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魔物資源活用機構  作者: Ichen
ヨライデ入国
2902/2954

2902. 魔物静寂の始まり ~コルステインの家族・はぐれ僧兵・夕食香辛料時間・魔物状況

 

 コルステインは、この夜。見つけた魔物を倒す。



 魔物の門が開いた北を察知して、すぐに来た。これまでの勢いがない魔物に、どれくらい出てくるのか少し待ってから・・・ のろのろと地上に落ち、ぞろぞろと広がってゆく後ろから、全部消す。


 出方もまばらで遅く、やる気が失せたかのような鈍さの散らばり方で、倒すのは造作もない。怒涛のなだれ込みでさえ、コルステインの攻撃に一瞬消滅する輩は、『漏れている』状態で残る方が難しい。


 ここ以外にも出ているだろうが、コルステインは船の仲間に伝えようとしなかった。どこで出ていようが、ある程度は回って片付けるつもりだし、どうせ()()―― 決着の日まで出るのは変わらないのだから。



 コルステインが判断した『大したことのない魔物の開始』は間違えていないけれど、他にも皆へ知らせに行かない理由はある。それは、苛立ち。

 少し前のことで、精霊が現れ、質問したコルステインに答えてはくれたが、本当に知りたいことは教えてもらえなかった・・・そのせいで機嫌が悪いから、魔物に八つ当たりしている状況。



 スヴァウティヤッシュを取られた(※コルステイン視点)のは、すごく嫌だった―――


 精霊は、コルステインが捜し回っているので教えに来たようだが、事情を聞いたところで、いつスヴァウティヤッシュが戻ってくるのかも濁されて、気持ちは全く落ち着かない。却って苛立ったくらい、コルステインにとって()()()のような出来事。


 精霊に怒るのは違う、と分かっている。自分が、スヴァウティヤッシュに協力させたのがいけなかった、と思う。


 でも、スヴァウティヤッシュを取り上げるほどなのか、とサブパメントゥの頂点は納得できない。


 創世から続くサブパメントゥ対立で、三度目の旅路後半。激化したら以前の二の舞と懸念し、手を打つに後れを取っていた時、スヴァウティヤッシュは付きっ切りで手伝った。



 ―――ダルナはとても強いからですよ、と精霊は言ったが(※分かりやすく教える)。コルステインやイーアンとは違う、異界の精霊。


『この世界で負けたくない魔物の王が、いろんな魔物を作るから(※死霊やら増幅やら)、少しは異界の精霊にも協力を許したが、サブパメントゥの広がりも抑えて、魔物もたくさん倒したし、最後は旅の仲間だけで行きなさい』


 ゆっくり、何度も分かるように、精霊が諭し、コルステインは首を横に振った(※いや)。


『フォラヴ。いない。ザッカリア。いない。シャンガマック。ホーミット。また。ない。分かる?前。同じ。大変。する』


 旅の仲間が足りないし、シャンガマックたちもいなくなるかもしれないのに、これでは前と同じで大変じゃないかと、二度目の旅路の苦悩を伝えたが、精霊は大きく頷いて同意を示してから続けて諭した。


()()()()は異界の精霊が残っています。もしも、異時空に入らなければ(※魔力供給先)、無理やりに連れて行きません』


 コルステインには、なぜそっちの話になるのか分からない。スヴァウティヤッシュの話から()()()ので、別の誰かの話じゃないんだ、と首を横に振って態度で伝える。

 精霊は、サブパメントゥの頂点が素直で、幼い子供のように純粋(※周知の事実)・・・と、よく知っているから、『その内戻ります』を挨拶に切り上げた―――



 スヴァウティヤッシュがいると、『最後』で判定がつけにくくなる。


 難しいことは分からないコルステインも、感覚的には分かっている。古代サブパメントゥを一人残らず終わらせるのは、異界の精霊()()()()


 そこまでやってはいけないし、やらせてもいけないのだ。トゥもスヴァウティヤッシュも、古代サブパメントゥ勢を激減へ追い詰め『もうここまで』とされたんだろう。だ・け・ど。



 あれだけ一緒に頑張ってくれたスヴァウティヤッシュに、何も教えることなくまた閉じ込めたのは、コルステインが『だました』とか『うらぎった』ように感じ、手伝わせておいてそんな目に遭わせたと誤解されるのは本当に嫌だった。


 精霊は、それを代弁してくれる気がしない。ダルナを取られて、こちらの話も伝えられずに、スヴァウティヤッシュは今どんな気分か想像すると、コルステインの苛立ちは増す。家族にも頼んで、必死に探したのに・・・ こんなことになっていたとは。



 イーアンも、ダルナや異界の精霊と離れて寂しいと思うが、コルステインはイーアンに話に行く気にもなれなくて、始まったばかりの魔物退治に八つ当たりをぶつけ続ける。



 *****



 事情を知るまで、コルステインに頼まれてダルナ探しを手伝った家族は、対決意志を前面に出した今、反逆のサブパメントゥ対処で動く。


 もう、圧勝に近い状況だけあって、隠し通すに気遣った構えも緩んでいるが、それでも足跡を見つけると緊迫はするし、いつどんでん返しを食らうとも分からないので、さっさと追跡・仕留めに向かう。


 少し失態があったのは、『呼び声』と『燻り』が回復していたこと。

 敵対派の者たちは、コルステインの許可した一画に入る時もあるが、長居はしない(※2838話参照)。そもそも、まず来ない。鉢合わせて消される恐れがある場所に、休めるはずもないからだが、あの二人は違ったらしい。


 どちらも厄介で、『呼び声』はトゥの攻撃に倒れ、『燻り』も倒れる手前くらいまでやられたような話だった。それが問題なく動いているのを見つけ、これらとその周辺にいる輩を探す。



『呼び声』は、勇者に近づく。執拗に狙う。だからコルステインの家族の一人二人は、勇者の周辺を交代で見て回る。今は、異界の精霊がいないから、ふとした時が危ない。

『燻り』も勇者狙いなのだが・・・なぜか『燻り』はヨライデの全く違うところに、不意に現れて消える繰り返しを続けており、これを追う方が面倒くさい。


 魔物が始まった夜も、コルステインが引き受けたので、リリューとマースは『燻り』を探した。他の古代サブパメントゥはじっと身を潜めて動かないのに、あいつは動き続ける。

 そして、すれ違った。見つけた、と思いきや隠れて消え失せ、リリューたちも周囲を見回してからそこを離れる。


 何があるわけでもない。誰がいるわけでもない、夜の廃墟。人間の使う大きな建物、というだけで。『燻り』はこうしたところに現れると覚えたが、目的が分からなかった。



 ・・・サブパメントゥたちが消えた後。


 ゴソリと小さな音を立て、廃墟の修道院から男が出てくる。ヨライデ新教の建築物で、建てられてからまだ十年ほどしか経っていないのに、何にやられたか。ひどい崩壊。ただそれは上の箱ものだけ、地下は無事と知った男は、地下の倉庫と調剤室を調べ、使える材料で魔除けを作っていた。


「さっき置いたばかりだけど、交換しておくか」


 手に持つ、小さな練り物。燃すわけでもなく、強い臭いを放つわけでもない、ヤギの糞のような見た目のそれを点々と建物の周囲に置いて回る。入口の周辺ではないのがコツ。地下で自分が動く範囲を考慮して、地上に囲む線を引くように練り物を置くと、魔性はこれを跨いで気づかない。


「役に立つ相手と、そうじゃない相手がいそうだよな。サブパメントゥなんかに利くわけないし。気休めだ」


 ()()には利くけどなと、レムネアクは最後の一粒を土に置いて、空を見上げた。夜空は綺麗ではなく忌まわしいものを含む風が横切る。


『魔物が来る』ティヤーでも同じ感覚を受けたのを思い出して、空に呟く。あの時は夜に海が荒れ、津波や高波であちこち散々だったが。


「ヨライデはじわじわ、かな」


 星が隠れた夜空から目を逸らし、レムネアクはまた地下に戻った。少しでも、地力を高めておくために。少しでも早く、イーアンたちに接触したくて。



 *****



 日中がほとんど『クフムの辞書会』で終わったドルドレンたちの穏やかな夜。


 昼食も夕食も早めに提供されたことで、イーアンは記号覚えの疲労ピークから解放され、バイラの差し入れスパイス料理で『テイワグナの味に癒される』と感動していた。


 テイワグナ香辛料は、タンクラッドたちも好きな味。初体験のルオロフは『なかなか刺激が強い』と少しずつ食べていたが、イーアンがやたら喜んでいる姿から『私も好きになろう(※裏を返せば好みではない)』と思った。

 そうしたらタンクラッドさんのように。ご機嫌な女龍に、笑顔で会話が続く剣職人が羨ましい。



 タンクラッドとイーアンは味覚が近いため、香辛料を好む。

 在庫が残っていたアイエラダハッド時は、バイラの味を懐かしんで、タンクラッド自ら料理したこともあったし、今はイーアンと二人で『美味しい』『この香りが屋台みたいだ』と微笑み合う。


 何でも食べるミレイオと料理好きロゼールは香辛料の良いところを語り続け、シャンガマックも個性的な風味や香りが好きな様子でムシャムシャ食べる。ドルドレンは馬車の家族の味付けと重なる風味に『美味しい』を連呼する。


 ・・・『総長の場合は、バイラさんと親友のようだからそれもある』と思うにせよ、ルオロフは、自分だけが香辛料に抵抗を持つのは、この先宜しくないと考えた。



 ―――味も臭いも主張が強く、ティヤーの味付けから甘さを抜いた素朴で()()()な味付け。調理済みのテイワグナ料理も差し入れで頂いたが、何というか。素材の下処理が全て香辛料に紛れている気がして、『さすがテイワグナ(※皮肉)』と。

 しかし、皆さんは懐が広い(※皮肉)。船で提供されるハイザンジェル風の料理はいつも優しい味わいで、私も大好きだが。こんなに差がある料理でさえ、彼らは満面の笑みで頬張るのだ(※皮肉)。


 百種類ほどあるらしき香辛料、とのことだが、通常は十数種類完備していればテイワグナ料理ができるようで、イーアンは『食べたらもっと欲しくなる~』『毎日あればいいのに~』と、若い女性のように駄々を捏ねて・・・母が若返るような駄々は微笑ましいけれど、香辛料(これ)?本当に?と聞きたくなる。


 彼女の料理が好きだが、毎日これを食べさせられては私は持たないかもしれない。

 いや、しかし。母の料理を拒むなど、その方がおかしいだろう。養子に迎えて頂いた立場で、母の好みを嫌う息子など言語道断だ。

 龍は強い。刺激など砂糖水のようなものだ(※違)。固定観念を捨て、私も母のように、刺激の強い野生的な香辛料を好むべきなのだ―――



「まいったな」


 何やら一人で考え込んでいた赤毛の貴族が、額に手を当て呟いたので、皆は振り向く。

 どうした、とミレイオが声をかけようとして・・・イーアンが、さっと立ち上がった。今度はイーアンに視線が集中し、続いてシャンガマックが『魔物だ』と、匙を置いた。



 *****



 和やかな夕食は呆気なく緊張に変わり、魔物出現に気づいたイーアンとシャンガマック親子はすぐ確認に出た。



 魔物の気配を帯びた空気が、南の端テイワグナ付近まで及び、女龍とシャンガマックたちは中部まで移動して、暫しその場を調べる。

 南から中部間は気配がまばらだが、北上したイーアンがまとまった魔物を確認。出現は小さい『魔物の門未満』からで、奇妙な感じを受けた。


 獅子は中部付近を受け持ち、魔物を潰しにかかり、イーアンは北。ドルドレンに連絡して応戦・・・なのだが、『数がそうでもないのです。一度に大量だったら応援をと思うけれど、ちょっと待ってて』と頼み、様子見も併せて倒しながら動いた。



 この時、イーアンはコルステインと鉢合わせない―――


 イーアンは『ここから向こうは魔物の気配がしない』と引き返し、北部上及び東に広がる山脈は行かなかった。北部のヨライデ王城も気になったが、それも近づかず、で。

 コルステインは、龍が動いたなと感じ取っていたけれど、コルステインも特に接触を求めない自由行動を通し、北東山脈方面の魔物退治に努めた。



 北西方面を回ったイーアンは結論も出て、少し考えてから船に戻る。


 同じ結論に至ったのが早い獅子はもう戻っており、食卓を片付けていた皆に、様子を話していた。


 通路にも聞こえていた獅子とシャンガマックの報告内容に、女龍は『あちらも同じ』と理解し、食堂に集まっていた皆に、北部状況も説明。その結論まで一分。


「急に出てくる可能性もありますが、今までに比べてあまりにも少ない始まりです。地震も津波も嵐も何もありません。静かに、わっと広がるという具合でもなく、ぽつぽつ出てくる感じですから、今すぐ全員で退治に向かうのではなく、準備を整えて()()()()()しましょう」


 要は、『開戦時に溢れた魔物が落ち着くまで倒し、それから出発』だったこれまでの、『いったん落ち着くまで倒す』部分が要らないヨライデ。


 自然災害もないし、人々も見ないから守りようがないし、魔物はちょっとずつで、今すぐ全員で対処する必要はなく、馬車を早く出す方向で良いと思う、という意見。


 獅子は女龍をじっと見て、『お前の閉じた門はどれくらいか』と尋ねた。イーアンは中部から北部の森まで回り、潰したのは小規模のものだけで、せいぜい数十個、と答える。


「数十?」


 ドルドレンが聞き返し、イーアンは振り向いて『一個ずつが小さい』と頷く。


「町を一つ包む規模も以前は確実にあったけれど、そういうのがないの」


「魔物の質は」


 質問を挟んだタンクラッドに、イーアンとシャンガマックは目を見合わせ『どうだった?』と敵の質を同時に聞く。シャンガマック親子が倒していた中部の魔物は、土くれのようなものと、紐状の魔物だった。

 イーアンが見た北部の魔物は、飛ぶ魔物が多く、地面に動くのは形容しづらい。というのも『見えません』が理由。


「飛んでいるなら把握しますが、地面は暗いし、私は下に降りませんから形が見えていませんでした」


「そうだった。イーアンは夜目が利かないな。本人は光ってるし」


 角が光るイーアンは、自分の近くなら見える。親方も了解。

 シャンガマックたちの見た魔物とまた違いそうではあれ、魔物の形から想像する質は、『面倒そうな相手』かというと、そうでもないかなと親方は思ったが。イーアンは、うーんと唸って懸念を伝える。



「土に害を及ぼすような、昆虫・植物系とか。地中に食い込んで地盤沈下を起こすとか。それらは影響してからじゃないと、ぱっと見の外見から想像がつきません。飛んでいたのは、多分飛んでるだけでしょうし、攻撃で何かを落下させるなり奇声を上げるなりしても、私が常時見回って見つけ次第退治します。

 残ったわずかな人々にとって()()()()()は、『襲ってくる危険』以外で、土や空気や水などの環境に影響するものでしょう。勿論『襲う、操る』も危険ですけれど、地味に攻撃してくる魔物も、人間には大変厳しい相手です」


「そう思うと、俺たちが見た魔物は・・・植物の根のようにも見えたし、早めに分担して退治を急ごう」



 緩く始まった分。そして、強くもなさそうな印象の分。


 守る対象の人間たちも少ないわけでとなれば、受けるイメージの重さも違ってきてしまうものだが、その意識の抜け目が怖いとイーアンは思った。

お読み頂きありがとうございます。

もうちょっとしたら、お休みを頂きます。日にちが決まり次第、こちらで連絡します。どうぞよろしくお願いいたします。

いつもいらして下さる皆さんに、心から感謝しています。本当にありがとうございます。

少し夜が涼しくなりました。気温差に気を付けて、どうぞお体を大切にしてください。


Ichen.  

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