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魔物資源活用機構  作者: Ichen
十二の面、戻りし人々
2875/2954

2875. メーウィックの手記と現実と推察・獅子への忠告~白金の腕飾り・ヨライデ馬車の歌預かり・『古代剣』所望相談

☆前回までの流れ

決戦後は静かに流れる時間。朝、ドルドレンたちが買い出しに、イーアンは見回りへ、船に残ったそれぞれはクフムの辞書保管・小舟製作などで過ごし・・・

今回は、船から離れているヨーマイテスの話で始まります。


 

『淘汰のあとは、統一が来る』――――



 息子を船に預けた獅子は、エサイの話を聞いた後、狭間空間で一人、黒い手記を読み返していた(※1940話参照)。


 人の姿で仰向けに床で寝転がるヨーマイテスは、片手で開いていた小さな手記の一文を見つめ『違う』と本を閉じた。



『魔物の王と対決する手前で、選別された種族が双方どちらかに付き、負ければ、淘汰。

 敗北側の種族が淘汰された後、舞台は、天地統一へ移行。

 だがこれも、天地統一の時刻に間に合わないなら、『中間の地』の誰が勝利しようが、置いてけぼり。

 優先順位は、既に天と地に定められ、“中間の地の代表は、参加できるなら参加”とそれだけのこと。

 統一の日、空の秘宝が現れる・・・・・ 』


 手記にある、この予言。暗い天井に向けた視線を動かさず、ふーっと息を吐いて、ごろりと横向きに体を寝かす。向かい合う黒い手記に、ヨーマイテスは予言との違いを呟いた。



「メ―ウィックは全部を知らなかった、と捉えるか。アイエラダハッドで(ふるい)にかけて残った種族も、ティヤーで追い払って、そのすぐに統一・・・ではなかったな。そりゃそうだ、ヨライデで対決があるんだから。まぁ、何もかも予言するなんて、所詮、人間の分際で無理なこと」


 とはいえ、ここまで合ってりゃ不思議なくらいだ、とヨーマイテスは本を横に置いて、集めた宝を見回す。方舟も狭間空間の奥にどーんと入っており、手前にはガドゥグ・ィッダン分裂で入手した宝、遺跡で回収した遺物の山が並ぶこの場所で・・・ちらと碧の瞳が黒い手記を見た。


「お前のような土産は、ここにないんだ。メ―ウィック。なぜ人間のお前が、知るはずのないことまで知っていたのか。あの特殊な老魔法使い(※バニザット)ですら、知らないことを。

 時間関係なく予言する道具、天地の主しか把握しないはずの話。なんなんだ、お前は・・・ 馬車の民とかいう連中も、よく分からん歌で予言を事細かに残しているようだが、メ―ウィックの域は越えない」


 時間の乱れとは違うが、ヨーマイテスはメ―ウィックの黒い小箱も思う。礼と称した遥か昔に因んで、現在届けられた贈り物には、当時、彼が知り得ない状況が映し出された。それは、空を背景にしたイーアンとミレイオ(※2310話参照)。


 あり得ないのだ。メ―ウィックが知っているなど。


 何故なら、イーアンは当時の彼にとって未来の人物であり、ミレイオもまた同じ。ミレイオは、魔導士バニザットが()()()()に『子供を創れ』と命じてから、俺が創り出したからだ。


 小箱を受け取り、息子と見たあれ以来、箱を開けていない・・・ メ―ウィックが俺宛にアイエラダハッド南に置いた小箱、その中の玉は俺にとって()()()ものしか映さないのだろう。過去も未来も関係ない、役立つものを。


 碧の宝石が埋め込まれた獅子の焼き印を施す、黒い革の小箱。それも、ここにある。


 宝の空間で、遥か昔に死んだメーウィック(人間)から受け取った、さらに不思議な宝を考えて、ヨーマイテスはこの先を想像した。



 誰が残るのか。残った種族でも、大幅に削られて残るような。


 魔物か人間が支配するために、中間の地が賭けに出されたと思っていたが、三度目の対決―― 勇者と魔物の王が戦う ――前に、人間は淘汰で8割はいなくなった。


 世界の予定する何かを待ちきれず、人と魔物の対決を無視して都合を早送りしたようにも捉えられるが、人間を世界から出したすぐさま、魔物()()()の通路が引っ切り無しに開いて、魔物もここぞとばかりに倒され続けた、あれを思うと。


「人間も、魔物も、()()()()だ」


 ヨーマイテスの低い声が現状を呟く。人間か魔物どちらかではなく、淘汰らしい減らされ方を印象付けられたのは、流れからサブパメントゥだったとも感じる。



「トゥは罰されていない。トゥはタンクラッド、スヴァウティヤッシュはコルステインについている。異界の精霊だが、あの二頭がサブパメントゥを追い込んだようなもんだ。

 トゥは関係なさそうにしろ、スヴァウティヤッシュは、イーアンのために動く・・・つまり、龍族の肩を持つ状況。


 中間の地の勝敗は、天地統一に間に合えばこそ、だから・・・か。空か地下か、どちらかが優勢で、人間はこの勢いをまともに食らったら、巻き込まれるだけで済まない。全滅するのが目に見えているし、逃がしてやった、そんなところかもな。

 体裁上、魔物も減らして―― いや、これは違うか。


 魔物は、この世界の者たちではない。魔物相手に体裁なんざ、世界は用意しなくていいはずだ。とすると、『壊れることのない世界』を目指していそうな・・・魔物は駆逐だな。魔物がいなかったことにする、それくらい徹底して、統一を迎える気では」



 八百長―――?


 状態を見て、不要なら人間も戻さないのか。世界を壊す種にならないなら戻してやる。そうか?

 魔物の王を三度も世界に踏み込ませる許可は、なぜ与えたのか。

 サブパメントゥは人間を操るための種族として、なぜ世界に設定されたのか。

 破壊すれば全てを無にすら出来る龍族が、()()()()()()()()挑戦を組まれている理由。



「やり直せるなら、全部初めに戻してやり直したい失敗。創世時に不手際(そんなもの)でも残しちまった、とかな。統一の日まで引っ張って、全部がひっくり返されるその日、」


 ガァン!!!


 ヨーマイテスの独り言を止めた破壊音。


 ハッとして起き上がった目に砕けた狭間空間が移り、ヨーマイテスは一瞬でそこを抜ける。手記を掴んだ手ではない方の手が、何かにぐっと握られたが、それも振り切って地上へ飛び出した。



「今のはなんだ」


 宙から出て着地し、振り返る。地上はもう夕刻で、風に揺れる木々の葉から強い橙色が差し込んでいた。


 視線は握られた腕に向き、燃えるような熱を放つ白金の輪を睨む。何重にも絡みついた眩しさと、腕を焼き切りそうな収まらない熱の勢い。

 粉砕を命令をしかけたが、熱は急速に冷え始め、あっという間に全体が見えて・・・



「ナシャウニット?」


 息切れするヨーマイテスの左腕。以前、息子の両腕と首についていた、大地の精霊ナシャウニットからの加護、あの金具があった(※815話参照)。


 何重にも巻いた輪は金属の蔓で、息子についていた時より白く輝く。

 それは加護や美しさよりも、()()を秘めた遠慮ない威圧を放ち、ヨーマイテスは自分が世界の思惑に近づきすぎた、と勘づいた。



 白金の蔓飾りは隙間なく巻き付き、ヨーマイテスが獅子の姿に変わっても、きっちりと備わる。右手首には狼歩面、左前腕には白金の蔓飾り。獅子はこれを『見張り』として受け取るよりない。


「やっと・・・拘束が短くなったと思ったら。今度は俺か」


 こんなことで息子を巻き添えになんて冗談ではないので、獅子は口を噤むことにし、この日は・・・狭間空間がどうなったかも気になるが、船に行くことにした。



 *****



 ヨーマイテスが、左腕に精霊の『監視輪飾り』付きで船に戻る頃。


 ドルドレンもポルトカリフティグに送ってもらって、船の近くまで来ていた。手には、精霊から受け取った品を握る。


『船だ。ドルドレン』


「はい・・・では、ここで。ありがとう、ポルトカリフティグ。次にあなたに会うのは、先の話だろうか」


 次はいつ、と決めておらず、その話になると精霊が濁していたので、もう一回最後に確認してみると、背中から降りた勇者にトラは『会う時は呼ぶ』とはっきりしない返事をした。



 夕方に差し掛かった海辺と同じ色の、ポルトカリフティグ。ティヤーの暑さに似合わない、豊かでふさふさの毛は、キラキラと輝いて美しい。また会おう、と静かな声が耳に流れ込み、見ている前で光の粒子になって消えた。


 黒い船は港に堂々と停泊しており、そこに姿を出したままの銀色の巨体が浮かぶ。

 ドルドレンは船へ歩く間、ポルトカリフティグとの今日を思い・・・入れ違いで、船から誰かが下りたのまでは見ていなかった。



 今日は、買い出しの後にポルトカリフティグに会い、船での皆の報告も話した。特に、ルオロフの剣が『煙』のサブパメントゥを傷つけたこと・タンクラッドのダルナ、トゥが、サブパメントゥを壊滅寸前に追い込んだことを、ポルトカリフティグは興味深そうに聞いていた。


 そして、自分にも伝えることがあるといい、精霊のトラがドルドレンに渡したものは。


 手を開いて、ヨライデの馬車の民から預かった品を見つめていると、すべての伝説が終わりに近く感じられる。もうじき、ヨライデへ。



『ヨライデの馬車歌の要だ』 ―――ポルトカリフティグは、託した馬車の民の心をドルドレンに伝え、一人で聴くように言った。



「ベル、ハイル。お前たちの伝言も。お前たちが敵わない敵などあるものか。無事に戻ってこい」


 幼馴染の兄弟から、よろしく、と。それを聞いた時、思わず涙が出そうになった。彼らも行っただろうと頭では少し思ったが、別れの挨拶を伝えてもらい、ドルドレンは兄弟の無事を改めて祈る。


 思いに耽りながら歩くとあっという間で、アネィヨーハン前に来て話しかけられた。


「乗るなら手伝ってやってもいい」


「トゥに乗せてもらっては、さぼっているようだ。自分で上がろう」


 見下ろす双頭の影に微笑み、ドルドレンは跳躍で甲板まで上がる。錨を下げた鎖を足場に、荷物もない手ぶらのドルドレンは軽やかに船に足をつけ、トゥにお礼を言って船内へ入った。


 まずは、荷物を運んでくれた赤毛の貴族に・・・と彼を探したが。入れ違いで出て行ったのがルオロフと知るのは、仲間に聞いてからのこと。



 そして、精霊のトラはというと。




『私は、太陽の民専属の精霊ポルトカリフティグ』


「用は何か、ポルトカリフティグ。私のことは『常世の郷』と」


『私の呼びかけに応じた常世の郷に、礼を。従者の持つ剣について』



 太陽のような暖かな明かりを放つ橙色のトラは、只今、神様ことヂクチホスの世界。でも用事は数分もかからず終わり―――



 *****



「神様、何か御用ですか」


「見なさい。ルオロフ」


 ヂクチホスの世界に入る手段―― 剣で、ある()()()()()を切りつけること ――がないまま、その辺の地面を切って入ったルオロフは、この手段をずっと使わせてくれたらいいのにと思う。



 急に呼び出されて『今からですか?』と、船で返事をしたのは先ほど。


 これからイルカを呼んで?と(※夕食前なのに)ルオロフが抵抗しかけたら、神様は『大地を切る方法があるだろう』とすげなく返し・・・それで船を降りて、ちょっと離れた先まで歩き、地面を切った次第。


 これまで濡れ続けていた移動の難儀は、なんだったんだと・・・思っていたら、神様にもう一度言われた。



「これ。聞いているのか。見なさいって」


「見ています。動物たちがどっさりいます」


()()()()と思って、呼んだのだ」


 気遣いだったと知り、ルオロフはお礼を言い(※そんなに心こもってない)、黒い水場の横に立つ。しかしまぁ、確かに。圧巻・・・・・


 そこかしこに生き物。虫も山のようにいるので、足元を這う・足を登る・周囲を飛ぶ虫をせっせと手で払うのだが、横から鳥がかすめ、見慣れない生き物が虫を追って走り、顔を上げると水場(※神様)の近くで佇む小動物と目が合う。


「落ち着きませんね」


 そこかしこから鳴き声が響くし、肉食も草食も関係なく混ざって右往左往しているため、目が落ち着かない。あんまり喜んでいない貴族に、神様はしばし無言(※気遣ったのに)。


 ところで御用はこれですか、と業務的なルオロフは、頭に鳥がとまってそれを腕に乗せる。足元に擦り付けた頭を見下ろし、ウサギが何羽も群れているので、それもちょっと足を揃えて場所を確保。


「お前の剣のことだ」


 なんだかなーと思っていたルオロフだが、水場の用事は『剣』にありと知って、ちらとそちらを見る。黒い水場は清い水をちょろちょろ流しながら、『先ほど』と話し始めた。



「私の剣?総長にですか?」


「断ったが、そう願われた」


「・・・サブパメントゥを切るからか」


 この理由で、ある精霊から『ドルドレンに剣を譲れないか』と、ヂクチホスは相談されていた。ルオロフは剣所持にあたり、『特殊な使い道・効力でサブパメントゥを傷つけられる』ことまで、神様に聞いていない。


『煙のサブパメントゥを切れた』報告を返事代わりにし、神様はご存じであったか?と尋ねると、水は『そうも使えたか』とふんわりした答えで終わらせる。知っていたのかどうかは触れない。



「総長用に、もう一本作るのはどうなのです」


「それも()()()()だ」


 ヂクチホスとしては、ルオロフだけが所持する現状が好ましいようで、精霊に相談されたすぐ、これを知らせるために呼びつけたようだった。


「動物たちの賑わいを見せるためと仰っていましたけれど、こちらが本題」


「もし、ドルドレンに相談されたら、ルオロフに権限がないと言いなさい」


「神様に聞いて、と言うのですか?」


「ヂクチホス」


「・・・皆さんにも、その名前で呼ぶように言いますか?」


「お前が呼ぶときに注意しなさい、という意味だ。他の者たちは、私に敬意を払うだけで名を呼ぶこともない」


 いつも通りの神様に、『はい』と頷いて、ルオロフは用も済んだので戻る。神様曰く、『生き物はもう少ししたら、様子を見て出す』と言われ、もう既に少しずつ世界に戻している話も聞いた。戻す理由については分からないが、神様は何かを見計らっているようで、生き物が少し戻ったことなら、人に話して良いらしかった。



 ルオロフが大して感動もせず、生き物が溢れる世界を後にして、神様は少し考えた。


 あの剣がサブパメントゥを切ることを。


 かつて、あの材料を渡したサブパメントゥの願いを。


 人の願いを叶えてやるために、あの材料を利用してくれと・・・ 



「その一つに。人間を操るサブパメントゥを()()ことも、入っていたな」


 ふむ、と神様は考える。相談された内容は、勇者因縁のサブパメントゥ対策で剣を譲ってもらえないか、というものだった。ポルトカリフティグはどこまで関与するつもりか。

 そして、私も。


「どこまで関与するものか。私はこの世界の精霊ではないのに」


 ルオロフならいいけれど、と神様は呟く。



 ヂクチホスは、もう一つこの段階で知らないことがある。ルオロフが言いそびれた報告で『サンキー宅を襲った新たな敵』のこと(※2870話参照)。動物たちを戻す前に、これを知らないと・・・


お読み頂きありがとうございます。

昨日、一話書けたので、今日出しました。明日はまたお休みしますが、少しずつ書き溜めているので、また間があかないように投稿する予定です。

傷がなかなか治らないことで、書く進みが遅く、投稿が間延びしてしまい、ご迷惑をおかけします。どうぞよろしくお願いいたします。

いつもいらして下さる皆さんに、心から感謝しています。ありがとうございます。皆さんも、夏バテなどに気を付けてお過ごしください。


Ichen.

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