2866. 四日目の夜 ~③シャンガマックの報告・鐘の音は・センダラの焚火
※追記(24日)
熱と腫れの炎症が、両手、顔、首に広がり、痛みと痒さで気が散って、物語を読み直すのも書くのも全然進みません。これまでの経験だと、5日くらいは引くまでにかかるので、今回も一週間ほどお休みすることになると思います(;´Д`)。申し訳ないですが、どうぞ宜しくお願いいたします。
※明日から少しお休みします。あまり間を開けないようにしますが、両腕が腫れていまして、治してから始める予定です。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、どうぞ宜しくお願いいたします。
ロゼールの報告が終わり、夕食も済んだくらいで、シャンガマック親子の報告。
獅子は息子に任せ、シャンガマックから何があったかを聞く。言えることと言えないことがある、皆はそれを今回の内容にも感じた。
―――決戦前。シャンガマックは、剣を取りに故郷へ戻った。
剣を持つのを否定したが、剣に頼る事態が生じたら不利・・・と理解し、大顎の剣を再び求めるに至った。
剣は聖なる土地に封じられていたが、そこで『原初の悪』に見つけられ、攻撃を受ける。
実はこの手前で、獅子とエサイが『原初の悪』に狙われた事態があり、獅子もエサイも精霊ファニバスクワンに守られて、事なきを得た。その続きが、ハイザンジェルにダルナと来ていたシャンガマックに及び、ここではダルナとシャンガマックが倒れる由々しき状況に陥った。のだが。
『原初の悪』は、一人と一頭を気絶させただけで終わる。
意識のないシャンガマックとダルナは、精霊ファニバスクワンに発見されて、無事に介抱を受けた―――
因縁に近い絡み加減で、最近振り回され続けていたイーアンは、『え、原初の悪はどうなったの』と呟いたが、ちらっと見た獅子の目に『黙ってろ』の威圧を感じた。
シャンガマックも少し頭を掻いて、『俺も知らないから』と、言えることしか報告できないと改めて断り、話を続ける。
―――ファニバスクワンの元で回復し、ティヤーの状況を聞き、人が消えたことを知った後。バサンダが心配で、彼の作業を一時停止するよう、獅子に伝言を頼み・・・バサンダが船に来て、ニダに面の話を伝え、ニダに託した―――
重要なので、ここも伝える。
え?の反応が一斉にオーリンに向き、イーアンも『そうなの?』と目を丸くした。十二の司りにお面を渡しに行く役目は、ニダ・・・?
先ほどオーリンが飛ばした部分で、オーリンは今更気づき『わるい、言い忘れた』と謝った。悪気はなく、ニダを連れて行くことで頭がいっぱいだった、と顔を手で拭う弓職人。ドルドレンは、こんなオーリンを見るのは初めてと、ますます意外に感じる。
獅子は、無視。皆の視線がオーリンから獅子に注がれるが、シャンガマックは足元に寝そべる獅子の鬣を片手で撫でながら(※飼育員さん)、『父はバサンダの往復を手伝ってくれた』とだけ言い、ニダとバサンダの会話内容は知らないとも添える。
「あ、それは。あとで俺から話すよ、相談に同席したから・・・ 」
「はい。お願いします」
重大なことを言い忘れて恥ずかしそうなオーリンが『面の約束』詳細を引き受け、シャンガマックも脱線を戻す。
―――ホーミットが戻ったシャンガマックは、ファニバスクワンの命令に従って、ティヤーの『精霊の檻』を立ち上げた。これをシュンディーン一人が担当した話。
場所はアピャーランシザー島で、サーン農家地区の裏手側。ここで現れた人型動力と、『悪党』を退治したが、少数で終わり、そこから魔物退治の連続だった―――
「俺は檻を出すと、その場から離れられません。完了するまで側にいないといけないので、発動地一ヶ所で戦いました。父も一緒にいてくれましたから、時空亀裂の対処は任せました」
剣も使ったのか、とタンクラッドは聞こうとして、やめる。使った気がする・・・ タンクラッドは『悪党』を切らずに済んだが、彼は出くわしている。人型動力と悪人どちらも、剣を振るう対象になると思えば、わざわざ聞くのもと口を閉じた。
タンクラッド的には、鞘に収まる剣を見ていないし、剣の状態を確認したいだけだったが。
親方がじーっと見ているだけで、報告は〆られ、他の者も特に質問なし。
精霊の檻に救われたと、ドルドレンが呟いて、シャンガマックは『良かったですよ』と、総長からサブパメントゥを退けた話に微笑んだ。
「魔物が引くまでが本当に長くて、精霊の檻の完了も気づかなかったのですが。魔物が急に引いてきて、それでようやく終わりか、と」
これはイーアンが答える。
「各地で連動した白い筒の合間を置かない衝撃の連続により、時空の乱れが消えたみたいですね」
「そうか。時空を壊したり、亀裂を作ったり、龍の威力はどちらにも作用するが」
「ね。私もおっかなびっくりですよ。思いっきり吹き飛ばせば閉じますけれど、軽い衝撃に加わると亀裂も増えるとか、意味がまだよく分かりません」
怖いことでと、真顔で不思議を語る女龍に、誰もが『この人、最強の力で分かってないのか』と少々不安を持つが、シャンガマックも苦笑して『そうだな』と返し、ふと思ったことを尋ねた。
「ところで、ヤロペウクは最後の合図のことを・・・説明していなかったか?」
イーアン、きょとん。皆さんもイーアンを見る。イーアンはヤロペウクに詳しく聞いていないが、思い当たることはあった。
「ヤロペウクに聞きそびれたのです。でもあの鐘の音、前にも似たようなものを聞いた覚えがあります」
女龍の言葉にドルドレンも彼女に目をやり、視線が合う。イーアンとドルドレンは同じことを考えていると互いに感じ、『あの時の』『似ていませんか』の短いやり取り。そこに獅子も少し反応するが、獅子は黙っておく。
「テイワグナ決戦で、最後に空から現れた大鎌の(※1692話参照)」
あの時は合奏だったけれど、と付け足すイーアンに、ドルドレンもそう思うと同意。シャンガマックはあの時、離れた丘でその様子も見ていたが、今回のけたたましい轟音とは全く似ても似つかないように思い、眉根を寄せた。
「すまないが、あれは美しい音のように覚えている。俺は今回の『最後の合図』は、危険なほど煩い音で、大鐘が何百と頭上で鳴るように感じた。イーアンと総長は、違う音を聞いたのか」
シャンガマックが怪訝そうに印象を伝えると、タンクラッドやロゼールたちも『すごい煩さ』と異口同音。ちっとも良い印象がない騒音、とルオロフが呟いて、それも頷かれる。
ドルドレンとイーアンも目を見合わせ、『確かにそうだけど』と言うので、二人も同じ音を聞いた様子なのだが、言うことは違う。
「でも。テイワグナで、空から聞こえた合奏の一部がそうでしたよね」
「俺も聞いた気がする。他の音が大きかったのだ。今回の鐘の音も混じっていた」
テイワグナで起きた魔物の王の違反と違うから、一部的に出現した『大きな力』があれではないかとドルドレンは言い、イーアンも感覚的にそう受け取った。
結局のところ、推測の域は出ないため、けたたましい鐘の音は『清め・封じ・浄化』の一端も担った、無難な解釈で落ち着く。
獅子は話に加わらなかったが、二度目の旅路でああした音を聞いた記憶を重ねていた。その時も、世界の中心を握る精霊が動いた・・・・・
「では、報告も一周した。掘り下げて訊きたいことも、伝えたいことも、時間のある者は話し合うと良い。イーアンとシャンガマックは今から出かけるのだな?」
ドルドレンが場を〆て、女龍と褐色の騎士は頷く。イーアンはサンキー宅の守り強化、ティヤー各地の再現へ。シャンガマックは、面師を見に行く。
洗い物をロゼールが引き受けてくれたので、イーアンはお礼を言い、すぐに出発。シャンガマックも皆に挨拶し、獅子と共に影へ消えた。
「誰もケガをしなかったのだな」
食堂に残った面々を見て、ドルドレンはホッとする。皆の無事に感謝するばかり。
タンクラッドやオーリンたちの視線が交差し、ここを少しとか、ちょっと打ったとか、ちらほら軽い怪我を口にするが、これまでと比べると無傷状態に等しいなと笑った。
「良かった」
決戦前から強制留守で、全く地上の状態を知らずにハラハラしていたドルドレンは、笑みがこぼれる。椅子を立ったタンクラッドが側へ来て、『よく戻った』と両腕を広げ、甲板でも抱擁したけれど、もう一回ドルドレンを強く抱きしめた。
「勇者不在の決戦か、と思ったぞ」
「ハハハ。俺も心配だった」
抱き合って、顔を見合って笑い、皆に迷惑を掛けたというドルドレンの背中を、タンクラッドはポンと叩く。
「なんだかな。お前の留守の間に、世界が魔物重視じゃなさそうな流れになっている気がして。人間がいない世界で、代表のお前は健在だ。お前の荷は、人間代表で終わらなさそうな懸念も出て来たな」
鋭いタンクラッドの言葉に、ルオロフたちも薄々感じていたことを重ね、ドルドレン本人も『そのとおりに思う』と同意したが、分かっていることはあまりにも少ない、それも事実だった。
*****
アネィヨーハンの夜は、残った仲間の終わらない会話が続く。
同じ頃、遠く離れた北東の島では、蛇の子と焚火にあたるセンダラが、空を見上げていた。
「寝ないの」
「あんたも起きてるじゃない」
「俺はやることなくて暇だったから、寝っ放しだったんだよ」
「寝てなさい」
ミルトバンは、妖精の結界の中でうろうろ。毎度のことだが、落ち着きなく動き回り、センダラもそんなミルトバンに慣れているので、気にせず物思いに耽っていた。
「ずっと気にしてることがある?」
「はい?」
側に来たミルトバンが、センダラの横にとぐろを巻く。妖精の焚火は、ティヤーの夏に不要そうでも、蒸し暑さや湿気のある冷えなどの不快感を遠ざける。快適な湿度と温度に守られて、ミルトバンがセンダラの座る膝に腕を置くと、センダラは彼のツルツルの頭を撫でた。
「あんたは私が、何か気にしてるように思うわけ」
「俺は元気じゃないか。今回は始まる前から、センダラが守りに入って」
「不満だったの?」
ああ言えばこう言うセンダラだが、ミルトバンもこの調子には慣れているので『俺のことじゃないなら、決戦で何かあったかなと思う』と話を進め、センダラはふーっと息を吐いた。閉じた瞼で空をまた見上げ、『ちょっと』と呟く。
「意外と、多いの」
「・・・何が?」
「私たちみたいな関係よ。異種族でも、一緒に過ごしている・・・妖精を、何度か助けたわ」
センダラは淡い橙色の炎に、ふっと息を掛け、炎は薄い水色に変わる。見て、とミルトバンに炎を示し、ミルトバンは焚火の水色を見た。そこに、どこかの島を空から見た風景が映る。
「ここにいたの?」
「ここにもいたの」
そう答えて、妖精はミルトバンを撫でていない方の片手を振り、次々に島を炎に映して『結構いたのよ』と教える。口調はいつもと変わらなくても、ミルトバンにはセンダラが悩んでいるように感じた。
「助けた、って。妖精は強いのに。魔物が多かったから、センダラが手伝ったの?」
「そうね。後半は魔物がバカみたいに増えたし。妖精でも、私ほど強い妖精はいないって言ってるでしょ。魔物が多くなると、守らないといけない・・・から」
ピンと来るミルトバンは、異種族を守るために力を使い切ってしまったり、身動きとれずに助けを求める妖精を想像する。センダラは彼の考えていることが分かるように溜息を吐き『共倒れしかけてるのに』と。
「守りながら、守り切れなくて、ってこと?」
「そう」
「センダラは助けたのに、何で寂しそうなの」
「他にもいたかもって思うのよ」
「ああ・・・そうか、そうだね」
助けた妖精が意外に多かったのも驚いたが、こんな形で共存している妖精が他にもいると、事実を突きつけられたような気がした。
「ミルトバン。私はあんたがいなかったら生きている意味を忘れるわ」
「うん。何度も言ってくれるよね。俺もそうだよ」
「皆、そうだったの」
「・・・うん」
どこかで力尽きた、助けられなかった仲間の妖精を思い、センダラが塞いでいるんだと分かったミルトバンは、センダラを待ち続けてようやく会えた日のことを思い出す。暫しの沈黙を置いて、パチパチと静かに燃える焚火に、蛇の子は顔を向けた。水色の炎に映ったいくつもある島では、センダラに救われた妖精と異種族が、もう安心しているのか。
「もっと、自由に」
ぼそっと呟きが落ちる。センダラの少し掠れた声は、珍しい。いつも鈴のような澄んだ声なのに。ミルトバンはセンダラを見ないであげた。自分の頭を撫でる手が止まり・・・ なんて励ましてあげたら良いのか、ミルトバンは良い言葉が思い浮かばなかった。
「敷居が高いのよ。妖精は」
持って生まれた種族の特性、他と一線を引いて付き合う差別的な要素は、妖精の感覚に染みついて長い。
そんなものがなかったら、もっと自由に異種族とも付き合えて、助けてほしかったら女王にも助けを求められるかも知れない、とセンダラは―――
こんなことを考えるようになった自分が不思議で。
助けの声を上げられないまま力尽きた仲間の妖精に、涙が出て。
ミルトバンを抱え上げ、膝に乗せて抱き締めた。
ミルトバンもセンダラを抱き締めて、長い金髪を撫でる。
「いつか。最強のセンダラが、妖精の在り方を決められたらいいね」
思ったことがするっと漏れた。センダラは、涙を頬に伝わせながら、少し、その言葉に考えて、『そうね』と蛇の子をまた抱き締めた。
焚火に映る島々では、生き長らえた妖精と異種族が、魔物の去ったこの夜を喜んでいる。それを想像して、センダラは自分のすべきことを考え続ける夜―――
*****
センダラが、今までにない感覚を宿らせて、未来を思う時間。
テイワグナへ出かけたシャンガマックと獅子は、というと。
お読み頂き有難うございます。
明日23日から数日お休みします。読み直す予定に、体調崩れも加わり、少し長引くかも知れませんが、治り次第また投稿するつもりです。
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願いいたします。
いつもいらして下さる皆さんに、心から感謝します。
気温が高く、台風や雨もありますから、お体に本当に気をつけて。
私の両腕も、ストレスと汗の関係で突発的に腫れあがったようで、暑いだけでは済まず、変な影響が体に起こることもあると思います。どうぞ無理されないよう、ご自愛ください。
Ichen.




