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魔物資源活用機構  作者: Ichen
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2946/2956

2946. 馬車歌のオルゴール ~②親方の解釈・イーアンの焦げた太陽の話

 

『善い神の祝福(に許し)を受け、(焦げた)太陽の手に導かれ、暗い過去は背後のもの。


 遠くへ出かけ、(土産と一緒に)始まりが終わり、終わると始まる扉の向こう。(燃える)太陽の微笑が草を照らし谷を照らし川を教え、(死んでも)困ることなど何もなし。祝いを邪魔する道化も(ここには来れない=)いない。暗がりすら追いやられ、足元には花(輪)が、頭には鳥が、両手に(粗布と)香りが、見えない(糸の)瞼を開いた春に、踊って(去りし)感謝を伝える日。


 2つが一つ(ところ)に戻ったら、首も(根)元に戻ったら、善い神の歌が響いたら、全部が最初に戻る時』―――



 誰かが死んでいるのではないか。もしくは全滅だろうか。

 最初は意味が分からなくて、文章に合わない言葉を抜いたドルドレンだが、抜いた言葉を含め、改めて歌を教えたところ、親方の見解を聞いて分かるような分からないような、更に問題が深くなった。


 ここから先はイーアンだ、とタンクラッドが後方を振り返ったが、ホーミットとシャンガマックが・・・何やら重要とやらでイーアンを押さえているので(※逃げられない)すぐには応じてもらえなかった。


 とりあえず、二人でもう少し掘り下げることにし、トゥの部分についてはタンクラッドが主導権(?)。



「この前も言ったがな。『長らく悪神に邪魔された時間が終わる』・・・の解釈は、そのまま合っているだろう(※2899話参照)。

 トゥの翼にある瞼についても、瞬きするとなれば、あいつの場合は攻撃に使うんだ。見るための目ではなく、定める狙いを固定する役目、と俺は思っている。あれが瞬きした途端、そこら中が焼け野原だ」


「・・・話には聞いているが。凄まじい」


「これでも謙遜だぞ。焼ける以外もある。脱線したな、話を戻す。またトゥが攻撃しなければいけない予告か!と焦ったが、言葉一つ二つ加わるとそうではない感じだ。翼の目・瞼の話じゃない。そこじゃなく、『トゥの体が戻る(※2530話参照)』気がする」


「戻るとは、お前もトゥも望まない、以前の世界へ」


 この部分は二人共、声を落とす。タンクラッドは今やトゥが友達だし(※主従関係でも)、ドルドレンも、タンクラッドにここまで合う相棒はいないでのはと思う。数秒のだんまりを挟み、親方は前髪をちょっと振り払って、詰まった息を吐くと、黒髪の騎士を見て微笑んだ。


「この歌だけじゃないよな?」


「そう。これはヨライデ馬車歌の一部である。他の歌と合わせたら、また・・・ しかし、なぜこれを俺に託したのか。この歌が主にも思えて悩む。勇者と魔物が出てこない時点で、俺に渡すか?」


「俺も不思議だ。勇者に託すとしたのが、その一曲とは。よくよく考えたら、『馬車の民の今後』だろう?勇者がどれだけ悩もうが悶絶しようが、はたまた極端に絞ると()()()()()()()()()、その歌と関係ないじゃないか」



 勇者は、無視―――


 他人に言われるとキツイので、ドルドレンは咳払いし『はっきり言うな』と注意した。トゥで少し沈んだタンクラッドもこれで笑い、気持ちを『オルゴールを渡された意味』その謎解きに切り替える。


「そもそも、の問題点だな。勇者が関係ない歌を、勇者に渡した理由が気になる」


「本当にお前は、遠慮せずに言う。タンクラッド、俺はこの国で最終決戦なのだ」


「ハハハ、こんなことで落ち込むな。さ、お前も切り替えろ。歌の内容は()()()()()()だ。

 そしてこれまでの馬車歌と、ガラッと変わった視点と話で、重要な場所や道具諸々の示唆もなければ特定もない。他の四ヵ国は、旅の仲間と魔物について歴史や必要な道具、各自の背景など、確実に旅に関係する歌しかなかった。中には、イヌァエル・テレン()の逸話を含んだ卵泥棒や、異界の精霊ダルナたちに集中したものもあったが、ヨライデの馬車歌ほど脱線の印象はない。


 しかしこれが、この国を最終と彼らも知っていて委ねられたなら、恐らくこちらが理解する重要度の高さからだ。他にも何部と分かれている歌から、これを選んだ。お前に渡すならこれ、と。歌の意味から入っちまったが、まず解明すべきは」


 話すタンクラッドの後ろから、ひゅっと白い角が現れる。


「そうですね。馬車の民が真っ先に伝えたかったことを知らなければ」


 振り返った親方が『お』と驚く。ドルドレンは、抜け出したらしきイーアン(※獅子の用事)を間に座らせ、後ろを気にした。


「あっちは大丈夫か」


「休憩時間です」


 ハッハッハとドルドレンたちに笑われ、イーアンも苦笑し『早めに戻る予定』と時間が少ない理由で、さっさと本題。


「さて。馬車歌そのものは、脇に置いて。タンクラッドの気付いた点は、私も少し気になっていました。まるで、魔物との決勝戦が()()()()()()()()ように感じられて。いえ、実際は大したことなのですよ。でも彼らの観点で、決勝戦より大きい出来事の未来であり、それも勇者に、つまり『地上に残された、たった一人の馬車の民』に言わねばいけなかったと考えると」


「・・・それかも知れんぞ、イーアン。お前が思うに、この歌は」


()()()()()ではありませんか」



 タンクラッドの目が女龍を見下ろし、見上げる女龍が『その後の世界』と続け、騎士と剣職人の視線が重なる。ドルドレンはここで早々盛り上がった出だしを一度止めて、伏せた言葉を含む歌を彼女に教えることにした。


 イーアンは身を入れて歌詞の全てを聞き、少し目を彷徨わせてからドルドレンに『オルゴールを聴かせてほしい』とお願いする。


 勿論、とドルドレンはオルゴールを出して曲を聴かせ、流れている間、イーアンは指を折りながら数えていた。その仕草にタンクラッドは面白く思い、何に気づいたかと楽しみ。曲が終わってイーアンは、オルゴールをしまって良いと言った。


「全く違う印象に変わりました」


「その通りだ。と言っても、はっきりしないために、どこか意図的な滑稽さ・・・怖さを伴う」


「ええ。私も同じ。最初に、私が知っている情報を足しましょう。これは、この歌を聴いたからには話して良いと思います。『焦げた太陽』は、現実にいらっしゃいます」


「なに?」


 同時に驚いた二人に、『焦げた太陽、まさにその呼び名のとおりのお方がいらっしゃる』と教え、質問しかけるタンクラッドを待たせ、イーアンは話しをさせてもらう。


「トゥの前身である伝説の、善い神。この神様が祝福してくれる、それが善い神様の歌を以て判断される、と聞こえます。許してもらえた続きは、焦げた太陽が導くところ」


「どこか、見当がつくんだな?」


 サッと肩を掴んだタンクラッドの目は、謎解きを楽しんでいたちょっと前と変わり、トゥの心配が籠る。彼も歌詞を聞いたらそう思うだろうとは考えたが、イーアンは裏付けしてしまいそうで躊躇う。



 どう思うんだ、どこか分かるかと、戸惑う女龍に畳みかけるタンクラッドは何とも切ない。


「あのう・・・焦げた太陽を説明しますね。この世界の太陽として、最初にいらしたお方でした(※2811話参照)。ですが、今の太陽と交代したのだそうです。事情は知りません。交代後、黒く焦げた太陽はこの世界の大地に落ち着きました。太陽としてではなく、あぶれた者を受け入れる存在として」


「その言い回し・・・ 黒い精霊?」


「違います。私も最初は掠めたけれど、全く別です。焦げた太陽は、十二の司りの一人でもあります。彼の役割・その仕事を見たことはありませんが、ティヤー創世物語からの話ですし、『あぶれた者』を引き取る役割、()()()()()()()()()いと思います。

 話を戻しますが、黒い太陽は元来、この世界の精霊ではありませんでした。よその世界からいらしたお方で」


 ここまで聞いて、タンクラッドは彼女に向けていた顔を前方に戻す。

 トゥがいなくなる決定打と理解した態度に、イーアンとドルドレンは同情する。焦げた太陽が導くなら、この世界の大地ではなく別の世界へ行く、と聞こえる・・・


「イーアン、現在の太陽は」


 ドルドレが質問の方向を変えたので、イーアンは『この世界から動きません』と答え、どう考えるのが妥当なのか判断に難しい、と付け足した。


「難しい?何が」


「焦げた太陽が、違う世界へ導く歌詞でも・・・ 実は、現在いらっしゃる太陽の精霊といいますか。このお方も、別の世界から呼ばれていまして、現在の太陽が馬車の民を連れ、こちらの世界へ来たと聞いています」


 イーアンの情報は、創世記のよう。それで?とタンクラッドは促した。

 車輪の音が振動と一緒に響く道。女龍が静かに語ったこと。時折、車輪のゴトンと鳴る音に消されては聞き返した内容。



 ―――太陽の民は、太陽と共に世界を巡った。


 けれど、この世界で太陽が照らす約束をしたので、馬車の民が出た(※幻の大陸)道は、離ればなれ。光は照らし続けていても、太陽の約束は守られているため、馬車の民は手放された状態にある―――



「とすると、やはり。そうか、もしや、イーアンがよぎらせたのは」


「ドルドレンはどう捉えましたか」


「うむ。馬車の家族はこの世界に、一時的には戻るかもしれない。焦げた太陽がここに居るなら、次の場所へまた出発するため、焦げた太陽が引き取る印象だ。現存の太陽が、ここを動けないのであれば」


「そうなるよな」


「でも、そうなると馬車の民が『あぶれている』解釈です。焦げた太陽が連れて行くのは、あぶれた者だけです。もしそうであれば、馬車の民は」


「あぶれている、というのも言い方が悪いな。要らない、と聞こえる」


 手綱を少し緩めたタンクラッドが口を出したが、イーアンはそこではない。ドルドレンも心配そうに『要らない状態とは危険だ』と別世界出発の推測に眉根を寄せたが。



「ドルドレン、()()()()馬車の民です」


 女龍の一言に、灰色の瞳が彼女を見る。タンクラッドも、意表を突かれて振り返る。


 イーアンが解釈に難しいと言ったのは、ドルドレンも連れて行かれるのではないか・そうなら、この世界に人間の必要がないと遠回しに教えていないか、そうとも思えるからだった。


お読みいただき有難うございます。

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