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魔物資源活用機構  作者: Ichen
鐘の音のあと
2864/2956

2864. 四日目の夜 ~①8人の夕食・ヤロペウク情報・イーアン、ドルドレンの報告

 

 ミレイオはサブパメントゥに戻っており、シュンディーンは、親元。

 シャンガマック親子は、精霊ファニバスクワンにそれを聞いた後、労いの言葉を受け、船へ戻った。


 イーアンはずっと協力してくれたダルナや異界の精霊を返してから戻り、センダラ、コルステインもそれぞれ現地解散で帰った。


 オーリンは単独行動で見切りをつけたから戻ってきたと話し、ドルドレンはポルトカリフティグに判断されて帰船。

 ルオロフは出先からトゥとタンクラッドが連れ帰り・・・ハイザンジェルから戻ったロゼールも含め、黒い船アネィヨーハンには現在、8名。


 ドルドレン、イーアン、タンクラッド、シャンガマック、ホーミット、オーリン、ルオロフ、ロゼール。



 サブパメントゥにいると連絡がつかないミレイオも、『そろそろ戻っても良さそう』とロゼールは話す。


「ミレイオが出てから、6時間そこらです。でも実際は」


「はい。夜が来たら()()()()()だそうですから、ミレイオが出てからの6時間は一日未満くらいの時間が経過しているでしょうね。といっても、場所がサブパメントゥだから、あんまり関係ないかもしれませんが」



 ―――戻って真っ先に、『四日目の夜』だけは話したイーアン。


 甲板に揃った皆が『そんなに』『それでか』『疲れた』と口々に、おかしな疲労の長さを訴え、時間の経過と体感の違いに納得したのが、さっき―――



「テイワグナ戦も実は三日、だったよな」


 欠伸を押さえて呟いたタンクラッドは、『でもあの時は体感疲労で気づいた』と今回の異質も伝える。


「今回は分からなかったな・・・ あの大陸の影響は乱れがでかい、ってことか」


「ヤロペウクが教えてくれなかったら、私も全然ですよ。男龍たちはあまり気にしていないから、時間の話も出ませんし」


 開戦の朝から、一日で終わったと思っていたものが、四日分。腹が減っただ何だと、報告の合間に挟まるのでロゼールも簡単な料理を出して労う。


「少し作っておいたんですが、材料が傷んでるの多くて。カビも生えてたし・・・これでは足りないですよね」


「あるだけ有難いのだ。ロゼールが作ったなら美味い、と期待しかない。お前が戻って良かった」


 ドルドレンはロゼールに感謝し、食堂に取り皿と二品の料理を運ぶ。

 水があんまりきれいじゃないと気にするロゼールに、イーアンとタンクラッドがトゥに真水を頼みに行き、水とついでに『食べるものが必要なんだろ』と、トゥは料理も持たせてくれた。


 礼を言って、甲板から持ち戻る間、タンクラッドは『早く出してくれてもいいのにな』と本音を呟き、イーアンは彼がトゥに慣れたと思った。彼らの関係はそれでいい気もする。

 今回・・・『異界の精霊に頼り過ぎない』なんて、言っていられない事態だった・・・ 空腹を満たす料理の皿まで出してくれたトゥに、イーアンは心でお礼をもう一度。


 食堂で待つ皆に、水の樽と料理の皿を渡し、ロゼールの作った嵩のあるサーン料理と塩漬け野菜と乾物の和え物、トゥのくれた腸詰め数十本と、白身魚と卵の焼き皿で、夕食にする。



「まずはドルドレンの話を」 「疲れてるだろうがイーアンの」


 食卓について、ホッと一息。目を見合わせたイーアンとドルドレンが微笑み合って同時に互いの話を促し、止まってちょっと笑う。けほっと咳払いしたイーアンは、ドルドレンに『俺は後でも』と先を進められて了解した。


「イーアンの話は、ヤロペウクの情報がある。大陸のことも。今、話せる分で良いから」


「はい。そうですね。ヤロペウクからの情報はすぐにでも共有したいと思います。四日間の時が流れていたこともですが・・・ 」


 ロゼールが取り皿を分け、オーリンとシャンガマックが水を配る。獅子はシャンガマックの足元にどさっと寝そべり『さっさといえよ』とぼやき、それはシャンガマックに注意された(※『そんなこと言わないでくれ』と甘めに)。


 やりにくいお父さん付きではあるが、お父さんが一緒の席は貴重。獅子も至る所へ顔を出すから、彼の情報は自分たちと違うのをイーアンも分かっている。だから、可愛くない獅子に『もしあなたが知っていることもあれば、付け足してほしい』と先に頼んだ。獅子は碧の目をちらと向けて、返事なし。


 苦笑するシャンガマックに『話して』と促され、女龍はヤロペウクの話を伝える。



「彼は、世界中の白い筒を龍族が対処したら、時空の乱れは終わると言いました」


 世界中?と驚く視線が集まったが、女龍は『私も知らない』と首を横に振る。


「そもそも時空の乱れは、あの大陸で扉が開いた影響です。この乱れが終わると、終了の鐘が合図で鳴り・・・ 」


 皆が目を見合わせる。イーアンも頷いて『凄まじかったですね』とだけ足し、一呼吸置く。食事中だけど。これを言ったら、絶対、伴侶やシャンガマックが反応すると思うけど。じっと見ている皆さんを見渡して教えた。


「終了の鐘が鳴ったら、治癒場の人たちが()()そうです」


「何?」 「え。今?」


 ほらね。思ったとおり、騎士二人は食事の手を止め、イーアンは座るように言う。

 今すぐいかねばとか、食べている場合ではとか、本当に想像通りの反応をする伴侶とシャンガマックを宥め、シャンガマックは獅子が引っ張り、ドルドレンは親方が押さえた。


「ドルドレン、イーアンがここにいる時点で、焦らなくて良いと思わんか」


「そう、そうだが、でも」


「タンクラッドの意見を尊重して下さい。ドルドレン。私もこれを聞いて『すぐじゃないのか』と気になったのですけれど、ヤロペウクの話によると、治癒場に連れて行かれた人たちは少しずつ戻されるようで、最初の一陣が合図直後だそうです。

 そして、世界のどこに戻るか、それは分かりません。なお、私たち全員が懸念する『()()()()()()()』の環境及び状況について、精霊が何もしないことはない、とも言っていました」


「あ・・・ では」


 褐色の騎士と総長が互いの顔を見て、イーアンは頷く。


「精霊が連れて行くことを計画し、戻すのだから、と。だから疑わないように、釘を刺されています。私も疑っている訳ではありませんが、如何せん、人間と感覚が違う精霊の配慮ですし、そこは手を打ちたいとヤロペウクに相談しましたところ」


「なんだって?ヤロペウクも、人間ぽくない感覚に思うぞ」


 親方の遠慮ない言い方にイーアンは苦笑いして『彼は優しいですよ』と前置きし、私がイングたちと世話に行くのは止めなかったと教えた。

 ルオロフはそれを聞いて、ホッとする。うんうん相槌を打ち、目が合って微笑んだ貴族に、イーアンも『この後、出かけます』と予定していることも言う。これでドルドレンたちも少し安心。


「世界中ではないでしょうけれど、ティヤーはボロッボロですから・・・イングにも打ち合わせ済みです。再現できる範囲で、家屋や生活のしやすい環境は再現を試みます。

 そしてですね。十二の面についてもヤロペウクに話したのですが」


 ハッとしたシャンガマックが、『そうだ、バサンダも』と言いかけて黙る。イーアンは『これも好きにするよう言われている』と先に結果を伝えた。


「ヤロペウクは、今は休めと言いました。だけど何もするなとは言っていない、と。私たちが数日間ぶっ続けで動き回っているから、彼は心配してくれたのです。

 だから、今は少し休みましょう。私たちが数時間の休憩を取ったとしても、一日休んで間を置くにしても、世界に戻され始める人々を案じることはない、とそういう意味も含んでいると思います」


 そうか、と男たちは納得する。『確かに数日分使い果たした気はする』と、腸詰めをむしゃむしゃ食べる女龍に、ロゼールはサーン料理のおかわりをあげた。



 シャンガマックは、バサンダが戻っているかもしれないと気になり、食べ終わったら出かけようと考える。

 思考筒抜けの獅子は、息子がそうなりそうだと思ったので、イーアンめ余計なことを、と文句をぼやきかけ、息子に『あとでテイワグナへ』と耳打ちされた。


 バサンダが連れて()()()()()()()と知るのは、もう少し後で・・・・・



「ヤロペウクの情報に関しては、以上です。私の報告をします。人々が移動する前に、私は飛び回って()()()()、最初の時空亀裂に気づいてから、まずは男龍に白い筒の対処を頼みに行き、それからセンダラと行動を共にしました。

 イングたちが、動力を探して倒し続けて下さったので、私とセンダラで亀裂の対処です。この途中で、ザハージャングを下ろす話が男龍から来ました。私も大陸へ行く一人でしたから、いつ行くのだろうと思っていたのだけど、ザハージャングが来る前に大陸へ向かったら、無事に着陸しまして。

 ラファルとエサイと合流し・・・ザハージャングが大陸に入り、そして、馬車の民が率いる世界の人々の大移動を見送りました」


 ドルドレンを見た女龍につられ、皆も彼に視線を向ける。ドルドレンは思うところたくさんあるが、小さく頷いて『今は詳細を訊かない』と断り、話を促した。イーアンも微笑んで『あとで話します』と答え、それからの行動を報告。


「大陸を出てからは、白い筒の対応と、魔物退治、あとは『魔物の門』潰しですね。亀裂で利かない規模の通路が開くと、それは私やタンクラッドやセンダラでもないと難しいので、かかりきりでした」


「終わり?」


 あっさりした後半報告にオーリンが尋ね、イーアンも「終わり』と頷く。物凄い大変でしたよ、とは付けくわえたが、詳しい説明はやめた。聞きたそうなオーリンがじっと見ているので、イーアンは『あとでね』と素気なく切る。


「他の皆さんの報告もあります。今は、『何があったか、重要なこと』だけで良いでしょう」


「業務的なんだよな、君は」


「何言ってるの。では、ドルドレンの報告をお願いします。いつ空から戻られました?」


 オーリンを往なした女龍はドルドレンに報告を頼み、ドルドレンも『()()と、はっきりしないのだ』と先に言う。



「だが、ビルガメスから許可が出たのが午前だった。時間については、どうやらかなり曖昧だったようだから何とも言えない。

 早く地上に降りなければと毎日思っていたから、許可が出て即出発した。とは言え、俺が降りた時はもう、真っ只中の雰囲気だ。人っ子一人いないティヤーを、龍で移動しながら魔物を見つけて倒し続けた。イーアンたちはとっくに忙しくしていると思い、俺は連絡をせずに移動しながらの合流を願っていたのだ」


「んまー・・・あなたらしいけど~ 仰って下さいな。迎えに行くのに」


「そう言うと思ったから、遠慮した。だがイーアンを呼ぼうとしたよ。皮肉にも、地上で妙な木製人形を倒した際に」


 木製人形、の一言で、ルオロフとイーアンの目が合う。それぞれの視線が交差し、ドルドレンは『あれは魔物か?』と少し質問。


 違いますと答えたルオロフが、『僧兵ラサンの情報で証拠集めをした日に、ご報告した動力(※2564話参照)』と遡って教えると、ドルドレンも思い出した。


「ああ・・・それか。俺が見たのは、中に人間が」


『そうなのです。サブパメントゥの技で、人を取り込むようになって』とイーアンが添え、ドルドレンの眉根が寄った。


「そのサブパメントゥが、『煙』の者だろう。俺はそれと会った」


「また?」


 驚くイーアンに、ドルドレンは無事に回避したことと、人型動力を操るのがそいつだと自ら言われたことを話し、危ういところを間一髪で『精霊の檻』出現に助けられ、それからすぐにポルトカリフティグが来てくれたから、帰船まで彼と一緒だった・・・と伝えた。


「『煙』のサブパメントゥは逃げたため、倒していない。ポルトカリフティグに、人々が移動した後であることも聞いた。精霊の檻が立ち上がった後、二度目の人間回収が起こるとも聞いたが、それは行かなくて良いと。残った危険な人間と魔物退治だった」


 危険な人間・・・ ドルドレンは精霊ポルトカリフティグに、大まかに伝えられた分しか知らないが、少し話を切って溜息を吐き、水を飲んでから『嫌なものだ』と呟く。


「だが、見極めはポルトカリフティグがしてくれたから、万が一にも間違いで切ったりはしなかった。ティヤーは心をやられる決戦、その後腐れがある」


「その話も、後でします。『念』というのが送り込まれたので」


 ラサンみたいな、と加えた女龍の一言に、勘の良いドルドレンはピンと来る。後で話してくれと頼んで、ドルドレンも報告を終わりにした。


 総長の報告を聞きながら、黙っていたルオロフがちょっと時計を気にする。スヴァウティヤッシュが話していた『勇者のところにこいつが行った』・・・あれは、その時か、と察した。で、ソワソワもするサンキーのこともあり、ルオロフは挙手。


 食事を食べ終えたルオロフに、ロゼールが『まだありますよ、食べて』と進めたが、ルオロフはトゥに食事を貰ったのもあって(※個人宅で食べた)腹は大丈夫。それよりも。

 ちらっと見た鳶色の目―― 剣職人と目が合い、頷かれてルオロフは『私の報告を先にしても良いか』と皆に尋ねた。



「はい。話して下さい」


 イーアンが了解し、他の者も急ぐ気がないのでルオロフの番に。ルオロフはとりあえず優先すべき、気の毒な鍛冶屋の安全を相談した。


「サンキーさんの家の守りを、強化できませんか?」

お読み頂き有難うございます。

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