでしょう。あなたは充分、ってシャンガマックも言っていたでしょ」



 ぶつくさ言う伴侶に笑って、イーアンは暖炉の火を消して工房を出る。二人はいつもどおり風呂へ。イーアンが上がった後、ドルドレンはザッカリアがいないので一人で風呂。

 オシーンに預けられたイーアンは、向こうからギアッチとザッカリアが来るのを見て、急いでケーキを取りに行き、渡した。


「私は明日。朝から出かけて、帰りがいつになるか、分からないのです。だからこれをまた食べて下さい。ギアッチに良いと言われたらにするのよ」


 ザッカリアは喜ぶ。子供だから甘いものが好き。ギアッチはお礼を言って、ザッカリアにもお礼を言わせた。



「そう言えば。ちょっと訊きたかったことがありました。この子が一緒に旅に出るでしょ?早めにこの子だけ、目的を終えて帰るとか、そうしたことは可能なんでしょうか」


 イーアンは、そのことについては頷いた。以前、シャンガマックが『ザッカリアは、途中で他の同行者と入れ替わる』ことを話していたと伝えると、ギアッチは嬉しそうだった。


「良かった。そうなんですか。詳しいことは彼に聞いた方がいいかな。有難う、お母さん」


「シャンガマックなら教えて下さいます。いろいろ分かると安心ですね」


 風呂が終わったら、シャンガマックに聞いてみることにして、ギアッチとザッカリアは風呂へ向かった。



 それから間もなくドルドレンは戻り、二人は夕食。イーアンの食事を感謝して食べるドルドレン(※有難み増量中)。明日はイカタコかなと思いつつ、今日の包み揚げと野菜の煮込みを堪能した。



 寝室へ戻り、明日は早いからと二人は眠ることにした。

 イーアンの提案で、今日はお休みとなる。ドルドレンはとても残念そうだったが、イーアンとしては体力を残しておかないと、明日の緊張に耐えられないかもと(※委託&戦法指導&ジジイ)いうことで、お願いは通じた。


「でも買い物はしましょうね。イカタコがあると良いですね」


「それが楽しみだ。他は適当に終わらせる」


 二人は笑いながら、お休みの挨拶をし、大人しくぐっすり眠りに着いた。

お読み頂き有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ