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魔物資源活用機構  作者: Ichen
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2921. 死霊忌避の効果・夜外回り~死霊術材料諸々・調査結果『汚れ』 

 

 開きかけの包みへ視線を戻し、総長とロゼールは顔を見合わせる。そこへタンクラッドが来て『レムネアクの寝床は、食料馬車に用意した』と伝えた。そこまで気を回していなかったドルドレンは、ハッとして礼を言う。



「すまない。助かった。有難う」


「で。どうした」


 総長の手元に目をやり、剣職人はふむと頷く。『レムネアクの』そう呟いて、自分が先に聞いた話を合わせ、彼が教えた使い方を、早速実行することにした。


 馬を止めるロゼールは手伝えない。ドルドレンとタンクラッドの二人で粒を分け、野営場所周りに等間隔を意識してこれを置き始める。

 白い砂でも混じったような灰色と白の練り玉で、どことなく焦げ臭い。何が入っているのやらと、総長も親方も思いつつ、指示に従い全部を置き終わり、半信半疑の互いの顔に苦笑したところで・・・イーアンがルオロフを連れて戻った。



「お、ちょっと待て」


 タンクラッドは『死霊忌避剤設置』外へ駆け、イーアンを止める。


 ()()()()()()()()だと、ピンと来たドルドレンとロゼールだが、川の水も心配あり。イーアンがいなくなると困るので、離れそうなら呼び止めねばと待っていると、離れた場所に降りた女龍がドルドレンたちに軽く手を振り、タンクラッドがルオロフを連れて戻って来た。イーアンは?と思いきや、彼女は川の反対側へ移る。



「(タ)事情を話した。水を対処するそうだ」


「(ロ)良かったー。馬も喉が渇いて待ちくたびれています」


 ドルドレンは生気の失せたルオロフに労いの挨拶をかけ、ルオロフが頭を下げた、すぐ。3m幅ほどの川に白い龍気が渡った。


 瞬く間にふわーっと広がる龍気の明かりは、暗くなった風景に幻想的。だが突然、流れの上下に妙な水流が発生し、幻想的見かけは不安に変わる。水流は生き物のように、ザザザと音を立てて川を動き回り、奇妙な一場面を見せつけたが、これも数秒して終わった。


「今の・・・ 」


 夜目が利くロゼールに見えたのは、川面から剥離した()()。川面に浮かび上がって、逃げ苦しむような勢い、と感じた。パタパタ飛んできた女龍は『待っていてくれて正解ですよ』と馬たちを見回す。


「この先も、水はすぐに飲まない方が良いかもしれません。毒かどうか判別できないけれど、魔性はありました」


 だから龍気に反応したと言われ、ドルドレンたちは眉を顰める。五頭の馬は女龍に顔を当てて挨拶し、ようやく飲める川の水へ歩き出す。

 彼らが安心してじゃぶじゃぶ飲んでいる姿を見ながら、イーアンは『馬なら、水を飲む手前で分かったかもしれない』と言った。


「魔性ですから、混じる毒よりも気づきやすいと思います。動物は敏感に察するはずですし、仮に川へ近寄っていたとしても、飲まなかったのでは。とはいえ、近づかないに越したことはないので・・・ヨライデは、自然の産物も気にした方が良さそうですね」


「自然の産物、()()()()である」


 伴侶の一言に、何食べたの?と驚く女龍は、午前にレムネアクの指示で集めた自生植物の話を聞き、食料馬車に駆け込む。食べても無事だ、と(※全員食べてる)聞いても、イーアンはとりあえず龍気で清めた。


「そうか・・・レムネアクは、自分がそうして生き延びていたから」


 荷台から出てきた女龍は、彼に悪気はないのですと、困ったように額に手を置いたが、ドルドレンもタンクラッドも『疑っていない』と伝え、ロゼールも『彼は役に立とうとしてくれる』と悪くは捉えていないのも付け加えた。

 早々と受け入れてもらっているのは感謝するものの、レムネアクにも注意するよう話さなければとイーアンは思う。



「皆が無事で良かったです。で・・・彼の()()()ですが。私も効果を見たいので離れて観察します。料理を手伝えませんが、お願いしますね。ロゼール」


「それは別に。じゃ、水も使えるし、俺は夕食を作ります」


 戻ってくるなり慌ただしい夜はこの後、イーアンが離れ・ロゼールが料理し・馬を馬車の側に繋いで食事。どこにいったか分からないイーアンの分は取り置きで。

 食後の片づけも終わり、就寝時間前まで肌寒い表で焚火を囲み、ドルドレンたちは『死霊忌避剤』の効果を意識した。

 敵は出てこない。特に何があるのでもなく、ただただ静かな夜が過ぎてゆく。



 この間、皆の輪にいてもルオロフは静かだった。


 つっけんどんでもなく、沈んでいるのでもないが、話しかけられても短い返事しかしなかったし、微笑は分かりにくかった。


 レムネアクがいないからルオロフが楽かと思えば、それも違うような雰囲気。こういう時の彼は、表面に自分を出さない貴族の訓練が活きており、ドルドレンたちに伝わるのは、無言の『絡んでくれるな』の意思表示だけだった。



 いい加減、時間も過ぎたので、離れて戻らないイーアンにドルドレンが連絡すると、イーアンは周辺の()()をしていたらしく、聞いてみれば殆ど死霊だった。大方、片付けたので、これから龍気補充にイヌァエル・テレンへ行くとの返事。取り置き食事は明日食べることにし、女龍は空へ出発した。


 連絡珠を腰袋に戻したドルドレンは、側に来たタンクラッドに『この界隈に死霊が』と情報を伝えた。イーアンが片付けていた間、ここには死霊がいなかった事実・・・ 二人は馬車向こうの暗闇に『効果』を認める。


 何かあれば呼んで、と言い残したイーアンは空へ行ったが、それも『留守にして大丈夫』と彼女が判断したからであり、レムネアクがいろんな場面で使えるのを二人は改めて考えた。



「こういうことに遭遇すると、実感だな」


「ということなのだ。模型船が『早く』と報せたのは、旅の出だしから彼が必要だからだ。世界に少数残る人間の一人であり、仮にもイーアンの顔見知りであり、ヨライデの質を理解している人物で、味方」


「ドルドレン。俺は入国前に、この国もそうかと想像したが、いつでも決戦手前で、次の国の案内人を用意されている気がする。テイワグナではドゥージ、アイエラダハッドではクフムとルオロフ、そしてヨライデはレムネアクだ。人口がこれほど減った後で彼に会うのは」


 タンクラッドが熾火を灰の内に寄せ、炎に照らされた鳶色の瞳が星空を見る。

 ドルドレンも同じように思っていた。だからなのか、最後の国ヨライデに用意された案内人が『人殺し』でも・・・ あまり驚かなくて済んだのは、導きの上と信じている気持ちが先に在り。



 *****



 熾火を集め、焚火を消したドルドレンたちはそれぞれの荷台に入る。

 イーアンは龍の島に休み、龍気補充の夜。この頃、僧兵を連れ出した外回りの状況は―――



 放置状態の神殿の一つで、『誰かがいた』時間を示すまま、置いていかれた部屋。


 動かしたばかりの椅子の角度、半分出ている引き出し、落ちたペン、蓋の外れた乾いたインク、開けられた窓掛、燃え尽きた蝋燭の燭台、盥に残った水、天秤に載った材料、開いた袋、刻んでいたナイフ、細切れ途中の植物、動物材料・・・・・


 レムネアクの手元に、小さな蝋燭立てが一つ。この蝋燭は、新品で長い。どこの調合室も似ていて、蠟燭や燃料の置き場は一緒にされているから、レムネアクも見当を付けてすぐに取り出せた。

 この部屋の横が倉庫だったので、先にそちらへ入って求める材料を集め、調合室へ移動。材料の選別と状態の確認に、時間を食ってしまった。


「ここからがまた時間を取るんだけど・・・彼らは待っているわけじゃないみたいだし、急がないで良いと言われたから、二度手間を避けて慎重にやれば」



 死霊除け、として渡したが、人外なら大体効果を発揮しているはず。ドルドレンさんに渡したあれは、数が作れなかったし、ここで多めに用意しておきたい。


「信じてくれるもんだ。仔牛の姿の彼はぶっきらぼうで、余計な話を嫌うけど、俺のやってることを怪しまずに受け入れてくれた。疑いもしないし、見下しもしない。知っている風にも思うが・・・多分、知らないんだろうな。あれこれ、聞いていたってことは」


 俺は、人骨・乾燥死体は使わないが、変化材料は使う。

 乾燥死体と違う変化をした部分から得る白い塊は、体そのものではなく、体から垂れた液体の硬化物。作ろうとして作れない分、これは値段が高い。個人で買うと、上乗せを吹っ掛けられる。


 だが効果も強いし、適切な管理で日持ちもするし、一度に使う量は少ないので、揃えておきたい材料の一つ。神殿は特殊な材料を好むから、どこの神殿でも一~二瓶はある。


「ここは在庫が豊かだ。買ったばかりなのか・・・それとも、()()()に大量の死者が出たか」


 ティヤー人かもなと想像しながら、レムネアクは白い塊を小さく刻み、薄紙に移して天秤の皿に載せる。もう片方の皿に、乾燥血塊の粉末を置き、割合を調整。二つを皿から外して、別の材料を用意する。


 卵殻膜、植物の茎の繊維、堅果の核、神殿の焚き灰、それぞれ分量をきちんと合わせてから次へ。

 白い塊を置いた鉢に、順番に入れて、都度練る。繋ぎの脂で隙間のない練り物にし、祈りの言葉を繰り返しながら、これを成型。


 確認作業などはなく、慣れた手つきと見極めで完成とし、レムネアクは作業を進める。乾燥血塊は、一々体を傷つけずに済む。 

 昔は『生者の誓い』で生血を使ったようだが、問題ないと分かって以降、ヨライデの術師の多くが乾燥の血塊を用いる。いつでも手に入るのと、鮮度の不要は、『金儲け』で血の提供をする協力者にも都合が良かった。


「・・・こういうのが()()だと思っていたが。シャンガマックは嫌がりそうだな」


 次の忌避剤の目盛りを合わせる手つきは慎重で、ぽそっと呟く息に粉が動き、急いで口を閉じる。


 揺れる小さな明かりの下で、目を凝らし、一目盛りも間違えないよう緊張しながら、羽の粉と灰を皿に盛り、静かに聖油を落とした。一滴落ちるだけでも、軽すぎる材料は飛んでしまう。そっと、丁寧に、道具が触れないよう気を付け、粉末材料に必要な油を足してゆっくり押さえた。天秤の上に丸めた背中を伸ばし、溜め込んでいた息を吐く。


「ほんのちょっとで、出来が左右されるからな。俺は出来るけれど、ガサツな人間には無理だろう」


 他の人間はまず作れないと、自負する。この薬は()()()で、『あちらの痛みを逃し、こちらに従わせる』とした効果。平たく言えば、相手の求めを()()叶えて恩を着せる。


「貪りたければ貪る夢を、倒したければ倒した夢を。行くあてのない輩に夢を」


 少し可笑しそうに鼻で笑い、『人外に夢なんてあるわけもないが』と決まり文句のような、祈りの詩的表現に首を傾げる。でもこれを唱えておかないといけないので、毎回最後の仕上げで可笑しく思う。


「さて。まだ二種類・・・時間はあと、どれくらい残っているんだろう」


 まだ出来るのかどうか。途中で遮られては困る。終わったら呼ぶ、なんて約束はないので彼ら任せ―― 遮られたらそれはそれか、と思い直した僧兵は、次の作業に入った。



 *****



「まだやってる?」


「ほら」


 獅子は人の姿に変わっており、シャンガマックの顔の前に両手を出す。ヨーマイテスの指先が合う輪の中に、千里眼で見える僧兵の動き。じっと見てから、褐色の騎士は頷いて『もうちょっと、やらせておこう』と呟いた。


「お前がもっと嫌がるかと思ったが」


「うーん。でもないよ、大丈夫だ。レムネアクに『死体は使わない』と言われたし。使う輩が多いのに、なんで使わないのかも聞けたら、彼は許容範囲内だ」


「そうか」


「ヨーマイテスは最初から平気そうだったね。レムネアクと話した時に、詳細も聞いたのか?」


 ちゃぷっと温水を叩く、金属質な焦げ茶色の左手。『風呂に入れよ』と振り向いたヨーマイテスに、シャンガマックは笑って『さすがにレムネアクが作業中には入れない』と断る。


 風呂に良さそうな場所へ連れて来て、目の前にありながら喋りっぱなし。入らせようと思ったのに断られ、ヨーマイテスは神殿の方へ顔を向け『早く終わらせるか』と言い出した。


「風呂は後でもいいから!」


「毎晩作らせたら良いだけの話だ」


「あ、そういう手も・・・それもそうか。彼も、一回で頑張るよりは、分けた方が楽かもしれない」


 あいつのためじゃない、と不満げな大男を見上げ、シャンガマックは『分かってる』と答え、レムネアクの作業三回目の終わりを待つことにした。



 彼を神殿の地下に残してきてから、早三時間経過。

 幾つかの神殿を連れて巡り、ここならと倉庫・調合室状態に頷いた返事に任せた。死体を用いる忌まわしさへの嫌悪も直接伝えたが、レムネアクの答えは『自分は使わない』であり、少し話も聞かせてもらったため、シャンガマックは安心している。


 使わない理由は微妙だが―― 『合理的ではない』。


 レムネアクは一ヶ所に留まる仕事ではなかったことから、移動先へ荷物を持って行く前提で、死体の利用はしなかった。死体は一部でも大きさがあり、他の材料に比べて荷物になる。


 数ヵ月など長期滞在なら使ったわけだが・・・『でも、普段から慣れた材料を使うものだし、死体を使うと()()()()()()()()()ので、好まない』と。この身動きとは、『術者も責任が出るから縛られる』とか何とか。よく分からないが、自由行動に不利だから使わなかったそう。理由に裏がないというか、そう思えるので納得した。



 レムネアクと離れた後、シャンガマックと獅子は適当にあちこち回って土や水を調べ、かなりの率で『無事ではない』と知る。


 ヨーマイテスが毒抜きをすることは出来るが、『全部は無理だぞ』と断ったので、シャンガマックも無理は言えない。悪鬼が汚すわけではなくても、魔物が似たような影響を出している。これがヨライデの魔物退治かも、と認識した。


 魔物自体も遭遇して倒した。どれも強くはないにせよ、嫌な影響を出す。逐一、環境を壊す印象。



「他の・・・善人限定だが。戻された人々が心配だ」


 まだ南と中部を、点々と見た程度だが、毒を含んだ地面や水辺は目に付き、生き延びるのすら難しい、とシャンガマックは懸念する。


「魔物に殺される形が、直接か、間接的か、ってところだな」


 言い難いことをあっさり言う父を見上げ、溜息一つ落とした騎士は『手を考えないと』と呟く。

 まぁそうだなと、流すように答えた大男だが・・・『悪鬼対策を、魔物に』レムネアクがそう話したことを思い出していた。


お読み頂き有難うございます。

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