表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
二の舞台『浚渫』
2857/2954

2857. 魔物と死霊の要 ~①騎士と獅子・『世界の魔物拒絶』を・『一枚』の回復、目玉

 

 剣を抜き払ったシャンガマックは、獅子と一緒だが。



「お前は()()()動くな。側へ来たら切れ」


 獅子に命じられ、おう、と答えた騎士。

 黄泉の国の蓋でも開いたか。魔物が湧き、それらはシャンガマックの足元から腕を伸ばす。僅かな魔の要素を持つ、殆ど死霊の見た目。腐り、汚れ、臭い、崩れている人間じみた姿の魔物が、虫の如く砂浜から湧いて止まらない。


「大顎の剣が龍属性だから、当たるだけでこれらは壊れるが・・・なんて数だ」


 シャンガマックのすぐ側が波打ち際。立つ砂は水に濡れていないが、ほんの1mも下がれば水、その3mほど先が遺跡で、精霊の絵まで至近距離だというのに、死霊まがいの魔物はバカなのか何なのか。全く気にする感じもなく、ただただ、砂の下から湧いてシャンガマックに群がり、切られて崩れて消える繰り返し。中には、自ら波の端へ入って、精霊の光で勝手に消滅するのもいる。


 普通の魔物だってちょっとは・・・寄り付かない、などありそうなものが。


「鬱陶しい」


 人間よりやや大きい魔物は、見た目も酷いが臭いもきつい。切れば即消え去るものの、数が多くて寄ってくるので、シャンガマックの剣を振るう腕は止められない。

 剣で済む分、魔力を消費しなくて良いが、『早く終われ』と願う。



 シャンガマックは気付かないけれど、アピャーランシザー島の浜続きで時空亀裂が生じたことにより、この魔物の出現。閉じない以上は、終わらない。


 だから、気づいたヨーマイテスは息子への説明より早く駆け出し、水中のファニバスクワンの絵付近を息子に任せ、他を片っ端から倒して時空亀裂へ向かっている最中。


「存分に暴れろ、で良いんだよな」


 思ったとおり(※2819話参照)―― 人間に気を遣うこともない。出てくる魔物を、どんな手を使っても倒して良い時間が始まったのを感じる。


 死霊憑きの魔物は、一方から強い気配を生む。獅子はその気配を辿って時空亀裂を探し、水際から浜を覆う魔物の群れを蹴散らしながら、サブパメントゥの真っ黒な影を引っ張り上げ、宙へ(ほう)った。


 備わる能力は、魔法に似る。影は獅子の力の一つで、晴れも光も関係なく大きな獅子の頭に変わり、急旋回して魔物に食らいつく。イーアンの使う鱗『龍の風』のように、ヨーマイテスの影の風が、午後の日差しの真っ只中を、生きる黒雲の如く縦横無尽に巡る。


 黄泉の国の蓋でも・・・ そう思ったのは、遠からず。



「あれか」


 面倒だなと、不自然な角度で裂ける宙の切れ目を見つけ、獅子は人の姿に変わる。出てくる魔物は、魔物の体だが、その真下に油膜じみた死霊が海面で待機して、宙から落ちる魔物に入っている。


 魔物を待ち構えて動く死霊・・・ 人の姿のヨーマイテスが両手を砂に置き、死霊の入った魔物が飛び掛かるその一瞬。ヨーマイテスの口が呟いた、命令。


 砂は割れ、闇の世界の一部が拡がり、浮いた亀裂まで伸びた影が亀裂も魔物も死霊も、丸ごと吞み込んだ―――



「大技は何度も使う気になれないが、サブパメントゥの闇に勝る『黒』は、()()()()()()()


 光の下でも、その黒は何一つ反射せず、飲み尽くしてまた砂の下に戻る。


「お前らがどんな『暗がり』を住処にしていようと。サブパメントゥの『黒』に、お前らは勝てやしないだろう」


 こっから先はこんな対処だらけだと呟き、ヨーマイテスは獅子に変わって、一人応戦する息子の元へ急いだ。



 *****



 難しいことは考えられない頭で―― ずっとそう言っていた、アソーネメシーの遣い。


 これが、そうでもない。

 脳みそなどの臓物を持ち合わせるわけでもないし、過去に前世があるわけでもない、ちょっと特殊な存在ではあれ、存在があるからには意思も心も考察も備えている。


 彼は、自分の雇用者たる精霊と音信不通状態で、どう動くべきか悩んだ挙句、魔物の門が開いて出てくる輩―― つまり、魔物に死霊を取っ付けることに決め・・・アソーネメシーより上の精霊から目を付けられない程度に努力していたのだが、繰り返していく内に『これで正しい』と理解した。



『なるほどな。()()、ということか』


 アソーネメシーから直に命令が下ったわけではない、勝手な行為と危ぶんでいたが。俺がこう動くのも、誰かの計算の内ではないかと思う。


『死霊が、魔物を増やす。俺の行為は助長に過ぎないが、これ自体、()()()()()()()()()一役買った状況に流れ込んだわけだ」


 時空の歪みから引き起こされた、魔物の出口。それが一斉に、この国の各地で開いた。


 最初こそ、点々と微々たるもので、死霊をそちらへ向かわせて混ざりものにし、攻撃の維持をした。

 人間がすっかりいないのに増やすのは、単に『アソーネメシー不在で攻撃の指令が止められていない』ためで、勝手に止めるか・勝手に続けるかの二択なら、自分の保身から後者が妥当と判断したからだった。



 だが、どうも話は、もっと深いところからきている・・・ 


 そう思えたのは、魔物がまるで呼び込まれているように感じたから。死霊には困らないので、行けと命じれば魔物に憑りつき、分裂で数が何十倍何百倍にもなる。


 死霊を含める意味は、もしや『魔物を使う武器』ではと、ふと気づいた。


 龍たち(※イーアン)は魔物を武器や防具に変える。あれが出来るのは魔物だけの場合で、死霊が憑いた魔物は使えない様子。

 この先、この世界の未来に、魔物を()()()()つもりなら―――



 魔物が勢いづき、急に出てきたのも。

 死霊が吸われるように、魔物という魔物に憑くのも。

 そして、死霊混ざりの魔物が使えず、消される一方であるのも。


「世界が、魔物を排除したいんだな」


 いた痕跡すら、残さないように。今を使って削り取れるだけ、削ってしまうように。


 ふふんと鼻で笑った死霊の長は、筋肉むき出しの腕を胸の前で組み、自分が指図する死霊の行く末を静観することにした。死霊は大切だが、世界が使う気なら、抵抗することもない。



 自我より存在意義重視。死霊の長が気づいた『とるべき行為』は恐らく正解。となれば、俺が消されることはない。俺の死霊は、残念ながら昇華されてしまうにせよ・・・・・


『片付けるだけ片付けさせて大掃除が終わったら、また()()()()()()()・・・それを、今度はどう片付けるのやらだ。次はヨライデだったな』



 アソーネメシーの話によれば、この機会(※旅路)は三度目だという。これが最後のような言い方をしていたから、魔物が出るのも三回までか(※2780話参照)。もう、世界は魔物を撥ねつける予定まで進んだ―― そうも思えた。


『死霊は、お好きにどうぞ』


 俺は歯向かわない・・・ 


 直感が正しいなんて裏打ちはないけれど、少なくともこれは一種の天啓に似て、アソーネメシーの遣いが世界の流れに気づき、従う意向を見せたことで、彼は存在を守られる。



 *****



 石の手枷が導く(※2836話参照)―――



 サブパメントゥの『一枚』は、ロナチェワを殺した僧兵たちを探し出し(※2835話参照)五名の内、四名はその日に殺したのだが、もう一人は。



『ロナチェワ・・・お前に見せてやろうと思ったが』


 力の消耗が早く、追跡途中で手枷も落ちたと気づき(※2855話参照)『一枚』は少し引っ込んだ。静まり返った空間に。



 どこまで真に受けて良いか、怪しい話だった、ここ。

『コルステインから、領域の一画を得た』と仲間に連絡を受けたけれど(※2838話参照)、その時は追跡中で行かなかった。

 あとから行ってみたら、仲間もコルステイン側の連中もいない、がらんどうに出た。


 境目にはコルステインの印が置かれ、その内側が許可された状態で、『一枚』は誰の気配もない場所に、一人佇んで回復する。


 地上の影を伝い、海底を進み、あの大陸近くの海の底から入ったサブパメントゥの一部。(ねぐら)と比べられない狭さではあれ、力を戻すには問題ない。


 気になったのは、他の仲間がいないことくらい。これほどまで追い詰められたのかと、回復中は終始それで意識が埋め尽くされ、コルステインが()()()この場所すら憎く思った。



 コルステインが騙した―― とは思わないのが、サブパメントゥらしいところ。


 騙すことは、嘘を示す。

 コルステインの頭の悪さは、誰もが知る有名な話で、会話すらままならない認識。騙すなど高度のことを、あのコルステインが到底できようはずもないと決めつけている。そして、嘘も使えない種族だけに、()()()()となれば、状況の先を見越して言葉で操るため、ますますコルステインには無理・・・ そう、『一枚』も捉えていた。


 実際には、コルステインは騙した形を取ったのだが、これはコルステインが思いつく事実のみを実行した結果であり、誰一人気づかなかったのは、コルステインに騙す気がなかったのもある。



 そうして、回復のために来て、終始一人で過ごした場所を『一枚』は出てゆく。

 回復しきったかと言えば、そうでもないが、いつコルステインに攻撃を受けるか知れない。攻撃しないとは()()()()()()()のだ。


 なぜ一部を開放したのかも、詳細を知らない以上。

 それに、『コルステインに塒を叩きのめされた』と聞いた以上は、これまでと同じようにサブパメントゥを使うのも難しい。

 真相の情報は、どこからも入ってこない。


 ある程度の力が戻った『一枚』は地上へ上がると、昼でも影の濃い岩の合間で、ぬるっと腕を出した。黒い膜が付いた幾つか指のある手を開く。そこに、人間の目玉が一つ。



『どうにか、な。まずまずだ・・・あと、()()


 ロナチェワに話しかけ、短く回復を告げてから、手をまた体に戻す。サブパメントゥで回復するのも、コルステインたちにやられるかどうか、賭けのようなものだった。無事に動けるようになったが、ここからまた温存しなければいけない。


 だが、ロナチェワの目に約束した『お前を殺した僧兵を、殺してやろう(※2836話参照)』の言葉を実行するべく、『一枚』は影を移動し始めた。


 目印の『石の手枷』はないが、そんなもの無くても―――



『ロナチェワ。お前の血が、俺に知らせる。そうだな?』


 その目に焼き付ける暇もなかっただろう。振り向いた瞬間に打たれたか、振り向くことさえ間に合わなかったか。

 だが、お前の頭にめり込んだ手枷は、それが付いた腕に傷を作り、お前の血を染ませたはず。


『教えろ。目玉だけになっても、俺に話しかけるんだ』


 眼球一つを材料に、こいつをサブパメントゥに変化させてやれるか・・・ 音もなく影の下を動き回る『一枚』は、自分が管理した人間の死を、まるで自分が負けさせられたように感じて、それを与えた僧兵を殺したら。


()()()()()()()()。今、俺にどこまで作る力があるか。お前を俺の家族に』


 家族にして、頭数を増やすのも悪くないだろうと思った。


 手の平で、目が動く。感触ではなく、そこに宿る最後の存在が。サブパメントゥに呼び起こされた、消えかけの存在が引き留められて、『一枚』の手の内にぞわぞわと動きが伝わる。


『いたぞ』


 目玉の反応をしっかり受け取ったサブパメントゥは次の影を抜け、水際に寄せたばかりの舟、その裏側を掴んだ。


お読み頂き有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ