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魔物資源活用機構  作者: Ichen
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2920/2953

2920. 午後~レムネアクと仔牛・サブパメントゥの説明・死霊除け

 

 馬車は午後の道を旧街道へ入り、出来るだけ森林を避けて海と山の間くらいを進んだが、どうにせよ死霊も幽鬼も遭遇する。ほんとにどこでもいるな!と苛つくタンクラッドが声に出して言うくらい、ビシバシ出てくる。


 弱いから、こちらの被害まで心配に及ばないが、群れて現れるため、一々馬車を止めることになり、進みが悪くなる。



 レムネアクは()()の指示で、皆が対処している様子を遠くから見るだけだが、自分も何か出来たらと思っていた。

 彼らの強さを目の当たりにし、自分や僧兵など歯が立たないと思うも、何もしなければそれはそれで申し訳ない。


 そして、退治の間、不思議な『喋る仔牛』が馬車の見張りで、比較的レムネアクの近くにいるのも気になる。

 口調が厳しく、皆が一目置いている仔牛なので、向こうから話しかけられない分には喋りかけるのも難しい。でも彼はいろいろ知っている印象もあり、話を聞きたいと思うのだ。


 シャンガマックという名の男と仔牛は仲が良いが、時々その腹が開いてシャンガマックが姿を消すので、不可思議な魔法使いかもしれないと想像。実の姿は違うのか。


 そんなことを考えながら、野営地手前で足止めされて戦う皆さんをレムネアクが眺めていると、不意に話しかけられた。その、()()に―――



「おい」


「はい」


「お前は、毒しか使えないわけじゃないだろ」


「・・・死霊使いですから、死霊他に効果が出るものは作れます」


「どれくらい使えるんだ?」


「範囲と効果の高さですか?」


「そんなところだ。言え」


 急に、持ち前の技術はないのかを仔牛に聞き出され、『ものがあるから見ますか?』と説明が早い方を提案。仔牛は御者台の足元にピタッとついて、『見せてみろ』と(※上から)。


 御者台脇に置いた袋を足板に下ろし、レムネアクが包みを開けると、その中からまた紙の包みが現れる。強い薬草の臭いや、焦げた臭いを発するそれらから一つ取り上げ、僧兵は畳んだ紙を広げた。そこには、焼かれた骨片いくつか、下に渦を巻くように敷かれた、乾燥の練り物。


「これだけじゃないですが。これも効果は高いもので。ただ、ここで開けるとですね」


「ん。あれか。あいつが止まったのは、これのせいか」


 気配に敏感な仔牛が左へ顔を向ける。離れたところでドルドレンが薙ぎ払う死霊の揺らぎが見え、端にいる死霊の動きが止まった。立ち尽くすように馬車に注意を向ける死霊、数体。

 体の影が見えるものと、薄く儚そうな不安定なものが、こちらを気にした様子。


「反応はそう思います。皆さんが強いから、どちらの効果かはっきり判別できませんが」


「お前の()()だろ。で?死霊を倒す効果か?」


「いいえ。指示です」


「・・・今、使えるならやってみろ。準備がいるならやらなくていい」


「ちょっと準備が要ります。すぐには」


 ふん、と仔牛は鼻を鳴らし『いいだろう』と頷く。会話の間に、不意に止まった死霊をドルドレンの剣が切ったので、使う必要もないと流した仔牛が、僧兵に『他は』と尋ねた。


「人外避けの道具はあります。材料が限られているので、最後にいたところで作れるだけ作りましたが」


 言おうと思っていたんです、とレムネアクは呟く(※2918話最後参照)。他にも悪鬼の害を軽くする作用の薬などあり、材料があれば作れるし、汚染する魔物に試すのも考えたと話す。


 仔牛は黙って聞き、少し考える。



「レムネアクといったな。もう終わったが、進まないのは面倒くさい。お前の道具が使えるなら、まずは馬車を止めずに済むよう手伝え。材料はどこで調達していた」


「はい。少しくらいは役立てると思うので、道具、薬を使うのは構いません。材料はもぬけの殻の神殿倉庫からです。多くは神殿の地下に」


「夜出かける。お前を連れて行くから、材料を集めとけ」


「え?あなたが連れて行ってくれるんですか」


「息子にも話しておいてやる」



 命じた側で、息子に話しておくことを恩着せがましい言い方で終え、仔牛はトコトコ行ってしまった。夜?息子?と呟いて、レムネアクは薬を包み直しながら、どうやらシャンガマックは彼の息子と見当をつける。


 退治を終えた皆の声が近づき、戻ったタンクラッドが御者台に座って『しんどい』と笑った。そうですね、とレムネアクも同意し、馬車が動き出す。


「野営地に良さそうな川がある、とロゼールが見てくれたが、そっちもどうなるやらだな。神殿は魔性が来なかったが、この分だと夜も休めなさそうだ」


「イーアンがいたら違いませんか?」


「まぁ、そうだな。龍がいると全然寄ってこないが・・・イーアンも昼夜問わず行動するから、いつもいるとは限らん。コルステインでもいれば良いんだが、彼女も最近は」


 前方を見ていたタンクラッドはレムネアクに振り向き、『仲間は他にもいる』と急に真面目な面持ちで言った。頷いたレムネアクが目で先を促したので、タンクラッドは彼をじっと見てから『どんな姿を見ても恐れるな』と先に伝える。


「はい」


「できるか?と確認したいが、こればかりは『肝に銘じておけ』としか言いようがない。その時になったら無意識でどう反応するか、人間は様々だ」


「気を付けます」


「聞かないんだな」


「・・・その時に分かるなら、それで」


「幽鬼や死霊を子供の頃から見ているなら、お前は驚かんかもしれんが。種族はサブパメントゥ、だ」


 タンクラッドは、レムネアクがサブパメントゥに操られた経緯も、ドルドレンやイーアンの解説で聴いているため、これは重要かと伝える。思った通り、レムネアクが瞬きしたので『味方のサブパメントゥもいる』と添えた。


「お前がサブパメントゥに何かやらされたのは、イーアンが話していた。だがそれは敵と思っていい」


「二派に分かれているんですか?そういう解釈で良いですか」


「そのままだ。仲間のサブパメントゥは、俺が思うに善良だ。危険な能力を持つが、それはどの種族も同じだろう?敵対するか味方かってだけの話で、味方のサブパメントゥは種族で最も強い力を誇るが、善良なんだ」


「心強いですね」


 あっさり受け入れる僧兵の態度に、タンクラッドが少し不思議を思う。こいつはこき使われたようなのに、口頭の説明で受け入れられるものなのか・・・ レムネアクは、タンクラッドの表情に察しを付けて『サブパメントゥについてですが』と体験による印象を話す。


「初めて会った相手に、私は命じられて使われました。それまでサブパメントゥという種族の名前だけは知っていましたが、実際に会ったのはその時が初めてで、いろんな噂を聞いていただけに、相手の容姿は違和感を思いませんでした。能力は怖いと思いましたが」


「どんな容姿だ?サブパメントゥは多様なんだ。姿かたちが一定しない」


「きれいでした。男女のどちらか分からないけれど、男のような体つきで、でも女みたいにも見えて」


「きれい?」


 はぁ、と可笑しそうに顔を俯かせたレムネアクに、タンクラッドも苦笑する。使われた感想より、相手の容姿の美しさが先に出る。


「変に感じていそうですが、男女の区別がない存在は強く、崇拝に値します。その相手も恐ろしい力を持っているけれど、()()()()()()()のは綺麗だったからでしょうね。その辺の人間より全然、見た目が良かったし」


 ハハハと笑ったタンクラッドは、人間似のサブパメントゥと会ったことでレムネアクがそれを楽しんでいたと知り、暢気な奴だなと彼の肩を叩く。レムネアクは『そのサブパメントゥにも、ダルナにも言われた』と教えて、剣職人はまた笑う。


「多分、イーアンにも言われています。そうでもないんですが」


「ハッハッハ。暢気っていうのとも、少し違うか。お前はヨライデ人だから・・・ 」


 レムネアクの感覚。ふと過った友達・ミレイオがヨライデ出身もあり、タンクラッドは繋げて納得した。話を戻して、味方のサブパメントゥも両性具有の体を持ち、とてもかわいい顔をしている情報を与える(※タンクラッド目線)。


 へぇ、と関心を示したレムネアクは『会ってみたい』と率直な気持ちを伝え、そのうち会えるとタンクラッドも答えた。とはいえ・・・ちっとも姿を見ていないが。


「暗い時間が強い種族だからな。夜は彼らがいてくれると助かるんだが、彼らも忙しくてなかなか頼めない。味方にいても四六時中一緒、というのでもないんだ」


「そういうこともありますよね」


 すんなり、地下の種族サブパメントゥの話題は終わり、馬車は丁度その頃に野営地へ入る。レムネアクが思い出したダルナも・・・姿を見ないな、と気づいた。いつも一緒ではない、別種族の味方。この人たちの仲間は、他の種族も混ざった状態なのだと理解する。


 先ほど、ロゼールが『野営地を探す』と白い板で飛んだのも驚いたが、誰も気にしていないので、飛ぶ板を普通に使いこなせる種族、と思うに留めた。ロゼールの瞳は人間のものよりずっと大きく、夜のように紺色で、彼もまた違う種族かもしれない。



 多くを尋ねず、必要な会話を選ぶレムネアクは、皆が馬車を下りて準備する間、野営地候補の川辺近く、周囲の環境を見回し呟いた。


「墓がありそうだ」



 *****



 水も汚染されたのではと、話題に出た先ほど。昼休憩の地点から距離はあるが、水は染み込んで・・・と話したばかり。


 

 川の水を汲んだ桶をドルドレンは少し見つめて『イーアンが来るまで使わない方が』と気にした。

 馬車には積んだ水がまだあるが、呟きを聞いたロゼールが振り返って『馬たちの水はどうするんですか』と尋ねる。川の水を使えないと馬が困るという部下に、それも分かっている総長は唸った。



「料理の量なら馬車の水で良いですが、馬は可哀想ですよ。そこそこ草も生えているとはいえ・・・水はあげないと」


「そりゃそうだが、飲んで倒れたらもっと困る。イーアンもそろそろ帰ってくるから、待っていたらと思うのだ」


「あー。まぁ、そうですね、そうだけど。ごめんな、セン。ちょっと水飲まないで待ってて」  


 イーアン待ちを告げた総長とロゼールの間を、寝台馬車のセンがぽくぽく通って、川へ降りようとするのを止める。喉が渇いていると、水のにおいで馬はそちらへ行くので、続くヴェリミルと他の馬たちも止めた。


「なんで?って、顔してますね」


「うむ。死んでは困ると伝えたいところだ」


「イーアン、今日遅くないです?もうじき暗くなりますよ。呼んでみたら」


 馬が水欲しがっているし、とロゼールはイーアンの帰りが遅い理由より、馬を優先。五頭の馬は、目の前の川に首を向けて鼻を鳴らし、足元の土を掻く(※催促)。ということで、ドルドレンはイーアンに連絡し、イーアンはこちらへ戻る際中と分かった。


 もう少しで戻ることを伝え、ロゼールが一安心。『馬たちに我慢させるの可哀想』と彼らの首を撫でる部下の後ろから、どすの利いた声で仔牛が呼びかける。今度は何だと、ドルドレンがロゼール越しに見ると、仔牛はレムネアクを連れてきた。


「こいつを連れて出かける。食料を分けろ」


「ぬ。食事はこれから作るが、今から?今、出かけるのか」


「すぐ食べられるものくらいあるだろ?出せ。()()()の分もだ」


 強請(ゆす)りのような仔牛の態度に、後から来たシャンガマックが笑って『すみません。干し肉を少しだけ良いですか』と言い直す。とっととよこせと、舌打ちする仔牛を撫でながら頼むシャンガマックに、ドルドレンとロゼールは無表情で干し肉を出し、数枚ずつ渡してやった。ロゼールはちょっと荷台を指差す。


「採取したばかりの木の実もあるけれど」


「出先にあれば、そっちで食べますから」


 シャンガマックと仔牛が返事をする前に、割って入ったレムネアクがニコッと笑う。

 なぜ・・・ レムネアクを連れて行くのか。仔牛に目で問うが、当然返事はない


 ドルドレンたちに事情も理由もさっぱりなのに、仔牛は何も話さず、『行くぞ』と二人に声をかけて先に行ってしまった。シャンガマックも従うので『じゃ、行ってきます』と・・・行先を聞きにくい総長は頷くだけ(※いつものことだけど)。レムネアクも会釈し、一歩離れかけたが。


「ドルドレンさん。野営周囲を囲むように、これを置いて下さい。イーアンが戻ったら、こんなもの要らないので気にしなくていいですが」


 さっと腕を伸ばした手に、小さな紙の包み一つ。

 出されたものを反射的に受け取ったドルドレンは、『何を?』と紙の隙間を広げ、中の黒い粒に眉根を寄せる。暗さでよく見えないが、大きい丸薬のような・・・ 早口で『死霊除けです』とレムネアクに言われ、ドルドレンとロゼールは目を丸くした。


「こういったところは古い墓もあるから、死霊が出やすいと思うので。タンクラッドさんにも話してあります」



「この丸いの、これを撒くんですか?」


「撒くほど数はないので、居場所を囲むように、点々と均等に粒を置いて」


「早く来い!」


 説明途中で仔牛に怒鳴られ、レムネアクは『行きます』と慌てて振り返る。


 ドルドレンたちにちょっと微笑んだ僧兵は小走りに暗がりへ行き、仔牛とシャンガマック、レムネアクの姿は、離れた闇に溶けた。

お読みいただき有難うございます。

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