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魔物資源活用機構  作者: Ichen
鐘の音のあと
2865/2956

2865. 四日目の夜 ~②剣の話題・サンキー宅補強・ルオロフ、タンクラッド、オーリンの報告・ニダの乗船論議・ロゼール参加

 

『サンキーさんの家の守りを、強化できませんか?』―――



 この一言で、イーアンの顔色が変わる。何かあったかと慌てた女龍に、ルオロフは急いで『そうじゃなくて』と説明した。


 サンキー宅へ行った午後・・・ ルオロフの報告は、前半がドルドレンを驚かせ、後半はイーアンたち全員に不安を過らせる。タンクラッドは先に聞いていた話だけに静かだった。怪訝そうな反応を示したのは―― 誰の目も引かなかったが ――食卓下の獅子だった。



 ルオロフが退けた、得体のしれない敵・・・

 ()()()()()()、と見当をつける獅子だが今は黙っておく。

 行けば分かることで、サンキーが狙われた理由も何となく見えたにせよ、それもヨライデに入ってからで間に合いそうな気がする。


 可能性の高いのは、あの『姉弟』。だが弟はあの性質じゃ削られているだろう。

 殆んどの人間が連れて行かれた中、何かの保護下でデオプソロあたりは残されていてもおかしくない。と、ここまで獅子は考えて、やめた。

 デオプソロが善人であろうがなかろうが、古代剣を使い、願いや未来の指示を叶えて来た経験から、またも頼った・・・



 獅子の推察は、誰に伝わることもなく、食卓は『サンキー宅に来たサブパメントゥ、それを切った古代剣』と『おかしな敵』の話題に染まる。

 シャンガマックも実は少し『ヨライデ』の線を考えていたが、彼も証拠不十分の不安に対し、思い浮かべただけのことを口にはしなかった。


 しかしそれにしても、『サブパメントゥを切る剣』には・・・・・ 剣職人は勿論、狙いをつけられているドルドレンも然り、シャンガマックも驚いた。で、この時ようやく、皆がやんわり見逃していた『シャンガマックの剣』にも話が振られる。甲板で彼を見た誰もが同じことを思っていた、それ。


 ルオロフの話から脱線するが、ところでシャンガマックの()()は、と尋ねたのが総長。言い難いことは大体が総長の役目で、シャンガマックは頭をちょっと掻き『必要が出来たので』ぼそっと答え、言い訳しがちな息子に変わって、獅子が続きを引き受けた。


「バニザットに剣を持てと言ったのは、俺だ。俺もダルナもいない時、バニザットの魔力が封じられたら丸腰なんだぞ」


 誰も責めていないのに・・・何か、攻撃されたから言い返す、みたいな獅子の口調に、皆は、分かったと頷いて終わる。実際、シャンガマックの丸腰は気になっていたので、ドルドレンも剣職人も『良かった』『大顎の剣がまた戻ってきたな』と一緒に喜んでいた。


「ミレイオには」 「俺が言う。お前も出かけるのだろうし」


 ちら、と女龍に気を遣ったシャンガマックの視線を戻すように、間髪入れずにドルドレンが返事をし、目の合った女龍はシャンガマックに微笑んで『良かったです』と頷き、シャンガマックは総長によろしく頼み、この話は終わる。



 *****



 脱線を戻して、再びルオロフ。サブパメントゥの()()()()を切った剣を持つ男、として今夜認識が高まり、ルオロフは『あのサブパメントゥ()()()()知れませんので』と皆の過剰な期待を止めた。


「それよりサンキーさんの家です。ついさっきのことですから、サンキーさんも不安で」


「そうですねぇ・・・うん、では後で、私が行ってきます。結界も、いつまでもつかなと思っていたし」


 爆弾発言をうっかり呟いたイーアンが、ピタッと止まる。さっと向かいを見てルオロフと目が合う。スッと逸らした斜め向かいで親方の視線を受け、イーアンは違う方を見た(※逃げ)。


 まぁそんなすぐ効力が切れるとは思っていなかった、とか何とか、ごにょごにょ、下を向いて言い訳する女龍を、ルオロフは怪訝な眼差しで見つめ、オーリンに肩をポンと叩かれて、顔を伏せた(※母を疑う)。


「とりあえず、行きますから安心を」


 違う方を向いて、一人、うんと頷く女龍に後を任せることにし、サンキー宅の問題は解決する。

 んんっ、とこもる咳払いをした貴族は、気を取り直し改めて『決戦が始まってからの報告ですが』と一部始終を伝えた。


 船の留守番をしていたが、コイヤーライラウリ港で騒ぎを聞きつけて参戦し、『クフムに留守を預け』と挟んで、沈黙。皆の視線が一周して察し、ルオロフは『それから』とアマウィコロィア・チョリア島及び近くの島の、魔物と人型動力を倒し続けたと伝える。


 人が消えた後、戻ってきたタンクラッドと合流し、以降は一緒に動き、午後はサンキー宅の護衛。ここまでの報告で、『それと動物たちのことですが』生き物は神様が預かっています・・・とそれも話した。


「生き物はいつ戻されるか、何も聞いていません。様子を見計らって戻されると思います」


 ルオロフが知らないことを、突っ込んで聞いても意味はないので、ルオロフの報告は終わる。

 イーアンもドルドレンもルオロフも、報告だけだと気になる箇所が沢山あり、話の腰を折って質問をしたくなるばかりだが、いつまた離れ離れになるとも分からないので、とにかく共有するのみ。



「俺は大して報告もない。殆んど、トゥのことだけだ」


 タンクラッドは報告する内容に特別がないと先に言い、背凭れに体を預けて右手の平をオーリンへ向けた。オーリンの黄色い目が剣職人を見て、『俺も』と言いかけて寂しそうに目を伏せる。


「オーリン、お前の報告を。俺の報告は本当に短いんだ。トゥが、サブパメントゥとザハージャングを計画通り、やっつけた、それくらいだ」


 何の話か分からないなりにドルドレンは気になったし、シャンガマックも親方の報告をもう少し聞きたかったが、タンクラッドに話す気はなさそう。イーアンとルオロフは、小島で報告をされたので頷いて先へ流す。


 言い出しにくそうなオーリンは、後を引いて食べていた手を止め、ふーっと息を吐くと両手で髪をかき上げた。その顔が寂しそうに見える。


「後半はさ。俺も悪人退治一本だ。気分は悪いが、海に沈め続けた」


「前半は」


 すかさず突っ込むイーアンに、オーリンはもっと悲しそうな目を向ける。言わないと、と少し顔を揺らして無言で応援するイーアンに、オーリンも頷く。この二人のやり取りで、ドルドレンはどうしたかと思ったが・・・ 続く話に、なるほどと理解した。


 クフムが消えたのも寂しいし、オーリンが助けたニダが消えたのも寂しい。ニダは戻ってくるだろうが、帰る場所もないしと、歯切れ悪く説明する弓職人に、誰もが彼の言いたいことを察した。


 ドルドレンだけは、ニダについて二つ三つ質問をし、オーリンは総長の口調が穏やかでも、気を遣って答えた。ニダが悪く思われないよう、ニダに何があって、自分が責任を取ろうとしているのも、言い訳がましくならない形で伝えた。


 こんなに、誰かのために心を砕いて考えるオーリンの姿は初めてで、ドルドレンは自分が騎士修道会に孤児や被害者を保護して連れ戻った時を重ねる。



「ニダを、連れて行きたいのだな」


「総長。ニダは普通の人間だ。戦力どころか、仕事も限られた範囲しか知らない。でも信頼できるし、俺が管理するから」


「俺は拒否をしていない、オーリン」


「・・・そ、そうか」


「ニダの慕うチャンゼという宣教師は気の毒だった。それはコルステインが助けてくれたのだ、と俺も思う。だから、オーリンが気にすることではない」


「え?あ、ああ。まぁ、でも」


 雲行きが変わった気がして、皆も『?』の眼差しで総長を見るが、ドルドレンはオーリンから目を逸らさない。


「また、訓練所で親睦を深めた職人たちを、お前が殺したという話だが、それも周囲の職人には理解が得られていたようだし、ニダは若さから、急なことに感情が追いつかないだけである」


「あー・・・そうだけど」


「ニダは成人しているし土地勘もある。無事を思うだろうが、ティヤー人の悪漢はもういないと思っても良い」


「ちょっ、総長。ちょっと待ってくれ。そうかもしれないが」


 ドルドレンが丁寧にお断りをしている気配から、イーアンたちもガン見して眉根が寄りまくる。そろそろドルドレンを止めようかしらとイーアンが心配したところで、オーリンが遮り、ドルドレンは『何だ』と質問を受け入れた。


「ニダを。乗せたらダメか?クフムも乗せたのに・・・船、ええと、ヨライデでは馬車だけど。俺の寝台でも」


「お前はそれで、ニダをハイザンジェルまで連れ帰るのか」


「そのつもりだ。その、皆に言うのもと思ったが、養子にして」


「オーリン。お前はとても友達思いで人情に篤い男と、俺も分かっている。そして責任感も強い」


 少し、声が低くなったドルドレンに、場が緊迫する。ドルドレンは、心配そうに見つめる黄色い瞳に真っ直ぐ話しかけた。


「俺は、騎士修道会で数えきれないほど、戦の孤児も障碍者も保護してきた」


 この一言に、ロゼールとシャンガマックが目を見合わせる。ドルドレンに意見しようとしたオーリンも、口を挟まずに頷く。白髪の多くなった髪を片手で撫でつけた総長は、ふーむと息を吐いて、ちょっと間を置き、諭すようにオーリンに告げる。


「一生を添い遂げるかも知れない覚悟を、毎回持った。連れ帰る時のことだ。保護し、国の福祉に任せるのが普通だが、中には一桁の子供もいる。大怪我で親も何も殺されてしまった幼い者は、縋りついて離れるのを嫌がる。俺は彼らを保護して、部屋に入れて一緒に眠った。話して聞かせ、福祉に預ける時まで、彼らの反応は分からなかった」


 急な思い出話にたじろぐが、オーリンは総長が言いたいことを感じ取る。つまり、ニダがいたら俺が心変わりして結婚だ何だというのも、と言いたいのだろうかと。でもここで答えは出ない。


「俺はこうした性格で、騎士修道会をまとめる立場にいたから、それでも良いと常に腹を決めていた。引退しても孤児を守る人間であろうと」


 ドルドレンらしい決意に、イーアンは『私も保護して頂いて』とちょびっと感動を呟く。ロゼールは、子供の頃に引き取られたので、総長の保護は何度も見ていたし、シャンガマックも、遠征から戻った総長が連れてきた子をよく世話してやった。

 人の衣食住を預かる意味、その先の未来を言いたいんだなとシャンガマックは察する。部下たちにちらと視線を向け、ドルドレンは黙っているオーリンに尋ねた。



「オーリンは独り身で暮らしてきたが、ニダは何と言っているのだ」


「ニダは、喜んでいた」


「そうか。その笑顔を一生守る気なら良いだろう、と俺は言いたかった。そのつもりだ、と言いたそうだが、もう一言加えると『ニダが離れたがった時、お前はどうするのか』も考えた方が良い」


 それが笑顔を守る、という意味だ、と静かに結んだ総長に、オーリンは彼を見つめ『当たり前のことを聞くなよ』と嫌そうにぼやく。少し怒った顔つきのオーリンだが、イーアンは彼が受け入れたのが分かった。


「若いにしても理解はしてもらいたいところだ。戻ったらニダにも、俺が伝えたことを話してくれ。互いの絆が堅固であることが、旅に付き添わせるには必要な条件である」


「クフムは」


「彼は、イーアンが殺す脅しで管理した。裏切る裏切らないはニダに関係ないが、オーリン。お前も俺たちの家族であり、ニダもこの旅に同行する家族になるのなら」


「わかった」


 オーリンはあまり気分が良さそうではないが、受け入れ、それから他の者を見る。タンクラッドは別に気にしていないが『ミレイオにも言わんとな』とは言った。

 ルオロフもニダと話したことはあるし、自分も同行だから口を挟む立場ではないと弁え、ロゼールは少々複雑そう。シャンガマックもニダとは面識有りなので、そうか、としか。だが、もう一人がそうもいかない・・・



「おい。俺を見たらどう、と言っていなかったか?」


 不意に、足元で寝そべっていた巨体の獅子がどすの利いた声で尋ね、オーリンは振り向く。


「お前の感情はどうでもいい。俺が来る度に、俺から隠す気か。それとも俺に近寄るなというか、どうだ、オーリン」


「あ・・・いや、それは」


「お前が情にほだされて連れて行くなら、旅の仲間の俺を優先しろ。コルステインもだ。イーアンと俺たちに差がないようにしろ。分かるか?異形の姿を見る度に悲鳴を上げたり、隠されるなんてふざけた真似するなら」


「しない!しないよ、そんなふうには」


「当たり前だ。仲良しこよしで世界を動かす旅に付けるわけじゃない。お前は、()()()()()。主役は俺たちだ。()()()()()が怯えるからって、俺たちに一切の不自由を課すなよ」


 シャンガマックは、獅子の言葉を止めかけて止められなかった。言い出した時はギョッとしたが、父がそう言うということは、何かあったんだと理解して、オーリンを見る。



 ニダが怖がるから、隠す――― この話は、この場でオーリンと獅子しか知らず、獅子の口調はきつかった。



 オーリンは不意打ちに言い返せず、獅子の碧の強い視線から目を逸らした。『同行の同行』と言われた一瞬、うっかりしていた立場を思い出させ、オーリンは『面倒はかけない』と少し弱気で呟いて終わる。


 何があったか知らなくても、ドルドレンもイーアンも、タンクラッドも・・・獅子の意見には反対しなかった。



 *****



 それから、話はロゼールに移り、彼は皆にハイザンジェルでの状態を話し、暫く機構も動かないだろうしと、ロゼールも同行が長引く。話の合間、時々ロゼールは言い忘れはないか、黙って思い出していたが、淡々と・・・必要なことを伝え終えた。



 彼がこの場で話すことを選ばなかったのは―― 船に戻ったばかりの時刻、ミレイオと一緒に見た『ヤロペウク』という大男のことくらい(※2681話参照)。

 イーアンが話したヤロペウク情報と近い内容だし、ミレイオだけに何か伝えたのは聞こえなかったから。



 ロゼールが話している間、獅子は静かで、彼がヨライデにも一緒に行き、国に帰らず側にいる内容も、何の反応もしなかった。それは、ニダとロゼールの違いをまざまざ、オーリンに感じさせるに十分な態度でもあった。


 思えばロゼールは、コルステインたちの家族に引っ張り込まれてから、すぐに獅子にも挨拶し、何の恐れもなく旅路に参加した。ドルドレンが止めても窘めても説得しても、『俺は一緒に戦う』と意地を張って貫いたのだ。


 ニダに・・・それを求められるわけはない。ロゼールは騎士で身体能力も高く、戦歴もある。


 一般人で、保護される対象にあったニダを連れて行く。それをオーリンは曲げる気などないが、ニダがどこまで耐えるかは、若干気になった。

 あからさまに敵意を向ける獅子や、旅の仲間でもない人間が増えることを疎むセンダラの存在を・・・ニダを連れて行くなら、オーリンは考えなければいけなかった。



 この夜の話から、オーリンの行動が変化する―――

お読み頂き有難うございます。

7月23日から少しお休みします。

読み直しの他、昼に両腕が急に腫れてしまい、これを治すのも日数に入ってしまいました(-_-;)。

ご迷惑をおかけしますが、どうぞ宜しくお願いいたします。


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