2876. 小石返却・男龍の『ティヤー決戦』評論・治癒場状況
☆前回までの流れ
午後、単独で狭間空間にいたヨーマイテスは、独り言とはいえ触れすぎた世界の事情によって『忠告腕輪』を食らい、狭間空間に戻ることもできず船に行きました。ドルドレンも精霊と分かれて船へ。ルオロフは、神様に呼び出され『剣をドルドレンに渡す相談』を聞き・・・ これはここ止まり。
今回は、レイカルシと回った後に空へ出かけたイーアンの話です。
イヌァエル・テレンで男龍と話すイーアンは、今回のいろいろな出来事を『龍族』視点で考えさせられる時間だった。
一時的に貸し出し許可の出た小石をビルガメスに戻すと、彼はニヌルタやシムを呼び、話の場に参加させ、シムが『それなら子供部屋で』とファドゥたちも加えようと言い出したことで、イーアンは男龍全員と子供たちのいる部屋に移動し、子供の相手をしながら、決戦のあれこれを多方面から学んだ。
一番印象的だったのは、ザハージャング。
それから、『原初の悪』の停止。
白い遺跡打ち上げによる、連続での魔物の路封じ。これに続いて、中間の地の決戦一ヶ所の終了を手伝った形。
ザハージャングが、本当にあの大陸の門番状態になるとは、ビルガメスたちも半信半疑だったそうで、ビルガメスが『腹いせ』でザハージャングを下すに繋がったのも、全てが世界の予定だと男龍は解釈した。
こういうところの受け入れ方は、毎度思わされるが、本当に早い。
なぜなにどうしての質問は、男龍にないのだ。相手が世界なのだから、そこに基準を合わせて尺度も変える。
イーアンなら根掘り葉掘り聞きたくなるし、じゃあ別のことだったらどうなったの?など、違う一面の可能性も知りたくなるが、それは男龍たちにない感覚で、『ザハージャングが足止めを食らったなら、龍族が求められている行動は何か』を考え出す。
「ザハージャングが固定されるなど、人間の携える歴史や知識(※馬車歌及び神殿神話)で予言されている自体がよくわからないが」
そう言って、呆れたように笑うのだけど。事実は事実、そして真実は確実に中心にある、と彼らは知る。
「世界の動きがこうなったなら、サブパメントゥを完全に失墜させる」
望まれているのはそれだ、言い切れるのが、世界基準の感覚・・・ 達観と極端が一緒に思えるけれど、これが正解なのだろうなと、イーアンも感じた。
ザハージャングがいつまで固定されているか、それもタムズの質問で掠った。
ニヌルタは何てことなさそうに即答し、『それは人間が戻る時だろう』と。推察の焦点が絞られているのかなと思いきや、これは裏情報がある様子で、即答直後にビルガメスが少し笑い、二人で目を合わせて『そうだな』と頷いていた。ビルガメスも、ザハージャングが戻される条件を知っている・・・イーアンにはそう思える表情。
トゥがザハージャングを叩き落し、彼が個人的(※人じゃないけど)に因縁を持つのは、男龍には大して関心がないのか、これは話題にならなかった。
トゥも親方も『龍族に消される』~なんて、どこまで冗談か分からないことを口にしたが、イーアンが見る限り、男龍たちのほぐれた会話でそれは杞憂・・・ 彼らは急に態度が変わる性質だけに、確実ではないけれど、多分、トゥの行為もとっくに知っているだろうし、話題に滲みもしないなら、『それはそれ』なのだと分かる。
きっと、それすら『世界の予定の一部』―― 捉え方はここにあり。
ただ、あとから何か言われても嫌だと思い、イーアンはちょっとだけ『トゥというダルナ』について触れた。藪蛇にならないよう祈りつつ、サブパメントゥを倒すに燃えているダルナがいて・・・と呟いたら、シムが真っ先に反応した。
「あの銀色のだろう。ザハージャングと同じ二つの首を持つが、まるで違う能力の」
彼は最初の、白い筒対応で降りた時にトゥを見ていて、『目の敵にしていそうな行動』と笑った。だからと言ってシムが、トゥについて予備知識があるのでもなく。他の男龍もこちらを見たが、話は続かなかった。せいぜい、『いいじゃないか。サブパメントゥが目の敵なら、好きに倒せばいい』と放る一言程度。
トゥがどうこう、ではなく、こうした外部の手も加わりながら、『魔物の路を封じる流れが起きた』方が注目すべき点で、トゥの話はあっさり消えて、『白い遺跡対応連続による、魔物封じ加担』に、男龍の関心は集まっていた。
トゥがこの世界に呼ばれた時、何を思ったか・呼ばれる前の世界で何があったか・・・・・ それは、男龍たち関係ない。イーアンは、あとで親方に教えてあげようと(※安心)話をここで切った。
それから、『原初の悪』についてだが、彼は停止している――― その表現を聞いたイーアンは眉根を寄せ、なぜかと思った側から、これも世界の決定であることを知る。
世界が?古来から存在する精霊の一人を、停止? なんで?
理由については毎度のごとく、ビルガメスは濁した。ニヌルタも理解している風な口調で、『長引くかもな』と期間まで考察済みに似た発言をした。
会話では、『原初の悪』がなぜ停止したかよりも、彼が動かない時期に何があるか、そちらに意見が出され、これはやはり、天地統一を踏まえての意見ばかりだった。イーアンはこうした話題に参加しない。わかっていないから、変なことも言えないし、黙って聞くだけで終える。
まとめとして『ある国の決戦終止符を打った、龍族』が重大な意味を持ち、ティヤー決戦を特別視しているようだった。
ティヤー及び人間との関係ではなく、『自分たちが中間の地に関与する強制』が特別であり・・・最初から最後まで、龍族らしい話し合い。
それで――― もう帰ると挨拶したイーアンは、イヌァエル・テレンを出たのだが。
最後まで、『ロテュフォルデン』のことは言わなかった。
*****
男龍全員揃った場で、彼らの見解をきっちり聞かされた後。イーアンはとっぷり暮れた、夜の空へ戻り、治癒場の一つへ向かう。
「時間、すごい使った」
もっと早く行けば良かった~とぼやきながら、真っ直ぐ向かったのはハイザンジェル。
ティヤーで、アティットピンリーを呼び出そうかとも過ったが、ハイザンジェルだけは『妖精』にお願いしているので(※2823話参照)・・・妖精の都合もあるかもしれないと、ターハに会いに行ったところ―――
「無事に済みました」
「あ・・・終わりました?全員出たのですか」
はい、とターハは頷いて、もう一ヶ所の治癒場の方角へ細い腕を伸ばし、指差す。
「あちらも、全員出ました」
「そうでしたか。ええっと・・・ 他国はまた異なる、んですよね?」
ターハに聞いても分からないと思いつつ、ちょっと質問。ターハは首を横に振り、『ハイザンジェルは人数が少なかった』と教え、他国はまだ次がありそうな言い方をした。
「でも、イーアンが今すぐ見に行かなくても良いと思います。精霊が教えてくれるでしょう」
「そうですか?これから各地を回ろうと思ったのだけど」
「フフフ、必要ありませんよ。問題も起きていないはずです。それに、あなたが任せた精霊だって、ずっと見張り番をしているわけでもないのだし」
余裕なターハだが、ターハは終わったのに残っていてくれたわけで、イーアンは『早めに来なくて申し訳なかった』と謝った。これでまたターハが可笑しそうに微笑み、謝らなくて良いと止められる。
「龍なのだから、そんなに腰を低くしないで下さい」
「そういう問題じゃないですよ。頼んだんだから」
「あなたは噂通りです、イーアン。とにかく忙しいでしょうから、今日明日は治癒場へ行かずに、そうですね・・・三日後くらいに行ってはいかがですか?」
会話の持って行き方や雰囲気がフォラヴと被るターハに、イーアンは説得される。どうしようかなと、目を逸らして頷くと、コロコロ笑われた(※そっくり)。
「気になるのですね。でも、精霊もそれくらいの日数、気にしません。物事が終わるまで約束を果たすだけ。終わり次第、あちらが知らせるのも含めています。今夜も開放があるでしょう。もしかすると、明後日も。それらが全部済んでから」
「でも。ターハが、ここで待ち続けたのは?知らせないで、私を待っていて下さいました」
妖精と精霊は違う、と言われそうだけど、ターハは現に待っていた。そこをちょっと押さえたら、ターハは女龍の顔の高さに背を屈め、とび色の瞳をのぞき込んで優しく笑った。
「私、ずっとここで待っていたのではありません。あなたが来たと分かったから、現れました。心配性のイーアン。フォラヴがあなたに、よろしくと言っていましたよ」
「え」
ではね、とターハは穏やかな挨拶で、くるりと背を向け、イーアンに軽く手を振ると夜の森に溶けて馴染んでしまった。
「フォラヴ。元気ですか」
治癒場の様子を見に来て、思わぬ人の名を聞いたイーアン。星空を見上げ、涼しいハイザンジェルの森で、ここにはいない妖精の騎士に手を振った。
*****
ということで、イーアンはもやもやするけれど、ハイザンジェル一ヶ所を見に行くに留め、黒い船へ帰る。
大丈夫かな~と心配はあるにせよ、ターハが念を押して『行かなくていいんだって(※イーアン訳)』を繰り返したのもあり、これで他国の治癒場に行ったら、ターハにすまないかなと。
どこまでも心配性な女龍は、気になることをいろいろ抱えて、ティヤーの海へ戻る。
「男龍にも、ロデュフォルデンの話をしないといけない。でも、このタイミングでは違うような」
もし、ヨライデの山の精霊サミヘニから連絡があったら、その後で、もう一回ロデュフォルデンへ行ってみよう・・・ 今は目の前にあることを順番に終わらせなければ。
「そうだ。『念』も。世界に人々が、善悪の両極端で存在する時間が始まったわけだから、何か『念』憑きの対策も考えなければ」
お面で交渉すると守られるわけではない。お面は保証でも何でもないのだし・・・イーアンはこれも早急案件に入れ、アネィヨーハンに降りた。
*****
その頃、遠く離れた孤島の魔導士は・・・
「おい、行くぞ」
「俺はいつでも」
世話になった、魔導士の小屋を出たところ―――
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