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魔物資源活用機構  作者: Ichen
十二の面、戻りし人々
2871/2954

2871. 馬車歌を想う・朝の予定・女龍から皆へ、エサイから獅子、ラファルから魔導士『大陸感想』、心の変化

☆前回までの流れ

皆が眠った後、治癒場では開放が始まりました。テイワグナやティヤーはまだ、治癒場に残っている人たちがいますが、少しずつ物事は次の段階へ向かって動き出しています。

今回は朝のアネィヨーハンから始まります。

  

 ―――『消えた命と消えた血の色。昼も夜も追われる身。万を持って1とする。1を持って万となれ。同じ土には2回まで。3と4は他の土。5と6は別の土。7と8は別の島。9と10はうんと下。それでも駄目なら11回目は王の心臓』(※344話参照)



 ヨライデは、どうなるのだろう。

 ハイザンジェルにいた時、この歌を知って魔物の数だ何だと息巻いた。


 イーアンはぼんやりと、窓の向こうの空を見つめる。明け方の空にたなびく雲。淡い黄色と薄い水色が少しずつ混ざり、明るい灰色が雲の影を作る。穏やかできれいな、ティヤーの海の朝・・・魔物はもう、ここにいないことと、昨晩、精霊が直していた様子を思い浮かべる。


 魔物は次の国で、待機しているのか。二万では利かない数。歌の数字を信じていない予想しかないけれど。


 今・・・いいや、バニザットの時代だって、そんな程度の数じゃすまなかっただろうに、何故この歌が残ったのかなと、考えても意味のないことに意識が向いた。

 分裂やあの手この手で増える事情は、嫌というほど応対した。でもそうした事実まで、馬車の民が気づいていたと思えない。それでも歌には、『目安の数』がある。


 イーアンの意識は、魔物の数から『馬車の民が知る不思議』へ傾く。


 なぜ、馬車の歌には、代表的な種族すら知らないことが出てくるのか、ずっと不思議だった。


 魔物の数もだけれど、その他諸々。龍を呼ぶ道具の作り方、治癒場の数や場所、何もかもが普通は知る由ないはずのことだらけ。


 メ―ウィックさんは更に不思議人物だけど、彼はまだ・・・彼一人で動き回って、色んな情報と繋がったのかなと思える。だが、馬車の民は全体の歌にそれが残っている。なぜ・・・・・ 



 ふと、イーアンは思い出す。大陸で、ヨライデの人たちも一緒だった光景を。ヨライデの馬車の民も連れて行かれた・・・あ、と気づいて眉根を寄せる。

 ヨライデの馬車歌に接触する前じゃん、と口を手で覆い、ヨライデが不利になる気がした。


「どうしよ」


「おはよう」


 ベッド足元に腰かけて呟いたイーアンに、背中から声がかかり、振り向く。目を開けたドルドレンが少し微笑んでいて、イーアンも微笑み返し、『おはようございます』の挨拶。

 寝たまま両腕を広げたドルドレンに、ぱたっと倒れ込んでギューッと抱き締める。ドルドレンもイーアンの角に頬を寄せて『久しぶりだな』と笑った。


「君を抱き締めるのが、こんなに減るとは思わなかった。ずっと抱き締めたかった」


「私も何度ドルドレンに会いたいと思ったでしょうか。慣れたけど」


 慣れなくて良いんだよ!と笑うドルドレンが、イーアンの笑顔を撫でて『君は何でもすぐ慣れてしまうけど、俺と離れることに慣れてはいけない』と頼み、それから『どうしようと聞こえたが』と話を変える。


「起きたばかりで、また問題か?」


「いいえ・・・いや、どうかしら」


「その言い方からすると、『問題あり』だ」


 ハハハと笑う伴侶にイーアンも笑って、抱き合ったまま『あのですね』と起きがけ早々、伴侶に馬車の民の不思議を話す。ふむふむ聞いたドルドレンは、話し終わった奥さんを見て『俺も分からないが』と前置き。


「でも。今日一つは答えが出せると思うよ」


「今日はお出かけするんでしたっけ。ポルトカリフティグとお話が、って」


「そう。彼がね・・・イーアンは見たかもしれないが、馬車の民が世界の人々を引率する前」


 大陸到着時点では、馬車の民と精霊だけで、その時に馬車の民から預かったものがあるという話。それがヨライデの馬車の民からの預かりものだから、と言うと、イーアンは目を大きく見開いた。


「もしかして。ティヤーの馬車の民が持っていた骨みたいな」


「多分そうではないかと思う。今日、受け取るから待っていなさい」


「そう言えば、あなたはティヤーの馬車の家族から・・・十番目の家族の、歌の骨を。あれは」


「渡しそびれたのだ。俺が持っている」


 ちょっと申し訳なさそうな伴侶に、イーアンも『仕方ない』と慰めて、もしかするとそれも運命かもしれないしと続けた。


 二人は朝陽が入った部屋で少し黙る。『起きようか』と頷き合ってベッドを出て、水を飲み、ドルドレンは着替えて、イーアンは台所に行きかけた。が、ドルドレンに止められる。


「俺は買い出しに出てしまうのだ。君もどこか行くだろう?」


「はい。今日はほら、皆さんが一部的に世界に戻されているかもしれないから。私は各国を見てこようかと思いまして」


「うむ。そうなさい。気になるし。で、だね。イーアン、朝食の席で『大陸』について話せることがあれば、少しで良いから皆にも話せるだろうか」


「それは・・・民を見送る一部始終?」


 そのこと?と聞き返したイーアンに、ドルドレンは『もし伏せねばいけないなら無理は言えないが』と遠慮がちに頷いた。昨晩は時間がなかったし、良かったらどうやって『淘汰』が行われたかを知りたい。そう話す伴侶に、イーアンも『それは話して良いと思う』と了解する。


「隠すことでもないです。大陸そのものについては、私も話して良いのか躊躇います。でも人々が旅立つ姿、お話して大丈夫でしょう。止められることもなかったし」


 女龍は微笑み、『あとで』と朝食の準備に部屋を出た。ドルドレンは彼女の微笑が、とても悲しそうに見えて・・・馬車の民がどうなったかを案じる。



 *****



 久しぶりが続く―――


 食堂に入るとミレイオが食卓を拭いていて、イーアンは笑顔で腕を広げ、抱き着いた。『おかえり』と抱き合って、『長く会えなかった気がする・昨日はすれ違いだった』と喜びながら、台所へ入る。


 ミレイオの報告は食事中にとして、まずはロゼールが分けておいてくれた、朝食用の食材を作業台に載せたところで、そのロゼールが馬の世話を終えて船底から戻った。


 彼も料理に参加し、三人では少し狭い船の台所で、仲良くテキパキ、あっという間に朝食完成。


 食堂へ入ってきたドルドレンが、『手伝う』と人数分の水と取り皿を運び始めたすぐ、褐色の騎士が『おはよう』と爽やかな笑顔で挨拶するや、こちらも作業台脇の食器や台布巾をちらっと見て、手を伸ばし、すぐにお手伝いを始める。


『騎士は動きが良いのよね』と笑うミレイオに、イーアンも『騎士修道会はきちんと生活の基盤を習うから』と三人のさり気ない動きの良さを褒めた。


 シャンガマックが船に戻るのは久しぶり。ロゼールが船にいるのも久しぶり。ドルドレンもしばらくいなかった、なんて話していると、シャンガマックが台所に来て『他には?』と手伝いを尋ねた。


「野菜と主食を運ぶだけよ。ね。ホーミットは?あいつの分も持ってくの?」


 持って帰る気かと思ってミレイオが気を利かせると、シャンガマックはちょっと甲板の方を見て、『いいえ』と返事。


「父は・・・用事があるとか。甲板で降ろしてもらったんですが、もういないと思います」


 だから俺一人で食事を、と微笑む騎士に、珍し~とオカマと女龍は顔を見合わせ、ロゼールが苦笑した。



 朝食の料理を運ぶと、良いタイミングで起きて来たタンクラッドとオーリンが加わり、少し遅れてルオロフが食堂に入る。寝すぎてしまったと、朝一で謝る貴族に、疲れていたのよとミレイオが着席を進め、揃って朝食。


 まずは今日の予定から確認で、出かけるのはドルドレン、ルオロフ、イーアン。ドルドレンとルオロフは、食事そこそこで出る。


 ルオロフは、総長の買い出しに付き合うのだが、『店の人がいないけれど、値段表を読むため』で、荷物も運ぶ。これを聞いたミレイオが『え?一人で運ぶ気?』とドルドレンを見たが、ドルドレンが頷くと同時、ルオロフが『私は重い荷物も問題ありません』と笑顔を向けた。


 ドルドレンも最初に聞いた時は『えー』と反応したが、ルオロフが怪力と遠慮がちに言われ、そうだったと思い出してお願いした次第。シャンガマックとタンクラッドは、ルオロフの怪力を目の当たりにしたことが度々あるので、フーンで終わらせる。


 ドルドレンは買い物の後に出かけ、帰りがいつになるか決まっていない。『相手は精霊』ということで、皆も了解した。


 イーアンは、各国の様子を見に出かけるが、イングがいないので一人で視察。状況確認後はイヌァエル・テレンに『ちょっと用事(※小石返せって言われてる』で上がるが、すぐ戻るつもり。


「あんたがすぐ帰ってきたことって、数える程度よね」


 主食を齧りながら茶化すミレイオに、イーアンは『できるだけ早く帰るつもり』と頷く。


「男龍の話も聞くと思うのです。決戦中、彼らの動きは今回多かったし。それを聞いたら戻ります」


「白い筒・・・世界中で生じたって話だな?」


 茹で豆の鉢をおかわりするタンクラッドが尋ね、イーアンが『そうらしいので』と答えると、剣職人は少し彼女を見つめ『トゥが』と話を変えた。



「俺はその時、アマウィコロィア・チョリアにいたから知らないが、トゥが・・・ザハージャングと戦った時も、確か白い筒が出たんだろう?」


 タンクラッドは、白い筒連動で空間が閉じた展開や、大陸での影響について知りたいようで、この話が出たならと、予定確認を終わらせたドルドレンが、イーアンに視線で『大陸の出来事』を促した。



 *****



 イーアンが見た、大陸での一部始終。

 正確には『大陸に入ってから、出るまで』ではない。どんな風景で、どんな性質を感じさせたか、そうしたことは伏せた。

 無限に続くらしき、移動しても進まなかった時間の不安や、中に入ったら嵐も何もなかったなど、それらは『今回』に関係ないと判断する。


 ラファルを見つけ、エサイと合流し、門と思しき地点へ到着してから、ザハージャングが門番に定められた。

 これは昨日と同じ出だしで伝え、その後の様子を詳しく話す。


 ザハージャングとトゥの対決については、最初だけはイーアンもその場にいたから説明したが、『見たのは最初』で、トゥに追い返されたから最後まで見ていない。そして、彼らが対決している間に、白い筒の一回目が起き、イーアンはこれに対応していないと教えた。


「大陸の中にいると、外の出来事が分かりにくかったです。広いからですが」


「大陸だもんな」


「はい。えらい広さですよ。飛べたから良いようなものの・・・ でも、民は精霊ポルトカリフティグに導かれて、門まで来ました。私たち、エサイとラファルと私の三人は、民が異界の門をくぐる前に、ポルトカリフティグと話したのですが、ポルトカリフティグも人々と門でお別れだったようで、少しの会話の後、彼が一番初めに消えました。

 それからです。地上から空に向けて、宙が扉型に切られたように、こう、中心から開く」



 *****



「こんな具合で、奥へ向けて開いたんだ」


 手真似の仕草付きで、狼男が両開きの扉を奥に開ける動きをして見せ、獅子はちらとエサイを見た。


「奥は?何かあったか」


「ないと思うよ。見えないって言った方が良いか。強烈に眩しいわけじゃないけど、光の一色だ」


 エサイの『大陸話』を聞く獅子は、過去、魔導士の付き合いから大陸に謎解きで辿り着いたものの、手を出さずにいたため、エサイが見てきた情報と感想は知識に加える良い機会。


「で?今はザハージャングがそこで、ふんぞり返ってるわけか」


「ふんぞり返っていられる感じじゃなかったけどね。猫みたいに寝そべった程度だ。柱の内側から出られないみたいだし」


 身体が痛くなるとかは大丈夫そうだけどと、エサイのいつもの冗談めかす言い方で、骨だらけの奇獣の様子を話し、獅子もフーンと頷く。


「他は?俺に言えないことはあるか」


「あんたは俺の雇い主・・・って言っても、タダ働きだな」


「脱線するな。お前が報酬を受け取っても」


「言葉の綾だよ、怒るな。報酬が欲しいって話じゃない。じゃなくて、あんたが俺を管理していても、話しちゃマズそうなこともあるじゃん?それはあんたに直接関係ないし、俺が判断させてもらうよ」


 話せないことがある――― 遠回しなエサイの返しに、碧の瞳がじっと狼の顔を見て『勝手にしろ』と呟く。


「でも大体、起きたことはこんなところだ」


 狼男は両手をパンと軽く打ち合わせて、話を終了した。



 *****



 イーアンも、エサイも、そしてラファルも。

 ()()()()だけは触れない。


 口裏合わせたわけではないが、『自分たちが鍵で開く門』『この世界から出る時は自分が鍵』とポルトカリフティグに伝えられた情報は、秘中の秘に感じて誰にも言えなかった。

 イーアンはドルドレンに言えなかったし、エサイは獅子に伏せ、ラファルは魔導士に伝えず黙った。



 ラファルも、魔導士に『大陸での時間』を話して聞かせたのが、数日前。

 開いた門を人間が出て、用が終わって引き上げた後。何があったかを話している間、鍵のことが気になっていても、結局言わずにいた。


 魔導士も突っ込んで聞こうとしなかったし、ラファルは『鍵たる自分たち』の意味を気にしてはいたものの、顔にも間合いにも出さないものだから、普段の自然体で報告が終わっただけだった。


 でも、他の者たちと少し違い、魔導士だけは違う意味で、別の反応・・・



 *****



 時間の乱れが直り、通常に戻った朝。ティヤーの小屋では、魔導士がラファルに朝食を出し、彼が食べている間に片付けを始めていた。


「足りなかったら言えよ」


 居間の本を適当に見て、何冊か選んだ本を宙に消した魔導士が振り返り、朝食の量に遠慮するなと言う。問題ないと片手をちょっと振ったラファルは、彼に何をしているのか尋ねた。


「んん?これか?移動準備だ」


「移動・・・ああ、次の国ってことか」


「そうだ。ここに置きっ放しにしてもいいが、持って行った方が面倒のない物は、運ぶ」


 引っ越し準備中・・・ なるほど、と頷いて、コーヒーっぽいお茶を飲むラファルは、忙しそうな魔導士を眺め、彼が居間を出た背を見送る。自分は荷物もないし、手伝えることがあればと思った途端、『お前は休んでろ』と廊下から声が飛んできた。


「ふーむ。『念』の退治も、今は動かなくて良いと言われているし。やることがない」


 ラファルは窓の側へ行き、見慣れた海辺風景に『そろそろ、ここもお別れか』と呟いた。



 魔法を使う部屋で、ぶつぶつ独り言を落としながら、魔導士は作業を続ける。

 頭の中は、アスクンス・タイネレが占めているのだが。

 これまでの『行きたかった場所』の感覚ではなく、『そこまで気にならない』これが不思議で、その理由を考えている。


 あんなに、入りたかった大陸だというのに。

 ラファルから話を聞くまで『上陸した人間から詳細を伝えられる』と待ち侘びたのに。



「そうでもなかったな」


 必要な荷物を記録する手は動かしたまま、ぼそっと呟く。

 何でこんなに、関心が薄いのか。自分でも不思議過ぎて変に感じた。



 *****



 アネィヨーハンでは、朝食半ばでドルドレンがルオロフに目で合図し、二人は席を立つ。


 もぐもぐしながら『買い出しに行く』と手を振ったドルドレンの後ろを、きちんとフキンで口を拭った貴族が『では失礼します。美味しかったです』と微笑んで会釈しついて行った。


 彼ら二人が出る前の会話は、イーアンから『大陸』の話と、シャンガマックの『面完成』。


 この後、ミレイオが報告する。昨日の夜、ドルドレンには先に話したと前置きし、カーンソウリーで職人たちを手伝った開戦前~ヤロペウクが来た伝言まで。


 ここでもやはり、ヤロペウクの伝言のことは、言えなかった。


 皆も薄々、『同じ内容をイーアンにも伝えた』と変に感じていたが、ミレイオが喋りにくそうで目を合わせないため、誰も突っ込まず。


 それから、コルステインの報告も続ける。内容の半分は、トゥが倒した古代サブパメントゥで、そうなる前と後の立ち回り及び、今後の狙いが、報告の残り半分。


 これだけ話すと、ミレイオは早々に自分の話を切り上げ、朝食の席にいた一人一人に『昨日報告したんでしょ?私も聞かせて』と話を変える。


 皆から聞く話はどれも濃いものだったからか、ある意味異質なオーリンの報告・・・と言うべきか、告白にも近い『ニダへの想い』は、なんとなく平和で穏やかな印象を残した。


お読み頂きありがとうございます。

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