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魔物資源活用機構  作者: Ichen
十二の面、戻りし人々
2873/2954

2873. 残った人の『期間』・生活面・イライスの帰国

☆前回までの流れ

明くる朝、船に集まった皆で久しぶりの朝食は、報告の続きが話題でした。買い出しへ出かけたドルドレンとルオロフは、馬車歌や馬車の民、襲われた人々のこと、面の交渉について雑談。その頃イーアンは、島に残っている人を探し、警備隊のオンタスナと再会。

今回は、オンタスナの情報から始まります。

 

 戻されたオンタスナは『治癒場』の名も場所も知らないが、()()()で守られたことは理解しており、その意味と今後について、きちんと伝えられていた。



 ―――人の多くは世界の外へ出たが、世界に残った人々は、次の時を待つ。

 勝敗と審判が訪れる世界で、人間が去るか残るか決定される。

 去るのであれば、先に外へ出た人々と会い、残るのであれば、外へ出た人々も帰る。


 残った人々は決定まで、人として生きるに()()()()日々を送るが、魔の荒れる世で命を守るのは、それぞれの行動による―――



 連れて行かれる前にいた場所へ戻されるかは分からず、オンタスナ(自分)は偶然こうして戻ったかもしれないと話した。


「『人として生きるに不足なし』これを確認しようと思い、表に出たところでした」


 精霊から伝えられたと思しきことは、謎めいた予告ではあれ、堅実なオンタスナはまず衣食住が可能か、戻ってから調べていた。

 イーアンも施設脇に顔を向け、『そちらから出てきたということは、畑がありますか』と尋ね、オンタスナは後ろを指差した。


「警備隊のではないですが、隊員自発による畑があります」


 海で事故に遭った人や、保護した人がすぐ病院へ行けない場合に、施設で世話をする際に使うために、日頃から畑で作物を育てると話す。こんなことをしなくても、隊員の分の食事を与えても良いのだが、そうすると保護した人が後で請求されるとか。


「大変な目に遭った後、タダだと思って食べた食事の請求なんて、されるのも嫌だろうし、する方も嫌でしょう?」


「優しい・・・そうでしたか。無料で提供するために畑を。すぐに野菜は育たないですものね」


 感動する女龍に、オンタスナは『他の隊員も畑仕事はするが、いつもは私が管理している』と付け加え、イーアンは彼の慈善活動的献身に、この人、生き残るべき、としみじみ思った。


 肝心の作物はどうかと言うと、大丈夫だったとオンタスナは微笑んだ。

 嵐もすごく、魔物がこちらまで来たから、畑も少し残っていれば良いと期待していなかったものが、丸々無事だったそうで、イーアンはピンと来る。


 それは精霊が直して下さったかも、と前夜に見た光景を伝えると、オンタスナは驚いて目を固く閉じ、手を胸に当てて感謝の言葉を呟く。目を開けた彼に、イーアンは『あなたみたいな人が生き残っていると、これからも世界が良くなるかも』と励ました。



「イーアンは分かりますか?『勝敗と審判』の日のこと。去った人とは・・・私の家族や仲間のことだと思うのだけど」


 励ました側からオンタスナが質問し、イーアンも憶測の前置きをしてから『多分、来たるべき世界の最終結果』と、()()()()()()に答えた。


「私もよく知らないのです。でも、人間であるあなたに・・・いえ、他の方たちもでしょう。あなた方にその言葉を伝えたなら、勝敗は思うに、勇者と魔物の決戦を話していると思います。審判については分かりません。そして、去った人々はオンタスナの思う通り、と私も同意です」


 正直なところ、女龍の立場でも知らなすぎるくらい、情報が薄い対象の『統一』。


 これについて長引かせても意味はないので、気になっていそうではあるが話を変え、イーアンはその他の生活に不便がなさそうかも聞いた。

 驚いたことにオンタスナが調べた限り、井戸は使える状態で、半壊以上の壊れ方をした宿舎も、台所や宿直用の風呂場、手洗い所は無事で、水の流れも問題なかった。



「排泄物やお風呂の汚れは、気になったのですが、大丈夫なのですね」


「ええ。パッと見た感じですけれど」


 島にもよるが、ティヤーはし尿を地中の大きな容器に集め、そこからろ過を繰り返して・・・水を濾し、海に戻るそう。ろ過の残留物はどうなるかと言うと、出して土と一緒に燃されるらしい。


 飲食、居場所、衛生の心配はとりあえずない。食料については、施設に備蓄もあるようで、アマウィコロィア・チョリアに他に人がいたら分ける、とオンタスナは言った。それを聞いて、イーアンも思い出す。


「孤独になって、怖がる人もいるかもしれません」


「はい。島はそこそこの広さがあるけれど、探してみます。内側の地域は、馬もないし時間がかかりそうだけど、まずは外側から。舟が入るところは、海から行ってみるつもりです」


 オンタスナの実家はこれから行くと彼は話し、イーアンは応援。鱗を十枚取って、恐縮するオンタスナに持たせた。


「足りるかしら。十回分」


「出来るだけ戦います」


 怪我しては困るからと、イーアンは遠慮なく使うよう言ったが、オンタスナは貴重な龍の鱗を両手に持って『大事に使うので』と遠回しに使用を断っていた。でも受け取ったので・・・イーアンはとりあえずここを後にする。



「イーアン、まだティヤーに居ますか?」


 挨拶して浮上した背中に、オンタスナの声が飛ぶ。振り返って、少し考え、イーアンはニコッと笑った。


「あと数日はいると思います。出発日は、お別れに来ます」


「はい・・・もし、私が留守だったら」


「それはまた、()()()


 これは運命の決めるところ。そう思うイーアンに言えるのは、嘘にならない範囲の挨拶。会えなくても会いに戻ることは、今度は出来ないだろう。次はヨライデに行くのだ。


 手を振ってさよならし、イーアンは別の島へ。



 *****



 オンタスナのいた施設は、ペジャウビン港の側。黒い船が停泊しているのは、同じ島でも内側に入ったコイヤーライラウリ港。


 違う島の上を飛ぶイーアンは、ルオロフの話で『アマウィコロィア・チョリア島や他の島に、残った人がいた』と聞いているので、オンタスナも誰かと会うだろうと思う。


「他の無数にある島でも、やはり残っている人はいるでしょうけれど。アマウィコロィア・チョリア一帯は信心深い人が多いから、割と残った』とも思える」


 そう思ったイーアンの勘は、少なからず当たっており―――



 この後、イーアンが自分の関わった地域を思い出して廻ったら、やはり祝福を受けた地域は人がいたが、他は人がいるような雰囲気もなかった。とは言っても、隈なく探したわけではないから、どこかにいても変ではないが・・・


 本島プラーワン地区では、イライス・キンキートが残っていた。

 彼女は戻されており、人が全くいない大きな館にポツンと一人だったが、イーアンが来て喜び・・・ちょっと意外な展開に。


 オンタスナと同じ、彼女もまた精霊からの説明を受けていたのだけど。



「え。ハイザンジェル」


「はい。どうにかならないでしょうか」


 イライスは、貴族。館の主ではあるが、自分で家事をしない。食べ物もあると分かったが、一人で過ごすには高齢過ぎて、火の起こし方すら知らないため、ハイザンジェルに戻れないかと相談してきた。


 ここであったが運のなんたら、ではないが。この場合、イライスからすると『運があった』状況で、一人で生き抜くには大変過ぎると思った矢先、渡りに船(※イーアン)である。イーアンは数秒口を開けたまま固まったが、結論から言うと引き受けた。彼女に龍気を注ぎ、助けたのは自分である(※2568話参照)。


 お年寄りでも、普通のお年寄りではなく、貴族・・・ 生まれた時から貴族の彼女に、召使さん一人もいない状況で生きろとは無理がある。若いならいざ知らず、イライスはおばあちゃん。



 ということで、イーアンはイライスに重要なことを教える。


「連れて行くとしてもです。行った先も人っ子一人いない可能性は、高い。それでもハイザンジェルへ戻りますか」


「はい」


「同じ環境が待っているかもしれないんですよ。あなたが生活をするに不自由かもしれません」


「死ぬなら母国で良いです」


 なまじ洒落にならない『死ぬなら』の一言に、イーアンもしつこくはせず、行先を尋ねて『兄の館(※ドルドレンとイーアンの後ろ盾)』との即答に了解した。


「あそこなら、子供の頃に育ちましたから。行けば思い出すことも多いはず。屋敷は変わっていないと思いますし」


 ご実家に帰るイライスに、イーアンはこれは私の責任ともう一回自分に言い、特別扱いと思いつつ。



「誰か・・・あ!レイカルシ!」


「呼んだ?」


 ダルナの手を借りることにしたイーアンは、イライスの家からダルナを呼んで、やってきた真っ赤なダルナに事情を話す。イライスは肝の据わった人だが、さすがにバルコニーの外に浮かんだ大きな龍のような生き物に目を見開いて『これで帰るの?』と不安を呟く。()()と言われたレイカルシが冷めた目を向ける。


()()を連れてくの?」


 言い返したダルナにおばあちゃんの機嫌が悪くなったが、イーアンは『宜しければ頼みたい』と頭を下げた。イングは不在で、瞬間移動の出来るダルナに頼らないと~と垂れ目で頼む女龍に、レイカルシは仕方なし引き受けてやる。


「家財道具は一切運ばないぞ。せいぜい手荷物だな、ばあさん」


「なんて口の利き方でしょう!まー、全く・・・!でも私には選ぶ権利などありません。とはいえ、私一人では()()()母国前で力尽きるかもしれない。イーアンも行きますよね?」


 早口でやり返すイライスに指差され、イーアンは『もちろんです』と頷き、イライスは鞄に持ち物を詰めるため、自室へ戻り・・・その待ち時間、イーアンはレイカルシに『お礼はします』とひっそり謝って、レイカルシは苦笑していた。


 こうして待つこと20分。


 おばあちゃんが持ってきた荷物は意外にあっさり一個の鞄で収まり、『準備は出来ました』と、つんとした言い方でイーアンの側へ来て、女龍の腕をがしっと握った。

 驚くイーアンだが、イライスが『()()()()私では難しいです。手伝って頂けますか』と上から目線(※背は高い)で圧すので、イーアンは従う。おばあちゃんをレイカルシの前に連れて行くと、レイカルシの右手が伸びて、イーアンを掴んだ。


 イーアンがイライスを背中から抱え、そのイーアンをレイカルシが掴む。え?と振り返った老婦人に『誰を乗り物扱いしてるんだ。一瞬だってのに』とダルナが吐き捨てたと同時、ぶうん、と不思議な振動を立てた。



「ほらよ」


 行先を知らないダルナでも、イーアンの記憶がハイザンジェルを教え、それを辿って、小さな国の東の地域上空。本当に一瞬で驚くイライスに、イーアンは更に正確な場所を教わって、彼女が思い出せる山を背後に森をいくつか跨ぎ、目的地―― 実家に着いた。


 実家を真上から見て、おばあちゃんは感動する。が、やはり人の姿はない。


 イーアンもそれを気にしたが、今は無言で下ろしてもらう。イライスは『ありがとう』と社交的に礼を言ったが、ダルナは無視。でもイライスも、もうダルナなどより、目の前の実家に心を呑まれていた。



「イライスはどう、どうなさいます?本当に誰もいらっしゃらないと、あなたは」


「私からも質問です。ハイザンジェルは、魔物がいないのですよね?獣くらいですか?」


「え?・・・あ、はい。きっと。見ていないけれど、魔物は終わりましたから」


 綺麗な庭園はそのままで、どこからか庭師が出て来そう。初めてここに来た時と変わっていない印象(※730話参照)だが、季節の花は違う。夏真っ盛りではないティヤーの陽気でも、ハイザンジェルの夏からすると暑いかも、と比べてしまう。

 ハイザンジェルの夏は初めてで、イーアンは爽やかな東地域の涼しさに空を見上げる。人がいない、美しい荘園。美しい庭、大きなお屋敷・・・


 大丈夫なのかなと思いつつ、ここまで来たらイーアンに出来ることはない。

 イライスも感慨深げに門の外から中を見ていたが、足が一歩前に出た。帰りたいと数分前に願った足取りではなく、覚悟が籠った一歩。


「イライ」


「連れて来て下さって有難うございました。無事をお祈りしていますよ。頑張って下さい。ごきげんよう」


 名を呼びかけた女龍に、振り返った微笑み。一気に最後の挨拶まで済ませ、イライスは前を見て歩いて行った。

お読み頂きありがとうございます。


先日治りかけた指と腕の傷が少し開いてしまい、もろい皮膚が普通の状態に変わるまでのもうちょっとの期間、連日投稿を控えます。

出来る時に連日投稿もしようと考えていますが、一日おきが多いと思います。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願いいたします。

いつもいらして下さる皆さんに、本当に本当に感謝して。

暑い夏の盛りです。どうぞお体に気をつけて、無事にお過ごしください。


Ichen.

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