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魔物資源活用機構  作者: Ichen
十二の面、戻りし人々
2881/2953

2881. 十二色の鳥の島~空の民と青二人・召喚側・解散後

 

 ニダがオーリンと出発した真夜中。時間にして、深夜3時台。


 到着した無人島で、小舟の説明や練習、面の持ち込みについて、押し迫る交渉に大急ぎで確認を詰め込んだ二人が、薄く白を帯び始めた空に気づいたそれは、船にいたイーアンも同じだった。


 イーアンは仮眠をとったが、自分も呼び出されると思っていたので寝た気がしなかった。明け始める空の色調を窓から見て、ニダはもう向かったのかと考えていたら、ふっと窓向こうが明るい青に染まり、瞬き一回。イーアンが次に瞬きする前に、女龍は船室から消える。



「うわっ」


 何かに連れ出されたイーアンは、空中に浮かんで慌てて翼を出す。落ちかけた体が止まり、さっと周囲を見回すと、青々とした空がぽっかり・・・なんでそこに、と思う不自然さで、マンホール穴のような青空が上にあった。


 まだ暗い空に、円形青空の切り抜き。なにこれと怪訝に呟く女龍に、青空がほどけ始める。円周をハサミでぐるりと切るみたいに、ぐるぐると中心に向けて青空は螺旋にほどけ、するっと帯になって落ち、イーアンの顔の前で浮かんだ。顔の前に切った片端が近寄り、それは龍の頭に似ていた。


「もしや」


 この雰囲気に見覚え、最近あり――― 


「そうです。空の民」


「・・・ええっと。()()()()()()のお方ではないでしょ?(※2825話参照)」


 あちら、と適当に背後を指さした女龍は、面と向かった相手から目を逸らさずに確認し、細身の龍の顔をした相手は頷く。


「違います。()()()は動けませんから」


「えー・・・とですね。あなたは、また違う空の民で。ちなみに、ザッカリアでもないのは確かですよね」


「ザッカリアではありませんよ」


 了解したイーアンも何となく見当がつく。十二のお面で面師に呼び出された過去の伝説に於いて、もしかするとティヤー創世時代の青が、『始祖の龍ではない誰かの可能性』も思っていたから。やはり違ったか、と見つめた相手は、大きな目を瞬きして首を傾げた。



「イーアンは分かっていたみたいですね、自分じゃないと思っていました?」


 心を読んだらしき質問に、イーアンは頷いて『可能性ですけれど』と答える。

 これからニダが、十二の司り呼び出しである。直前で違うことを告げられてちょっと安心したが、安心を見透かした相手の言葉は、意外な方向。



「一緒に行きます」


「ん?一緒。なぜ」


 代表はあなたですよね?と、言ってる意味が分からないイーアンに、空の民は帯状の体をするーっと動かして女龍に緩く巻き付け、顔をもっと近くに寄せてから『前もそうです』とはっきり教えた。


「あら。前と言いますと、始祖の龍のことでしょうか。彼女もあなたと」


「はい。私と女龍は役割が違います。私は人間に関与しませんが、女龍が関与し、そして女龍は空の民に頼みました」


 返事を聞いて合点がいった。あー・・・そっち。やっぱ、始祖の龍がきっかけか、とこれも納得したイーアンは無言で頷く。



 ―――始祖の龍が、人間のために手を尽くした一つが、『空の民』に龍境船往復をお願いする状況を作ったのかもしれない。

 龍境船は龍族に関係ないものだから、ティヤー創世では『空の民』が協力してくれたことで、伝説に残った・・・



 もう、ここまで来ると、あまり疑問もないイーアン(※各地で点々と情報が入るから予想はついた)。


 それで?と空の民に促すと、空の民は一応自己紹介もしてくれて、どうもティヤー北部からこちらへ来た話。


 北部・・・って言いますと、それは()()()の?あの自然現象で海の渦が起きた・・・ 尋ねるでもなく視線を右上に向けた女龍に、またも空の民は『そっちです』と読んだ思考に答えた。イーアン、了解。あっさり謎が解けた。


「あなたは、ティヤーでも北部の海を通じてこちらへいらした、空の民。合っていますね?」


「はい」


「北部の海は火山が多くて、海流も激しく、時に壮大な暖水渦を」


「はい。熱を強く含んだ時、渦はもっとも大きな範囲まで広がります」


「空の民は、空から来ると思いましたが」


()()()()が空に通じた一部ですから、あれを通ります」


 ふーん。 そうなんだー。 自己紹介で、謎も解けた。では話を戻します、と空の民は切り替える。『一緒に行くので、青の司りは二名』とのこと。

 なぜこのタイミングで現れたのかは、イーアン的解釈だと、これまで『また呼ばれるかどうか判然としなかった』から。

 つまり今日、ニダは絶対に呼び出せる=私たちは呼ばれる、と思っていい。事前ではあるが、決定したんだなと・・・イーアンも腹を決める(?)。


 そうこうしている間に空はどんどん、白から黄、淡い赤を渡して色づき、イーアンはちょっと過った気がかりを空の民に伝えた。



「もう呼ばれる寸前で言うのも、あれなんですが」


「はい」


「私たちが青の司り二名、その逆で二色の司りが一名、の方もいらっしゃいまして」


「ええ」


「黄色と緑の司りの妖精について、若干、心配があります」


 どのような?と空の民に聞き返されて、非協力的でしたとイーアンが教えると、空の民は興味なさそうに顔を逸らす。その方向、緑と黄色の海。でも何も言わないのでどうしたのかな、と思っていると、徐に口を開いた。



「妖精一人が嫌がったところで、何も起きません」


「そうなのですか。私の仲間の強い妖精が、彼に言い聞かせてくれたのだけど」


「何をしたところで、と私は言ったつもりです。世界が動くのだから」


 達観の相手はイーアンを遮る。きっぱり『無駄な心配』を言い渡され、これはこれで理解して黙った。


 反対意見を一人でも言うと通用しない、とか。そんなことはないのが、世界―― そう言われたら。


 違う視点から見たら、面を使う行動云々さておき、『十二の司りと人間』の一場面が、それほど人間の存続に重要と分かる。この及ぼすものは、手放しで喜べない無言の約束も含むのかもしれない。

『こうまでするのだから、次はないぞ』と・・・・・ 人間は、その重みを心に刻めるだろうか。


「ニダ」


 ぽつっと、交渉する若者の名を朝の空に呟く。あなたは、何も分からずに巻き込まれた。生まれついて性別がないというだけで、いきなり大事な駆け引きに引っ張られた子が、この重大さの鍵を握るなんて。


 夜は明けてゆくはずなのに、なぜか見つめている空の明度は上がらず、しばらく会話の消えた二人は空中で佇んだ。なんで夜明けが変わらないの?と女龍が眉間に眉を寄せたところで―――



「ぐわっ」


 イーアンの体が圧し潰される。唐突に、何者かに握りつぶされるように。でも、ぎゅっと圧縮されたのは一瞬、あっという間に窮屈から解放され、目を開けたそこは、普段あり得ない数の種族の気が満ちていた。


 ずらっと並んだ、様々な種族と眩しい空に、イーアンも立つ。

 空の民はイーアンの横にいるが、長い体の一部はイーアンを巻いており、眼前の風景は波打ち際の砂浜で、そして、小さな人間と倒れた小舟一艘。



 ニダが呼んだか―― フフッと笑ったイーアン。十二の司り召喚の瞬間、ニダはあわあわしながら、砂浜に立ち上がったところだった。



 *****



 そうして、呼び出され、交渉の場でニダ自身の確認から始まって、決意・理解・約束の言葉へ進んだ後。


「司るは、空。許可する」


 誰かが答えないと始まらないと思ったイーアンが、軽く挙手した動きと共に、空の民がニダに返答。腕に巻き付いた体は、神々しい輝きを増す。


 案の定、次々に『許可』を出し始め、あれよあれよという間に最後まで『可』で通ったが、これまた思った通り、最後の最後でエンエルスが苦虫を噛み潰したような顔に変わって唸り・・・


 てめぇはこの期に及んでと、エンエルスのしつこさに、イーアン舌打ち。何度かこの妖精の態度に舌打ちしていたが、比較的大きめの舌打ちで、空の民に注意された(※『大丈夫なのに』と)。


 エンエルスが許可を下し、最後の一人『黒』は思いもよらず―― でも、その返答も伝説のまま ――許可そのものではないがそれを通り越して『始末』を引き受けた印象の返事で〆る。


 戸惑うニダに、許可だよとイーアンが教えるのと同時で、精霊のおばちゃんも教え、そして太陽エウスキ・ゴリスカが『交渉』を整えた後、十二の面のクライマックスが起き、イーアンたち司りの力を引き込んだ面は、象徴さながら一羽の鳥の姿を放った。



―――実は。()()()()の意味を大きく含んだ鳥だったのだけれど、イーアンはこの段階ではまだ気づかず。



 不死鳥の如く輝いた鳥に目を丸くし、これぞ面師の技の極み!と心で拍手喝采。帰ったらバサンダに教えてあげよう!と飛翔する十二色の鳥を目で追ったところで、パァンと弾ける空気に圧され・・・


「あ。え?船ですか」


「む。おはよう。どこへ行ったかと」


 イーアンは船室に戻され、起きたばかりのドルドレンに挨拶された。



 *****



 このすぐ後。ドルドレンに『召喚されたのです』と話し始めた直後に、空と海の色が慌ただしく変わり出し、何が起きたと船窓に駆け寄った二人の目の前で、混合する十二色の海が波を立て、輝く朝の空に色は移り、それはそれは驚愕の美しい光景を引き起こす。


 うわーと丸窓を開けて外へ顔を出したイーアン。女龍の角の合間から、同じく顔をのぞかせたドルドレンは、動く雲に絡まり踊るように波打つ海の色彩、その壮観さに言葉を失った。


 並びの窓でもわぁわぁ騒ぐ声が立ち、他の者も特別なこの瞬間を見る。


「イーアン。()()聞こえるようだ。風と波の音しかしないのに」


「ええ。わかります・・・歌声みたいに。って、違いますよドルドレン、鳥ですよ、鳥!」


 ドルドレンに振り向いた女龍は、角に当たった伴侶が倒れかけたので慌てて謝り、『これは鳥の声』と教え(※ドルドレンが呻く)、空を振り返った。徐々に近づく歌声が、毎秒の速さで大きく響く。


「鳥です、ほら見て!」


 色をかき混ぜるような輝く空に、鳥の大群が飛ぶ。朝陽に照らされた鳥のシルエットは、はっきりした明暗を作っていたが、船の上を飛ぶ姿を見て、イーアンは感動した。その感動は、違う窓から聞こえる。


「素敵!なんて色してるの!」


 ミレイオの叫びは、大量に飛ぶ鳥たちの色を見分けた感激。同じ種類ではなく、いろんな鳥が空を覆うのだが、船を越えてゆくその鳥たちに共通するのは、なんとも鮮やかな色とりどり。



 すごい数だとドルドレンも呆気に取られて見つめる。鳥たちの声は、単なる鳴き声ではなく賛美の歌に変わってティヤーの空に響き渡り、大群は船を越えて・・・ 東へ北へ向かった。


 これを船室から見ていたルオロフは、神様が戻したのか?と思い、聞いてみることにする。最初、神様が鳥の姿を取って現れた時と、そっくりな鳥たちもいたので。


 そして、同じように窓から離れずに見送った面師バサンダは、満足。感無量を嚙み締め、大仕事の褒美と、これを受け止めていた。



 美しく、濁らずに混ざり続ける光景を見つめるイーアンは、時折明るく輝く紫に思う。

 ヤロペウクがいたこと。呼び出された十二の司りの一人、ヤロペウクもちゃんと紫として現れたのだ。


 今回は口を利く暇もなく終わったので、この前話しただけになってしまったが、滅多に会えない仲間ヤロペウクに、もう少し話をする時間が取れたら良かったと・・・イーアンは紫に輝く海を見つめた。

お読み頂きありがとうございます。

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