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魔物資源活用機構  作者: Ichen
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2933/2936

2933. 報告と光の玉・コルステインの憂い

 

 全部の荷を下ろしてもらったイーアンは、人の姿に戻ってドルドレンに労われ、バイラと買い物をするまでの経緯をザックリ報告。ドルドレン、少なからず驚く。



「ぬ。では、サンキーに食料を」


「はい。そうしましょう。買い出しは、ティエメンカダの流れでしたが」


「精霊が絡むと思わぬ方向に動くから。イーアン、お疲れ様である」


「有難うございます。でもサンキーさんに、報告を兼ねて食料も届けますので、もう一回行きます」


「それはタンクラッドが行くから良い」


 ドルドレンは食料馬車に視線を向け、イーアンも後ろを振り向く。タンクラッドが荷台に食料を積み込む横で、仔牛とシャンガマックが別箱に食品を移している・・・あれはもしやと思ったら。


「決定したのだ。ホーミットが、タンクラッドにそう言った」


 ホーミット?何を言ったの、と聞き返した女龍に、ドルドレンは朝の一部始終を教える。

 途中から冗談みたいな返しになり(※『お前が買えよ、持ってけよ』命令)、イーアンは笑いかけて咳払い。馬車の後ろで黙々と作業する剣職人を横目、『そういうことでしたら』と了解した。


「ところで、お金はどうなのだ。ルオロフが出したようだが」


 バイラが持っていたルオロフのお金、とは。

 全体の食料を買い込んだ額が決して安くはないので、ドルドレンは気になる。ついでに、お釣りも残りもバイラが管理となれば、彼に負担ではないかと心配も(※バイラ友)。

 イーアンも気にならないわけではないが、バイラが持っていてくれる方が急に行っても安心ではある。


「ルオロフが直でバイラに預けた話ですし、これはこれかしらって。今日使った残りも預かってもらったまま」


「お財布がバイラ」


 伴侶の変な言い方にイーアンが笑い、ドルドレンは『バイラに迷惑をかけていないと良いが』と呟いた。ルオロフらしい行動だが、まさかイーアンが香辛料を買うに備えて、先に手回ししていたとは(※2905話参照)。


「お礼を言っておきます。あれだったら、立て替えてもらったことにして、ルオロフにお支払いしても」


「断られそうだ。彼はそんなつもり、サラサラないだろう」


「大金なんですけれどね」


「彼からすれば、()()()()()()だ」


 ですねー、だと思うよー、と夫婦は頷き合って・・・ 積み込みが終わったらしき食料馬車へ行った。



 ロゼールが中に入り、積み荷を使いやすいよう整理しており、ルオロフも側で手伝う。タンクラッドは仔牛に何やら言われていて、こちらをちらっと見たものの、まだ話し中。


 荷台下に置かれた二つの木箱は、サンキー用。

 持って行くのはテイワグナ食材だが、ティヤーで一般的に使わない香辛料などの食材を外せば、ティヤー人も使えるものばかり。南の地方は産物も近いので、サンキーは受け取っても食べられる。


 ルオロフがイーアンに気づいたので、イーアンは荷台の端に寄り、食費のお礼を言った。ルオロフは微笑む。どことなく疲れた微笑みだが、お金を使ってもらえたことは嬉しそう。


「役に立ちましたか。お好きなだけ、自由に買えたのなら、私は嬉しいです」


「充分すぎるほどですよ。有難う、ルオロフ。助かりました」


「いいえ。私もご一緒したいけれど叶いませんし、せめてもの手伝いです。できれば()()()()()行きたいと、これを機に伝えさせて下さい」


 次は一緒がいいと、さりげなく本気お願いも滑り込む。こりゃ立て替えとか受け取らないな、と目で伴侶に伝えると、伴侶もちらっと見て頷いた。ここはルオロフにお世話になることにして、次に連れて行くことがお礼になりそうな。今は、心からの感謝。



「あー。すまんが、俺はサンキーのところへ行くから。次の準備もないまま行くのも気が引けるが、食料が先だしな」


 唐突にタンクラッドが断りを入れた。『準備してないから行きたくない系発言』は、きっと準備する予定があったのだと伝わるが。仔牛に言い返せなかったタンクラッドは、ふーっと息を吐いて(※文句言えない)足元の木箱をさっと抱える。


「サンキーに伝言があれば聞く。買い物して戻ったから、対処は済ませてきたってことだろうが」


「あ。そうです、お願いします。対処はしたのですが、伝える暇がなくて。精霊の許可を得て、彼のいる島を()()()()()()()に入れました」


「なんだと?丸ごと?」


「はい。これはコルステインにも早く伝えないといけないのですが、私が阻む相手は、島に近づくことで倒されるはずです。三度目には確実に」


「・・・お前らしいが。容赦ないな。俺はバーハラーで行くから問題ないな」


「ちゃんと聞いていました?私が阻む相手、と言いましたでしょう。それは、サブパメントゥの悪意ある輩と、死霊の類です。コルステインたちには無害ですが、とりあえずサブパメントゥ設定なので、伝えねばと思います。これは私から言いますので、タンクラッドはサンキーさんに」


「分かった。『イーアンが島ごと聖地にした』と教えておく」


『聖地じゃありませんよ!』と笑ったイーアンだが、タンクラッドもドルドレンも『龍の聖域には違いない』と認めた。



 こうして、タンクラッドはホーミットにどんでん返しを食らったことで、この後、バーハラーに乗りピンレイミ・モアミュー島へ向かった。


 寝台馬車の御者はルオロフが代わり、人数がいないのでイーアンも残るのだが―――



「コルステインにだけ、伝えておきたい」


「うむ。先に行っているから、君は暗がりを探して早く教えてきなさい」


「・・・良いです?」


「行ってきなさい。レムネアクの魔除けも効果はあるし、ホーミットもいるし、って俺も勇者なのだ」


 そういうつもりじゃなかったと謝る女龍は、ハッとして『アレ』も預けようと思い出した。急いで荷台に入って、布に包んだ光の玉を持って戻る。


「ドルドレン。これを」


「これは・・・? む。不思議な石である。光が動くとは」


 これはね、と旧教の信者に教えてもらった『闇の人除け』道具だと説明した。闇の人とは、心を操る入り込むの特徴を持つ話で、多分、サブパメントゥのことだと思うので、新教の人に配るつもりでもらってきたことも伝える。


「荷台にあっても、こっちにあっても、効果は変わらないでしょうけれど。あなたが持っていらして下さい。手元の方が、気持ち、安心が増えるもの」


 ドルドレンは興味深そうに頷いて『レムネアクが知っているか、後で聞こう』と引き取った。



 *****



 イーアンは『すぐ戻る』と馬車を離れ、暗がりを探して飛ぶ。


 時間は午後、晴れているので日差しもある。良いところがないかと探し、馬車から離れた東の渓谷で、ようやく真っ暗そうな場所を発見した。


 平地から上がった山間部の渓谷は、急峻な山に続く。その先は山脈・・・ここまでの眺め、遠景に、『山の精霊サミヘニ』『お山の精霊』を思い出していたが、会いたく捜したくても、今はその用事ではない。


 渓谷の洞穴は、岩を滑る川沿いの葉陰から見えた。底へ降りると、ぽかんと空いた丈2mほどの洞穴で、川は横にある。中へ入ったイーアンは、入口から入る光が届かない奥まで進み、フードを被り、龍気控えめでいつ会っても良いよう慎重に呼ぶ。


『コルステイン。イーアンです。コルステイン・・・ 』


 呼びながら歩くイーアン。すぐに行き止まりかと思いきや、意外と長い―――



『イーアン』


『あ、コルステイン』


 青い霧がゆらりと前に現れ、イーアンはホッとする。久しぶりですねと挨拶して、すぐに話を出したが、霧から人に変わったコルステインに、近づきかけた足が止まる。コルステインはとても悲しそうだった。


『どうしましたか。何かあったのですか』


『・・・お前。言う。する。あと。コルステイン。言う』


 先に話を促され、悲し気な相手に戸惑いつつ、イーアンは呼び出した用事『サンキーの島の状態』を伝えた。コルステインは場所や人物についてよく分からない。特にそこへ訪れる用もないし、異論も質問もなく、頷いた。心ここに非ずの寂しさ丸出しの表情に、女龍は用事を伝えたとはいえ、それはさておき心配が募った。


『サンキーさんのこと。もしあなたが近づいても大丈夫とは思いますが、一応、ご家族や他の仲間にも気を付けて頂いて』


『分かる。する。大丈夫』


『・・・どうしてそんなに悲しそうなのです。私に言えますか?心配ですよ』


 じっと立ち尽くす大きなサブパメントゥを見上げ、グィード皮のミトンを着け、真下から『どうしたの』ともう一度聞いた。女龍の心配する顔を見下ろし、コルステインはちょんちょんと黒い鉤爪で小さな肩を突く。


『うん、私もお手伝い出来るなら』


『スヴァウティヤッシュ。いない。ない。イヤ』


『あ』


 まさかのダルナ喪失が理由とは。スヴァウティヤッシュがいないから、そんなに悲しいの?と聞いたら、頷いて、『戻る。ない。精霊。いつ。言う。ない。イヤ』とまた嫌がる。



 ―――コルステインは少しずつ、思いの内を打ち明け、これまでどうしていたのかも、ここで話した。


 戻らないスヴァウティヤッシュを探し回って、精霊に直に『今はいない』と言われたコルステインのとった行動は、単独魔物退治。誰と顔を合わせる気も失せ、言ってみれば、魔物に八つ当たりを続けていた―――



『ずっと?』


『そう』


 ずっと倒していたそうだが、大型の力を使う自分たちは、八つ当たりしようにも相手が地味な魔物では、発散(?)も難しい・・・・・


 雪崩のように山一つを埋め尽くす魔物の群れや、見渡す限りの海に詰まった魔物たちなら、思いっきり消して倒すなど出来るにせよ・・・地面や水辺で害を与えながら、こそこそ動く魔物相手、見つけ出してもせいぜい数頭から数十頭なわけで(※発散にならない)。


 気持ちが分かる女龍は、コルステインの鳥の足をした腕を撫でて『退治して下さって有難う』と言ったが、『退治しても気持ちが晴れないですね』と続けたら、コルステインも頷いた。


 洞窟立ち話は、この後も少し続き、イーアンはコルステインがどんな気持ちでいるのかも知った。


『誤解、されたくないのですね?スヴァウティヤッシュは頑張ったのに、閉じ込められてしまったこと。コルステインも知らないのに、そうなったら怒っていると』


『イヤ。コルステイン。違う。スヴァウティヤッシュ。大事』


『うん。分かります。スヴァウティヤッシュも分かっていると思いますよ。だけど安心できないのですね?』


 力なく頷く、大きなサブパメントゥ。ダルナ喪失で泣いたりはしないが、今にも涙が落ちそうな顔で、イーアンはとても可哀想に思う。

 引き離された理由について、コルステインは精霊が来て教えてもらったようだけれど、納得できないのだ。事情を知っているから、イーアンが話すこともない。


 うーんと唸り、イーアンは何気に洞窟の入り口方向を振り向く。私もイングたちがどうしているか、全く知らないからなぁと、首を掻く。


 困っている女龍を見つめ、コルステインはちょんちょんまた突き、自分に向かせ『ダルナ。もう。ない?』と尋ねた。イーアンも同じだろうと思うが、イーアンの落ち着き方は少し気になる様子。


 溜息と一緒に頷いた女龍も、『最初は知らなかった』と前置きし、やはり精霊に確認をして知ったので、これは仕方ないと諦めているのも伝える。


『知る。ない?ダルナ。どこ。分かる。ない?』


『どこか分かりません。でも、そこへ行ったら・・・離されてしまうらしいです』


『お前。イーアン。スヴァウティヤッシュ。話す。ない?』


『うーん、無理だと思う。どこにいるか、私は場所も分からないので』


『・・・いつ。スヴァウティヤッシュ。来る。する?』


 イーアンなら知っているかもと思うことを、質問し出したら止まらなくなるコルステインに、イーアンは同情するばかり。可哀想でならない。愛情深いサブパメントゥは、一度大事にしたら離れるのを本当に嫌がるのだ。ミレイオのシュンディーン状態で、他のことも目に入らなくなるほどに。


『知る。ない?お前。分かる。ない?』


『ごめんなさいね。私もはっきりわかりません。多分、魔物退治が終わったら、です』


『・・・・・ 』


 しょげるコルステインを、イーアンは両腕を広げて抱き寄せ、龍気は大丈夫?と確認しながら、よしよし慰める。コルステインはとても気落ちし、でも女龍に慰められながら、少し気持ちが変わった。


『今。ドルドレン。イーアン。大丈夫?』


『え?ああ、私たちのことを心配して下さるのですか。はい、大丈夫ですよ。夜もどうにか。ホーミットもいますし・・・ ええとね。今はミレイオがいなくて、新しくレムネアクという人間が一緒です』


 離れっぱなしだったコルステインが、旅の状況を気にかけてくれたので、イーアンは新しいメンバーと今は抜けているミレイオのことを伝える。

 話し始めると、あれもこれも。オーリンもいない、馬車はあっち方面に居て、行先はヨライデ城で、と大まかだが経緯も続けた。


 そして重要なことを、ハッと思い出す。


『そうだ。煙のサブパメントゥ』


 スヴァウティヤッシュの名前も出て、サンキー宅を守る理由の一つでもあるそいつのこと、ここまで忘れていたイーアンがそう言うと、コルステインの大きな青い目が瞬きした。


『何。煙。いる。した?』


『いました!スヴァウティヤッシュの『掴み』が終わったからかも。突然、現れたのですが、私は捕まえられなかった。あいつを消せませんでした。龍気を当てたのに、逃げられてしまって』


『どこ。何』


 目の色が変わるとはこのこと。

 コルステインは、スヴァウティヤッシュと追い続けた『煙』が現れたと聞き、急に息吹き返す。イーアンは、レムネアクが襲われた経緯を急いで説明した。


『あのサブパメントゥは、今、馬車にいるレムネアクを追いかけてきました。勇者のドルドレンではなく、レムネアクです。

 レムネアクを使いたいらしく、彼を探し出して連れて行こうとしたの。ホーミットたちが邪魔して、私も止めました。『煙』は、私たちとレムネアクが一緒だとは知らなかったみたい』


『また。()()


『来ますか?でも、龍の私がいると分かってしまったから』


『・・・来る。する。レムネアク。話す』


『? コルステインはレムネアクと話すの?』


 そう、と大きなサブパメントゥは頷く。月光のような髪を揺らし、入口と反対の奥へ顔を向け、コルステインは『来る』と繰り返した。

 何を確信しているのか、コルステインの考えまでは聞けなかったが、夜に馬車で会うことになった。


『レムネアクに、あなたと話すよう言います。私も側にいますが、居ない方が良い?』


『ううん。お前。いる。大丈夫。一緒』


 ニコッと笑ったコルステインに、今日初で笑顔を見たイーアンも、ニコッと笑った。きっと、スヴァウティヤッシュの続きを・・・『煙』のサブパメントゥを代わりに倒そうと、決めたのかも、と。


日が暮れたら来る約束をして、洞窟内でお別れする。コルステインは微笑みながら、スーッと青い霧に変わり闇に溶け、イーアンも表へ出た。



「スヴァウティヤッシュが、あのお方の寂しさの原因だったのか。凄かったものね・・・ サブパメントゥを追い込んだ功労者。コルステインは感謝こそすれ、彼が閉じ込められるなんて冗談じゃないでしょうね」


 私も気持ちは同じ。午後の空を雲間に紛れながら、イーアンは馬車へ戻る。


 イングたちが、今頃どうしているのかしら、と・・・ レイカルシだけは残っているが、閉ざされた異界の精霊の居場所も情報も確認できない歯痒さに、溜息が落ちた。


お読み頂き有難うございます。

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