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魔物資源活用機構  作者: Ichen
紐解く謎々
368/2949

368. 治癒場の効果・親方のお説教

 

「この部屋にはまだ何かあるだろうな。今すぐに見つけられなくても」


「そう思いますか」


「あるだろうな。突拍子もないかもしれないが、それは後々のお楽しみだ」


 彼は何でも見透かしているような気がする。イーアンはとても不思議だった。この勘の良さは何だろう。タンクラッドはもし、ディアンタの僧院の知恵を手に入れたら、とんでもないことになるんじゃないかとさえ思う。


「タンクラッドは。私たちの剣についてどう思いましたか。あの言葉のことですが」


「そうだな。言葉以外のことも併せて考える方が早い。もう一つ試したいのは、総長の剣だ」


「ドルドレン」


「そうだ。黒い魔物の角を使っただろう。あれをここでまた変わるか見たい」


「その意味は。魔物の剣や鎧を持ってくると変わるということ?」


「違う。恐らくだがな。誰が持つのかによる気がする。全ての魔物のものではないだろう」


 自分の白銀の羽毛毛皮も。色が変わったのはここに来たからだと、イーアンは話した。タンクラッドはニヤッとした顔をさらに深める。格好良いのでゾクゾクするため、健康に影響があると目を反らすイーアン。『もしかしますと私の鎧も』言いかけると職人は『そうだ』と肯定した。


「俺たちが使うものは、ここで・・・治癒場全部かもしれないが。聖なるものに変わるのだろう。魔物製だろうが、呪いでもかかっていようが、俺たちが使う以上は。旅の仲間においてだ」



 タンクラッドの見解では、自分の剣は思うに、ヨライデに封印されていたのではないかと。伝説の時の剣である可能性は高く、魔物の力か聖なる力かで眠りに着いた剣かもしれないという。


「どちらの力で封印されたか。それは分からない。ただ、遺跡の奥で見つけた時に奇妙な円陣が見えた。床にも壁にも天井にも。これを取り出した時に特に何もなかったから、気にしなかった。

 何を封印したのかも分からない。『封印』と感じるのは、文字の配列が変わったことと、剣の姿が変わったからだ。とにかく今、俺の手にあるこの姿こそが、この剣の本来の形なのだとは分かる」


「魔物の力で封印されたかどうか・・・分からなくても。少なくともその剣は、正しい力によるものに感じますね」


 そうだなとタンクラッドは満足そうに微笑む。タンクラッドはイーアンに向き直り、上着を脱がした。びっくりして後ずさるイーアンに笑う。『逃げるな』大丈夫だから、と言われるが。だって!とイーアンが困ると。


「お前の絵だ。肩の。さっき初めて見たから」


 なぬっ。イーアンはちょっと考える。そうか、前に手当てしてもらったのは右だったから。仕方ないと思って、上着を脱いで左の肩を見せた。タンクラッドは絵をじっと見てから、自分の剣を見つめる。


「似ているだろう」


 剣の鍔をイーアンに見せて、肩の絵をなぞる。なぞってはいけませんと注意するイーアン。いたずらっぽい笑顔のままで、タンクラッドはイーアンの左腕を掴んで、ぐりぐり絵を撫でた。子供みたいなことをするとイーアンも笑ってしまう。


「お前の腕は筋肉がついていて、形が良い。力強くて美しいな。その腕にこの龍の絵がある。俺の剣にも」


「言われてみますと。ミンティンみたいです。・・・・・思い出しましたが。シャンガマックが昔、遺跡で龍の絵を見たそうです。私の肩の絵を見せると、それだと言いました」


「シャンガマック?バニザットにお前は肩を見せたのか」


「タンクラッドが反応することではありませんでしょう。ドルドレンは嫌がっていましたが」


「何て言い方をするんだ。俺だって反応してもおかしくないだろう。俺の弟子だ。見せてはいけない」


 全く!と笑うイーアン。『この絵は見せるためにあります。隠すために入れた絵ではありません』とにかくね、と話を続け、シャンガマックに遺跡の場所を確認してみるのも、また手がかりかもとイーアンは話した。



「ハイザンジェルだけでも、かなりの情報量だ。ここまででも、かなり惑わされる」


「そうですね。同じことを示しているものも、今後は見えてくるかもしれません。出会う情報は記憶に留めて、闇雲に何でも食いつくのは避けましょう。私たちは夏の終わりには出発するようです。集まる情報を出来るだけ的確に理解しないと、進むのも難しいです」



 イーアンは、ハルテッドの解釈の数え歌と、東のマムベトで出会ったシャムラマートの予言を伝える。


「ハルテッドという男の解釈はこの前のだな。それも参考になる。シャムラマートという占い師の予言は、視覚化されている分、もう少し掘り下げることが出来そうだ」


 一度家に戻ろうと話を切って、タンクラッドはイーアンの背中を押した。



 治癒場を出て、イーアンは龍を呼んだ。二人は龍に乗って飛び立つ。『支部へ行くぞ』タンクラッドの言葉にイーアンは首を振る。『勘弁して下さい』お願い・・・と項垂れる。


「駄目だ。一体なぜ、あんなことになったのかだけでも、総長に聞く。俺は間違っていないはずだ」


「ですからね、私が勝手に出たのです。どなたのせいでもないし、誰にも迷惑をかけたくないです。もうかけちゃったし」


「お前は俺の弟子だ。俺が今後、お前に剣を教える時も来る。未来を潰されては(かな)わん」


 イーアンは困る。ドルドレンが悪いわけではないし、ドルドレンに何て言うのか。タンクラッドは暫く黙ってから、イーアンの顔をちょっと触って自分に振り向かせ『じゃあ、ブラスケッドに聞く。なら良いか』と妥協した。


「聞くだけですよ。責めたりされないで下さい。本当に私が困ります。私は迷惑をかけた側です」


「仕方ないだろう。迷惑をかけたかどうか知らんが、俺の知らない所で危険に遭ったんだ。黙ってるわけにもいかない。ブラスケッドに聞く」


 ふえ~ん・・・情けない声を漏らすイーアン。泣く泣く支部へ親方を連れて戻った。親方はヘンに頭が回るから(※失礼)言い返せない理由をつけられると、どうにも困る。南支部のバリーみたい・・・あの人も断りにくい伏線を張る人だったなぁとイーアンはめげる。



 そして北西の支部へ到着する。一度龍を帰してから、イーアンは行きたくなさそうに、その場を動かなかった。が、タンクラッドに背中を押され、嫌々裏庭へ向かう。裏庭に出てる騎士たちは、向こうから歩いてくる登場人物に目を凝らす。


「お願いですから本当に」


「分かったから。お前の居心地が悪くなったら、俺が引き取る」


 そうじゃないですよ!とイーアンが叫ぶ。そうなったら困るから言ってるのに~と親方タンクラッドに縋る。そんな様子に、騎士たちはイーアンが誰を連れてきたのかと悩む。遠目でも、長身イケメンであることは確認。背中にかなりの大きさの剣を背負って、イーアンに何やら騒がれつつ、大股で歩いてくる。



「ブラスケッド。来い」


 大声で堂々と叫ぶタンクラッド。イーアンは離れる。そそっと離れて隠れることにした。

 私はいません・・・・・ 影になりたいイーアンを、タンクラッドは容赦なく引っ張り出す。やめてー。イーアンは困る。がっつり掴まれて逃げられないイーアンは親方に許しを請う。無視された。


 名前を呼ばれて、片目の騎士がすぐに出てきた。『どうした。タンクラッド』旧友に声をかけながら、引っ張り出されたイーアンを見て、目が丸くなる。


「おい。イーアン、傷は?」


「理由があって治すことが出来た。それより話せ。なぜあんな怪我になった。知ってることを聞きに来た」


「何だ?怪我のことを聞きに来たってのか。治ったのに。そうか、でも。ふうん。まあ良いだろう」


 ニターッと笑ったブラスケッドは、旧友の顔を見ながら頷きを繰り返す。タンクラッドの目が厳しい。『早く話せ』聞いたら帰ると言うので、つれないなあと溜め息をつきながらも、ブラスケッドは中へ促した。


「ちょっと客が来たから、俺は少し抜ける」


 部下に声をかけて、ブラスケッドとタンクラッドは中へ入った。嫌がるイーアンも無理に連れて行かれた(※時々猫掴み)。



 そして3人は広間でお話。三者面談。ブラスケッドが知っていることを話すと、タンクラッドの表情が険しくなる。『イーアンが素手』んなわけないだろうと、呆れたようにブラスケッドに言う。イーアンは横を向いて俯き続けた。


「ちょっと待ってろ。イーアンがバラすと思って取っといたから」


「え。それはちょっと。ここに持ち込まないほうが」


 ブラスケッドが立ち上がったので、イーアンは慌てる。確かに自分が倒したけれど、あんまり詳細はよそ様に聞かせたくない。片目の騎士は『見せれば納得する』と言って、行ってしまった。


 剣職人がイーアンをじっと見て、『お前に質問だ』と一言。イーアンは項垂れながら、もういいじゃありませんかとこぼす。


「良くない。お前が戦ったんだよな。一人で」


「そうです。私しか外にいませんでしたから」


「何で」


「何でって言われましても」


 ぼそぼそ言うイーアンの後から、ブラスケッドがやってきた。

『ほら、これだ』手袋をした手で、昨日の狼のような魔物を剣職人に見せた。大きさは頭から尾の先まで1m80cmほど。頭の高さまでは110cmちょい。頭が割れてなければ。


 タンクラッドはそれを見て、黙る。開けっ放しの口の中に見える舌が、潰れて千切れている。頭も(ひしゃ)げて顎が上下繋がる所が砕けていた。目玉が片方出ていて。


「俺が見たときは既に、イーアンが頭を踏み潰していた」


 でな、とブラスケッドは舌を指して『これを握り潰していた。腕に毛皮を巻いて、口に突っ込んでな』そうだよなとイーアンに振る。イーアンはげんなりしながら、力なく頷いた。


 言葉もなく、砕けた頭の魔物を見つめてから、タンクラッドはイーアンに視線を移す。じーっと見てるのでイーアンは目を反らした。



「理由は聞かないでやってくれ。内輪もめってほどのことでもなさそうだから。解決済みだし」


 納得したかと片目の騎士に言われて、タンクラッドは黙っていた。とりあえず、想像していたのと違うと理解し、タンクラッドは帰ることにした。


「イーアン。帰るぞ」


 分かりました・・・悲しい気持ちで親方の後をついて行くイーアン。タンクラッドの家(あっち)で何言われるんだろうと思いながら、イーアンはとぼとぼ裏庭へ出て、龍を呼んだ。


 二人が龍に乗ると、同じタイミングでドルドレンが出てきた。『また行くのか』と言われて『送ります』とイーアンは答える。イーアンの顔に傷がなくなったのを見て、ドルドレンは少し安心したように微笑んだ。


 タンクラッドは総長を見下ろし『イーアンに怪我をさせるな』と呟いた。イーアンは慌てて龍を浮上させ、急いでイオライセオダへ飛んだ。残されたドルドレンは寂しかった。



 イオライセオダに着くまでの間は、タンクラッドは無言だった。イーアンの居心地はとても悪かった。工房の裏に着いて、イーアンはタンクラッドが降りたのを見て、さよならの挨拶。


「駄目だ。お前も入れ」


「お仕事がありますでしょう。私は帰ります」


「お前に話がある」



 いやーん。怒られる気がするー。 嫌そうな顔のイーアンを引っ張って、タンクラッドは引き摺り下ろす。イヤイヤしてるイーアンを小脇に抱え、龍に戻るように指示(※ミンティンは帰る)してから、家に入った。


 タンクラッドは家に入って、イーアンを椅子に座らせ、咳払いをする。イーアンは下を向いてじっとした。そんなイーアンの前に椅子を引いて、剣職人は両膝に肘を置き、前屈みにイーアンを覗き込む。


「あのなぁ。何が嫌で、何がむしゃくしゃしたか、俺には分からないが。魔物が来たら逃げろ」


「はい」


「はいって。今だけだろ。その返事は。

 一人で戦うな。中に人がいるんだから。工房の前でとブラスケッド(あいつ)が言ってたけれど。だったら窓を割って中に入るとか。何かあるだろう、戦わない方法が」


「窓を割ったら、危ないですもの。もっと怪我をしたかも」


「しない。牙や爪で引き裂かれるような目には遭わない。こら。こっち見ろ」


 しょげるイーアンの顔を手で持ち上げるタンクラッド。目を合わせようとしない。『こら。見るんだ。イーアン』ほっぺたをふるふる揺らされるイーアン。『気をつけます』小さく答えることにした。


「イーアン。お前はどうしてそう好戦的なんだ。いつもこんなに大人しくしてるのに。閉じ込めて見張るぞ」


「だめ」


「ダメじゃない。総長と何かあるたんびに、魔物と殴り合いなんて冗談じゃないぞ。強いみたいだから、まぁそこは良いけれど。

 でも一々、戦うな。お前が魔物を斬ろうがぶちのめそうが、俺は気にしない。でも怪我は嫌だ。お前はしょっちゅう傷だらけで、心配する身にもなれ。俺にもさっき注意したろ」


 ふんふん半泣きで説教を嫌がるイーアン。だって~ 


 タンクラッドはそこまで言うと。立ち上がってイーアンの前に跪いてから抱き締める。『分かれ。ダメだぞ』頭を撫でながら、困ったように笑った。



「早く毎日一緒にいられるように、旅に出ないとな。お前には、見張るやつが必要だ」


 よしよし、よしよし、と頭を撫でてイーアンを覗き込む。同じ色の瞳が覗き込んで笑っているのを見て、イーアンも見つめ返した。


「怪我は治ったが。昼飯を食べたいと思うのは俺のワガママか?」


「作ります。それに、舌もそろそろ仕上げるから、近いうちにまたお邪魔します。数え歌もありますし」


 イーアンは腰袋から宝石を出した。お土産でタンクラッドにもと、青い石以外を見せる。幾つかの色の中から、タンクラッドは黄色がかる夕陽のような石を選んだ。


「俺とお前の目の色に似てるな」


 これにしようと微笑んで、イーアンの頭を撫でた。



 イーアンはこの後、お昼に大量の野菜を茹でた。一緒に茹でた芋は潰して、炒めた肉と混ぜて冷まし、冷めたところで、衣を付けてわんさか揚げた。茹でた野菜はアイオリソースを作って和えた。この前の塩漬けティッティリャを絞って作ったソースは、とても良い香りだった。


「コロッケならお芋だから、カツレツより良いかも」


 後片付けも油の始末も、少し早い11時に全部を終えて、イーアンは帰る挨拶をする。一緒に食べていけと言われて、少しだけ一緒に食べた。


 タンクラッドには、コロッケもウケた。似た料理はあるのだが、タンクラッドは本当に外食しない人なので、あまり馴染がないらしかった。

 夜も食べられるよう、30個近く揚げたとはいえ、せめて半分で止めるようにと念を押した。ムシャムシャ食べるので、体の大きいタンクラッドに足りないのかと錯覚するが、普通に考えれば、食べ過ぎかもしれないとも思えた。

 でも野菜もがんがん食べる。好き嫌いはないと言っていたのでこれは良かった。ティッティリャの香りがとても良いと誉めていた。こってりしたソースでも、こんなに爽やかだと幾らも食べたいと話した。



「イーアンは。料理が本当に上手い。いつも美味しい。お前がいないと食事が寂しくなる」


 請負の剣はもう少しかかるだろうが、とタンクラッドは予定を話す。来れる日はいつでも来いと微笑んだ。『話を聞かないとな』謎は一緒に解こう・・・そう言いながら、コロッケ12個目(※コロッケ寸法=縦10cm×横7cm×厚3cm)を口に入れて、イーアンを撫でた。



 お説教をされて。お昼を作って。イーアンは帰宅する。タンクラッドは名残惜しそうにイーアンを抱き寄せて、髪を撫でてから龍に乗せる。


「早く来い。いいな」


「はい。舌を仕上げます」


「舌じゃなくても良いから」


 二人は笑って、お互いが見えなくなるまで手を振り、さよならした。

お読み頂き有難うございます。


ブックマークして下さった方がいらっしゃいました。有難うございます!!とても嬉しいです!!


今回、最後に出てきましたコロッケ。大きいコロッケなので、再現して寸法を写真に撮りました。


挿絵(By みてみん)


厚さ3cm以上あると、1個でもおかずになるような・・・気がします。重さは240gでした。

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