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魔物資源活用機構  作者: Ichen
十二の面、戻りし人々
2888/2954

2888. ヨライデへの準備 ~①テイワグナ停泊案

 

 ドルドレンが夜の甲板で、出発を頼んだ後―――



 イーアンも出てきて、トゥは『王冠』を使うダルナを呼ぶよう言い、ちょっと考えたイーアン。イングはまだ戻っていない・・・ので。少しして上がってきたシャンガマック親子に話を振ると、シャンガマックがフェルルフィヨバルを呼ぶと言った。


「フェルルフィヨバルも、控え中ではあるんだが」


「あら。じゃ、困りましたね」


「いや、でも・・・あれから結構経つよね?」


 経つよね?と自然体で獅子に尋ねる褐色の騎士。すっかり馴染んだ声掛けだが、この獅子相手に・・・と、ドルドレンもイーアンも未だに不思議。獅子は鬣の頭をぐりっと息子に押し付けながら『もう平気だろ』と返す。


 頭ぐり行為はネコ科がよくやる擦り付けで、『だそうですから』と笑顔で振り返った騎士は、鬣をわしゃわしゃしながら(※飼育員さん)話を進める。獅子はわしゃわしゃされて大人しい。これも下手に揶揄えやしないが、見ている側は不思議・・・(※懐いている)。


「フェルルフィヨバルは『王冠』を持っています。イングほどではないにしろ、ヨライデまでは大丈夫でしょう」


「そうか。彼もお疲れのところすまないが、よろしく頼む。もしヨライデ手前でも、近くまで行けるなら」


「そこから先は、私が龍で運んでも良いですよ。ちょっと()()()()()()けど」


 はい、と手を挙げたイーアンの申し出に、ドルドレンとシャンガマックと獅子が、女龍を見る。タンクラッドもじっと見る。女龍が白い龍に変わって、この船を両手で運び、海に下ろす様子を想像する。落とされる可能性もある、と瞬時に浮かび、トゥが『()()()()()()()、俺が引き受けてやる』と言ってくれた(※トゥも主が乗っている船でそれは嫌)。



 決定したので早速、甲板に立ったシャンガマックがダルナを呼び出す。


 結界に似た魔方陣をパッと広げた褐色の騎士は、夜の濃い暗さに輝く緑色の魔方陣に呪文を伝え、パンと光の輪を叩いた。それと同時、魔方陣の中心にフォッと雪煙のような色が上がり、ダルナ召喚。


「フェルルフィヨバル、具合はどうだ」


「問題ない。シャンガマック・・・私に用か」


「船を移動したいんだ。あなたの『王冠』は使えるだろうか」


 勿論と低い声で返したダルナは、横にいる二つ首のダルナを見て『王冠は?』と所持していないのかを尋ねた。トゥは『俺は俺の力だ』と短くかわし、フェルルフィヨバルも無駄話はせず、頷いた。


 このやり取りで、『王冠』を持つダルナと、全く使用しないダルナがいる、とイーアンたちは豆知識を得る。



 ということで、フェルルフィヨバルは『王冠』を出し、お空にボンと丸っこいシルエットが登場。

 フェルルフィヨバルの話だと、これで数回は移動可能だそうで、それだけあればヨライデに着くと分かった。


「では。お願いする。出港だ」


 ドルドレンの合図で、シャンガマックが白灰のダルナに頷き、ダルナは王冠へ方角を伝える。

 丸々した王冠は浮いているだけだが、ダルナが命じ―――



 ジャブ・・・・・ 聞こえたのは、移動前か移動後か。


 大海のど真ん中にアネィヨーハンは現れる。ジャブ、ジャブ、と船体に当たる波の音が変わり、周囲も何一つない大海原。こうなると分かっているから驚かないが、新鮮さはある。黒い夜空に王冠が浮かんでおり、ダルナはまた命じ、船は再び先へ進んで、波と風の音の変化により移動を知る。


「今、二回ですね」 「あと一回で行けそうだ」


 呟いた女龍に、シャンガマックが合わせる。二人ともヨライデの海のにおいに気づいた。ドルドレンはヨライデ未体験なので知りようもないが、立ち寄った記憶の新しい女龍と褐色の騎士は、沖の先にある国までもう少しと感じる。


 そして、ぶぅんと耳鳴りがもう一度、鼓膜を伝った次の瞬間。目の前に陸地が見えた。


「ヨライデだ」


 微笑んだシャンガマックとダルナの目が合い、『問題なかった』とダルナが穏やかに返し、『王冠』は消えた。



 旅の仲間はティヤーから最後の国へ、一分未満で到着。・・・でも、これはぬか喜び。



 *****



 白灰のダルナはここで退場。沿岸の際までは行かなかったが、もう陸地が見えているので、船はトゥが動かす。

 お礼を言ってさよならし、夜風の少し強いヨライデ沖から、黒い船アネィヨーハンは陸を目指す――― といっても。



「本当にあっという間だった」


「『目指す最後の国』って意気込みに、()()()()()()んじゃありませんか」


 静かに驚きを噛み締めるドルドレンを見上げ、イーアンが『時間不足で実感遅いかも』と言い、シャンガマックが苦笑する。あまりにも早く着いたから目指すもへったくれもと、ドルドレンも少し笑った。


「そうとはいえ。気持ちは引き締めねばいけない。魔物はまだだが、()()()は既にいるのだ」


「・・・そして、この国では、魔物製品普及も意味がないです」


 人がいなければ、普及も何もない。ヨライデですべきことを『魔物の王決戦』に絞り込まれた印象、甲板に立つ四人は黒い陸地を見つめる。

 獅子は息子の腕をちょっと押し、中へ入るぞと促した。了解したシャンガマックは、総長とイーアンに断って船内へ引っ込み、タンクラッドも『馬を見てくる』と船底へ行った。



「そうか。もう、着いたらすぐに、馬車を使うんですよね」


 ぼそっと呟いた奥さんに、ドルドレンも『停泊場所も考えておかないと』と気がかりをこぼす。


 船を離れ、馬車で移動する。船を乗り捨てるなど出来ないし、かといって持ち運べるものでもない。こればかりは良い答えが出ないまま・・・とにかく、移動はしておこう動いた次第。


 日付変更よりずっと早くヨライデ沖へ入ったアネィヨーハンは、銀色のダルナによって陸へ静かに進み続け、どうしたものかなと勇者と女龍は陸地を見て悩む。



 そう。やっぱりこれ―― 船の状態 ――がネック。

 最終地を目前にし、船をどうするか決定しなかった宙ぶらりんの答えはいかに。



 トゥも何も言わないし、異界の精霊に頼んでみようかと乗り気ではないイーアンだが、そう思ったところでミレイオが甲板に来た。


「ねぇ。こうなっちゃうと、どこも安全じゃないのは承知の上で言うんだけどさ」


「はい。何でしょうか」


「船。どうするか、決まったの?」


「今それで悩んでいるのだ」


「そうよね。ちょっと前もこの話題で止まったもんね」


 ミレイオは二人を交互に見てから、現在地を尋ねる。地図では確認していない『単にヨライデ領入り状況』と教えてもらうと、ミレイオは顔のピアスをちょっといじりながら、すっと息を吸い込んで右を指差した。


「地図未確認なら、地図で確かめるだけだけど。仮にね、あっち(※右側)が南だとするでしょ?」


 ミレイオが言うに、南はテイワグナの海岸と繋がっているから、端っこで不便極まりないにしても、テイワグナに船を預けたらどうかと。目を丸くするドルドレンと、大きく頷くイーアン。



「ははぁ・・・それなら」


「ね。どれくらいの頻度で船を使うか分からないし、一々、南の端っこまで来るのもと思うけどさ。でも北って何もないのよ。あるのはそれこそ、()()()()()くらいで」


 ヨライデ王城は北部にあり、少し離れたところには第二王城がある。

 隣国アイエラダハッドと繋がるとはいえ、山脈沿いの森から奥、船など置いておく場所ではないからと、ミレイオはテイワグナ方面を勧めた。


「王城は北部?」


「完全北じゃないの。ヨライデは山と海の合間は狭くて、人間が住める場所は広くないのよね。ヨライデのうんと北は、もう全然。森林しかない感じ。だから王城も、国を縦二つに割ったら『北』、それだけの解釈よ。

 地図を覚えているかな。南の端はティヤー寄りではないのよね。北部がこう、斜め海に出ているというかな。ティヤー方向に傾いてるの。その上から先は森林が多い国」


 ふーんと二人は説明に頷く。確かにアイエラダハッドの山脈と繋がる線は、人が住めないだろう。アイエラダハッド北西部から中西部は山脈を背負っており、そのずーっと先にヨライデがある・・・と話していたことを思い出す。


 で。イーアンの脳裏に『レムネアクを戻した場所は、もしかしたら北部かも』と掠める。帰した時はあまり考えていなかったが、ティヤー側に近く出ている地形は南ではなかったかも、と。



 とにかく―――


 縦に長い国ではあれ、人里もまとまっていると、馬車移動に頼るのが無難。


「どっちみち戻された人たちの安全も守らないとダメじゃない。一応()()退()()()()()()()()(※王と対決)でしょ?のっけからヨライデ城乗り込みじゃないんだしさ」



 ミレイオはそう言い、城から離れるが船はテイワグナ寄りで停泊すると安全では?の意見を推す。


 何かあれば、船を出すにせよ。それは『行ける誰か』しか行かない。飛べるイーアン、イーアンの味方ダルナたちが向かうなら、船を移動するにそこまで問題ない気もする。三者の意見は合い、一先ずそうしようと船置き場を決定した。


「言い難かったんだけどね。私もヨライデ出身ってだけで、別に隈なく知ってるわけじゃないし」


 両手を腰にあてがったミレイオが、方角の分からない夜に目を凝らし『南はあっちかしらね』と呟く。


「でも、一理あるのだ。テイワグナは魔物が終わっている。海岸で繋がるそちらで船を預かってもらう提案など、思いつきもしなかったが、ヨライデに比べたら安全も高く思う。辺鄙な場所だとしても、治癒場戻りの人々は善人が多いだろうし」


 ドルドレンは、『戻される人たちが祝福を受けている分、信用は出来そう』と言い、イーアンもそこを願った。で、こうなると思い出すのは―――



「イーアン。地図を確認する間、ここに居るから」


「はい。こちらに戻りますので、一時間くらい待っていて」


 トゥに頼んで、目と鼻の先に見える陸地から距離を置いた船は停止。ドルドレンに送り出され、女龍は空へ上がる。


「バサンダを送った側から、今度はバイラですよ。彼が戻って来ていると良いんだけど、いなかったら探さないと。いたら話をして・・・機構絡みなら、動くにも大丈夫だと思う」


 テイワグナもまだまだ関わるなぁと、夜空を突っ切るイーアンは一直線に、バイラのいる首都へ。



 ヨライデ前にして、倒すべき敵を前にして。なまじ近場まで移動した分、ぬか喜び・・・ ほどではないにしろ、船の安全を思っての決定は、ここまで来てイーアンたちをオリチェルザムから引き離す。


 悪を片付けるのに、一筋縄ではいかない。ミレイオの一言、『魔物退治してから設定』の言葉が印象に残った。

お読みいただきありがとうございます。

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