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魔物資源活用機構  作者: Ichen
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2930/2953

2930. タンクラッドの計らい・二手の標的、サンキーの願い

 

 イーアンはロゼールと朝食準備するつもりで、珍しく寝坊。伴侶に起こされて急いで起き、荷台を出たところで、ゆったり出てきたタンクラッドが挨拶した。



「おはようイーアン」


「おはようございます。そうだ、タンクラッドに話があって」


「俺もお前に話があるんだ。今、すぐか?」


「はい、宜しかったら。タンクラッドの話もここでします?」


 荷台の影から話声の聞こえる焚火の方を覗き、ドルドレンたちが食事を受け取り始めた様子に、二人は『2~3分』と頷き合う。


 まずはイーアンから昨晩のサブパメントゥ話で、複製の剣を目論んでいそうなこと。親方は唸り『()()()()()()()()』と呟いた。

 また?・・・只ならぬ返事にイーアンが聞き返すと、親方は『それを話そうと思った』と頼みを挟む。


「今日、サンキーのところへ行ってほしい。俺は()()があるから今日ではないんだが」


「私だけ。急ぎなのですか?彼に何が」


「どうも・・・サンキーにも昨日話したが、あいつも放っておくのが難しい雲行きだな」


 肝心なことに触れず独り言ちる親方に、何があった・どうしたんだと女龍が食い込んだところで、タンクラッドはサンキーが襲われかけた一部始終と、自分が対応した敵について、しっかりと隈なく教える。


「あいつが。筋肉野郎」


「死霊だと思うが」


「行きます。ちょっと、えーっと、少し食べてから」


 さっと後ろを振り返ったイーアンに、親方は『食べるだけ食べろ』と朝食は摂るように言い、女龍はそそくさロゼールの元へ行った。

 タンクラッドも続き、イーアンが器から食事をかき込むのを見て満足・・・彼女は別の用事があると、すぐには行けないので、サンキーを優先させるよう引っ張って一安心する(※計略)。


 ドルドレンにも昨晩話したが、いかにイーアンの守りがあろうと、サンキーが敷居を出たら安全確保の時間は終わるのだ。だからといって食料も碌にないのに、家から出るなとは言えない。その辺の問題は、ドルドレンも心配してくれた。


 サンキー乗船話で拒まれた前回があるため(※2735話参照)、今回もタンクラッド()が保護を言い出せば、また贔屓と思われそうだし、とりあえずドルドレンの同情も先に買い(※計略的)、味方を増やしてから、サンキーの状況をイーアンに直に見させる。


 偶然だが、これと被るようにレムネアクも剣の関係で襲われた。昨日の今日なら、イーアンの性格上―――



「行ってきます」


「気を付けなさい。何かあれば連絡して」


 はい、と答えると同時、女龍は食器を伴侶に預けて翼を出し、あっという間に空の星になった。


 タンクラッドは静かに頷き(※計画成功)、少ない朝食をゆっくり食べる。多分これで、サンキー自体に強い保護が掛かるか、もしくは馬車に連れて来るか。


 どっちみち、イーアンが戻って話すことは分かる。

 まずドルドレンと相談するだろうし、サンキーの意見も考慮し、緊急時は確実に彼を馬車に乗せることになるだろう。サンキーにもその提案はしておいた(※抜かりない)。


「工房は大事だが、命あっての物種だ」


「サンキーさん・・・大丈夫ですか?」


 呟いた横を通りかけ、足を止めた褐色の騎士は、大体を察して彼のことだと思い、尋ねた。

 不意に訊かれて顔を上げたタンクラッドは、食べていた手を止め『今は』とだけ答える。その答えが意味深で気になり、シャンガマックはタンクラッドの横にしゃがんで、親方を覗き込んだ。



「昨日、タンクラッドさんが行って、どうでした?イーアンが出かけたのは、彼女に応援を頼んだんですよね?」


「そうだ。サンキーは食料の問題もある。彼の家は畑があるが、常に収穫できるわけでもないし、尽きてしまったら外へ探しに行く。サンキーはそれで・・・ ふー。ちょっとな、()()()()()()()()()んだ」


「え?怪我したんですか」


「掠り傷は負った。龍の鱗で撃退して、傷も鱗を当てていたから無事だと、言い張っていたが」


 心配だろ?と親方が首を傾けると、漆黒の瞳をじっと向けた騎士は頷いて『危険ですね』と心配そう。タンクラッドは彼の同情も得て、サンキーを連れて来るに良い傾向だと思った。が。


 褐色の騎士は地面に視線を落とし、深刻な状況に考え込む。彼の肩をポンと叩き『イーアンがまず見てくれるから』と言うと、シャンガマックは剣職人を見上げ、違う話を急に出した。



「レムネアクの剣の一件は聞きましたか?」


「ん?ああ、イーアンから聞いた。それで俺も」


 何の話かと思いきや、昨晩襲われた事件と繋げたと分かり、タンクラッドはさっき聞いたと答える。シャンガマックは、『思ったんですが』と顎に手を当てた。


「サンキーさんは、敷地にいる分には安全ですから、畑が()()()()にすれば安心ですよね?」


「・・・(※予想外)」


「イーアンが更に土地や家屋の強化をした後、彼の畑に作物が成るよう、魔法で定期的に」


「あー・・・バニザット。お前の親(※獅子)は通うのを嫌がりそうだが」


 何やらおかしな方向に意見が飛び出し、タンクラッドは少し修正。善意は良いが、獅子は絶対嫌がる。そこを注意すると、褐色の騎士も形良い眉を歪ませて唸った。


「・・・っと、父に頼むわけではなく・・・確か、ティヤーは地霊や精霊が土地を直してくれたのだし、サンキーさんの畑を見てもらう手もあるかと考えたんです」


「おいおい(※焦)。彼は大事だが、彼個人のために地霊に頼む気か」


「あの剣の悪用で起きる被害は、個人の範囲を出ている話でしょう?」


 逆に畳み返され、タンクラッドは不意打ちに面食らう。まさか、地霊にどうにかさせると言い出すなんて思いもしなかった。いや、バニザット、それはさすがに、と方向転換を試みようとし、少し前から聞いていたドルドレンが『ふむ』と話に入って来た。

 ハッとして見上げると、総長は親方の側へ来て『聴こえていたのだが』と雲行きを怪しくさせる出だし。


「シャンガマックは地霊に頼めるはずである。お前はどこでも魔法で地霊とやり取りする」


「ええ。とりあえず、俺が可能な範囲で話してみても」


「待て。畑は、龍の結界の中にあるんだぞ?忘れたか?」


 あ、そうだった、と鈍いシャンガマックは思い出し、環境を知らないドルドレンは『そうか』と引き下がる。親方は思ってもない方向に話が向かうのを止め、少し安心した。


 ここへ、仔牛がトコトコ・・・・・ 


 嫌な予感がしたタンクラッドは、食べ終えた器を手に立ち上がり、場を去ろうとしたが、仔牛に『おい』と引き留められる。ちらっと見ると、可愛い仔牛が見上げたまま『サンキーの食べ物か?』と繰り返した。


「その話だった。畑があっても」


「聞こえた。畑だけじゃ食べ物は足りないんじゃないのか。人間はもっと食べるもんだと思ったが」


「そう、そうだな。だから、サンキーの安心のためには」


「買って持ってけばいいだろ。()()()()()()()()()()()()()()()



 *****



 可愛い仔牛の突き刺す突っ込みに、タンクラッドが固まり、ドルドレンが『その発想はなかった』と驚き、シャンガマックが『それもいいね!』と笑顔を向け、仔牛をナデナデした頃―――



「あの煙野郎が、サブパメントゥの古代の海の水を盗んだんだよね(※2746話参照)」


 サンキー宅手前。イーアンは空に浮いたまま、小さな島を見つめて昨晩からの出来事と、抱えている懸念を整理する。


 手負いの煙野郎は、レムネアクに『剣を作れ』と言い寄り、彼を無理に連れて行こうとした。

 その急ぎ方、言い方で、剣を作らせるのは彼自身のためではと、レムネアクは感じたそうだが、ある意味そうだろうし、ある意味違うと勘が過った。


「あの剣。あいつがもし。古代の海の水を使ったら。種族関係なく通用する剣が仕上がると思うはず。自分が切られたことを()()()()()()()()だったら有り得る」


 ここで一先ず、剣が絡んだサブパメントゥ話の時系列をおさらい。


 ティヤーにいた時、レムネアクが話した『教祖の剣』について、煙の奴は知らなかった。


 同じ材料を使う人型用の道具に気が向いており、レムネアクがそれを必要といったばかりに、サブパメントゥは神殿お抱えの職人を殺し、サンキーも狙った話だが、サンキーは神様に先に保護された。


 その後、ルオロフが神様から彼を引き取り、サンキーは自分が狙われた経緯を知った。神様は事態への対処が早く、彼の工房から古代剣レプリカまですっかり取り上げたという(※2734話参照)。


 で。この前、ティヤー決戦。サンキーの護衛に出たルオロフは、煙の奴と対決。彼の剣は、煙という実体のない相手を切り、相手は逃げた(※2859話参照)。

 この時、同日で出た謎の輩が、『悪鬼』と分かったのは後日談・・・ あの時から狙われていた。となると。


「悪鬼がサンキーさんを狙った理由と、煙サブパメントゥが狙った理由は()()


 そして、ルオロフはどちらも撃退成功。煙サブパメントゥは、スヴァウティヤッシュが見守る中で行われた対決であり、その後―――



「あ。じゃ、()()


 はたと気づく。違うことだが。

 スヴァウティヤッシュは、『俺が掌握したも同じ』と言ったのだ。逃げ回っていたサブパメントゥを掴んだ、という意味。でもスヴァウティヤッシュは、今はいない・・・ つまり、煙のサブパメントゥは自由に動き回っていて追跡が出来ない。


「これも・・・気に留めておくべきだわ。そうだった。彼が泳がせていたから、これまでは動きの制限が掛かっていたけれど」


 手で顔の下半分を覆い、イーアンは眉根を寄せてうーんと唸る。コルステインはどうしているのかも、気になった。

 暫く会っていない。呼ばないと現れないので忙しいのだと遠慮していたけれど、事態が変わっているのだから、近い内に会おうと決める。


「うん。とにかく、サンキーさんが重要人物にまた戻ってしまったのは間違いない。彼の具合と状況をきちんと聞いて、家から出なくて済むように・・・馬車に連れて来るのもなぁ。ちょっと違う気がするし」


 一人で考えも仕方ないので話し合ってから。今のサンキーさんは、死霊の二番手とサブパメントゥに標的とされたのは、はっきりした。



 死霊の二番手がうろついたとは――― ヨライデではなく、まさかのティヤー。


 この後、サンキーに会い、お宅で話を伺い、傷を見せてもらい、何かあっても困るからと龍気を注いで治し、喜ばれ、タンクラッドとの相談を聞き、民間用防御手段をここで作り出そうとした話も出たと・・・ それはそれとして。


「サンキーさんは、食料集め以外で表へ出たいと思いますか」


 大事な質問が先。鍛冶屋は少し女龍を見つめ、視線を床に落とす。静かな息を吐いて、ちょっとだけ首を横に傾けた。仕草は語る。イーアンは彼の言いたいことが伝わった。


「私は。こんな事態で我儘かもしれませんが。それに、何を言っているんだと思われそうですが」


「・・・ここに居たい?」


「はい・・・ 引きこもってるわけではないけど。私は自分の工房と工具や仕事が、私の世界の全てと言いますか。ちっぽけな世界ですが、私にとってはこれで充分幸せもあり」


 ちらっと見た鍛冶屋の目を捉え、イーアンはニコッと笑う。気持ちが分かるから頷いて『私も自分の工房が好きです』と答えると、サンキーは理解に会釈した。


「じゃ、仮にですが。今はタンクラッドの提案をちょっと忘れて、私の質問に答えて下さい・・・ もし、ここに食料があり、水など生活に問題もなかったら、一人で怖いとはいえ、サンキーさんはこの家に居ますか?」


「そうですね。正直言えば、怖いんですよ。でも、家を置いて外へ逃げるのは、なんかもっと怖い想像です」


 家族もなく、一人で鍛冶屋を営んで、それで十分人生が幸せだと感じていた男の吐露に、イーアンは賛成する。


「分かりました。護りをもっと固めて、それから食料は私が運びましょう」


「っ!いえ、え?!それじゃ申し訳ないですよ、そんな」


「もしかすると、私ではない誰かが代わりに来るかもしれないですが、タンクラッドとか。食料を届けます。それで頑張れそうですか?」


「ウィハニ・・・ 勿体ないお言葉で・・・す」


 ふーっと涙が浮いた鍛冶屋は、イーアンを『ウィハニ』と呼び、目元の涙を拭う。イーアンはちょっと笑い、『あなた、ご自分で思うより重要人物だから』と冗談めかし(※でもホント)、ハハッと笑った涙目のおじさんの肩に手を乗せた。


「大丈夫。これも世界の運びだと思います。実は私たちも買い出しで、テイワグナまで行かないといけません。ヨライデに人がいませんから、テイワグナで買うのです。あっちは人が多くて」


 え、そうなんですか、と目を丸くする鍛冶屋に現状を軽く教え、テイワグナは事情で人が多いことや、食べ物も普通にあるなどを話して、買いに行くついで、サンキーの分も持ってくると約束した。


 ひれ伏してお礼を言う鍛冶屋に笑い、『立って!』と頼んだイーアンは、これで彼の対処は一件落着。


「さて。次ですよ。死霊の・・・私が跳ね返して差し上げます」


 つい悪態をつきそうになったが引っ込めて(※純粋なおじさんのため)、イーアンは表を見る。


「そう、ちょいちょい手を出されては、サンキーさんが安心して眠れませんからね。がっちり固めましょう」


「頼もしいです!何度もすみません」


 いいのいいの、と拝む鍛冶屋に頷き、女龍は早速おうちの外へ出た。ぐるっと見回し、()()()()()特別にするかと決めて―――



お読み頂き有難うございます。

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