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魔物資源活用機構  作者: Ichen
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2950/2953

2950. レムネアク談少々・身元引受人女龍

 

 実はこの後、やはり女龍も良くないかとヨーマイテスは撤回したのだが。


『同じサブパメントゥのコルステインにするか』と言われ、コルステインが来たらもっとまずい(※何回か消される予告された経験あり)と思い、女龍でいい・・・とした。



 *****



 午後―― アネィヨーハンにいたイーアンは、自分一人で飛べない犬姿。魔法が解けるまでの待ち時間、ミレイオとのおしゃべりが途切れない。


 ミレイオもイーアンと話したかったし、今は犬だし(?)、久しぶりに和む時間を楽しむ。

 よしよし撫でながら、櫛で巻いた毛を梳かしてやったり、長い尻尾にリボンを結んでやったり、犬が相手なのかイーアンが相手なのか分からない楽しみ方で、『夜もいれば?』と誘い、イーアンもどうしようかな~と(※たまにはの気持ち)考える。



「ミレイオは、馬車に戻らないのですものね。私が馬車を離れないと」


「うーん、うん・・・そうね。ごめん。シュンディーンを待つから。ね、私さ。最近のことを聞いて、やっぱ思ったことあって。あの男いるじゃない?そいつは、平気かも」


「・・・レムネアク?」


「初対面の日も思ったのよ。意外と普通だしマトモな印象だったわけ。頭も良さそうで、偏見もないっぽいじゃない」


「そうですね、そうかも。ミレイオのこと、チラチラ見て気にしていましたが、多分刺青」


「見てた?私それは気づかなかったけど、偏見じゃないでしょ?」


「違うと言い切っていい気がします。あの人、特殊な存在が大好きなのです。私やダルナを見ても、ぽかーんって感じでした。コルステインにも、そう。・・・マースだっけ?コルステインの家族の四本腕があるお方にも、ぽかーん」


「・・・ハハハ!すごい変わってる」


「ええ。人間には冷めてる感じですが、特殊な相手には、即心酔ですよ。あ、そうそう!ホーミットの獅子姿と狼男も、ぽかーんでした」


 アハハハハとミレイオが笑って、犬もワンワン笑う。何でも良いのかと笑うミレイオに突っ込まれ、イーアンは『多分、人外なら』と答えて目が合い、ピタッと止まる。ミレイオは真顔に戻り自分の胸を指して不愉快そう。


「私、この状態で『人外』って捉えられたなら、それはムカつくわ」


「語弊でした。ごめんなさい。ミレイオの刺青の独特な美術的価値や、男女の壁を超える磨かれた雰囲気は、()()()()()()と大きく差がある、という意味でした」


 キチンと言い直したワンコをじーっと見つめ、ミレイオは犬の頭をよしよし(※納得)。犬も頷く。イーアンは『ちなみに、タンクラッドやドルドレンみたいなイケメンにも反応はない』と加え、ミレイオは『顔じゃないのよね』と相槌を打った。これにより、ミレイオの中でレムネアクの株が上がる。



「うーん。なんか。聞いてると微妙に楽しそうな感じだから。私も馬車へ戻ることが過らないでもないけれど。だけどシュンディーンがね、とりあえず『職業人殺し』の同行を」


「大丈夫、分かっています。シュンディーン第一で考えたから船にいる、それを私は尊重しています」


「もし、さ。私が馬車に戻るとするじゃない?で、仮にシュンディーンも馬車に戻って、それで・・・レムネアクを『人殺し』とか『殺人業』とか、悪気はなくても口に出てしまうと思うの。

 もう彼は皆に馴染んでいるようだし、気にしなさそうな印象だったけど」


「あ、それは絶対気にしないですよ。平気」


 他人のことでも言い切るイーアンは、ロゼールがさんざん言っている(※悪気ナシ)のを伝え、ミレイオはまた笑う。イーアンはさらに、レムネアクへの解釈も付け足した。



「あの人は、自分に責任を持ってるんですよ。生き方も背景も丸ごと。人間という生き物自体もひっくるめて、自分の背景としている傾向があります。だから生き方がそれぞれなのも、生まれ育ちに差があるのも、さして重きを置いていない感じです。『人間だから』、程度。達観というか、俯瞰というか。

 殺人の自覚はあるけれど、それもまた、大きな世界の中に於いて『誰かは、そうしたこともあるだろう』って。そんな風に見えます」


 ワンちゃんは真面目にレムネアクを語る。ミレイオは犬の巻き毛を撫でながら、賢そうな目を見て(※イーアンだけど)『あんたがそこまで言うって、もう彼は認められているのね』と受け入れた。


「そっか。聞けて良かった。シュンディーンが戻ったら、この話もするわ。あの子が反発する予想はあるけれど、仮にも模型船が選んだ同行者、シュンディーンに理解を促してみる」


 シュンディーン第一のミレイオが、レムネアクの人格を認めて、彼を理解するよう精霊の子に促す―― ミレイオの気持ちが少し変化したと知り、イーアンは微笑んでミレイオにお礼を言った。



「面白そうなやつよね。聞いてるだけで」


「面白い、かな。うん。私は拝まれる対象なので微妙です」


「ハハハ。でも、悪いことじゃないわ」


「あ、今はレムネアクの顔、化粧があります。腕も描いてるし。ヨライデ人、という感じ」


「そうなの?ふーん、見てみたいわね。割といい顔しているから、似合ってそう」


 ミレイオも化粧しているし、そういうのも気を引いたのではないですかと言いかけて、イーアンの犬の鼻がひくりと動く。終わらない楽しい会話が、ここで途切れた。



 ふと、空気が変わる。山の風が船窓から流れ込み、テイワグナの乾いた空気と潮の香を押しのけ、森林のひんやりした湿度が食堂に満ちた。


 笑っていた犬とミレイオは固まり、何事かと構えたすぐ、差し込む夕陽に現れた大きな目。


 眼球のほとんどが、緑一色。包む瞼は、どこか透き通った石を思わせる硬質の美しさを帯び、光に映し出された大きな片目に二人は釘付けになった。更に。



『女龍。獅子がお前を呼べと指名した』


「・・・え?()()って」


 二人が同時に眉根を寄せる。犬を見下ろす目は、真の姿を見ており、これが角の生えた女と認識。しかし魔物の国でもない隣国に犬の姿でほのぼのしている場面は、どうとも言えず、胡散臭そうに瞼が半分降りる。

 その目つきに敏感に反応したイーアンは、これが精霊で・私がサボってると思われた(※正しい勘)と慌て、ばっと立ち上がった。


『イーアンだな?女龍。しかしなぜここに』


「行きます。今からすぐ・・・あの、ですが、見ての通りで犬ですため、もう少ししたら翼が使えるから」


『連れて行く。来なさい』


 行きますと意志を見せた女龍が、犬状態に戸惑っているので、とりあえず精霊はこれを運ぶことにする。急なことに驚くミレイオだが止めるわけにもいかない。なぜ親父(※ヨーマイテス)がイーアンを? その事情を聞きたいが、そんな暇は与えられない。


「ミレイオ、また!」


「イーアン!」


 振り返った犬はミレイオの手をすり抜け、目に吸い込まれ・・・ あっさり消えてしまった。手元には、触れていた尾から滑り落ちたリボン一つ。


「ったく・・・あのバカ親父。なんでイーアンを」


 何をやらかしたか、精霊が来たとなるともう、想像したくない。あー、ごめんねぇと、酷いとばっちりじゃないことを願いつつ、ミレイオは親父の代わりに謝った。



 *****



 実の息子にもバレた失態なんて、獅子が過らせるわけもないが。


 大きな目・・・ 精霊に連れて行かれたイーアンは、ティエメンカダといい、ナシャウニットといい、龍気関係ないなあと今回も思う。『関係ない=つまり』の想定で、大型精霊なのも確か。


 引き込まれた無重力空間。何も見えず、明るくもなく暗くもない。目を閉じた状態に似て、特徴的なにおいが強い。

 凝縮した森林の匂いがイーアンを包み、それはすぐに雪の匂いに替えられて、混じった香りで針葉樹の葉を記憶に呼び起こす。アイエラダハッドの森林、山脈を連想し、もしやと―――



「わっ」


 もしかしてと相手を定めかけた瞬間、無重力が解かれて、巻き毛の犬は濡れたタイルに落ちた。が、魔導士に食らった落下とは違い、ほんの1m上くらいから落ちたため、特に何もなし。きょろきょろっと見回して、深い洞窟のどこかと思った。足裏を濡らす水は側の川で、洞窟内を流れている。


 この前、コルステインと話した洞窟とは違うが、ここもヨライデのような気がした。


 そして犬は、川の先に目を止める。暗いのだけど全く見えないわけではない。イーアンは犬状態でいつものようには光らないけれど、静かな明るさを点々と灯す洞窟、その先に・・・獅子の影を浮かび上がらせていた。


「ホーミット」


 何があったのか。彼は動かないし、こちらを見ない。誰かの話を聞いているようにも見えるが、獅子以外はいないような。

 私、動いて良いのかな、と放っとかれているイーアンは、一先ず獅子のところへ歩き出す。


「イーアン?」


 着地した音では振り向かなかった獅子が、近づく足音に気づいて驚き、こちらを見た。


「どうしたんですか」


「俺が」


 獅子は言いかけて口を閉じる前に黙り、碧の瞳はいつもと全く違って自信がない。何があったんだろう?と尋ねかけて、獅子は近づいた女龍―― 犬 ――に『なんで犬なんだ』と一言。目が据わるワンコは『魔法掛けられたんだよ』とぶっきらぼうに答えた。


 短い挨拶は精霊に遮られる。獅子と犬が向かい合った場所は急に光で包まれ、壁の目がカーッと輝く。そこに目があるなんて知らなかったイーアン。どうなるかと覚悟も躊躇う獅子。目は、二人を光越しに・・・ 寒風の巻くヨライデ山脈へ移動させた。



 *****



 洞窟から、険しい山脈のど真ん中へ。むき出しの黒い岩肌は薄く氷が貼り付き、頂きは解けない雪に覆われ、煌めく空気と冷たい風に、下方で群生する針葉樹の匂いが乗る。


 茜色の空は夕闇の暗さで紫を端に引き、横にかかる黄金色の光が山々の影を反対側の山に落としていた。


 イーアンが過らせたのは、ここが・・・ロデュフォルデンの近くと似ていること。茜と黄金が照らす岩肌、崖から突き出た足場に立ち、山々の隙間に目を凝らし、感覚を澄ませ、あの地を探した。犬の後ろには金茶の獅子がいたが、獅子は話しかけ辛そうで大人しい。



「ホーミット、ここは?」


 じっと風景を見ていた犬は振り向き、少し間を開けてしまったので自分から獅子に話しかけた。


「・・・知らない」


「あなたが指名した、と聞きましたが」


「・・・」


 だんまりって、珍しい。イーアンは嫌な予感がする。


 この人(※獅子だけど)禁忌の拘束期間中なの、どうなったんだろう?まだ解禁じゃないと思うんだけど。もしかしてその関連で私に―― とここまで思ったら、精霊が登場した。


 突き出た足場は横に10mほどだが、背後から先端までは3m程度。その3mの真ん中に淡い緑と水色の粒子が立ち上がり、それは形を変える。


 鹿の角が頭にあり、鳥の羽毛を羽織る。大きな背丈に分厚い体躯。古めかしく技巧を凝らした服を着込み、爪のある爬虫類の手足に鱗が光り、背後に長く太い尾が・・・・・



「サドゥ」

お読みいただき有難うございます。

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