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魔物資源活用機構  作者: Ichen
十二の面、戻りし人々
2885/2958

2885. オーリンの一件・前夜続き、各自の報告内容

 

 トゥが出かけた朝は、船で大騒ぎ・・・ほどでもないが、()()()()騒然。


 タンクラッドには『出かける』と、一言挨拶をして出た。

 戻った時間は昼近く、船に着いて船内の様子を探ると、まだやってた。だが、もう終わりかけのようで、トゥは聞きながら終了を待つ。


 イーアンに話すのは、いつにするかを考えながら―――



 *****



 ガタっと椅子を立ったオーリンが、詰まっていた息を吐き出して横のニダの椅子も引っ張る。

 ぱっと見上げた大きな目が不安そうではあるが、この場で話を続ける気もないオーリンは『部屋に行く』と短く伝えた。


 集まる視線を無視し、不機嫌なオーリンはニダに背を向け『こっちだ』と、挨拶もせずに食堂から出て行き・・・そうもいかないニダは振り返って、ペコっと皆に頭を下げてから小走りに通路へ行った。



「(ミ)ニダがお面の交渉したってのに。報告もそっちのけで、不満丸出しだわね」


「(ド)否定されて、ずっと不満だったのだ。仕方ない。交渉の詳細はイーアンが教えてくれる」


「(タ)オーリンは起伏があるんだよな。俺たちと動いている間は落ち着いていたが、久しぶりに見た」


「(イ)うーん、見慣れただけですよ。彼のイライラや不満。ちょいちょいありましたよ」


「(ホ)船に連れを乗せるだ何だ、押し切った側から、『ここで降りる』と言い出す。()()()()()()っちゃ、まー不思議でもないな」


 床に寝そべる獅子の皮肉に、イーアンが困り(※龍の民の性質=コロコロ変わる)タンクラッドが笑って、咳払いするドルドレン(※でも顔が笑ってる)に、シャンガマックが獅子に注意した。


 ・・・ニダは獅子を見た瞬間、『かっこいい』と口からこぼれ、怖がりはしなかったから・・・ 獅子は別に機嫌が悪くはなかったが、朝の騒動は『龍の民そのもの』と馬鹿々々しそう。


 余談だが、二度目の旅路でズィーリーに呼ばれる龍の民は毎回違う者で、『今度から一緒に戦う』と言う割に、次に来たためしがなかったと、シャンガマックに暴露していた(※みんなも聞いてた)。



「(ロ)お父さんの言うこと、俺もそう思いますよ・・・ ニダの人生をかけた約束は急展開ですが、オーリンとニダは別だし」


 ざっくり『オーリンがどうするかは、ニダと関係ないでしょ』と呟いたロゼール。すぐ反応した獅子が『だよな』と賛同者の意見に鼻で笑う。


「(ミ)辛口ねぇ」


「(ロ)だって、違うことじゃないですか。頭数が足りないのは、この旅の規模で毎回悩みの種に思います。

 フォラヴやザッカリアも抜けて・・・ 本来は、同行するだけの立場かもしれなくても、オーリンはここまでずっと一緒だったんですよ。空中攻撃も出来て、武器にも詳しい戦力なのに。ニダを旅に一緒に連れて行くのはまだしも、急に降りるって。これだけ一緒にいて、無責任じゃないですか?」


 おっと、とタンクラッドが面白そうに目を見開く。ドルドレンとシャンガマックは、彼の気持ちが分かるので『ロゼール』と名を呼んで窘めるが、それ以上は言わない。


 ロゼールは、騎士の感覚―― 団体行動で生死を共にする旅路、やむを得ないわけでもない突発的な離脱は無責任だろう、と指摘したくなる。



「(ロ)俺が言うのも・・・あれですけど。俺も、しょっちゅう参戦しないし」


「(イ)あなたは機構の仕事を抱えています。それにコルステインたちがきっかけで、参戦した流れです。ロゼールは積極的に関わってくれるので、意見してよい立場ですよ」


 ロゼールのいうことも尤も。これからヨライデだから、と思えば猶更そう思うかもしれない。でも、仲間であっても個人の人生を尊重したいイーアンは、話を止めるためにロゼールへの理解を伝え、それを汲んだシャンガマックも話を戻す。



「(シャ)ニダを乗せてヨライデまで一緒の案。そんなに困る提案じゃないと、俺は思ったのだが」


「(ミ)あれでしょ?ニダは精霊に約束したもんだから、すぐに取り掛からないと、何言われるか分からない心配とか。ぶつくさ言ってたじゃない」


「(イ)精霊の中に、龍もいましたけど(※自分)。別に『今日から働け』とは思いませんけれどねぇ」


 この場に十二の司り当事者(※イーアン)がいるので、オーリンたちが消えた食堂で笑いが起こる。苦笑するイーアンだが、オーリンの心境も察する。


「精霊との約束だし、世界に残された人々のためでもあるし。すぐに動かないと叱られそうにも思う、精霊に対して従う気持ちが伝わるので良いことです。でも、相手は」


「そうよね。あんたの話聞いたところだと、ちんちくりんの妖精(※エンエルス)以外は大物って感じじゃないの。今日だ明日だ、って指定ならいざ知らず、数日なんか気にしないわよね。普通にここにいるけど、あんたも()()()()だしさ、あんたの視点が正しく思うわ」


 ミレイオの、『サバンナの王者』みたいな表現にイーアンがちょっと笑い、ちらっと獅子を見る(※イメージサバンナ)。シャンガマックの横に寝そべる獅子は、くだらなそうに聞いているが、離れる素振りもなく―――



 ・・・彼の右腕には、エサイの狼歩面があるが。昨日から、左腕にも『白金の飾り腕輪』付き。


 で、これが目立つだけではなく、何やら曰く有りのために(※ナシャウニットの忠告とは話していない)、昨晩から息子の傍にぴったり付き添う獅子。

 シャンガマックが動く用事、もしくは精霊ファニバスクワンの用でもなければ、船を出ないらしいので、何も用事がない現状、ヨライデ同行の可能性高め・・・・・



 碧の目がぎろっとこっちを見たので、イーアンは目を逸らして咳払い、『オーリンとニダは』と続ける。


「とりあえず、精霊に指摘を受けるなどは、私が話すので。ニダは彼と親子の約束をしたばかりですし、その後で使命の約束ですから、順番的には親子が離れなくても・・・って、そんな小さいことを精霊が気にはしないでしょうけれど。

 オーリンは次に呼ぶ場所・・・ヨライデに足を踏み入れてから、環境と状況を確認した上で離脱が好ましいでしょう。ニダはニダの都合があるにせよ、親御さん(※オーリン)があの子に付き添う話なら、一先ず、こちらの言い分を通して頂くのが」


「お前のそういう部分が、いつも仕事的だと思う」


 口を挟んだ親方に、イーアンが吹き出し、ドルドレンも笑って頷く。イーアンはお茶を一口飲んで、タンクラッドに『抜けるのは自由』と付け足した。


「お手伝いさんの立場だから、最初から彼の拘束は考えていませんでしたが、離れるとなると、仮にオーリンの手助けが必要になった際、呼び出すにしたって、なんの前情報もない場所に呼ばれるよりは、オーリンも現地を知っておいた方が楽です。彼らをヨライデまで引き留めたのは、()()()()のことで」


 ルオロフと、同席するバサンダは観客状態で口も出さないが、イーアンからオーリンへの説得と理屈を聞き続けた時間に、『それだけのことだ』と言い切るあっさり加減をしみじみ感じた。


 ルオロフは、『下手したら私もこのくらい簡単に切り捨てられてしまうかもしれない我が身の不安』を想像し、出来るだけ捨てられないよう頑張ろうと思った。

 そんな貴族の横で、ミレイオはロゼールの焼いた茶菓子を手に取って一つ齧り、イーアンにも菓子を渡す。



「それはそうなのよね・・・ あいつは、何かあれば手伝いで呼ばれるんだもの。ニダも連れてくるかどうかは置いといて、オーリンは一応『手伝い任命』でしょ?最後の国の雰囲気とか、予め情報があったら違うわよ」


「ミレイオ。オーリンも自覚していますけれど、お手伝いは・・・オーリン限定じゃないのです。私の呼応を支える役割として、龍の民がお手伝い選択ですが、今は」


「あ。そうだったわ!忘れてた。じゃ、別にあんた・・・あいつ()()()()じゃないのよ」


 不要発言が投下し、言いにくいことをはっきり言ったオカマに、要らないことはないですよ、とイーアンが笑いながら訂正し、オーリンと育んだ経験と信頼を強調してから、それでも()()()()()だと一個人を尊重する。


「『手伝い』に、彼以外を呼ぶことも出来ます。男龍や龍が手伝ってくれる、その状態ではあれ。オーリンはオーリンにしか出来ない支え方で私を支えてくれるので、彼がいることはとても大事です。

 だけど・・・個人の人生にまで、私は手を出したくないのですね。大切な人を守るために旅から離れると彼が決めたなら、そっち優先は当然です。たまに頼らせてもらいたいと思うから、せめてヨライデまでは居てほしくて」


 フフッと笑ったイーアンは、並ぶドルドレンを見上げ微笑み合う。ドルドレンは、彼女がいつもそう思っていることを知っているので『イーアンらしい』と頷き、オーリン離脱話はここで終了。



 オーリンは、ニダと共にヨライデまで同船し、その後で離れる。

 ティヤー出港・・・なんて、あっという間。ダルナが瞬間移動させたら、船は一秒後にヨライデ沿岸であり、仮に今日中に決定などなれば、むくれたオーリンは当日中に解放(?)なわけで。


 今すぐ出て行く勢いだったのを止めただけ、誰もがそう思ったけれど。


 オーリンがのめり込んだ真剣な愛情とも理解できるだけに、彼とのひと悶着時間、水を差したり揶揄ったりはなかった。


 それに、イーアンは気づいた。ニダの額にあった、大きな切り傷の跡がなくなっていたのを。

 砂浜で交渉していた時はあったと思うが、先ほど顔を合わせたら傷の影すら消え・・・ その変化、オーリンが気付かないわけがない。『精霊との約束の証』と受け取ったなら、大真面目に本日から遂行、となるのも分かる気がした。



「まだ話すことはあるんだろ。さっさと終わらせろよ」


 雑談になりかけて、獅子がぴしゃっと止め、ドルドレンは丁寧に『そうであった』と獅子に頷く。


「では。話を変える。昨日、俺が」


 前夜は船に全員揃うまでが長かった。夜遅くに戻ったイーアンを迎えて、就寝前それぞれの報告をした、その続き―――



 *****



 前夜中の報告。


 シャンガマックとミレイオは、クフムの部屋の整理をしたこと。

 タンクラッドとオーリンで、ニダの舟を作ったこと。

 オーリンは『予言の模型船』が示した方角で、面に関わる離島を見つけたこと。

 ドルドレンからは、『ヨライデ馬車歌』の一部を持ち帰り、まだ内容を聞いていないこと。

 ルオロフは・・・宝剣譲渡相談について話せず『生き物は、機会を見て戻される』情報提供のみ。

 イーアンは、見回りで見た人々や島々の様子と、イライス・キンキート帰国の件、それと治癒場に入った人たちがまだ全部は開放されていないこと。男龍の会議については、皆に関係ないので伏せた。


 昨日の分の報告が済み次第、バサンダの製作した仮面の説明をしてもらいたい希望も上がっており、ついで、交渉の様子もイーアンが花を添える感じで、仮面説明を見ながらと・・・決まる。オーリンに『交渉はどうだったのか』を尋ねたものの、『ニダは約束が~』ばかりで全体像を聞いていない。で。



「面の交渉は、イーアンにざっくり聞いた限りではあるが、無事に終了している。俺たちがティヤーを離れるのも問題ないだろう。今回は、人々や環境の支援に全く関わることが出来ない。イーアンが見てきたティヤーの状況は、精霊が大きく関わる。他国も同じではと思う。警戒しなければならない敵は、各地に出没する懸念もあるが、それはこれまでと同じである」


 懸念=サブパメントゥ他、得体の知れない敵。だが、場にミレイオや獅子、ロゼールがいるのでここは濁す。


「そして移動手段においても、全く問題がない(※ダルナがいる)」


「そうだな」 「有難いばかりです」


 親方とイーアンが同時に答え、移動はトゥ頼み・・・ 暗黙の了解。

 さっくりとドルドレンが予定をまとめ、報告のおさらいが終わったら出国、その旨を告げて、昨晩の報告をもう一度繰り返す時間へ。



「俺から話そう。と言ってもな、まだヨライデ馬車歌を聴いていないのだ。悠長なのではなく、心の準備である」


「心の準備って何ですか」


 ロゼールの突っ込みに、総長は頷く。『解釈の問題』と教え、現時点で自分は少々感傷的だから、もう少し気持ちが落ち着いてからの方が、余計な感情を差し挟まずに理解できるだろう、と答えた。


 この返答に『ドルドレンが馬車の民の生き残り(※ほかの皆さんが生きているにしても)』と、皆は改めて思う。家族思い、民族を誇りにするドルドレンは、見た目に変わりなくてもやはり心境は複雑。イーアンが彼の腕を撫で、目が合って微笑まれる。


「じゃ。俺の・・・ミレイオと、クフムの辞書を整理したことで。昨日話した内容で全部ですが、一晩考えたことがあります。ヨライデに渡ったらそれどころではないかもしれないけど、皆も一度目を通したらどうかと」


 褐色の騎士が、辞書の報告に移り、クフムの辞書は使うためにあると考えたことを話す。それはいいかも!とミレイオが笑顔を向け、シャンガマックも『彼は俺たちのために作ってくれたから』と強調。


「いいですね。シャンガマックと私で、皆さんに説明すれば理解も早いですよ」


 赤毛の貴族が乗り気で意見し、タンクラッドたちも『見たかったからいい機会だ』と賛成。ドルドレンは、この場面をクフムに見せてやりたいと思った。後日、早めにクフムの辞書を見られる時間を設けよう、と決まる。



「俺の報告は別にないな。舟はよく役立ったようだし。オーリンの模型船が告げた場所は正解だった、これも終わったことだ」


 タンクラッドからの報告はここまで。トゥは出かけているので、トゥに関してはまだ何もなし(※この時点で表にいるけど知らない)。


「私も、同じことしかありませんね・・・ 生き物たちは徐々に見られるようになると思います。今も一部は戻されているようですが、増え方までは私の知ることではありませんため」


 丁寧に、あっさりと完結させるルオロフ。『宝剣譲渡相談』はおくびにも出さず、総長はそれをご存じだろうか?と思うものの、彼も態度に出していないため、とりあえず伏せておくのみ。


 イーアンが持ち帰った報告で、今日も引き続きあるのは『治癒場開放』くらい。移住していたハイザンジェル貴族が帰国した・・・これは皆にとって、ちょっと気を引いたが。ドルドレンが一言『そうか、イライスは母国へ』と呟いたのが印象的。死ぬなら母国、と言った貴族の無事を思う。


 皆の報告を聞くロゼールは、船で掃除したり料理を作ったりだけなので特になし。


「では、バサンダ。久しぶりに顔を合わせた。ここからはまた、会える機会がないかもしれない。仮面の説明をしてもらう時間はあるか」


 全員回った後で、ドルドレンは面師に向き直る。初老の面師は微笑んで『もちろんです』と引き受け、ニダが持ち戻った箱を開けた。

お読みいただきありがとうございます。

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