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魔物資源活用機構  作者: Ichen
二の舞台『浚渫』
2860/2953

2860. 魔物と死霊の要 ~④ドルドレンの忍耐・勇者因縁への再通告・オーリンの片付け・ミレイオと船室の辞書

 

『一つの国に二万頭、はどうなったんだ』と、時の剣で大量に魔物を倒すタンクラッドがぼやき、常に側にいるダルナは『そんなことを当てにしてたのか?』と、何てことなさそうに倒す。


 彼らは飛んで移動するから、島の内部で留まることはあまりなく、死霊と魔物の海沿いを巡り、イーアンたちの取りこぼしを片付ける役回り。


 だから、タンクラッドがぼやいたところで、こちらの方が()()()()()



 精霊のトラと動くドルドレンは、陸地で出くわす死霊まがいの魔物と、不意に姿を見せる動力を倒すのだが、陸だと()()にも剣を向けなければならない。

 ポルトカリフティグに『()()は世界に選ばれなかった者』と教えられると・・・ 鉢合わせて、襲い掛かってくる・逃げる―― どちらの行為を取ろうが、その相手を切った。


「アイエラダハッドで、散々斬った。だが、ここでもとは」


『念』のついた人間は、襲ってくる攻撃的な輩ばかりでもなく、騎士然としたドルドレンの姿に背中を向けて一目散に走り出す人間もいる。逃がすことが出来ない状況、嫌でも・・・追って、相手の背中を切りつけた。逃げる相手を切り殺すなど、それも更に嫌だった。


 アイエラダハッドとの違いも辛い。彼らは人間そのもの。血も肉も骨も内臓もある。確実に命を奪わなければ、悲鳴も呻きも痛みも続くので、ドルドレンに出来ることは、一撃で倒すくらいしか。



 倒れた人間は、消えるわけではない。切られた体は生々しく転がり、絶命した格好で地面に血が広がる。死ぬと、頭の脇から()()()()()()()()()が抜けるのを何度か見たが、死体がどうなるものでもなかった。その白い紐もまた、宙に揺らいで間もなく消える。


 勇者が人間を切ることに否定と疑問が渦巻くが、これを世界が望み、大勢の人々を逃したのだと知っている以上、精神的に厳しくても、黙々と実行する。


『檻にかからなかった者を倒せばよい(※2852話参照)』ポルトカリフティグはそう言ったが、まさか人間も含まれているとは思わなかった。これについては、『排除されるに()()()()()人間』と短い説明をされ、悪人かと問い返すと、トラは頷いたので、受け入れるよりなかった。


 あれ以降、サブパメントゥがドルドレンの側へ来ることもなく、ポルトカリフティグは側から離れないので、今のドルドレンにとって、これは救い。まだ仲間の誰にも、自分が戻ったことを伝えていないが・・・皆も同じように戦っているのだし、ポルトカリフティグも付き添ってくれるのだから、終わるまで耐えねばと思う。とはいえ。


 斬った人数は片手の数だが、数ではない。これまでで、一番苦しく感じる.



『ドルドレン』


 トラに呼びかけられ、ハッとして目を合わせる。背に乗せてもらい、次へ移動する間に辛さで心が埋まってしまう。歩く足を止め、大きな頭を傾けて勇者を見つめたトラは、別の重荷を増すと分かっていて伝える。


『お前がこの国に入り、お前を追うサブパメントゥに遭い、空へ避難したが。先ほどの追跡で、次の国も付きまとうのは目に見えている。あれは、消滅を免れて勇者に忍び寄る、対と試練』


「・・・うむ」


『龍と、異界の精霊に、サブパメントゥは多くを倒された。それでも尚、あれはお前を探す。アイエラダハッドで襲われた日から、今日を越え、これからも。お前が最後の戦いに挑むその時まで、あれは付いてくるだろう』


 黙ったままの勇者に、『私も側にいる』と付け加えて、トラはまた歩き出す。



 ポルトカリフティグは、アイエラダハッドでドルドレンが『呼び声』に絡まれた現場を知らないが、あとから聞いて、それを思っていた。

 あれで終わりではなく、ドルドレンを悩ませる個人的な問題の始まり、と(※2391話参照)。


 勇者とサブパメントゥの因縁は、ドルドレンによって勝敗を分けられる。どれほどサブパメントゥが激減し、残りが数人になったところで、いつの時代でも勇者を(そそのか)し、手中で操ったサブパメントゥたちは、恐らく残る。


 ドルドレンは、なびかないが―――


 過去の勇者に付きまとったように、勇者を惑わすサブパメントゥたちは今回も、ドルドレンに罪を犯すよう手引きする。それを私がどこまで止めて良いのだろう。


 護ろうとは思うが、運命の決着に手出しは出来ない。関与できる限り、ドルドレンの無事を導くにしても・・・


 例え、専属の精霊とは言え、世界が決めた『勇者因縁』には立ち入れないことを、ポルトカリフティグも寂しく思った。



 *****



 船にいたオーリンも・・・異界の精霊の大亀が、アネィヨーハンを守ってくれているので、『俺も戦ってくるよ』と頼み、小龍骨の面でアマウィコロィア・チョリア付近の敵を倒しに出た。


 ガルホブラフを休ませている間、精霊の祭殿でもらった小龍骨の面に助けられる。これもいつまで使えるんだろうなと、使用期限を気にしながら島から島へ飛び、オーリンは魔物ではない相手を意識した。


 魔物は、アマウィコロィア・チョリアから遠くの沖に気配を感じるが、そちらは誰かが倒しているようで、思うに異界の精霊。空に見慣れない光や物体が、パーッと現れて炸裂するなど、異界の技を感じさせる光景が小さく見えた。だから、そちらには行かず。


 自分は、『うろついてる人間』が相手。


 幾つかの島を回り、一人二人見つけてそう思った。明らかに、()()()()()()()()輩で、血が付いていたり、風貌に合わない衣服や武器を備えていたり、目が危険しか帯びていない。誰かを襲ったと思わせる風体、犯罪の名残が、体を取り巻いている。



「俺は島担当だから、これか」


「魔物だ!くそっ」


 小龍骨の面は、オーリンの姿を変える。オーリンを見た人間は、『魔物』と判断して武器を向け、一匹しかいない魔物(オーリン)を攻撃・・・オーリンは直感で反撃し、相手を海に運び、片づけた。


()()()()()を片付けるんだろうな」


 抵抗もあるが、勘は良い。人が9割以上いない世界でこんな人間が残っているなど、世界が生かしておく気とは思えない。

 気分は乗らないにしても実行するオーリンは、他の者に比べて割り切りも早いから―― 自ら、まだ残っていそうな悪人らしき人間を探し、見つけたら捕まえる。



「こっちだって、気分は良くないんだ」


 オーリンが変化した小龍の足の鉤爪は、悪党の肩に食い込んで、暴れる人間を吊るし、沖で落とす。

 じゃぼっ・・・と、下で水飛沫が上がるのを見るだけで、オーリンはさっさと帰るため、白い紐が出てくるところまでは知らない。


 ここでも、倒された悪党から離れた『念』は、宙に出て数秒もしない内に消える。

 宿主を失った寄生虫のように、その身体を持たない思念だけの存在は、次へ行く当てもなく消滅の一途を辿った。



 *****



「シュンディーンが戻ってくるまで、同じ場所にいるのも」



 空を見上げ、浜で倒した魔物を消してから、ミレイオは黒い船へ戻る。


 精霊の子に役目が振られ、彼を送り出した後のミレイオは、何にも・誰も、全く見えなくなった島で少し留まって、片付けを続けていた。意味なんてないのも分かっていたけれど、すぐに離れる気になれなかったから。



 ―――カーンソウリー島まで船を入れたものの、最後の船員も消えた。


 港や岸に打ち上げられた漂着物や魔物の死骸を、シュンディーンと一緒に消していたところ、魔物がなぜか増え始めて、それを倒し始めてすぐ、シュンディーンが親の精霊に呼ばれて出かけた。


 人や動物がいなくても、魔物が増えたら誰かが倒さないといけないのだし・・・ そう思って、ミレイオは目の前に出て来た魔物を倒していたが、徐々に、力が。


 さっさと引き上げて船に戻るなり、サブパメントゥで回復するなりも過ったけれど、出来るところまで頑張ろうと、無人のカーンソウリー島の片隅で魔物退治。そして、限界近くなった。



「お皿ちゃんの龍気って、無限に思えるわね。地上に龍気がないのに、考えてみたらずっと地上で飛んでくれるんだものね」


 背中に掛けたベルトから、白い板を抜いて飛び乗る。お皿ちゃんは無口な相棒で、ミレイオの独り言も分かっているように(※分かってる)『とりあえず、船に戻るわ』の呟きに合わせて飛んだ。



 オーリンと離れてから、一度だけイーアンの連絡があった、それだけ。オーリンはニダと船にいるらしいが。


「さすがに、もういないわよね。あの子だって、連れて行かれる対象だろうし」


 そうであれば、オーリンだって船に残る理由はないはず。クフムも、もういないだろうなと・・・少しそれを過らせて、ミレイオは黒い船の影を見つけ帰宅したみたいな安堵を覚えた。


「戻れる場所って大事だわよ」


 ね、とお皿ちゃんに同意を求める。お皿ちゃんもちょっと揺れる(※肯定)。フフッと笑い、屈んでお皿ちゃんを撫で、ミレイオはそのまま甲板へ滑り込む。異界の精霊の大亀が船の左右に見え、船縁から身を乗り出して彼らに挨拶。黄色い光を灯した目が反応し、お礼も伝えた。


 それから―――


 甲板から、昇降口を振り返る。船を襲う者はいなかったのか、それとも、異界の精霊が全て撃退してくれたのか。船は傷一つなく、昼近い空の輝きにいつも通りの黒光りを放つ。


「アネィヨーハンは、黒い龍の船。いろんな力で守ってもらってるのね」



 ふーっと息を吐く。皆から何も連絡がないから、多分、戦っている・・・ 私はちょっともう、一度回復しないと無理。


 まずは船内の状態を確認してから、サブパメントゥに入ろうと思って、ミレイオは中へ入る。やはりオーリンもニダの気配もない。無論、クフムも。


「クフムの部屋・・・片付けなきゃね。彼、持ち物はなかったけれど、紙束とか、しこたま買い込んでいたし。丁度良い箱でも見つけて、しまっておかないと、インクに虫が来る」


 船室から連れて行かれただろうと、見当をつけていたミレイオは、クフムの部屋の扉前で止まり、一応、ノック。当然、応答なし。扉を開けると案の定で、窓が少し開いた寂しい空っぽの部屋だった。


 机の上には山のように紙が積まれ、椅子の両脇にも、紐で軽く綴じた同じ大きさの紙束がある。


 インク壺の蓋が開けっ放しで、乾いたインクが瓶口から捲れあがっていた。ペンが椅子の足元に転がり、連れて行かれる直前まで書き物をしていたのが分かる。ペンから垂れたインクは、焦げ茶の木の床に薄っすら染み込んで、それも乾き切っていた。


 ミレイオは彼のペンを拾い上げ、机の上に戻す。

 何を書いているのかなんて、聞いたこともなかった。質問や雑談は少な目だったな、といなくなったクフムの書き残した書類を、ちょっと手に取る。パッと見て何が書いてあるのか分からなかった、その理由を知った。


「これ・・・辞書?あの、指差し会話帳みたいな・・・ え、全部そう?これ、全部?!」


 気づけば、海賊言葉とティヤー語と共通語の全てが、紙にあると知って驚愕する(※2792話参照)。さらに、机の壁側に寄せられた、枚数の少ない束には絶句した。


「ハイザンジェルの言い回し?これ、子供の話言葉じゃ。あ、もしかして、イーアン?イーアンのために?」


 うわ、と驚きが増した瞬間、ミレイオは涙腺が緩む。『下手に動いたら殺す』と言われ続けたクフムは、イーアンのためにもこんなことをしていたのかと知って、目を拭った。


 共通語だけで書かれた単語の上に、喋り言葉が少し大きめではっきりと記されている。それから、共通語の横に、ティヤー語や海賊言葉が添えられていて、同じように読み方が並ぶ。

 そもそも共通語が読めなければならないのだが、文字を少ししか覚えていなくても読めるように、分かりやすいよう、文字間に横線が入っていたり、大文字と小文字で識別する流れがあり、ページ脇の欄には、見慣れない文字らしきものも添えてある。


 口元を手で押さえたミレイオは眉根を寄せ、この細やかな配慮に涙が落ちた。



「言いなさいよ・・・一人で抱え込んで。あんたったら・・・ 」

お読み頂き有難うございます。

ティヤー決戦が終わりましたら、数日お休み頂こうと思います。

読み直して流れを整えて、次のヨライデへ備えたいです。


あまり決戦らしくない流れですが、物語全体の境目なので、今後に焦点を当てて進みます。どうぞ宜しくお願いいたします。

いつもいらして下さる皆さんに、心から感謝しています。

たまに、最新話にイイねや笑顔マークを下さるのもとても嬉しいです。お気遣いありがとうございます。


Ichen.

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