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魔物資源活用機構  作者: Ichen
幕間『散るも連れるも』
2851/2954

2851. 一日分報告②『タンクラッド・ルオロフ』・勇者と被害者と人型と、『煙』

 

【タンクラッドとトゥの報告】


 トゥは、ほぼ、タンクラッドと一緒だったし、タンクラッドと離れた時間に起きた出来事も聞いたばかり。


 話す前に一度だけ、トゥは当たりを見回し、二つの首を高く掲げて茂る木々の枝に頭を隠したが、何の意味があったか、すーっと二つの頭はを下り、主と女龍と貴族に()()話し始めた。



「俺は決戦前から、サブパメントゥを焦らしていた」


 なんとなくそうではないかと思うイーアン。ルオロフは静かに耳を傾け、タンクラッドはトゥの前脚に寄りかかる。


 トゥはタンクラッドに、人型動力や魔物対抗道具配布を切り上げさせた、そこから話す。切り上げさせたというと強引だが、『相手が受け取る態度じゃなかった』とタンクラッドが添えた。


 それから、双頭の龍と思い込む古代サブパメントゥの追い回しに付き合い、たまに会話に応じてやっては姿を消し、これを繰り返した。他、タンクラッドと共に魔物退治もしたし、必要なら人間に食べ物も渡した。

 決戦前、()()サブパメントゥがタンクラッドを攻撃。これは予想のままで、タンクラッドを守り、トゥはサブパメントゥに明け方来るよう言い渡した。


 そして、約束の時間に集まったサブパメントゥを地下へ戻し―――



「魔法が・・・通じたのですか」


 サブパメントゥの世界の一部とはいえ、トゥは魔法を使い、残党を殺し合わせる幻覚に包んだ。イーアンは驚く。その時間、数分数十分の話ではないようで、潰滅寸前。


 質問は後だ、とタンクラッドに言われたイーアンは頷き、トゥは結果だけを伝える。


 スヴァウティヤッシュとコルステインから、地下の報告を受けた後、タンクラッドを連れて魔物退治。次はザハージャングが来るのを待ち、女龍から回ってきた『幻の大陸に降ろす』ことを知った。


 タンクラッドは船に戻されたが、船に誰もいないため、龍のバーハラーと共に魔物退治へ。

 ルオロフを探し、隣の島にいた彼と会い、クフムが消えたことをここで共有。タンクラッドはルオロフと、アマウィコロィア・チョリア一帯を動き回り、人型動力・魔物を倒し続けた。その頃、トゥは。



「俺は、ザハージャングが来るのを待った。現れて、あいつを地面に落とした」


 じっと見ている女龍の鳶色の瞳と目が合い、トゥは『お前が見た通り』と頷き、ザハージャングが門番として固定された結果を経て、トゥは帰り、魔力を補充するため、主に一声かけて離れ・・・ 補充し終わって迎えに行き、ルオロフとタンクラッドを連れて()()にいる。


「今のところ、世界にも龍族にも()()()()()()()()()()な。咎められるなら、いつどうなるか、交渉したいもんだ(※2793話最後参照)」


 トゥがイーアンに呟き、イーアンは少し引き攣った苦笑い。ルオロフは笑えない。


 タンクラッドは顔を背けているので、共犯だと思われるのが嫌なのだと分かるが、イーアンはトゥがこの世界にいる時点で、ザハージャングを攻撃し、大陸に落としても、それは『彼らの問題』のような気がした。


 トゥの質問とも分からぬ言葉に、曖昧な頷きを返したイーアンは話を変える。


「もう。残党のサブパメントゥをかなり片付けたから、トゥは先ほど、確認したのですね」


 話す前に彼が頭を上げた行為についてイーアンが尋ねると、トゥは瞬きで肯定し『注意はしておく』と答えた。



 幻の大陸にサブパメントゥが集まったのは、潰滅現場にいなかった者たちで、それらもスヴァウティヤッシュが集め寄せた、とトゥは教え、イーアンに『利用されて嫌だったか』と質問。何か気遣っていそうで、イーアンは首を横に振り『すごいこと』と素直に言う。


「スヴァウティヤッシュは、お前のために動く。イーアン」


「ええ。利用するのは分かっていましたし、想像以上の成果を出すのがすごいと思います。私は頼もしい味方がいて感謝しています」


 業務的な口調だが、イーアンは話を脱線させる気がないだけで、トゥに少し微笑むと、ルオロフに促す。回ってきた番にルオロフが了解し、彼も自分が取っていた行動と、そして()()()()()な問題も話した。



【ルオロフの報告】


 船でクフムといたが、港側で悲鳴や騒ぎを聞き、クフムに船から出るなと注意して船を下り、人型動力を最初に切った。魔物は海から上がってくるため、自分が率先して倒し、動力も自分が引き受けた。


「アマウィコロィア・チョリア島は、サブパメントゥの使う井戸が壊れたと聞いてましたが、どこからか」


 何か別の手で運ばれたとしたら、もっと増える懸念があり、魔物と同時に出てくる以外は、人型を優先して倒し続けた。

『この剣じゃないと雨の中で動力を切れない』とイーアンにまた話し、イーアンも頷く。それでルオロフは、隣の島にも移動した。魔物はまだ出ていたが・・・『人型動力を切る方が辛い状態でした』と一般の人々の苦痛を伝える。


 隣の島へは、イルカに乗せてもらい移動。呼ぶのも気が引けたが、一度だけ頼んだ。この時、ヂクチホスから『残った動物の保護(※2843話参照)』を言い渡され、ルオロフは魔物と動力退治以外に、動物保護も仕事に加わった。


 しばらくして、人々が急に消えた。ざわめきがなくなり、音は雨と風と雷、波の音だけで、連れて行かれたことを知り、残った人たちを見つけては避難するように伝えて回り・・・



「気になっていたことで、今、言わせて下さい。人々が治癒場から出された後、環境の回復と、一人で長期間生きていける状態はあるのでしょうか」


「今回は、かなり難度が上がっていますが、私も手を打たねばと考えています」


 ルオロフに即答した女龍は、彼の心も言いたいことも、痛いくらい分かる。いつも同じことで悩んできた。今回、これまでの決戦後とがらりと変わるのは、減るに減った人口。精神論でどうにかなるもんではないくらい、イーアンも理解している。


 私も気にしていると伝えた女龍に、ルオロフの緊張は解け、少しホッとした顔で『私も力になれるなら一緒に考えたいです』と同意を示した。



 人が減った島でルオロフはタンクラッドに会い、龍に同乗させてもらって、動物の保護や魔物・人型退治で動き回った。


「以上です」


 赤毛の貴族が報告を終えた、この時。

 イーアンは気付かなかったが、腰袋の連絡珠の一つがふわっと光りかけ、光が消えた。その連絡珠は、銀のような灰色のような色―― ドルドレンの連絡珠。


 イーアンが、魔物の門が他でも開いたかもと・・・心配したそれを見た彼は。



 *****



「あれは、俺一人ではどうにも」


 ショレイヤに跨ったドルドレンは離れた場所を振り返り、空中に歪む亀裂と、その下に見えた海岸の地割れに戸惑う。


「魔物の門だとしたら」


 魔物がいなくなっている状況でも魔物の門は関係なく、開けば魔物が出てくると、ドルドレンも覚えている。魔物の世界というのがどこかにあり、そこと直通。だから、ハイザンジェルの魔物が終わった後でも、リーヤンカイ山脈の魔物の門を閉じた(※1086話参照)。


 こんなのを見てしまった以上、ゆっくり仲間を探してなどいられない。イーアンに知らせなければと、連絡珠を腰袋から出したドルドレンだが、握りかけて人の悲鳴を聞き、急いで珠を戻した。


「ショレイヤ、人だ。降りてくれ」


 ほんの僅かしかいない人間の声。残された人たちだ!と焦ったドルドレンに頼まれ、藍色の龍も滑空する。近くにサブパメントゥの気配がしているため、気にしながら龍は地面間近へ接近し、彼を乗せたままにしようとした矢先。



「すまない、ちょっと降りる」


 振り向いた藍色の龍が止めるより早く、その背からドルドレンが断りと同時に飛び降りる。ショレイヤは、前方の木を避けてすぐに上昇。ドルドレンは林の奥に見えた大きな異形の者に走った。


 思いも寄らず、彼と離れてしまったショレイヤはドルドレンの気配を感じられる高さで、林の上で旋回を続ける。

 ドルドレンが地上に降りたことで、急にサブパメントゥの気配が強くなった。ショレイヤは付かず離れず、空から影を落としてサブパメントゥに『龍付き』を示すくらいしか出来ず、とにかく見守るのみ。



 ドルドレンは、地面に倒れた人を襲う相手を見つけ飛び掛かり、シャッと抜いた剣一降りで、大きな木偶の坊を切り払う。木製の頭にだらしなく開いた口から人の顔が覗いたが、躊躇はなかった。


 縦に、一刀両断。バチッと破裂音を立てたそれは勢いで吹っ飛び、地面に転がる。ドルドレンも一回転して着地。振り返ると、腰を抜かした50代くらいの女性が恐怖に引き攣っている。


「怪我はしていないか・・・共通語は、通じるか?」


 ドルドレンが剣を鞘に戻して近づくと、女性は怯えてはいたが頷いて『わかる』と答えてから、何度か唾を呑みこみ、どっと溢れた汗を拭った。ドルドレンが手を伸ばすとその手を掴んで、立ち上がる。が、すぐに腰が落ちて地面にへたり込んでしまった。


「落ち着くまで座っていた方が良いか。あなたの家は、どこなのだ」


「・・・助けて下さったんですね。有難う。外国の人」


「あ。うむ、その。あなたは、家は」


 いつも、誰かを助けていた時のように話しかけたドルドレンは、状況を忘れていた。

 肩越しに見た木偶の坊は、魔物ではない。何の化け物だと、また新たな敵に思うが、人間が中に入っていたことで不穏なものを感じる。

 そして今は、人が消えた後・・・この女性が祝福を受けて残ったのだとすれば、彼女は自分が残った理由を知っているのかどうか―――


 女性は大きく息を吐き、『家は地震で倒れた』と言い、林の向こうに集落の避難所があるため、そこへ行こうとしていた。だが。



「私と主人は、もっと向こうに住んでいました。最後の揺れで家が半壊し、魔物もそこら中にいたので、二人で少しずつ進んでいた。雨が酷く、前の道が水で溢れ、迂回して。主人は私に隠れているよう言い、道を探しに出・・・・・ 」


 もしやとドルドレンは眉を寄せる。女性は泣きこそしなかったが、堪えて黙り、俯いた。『俺が切ったのは、もしかして』と呟いたドルドレンに、女性は手を伸ばし、手首を掴む。ぎゅっと掴んだ女性の手に、ドルドレンがすまない限りの顔を向けると、彼女は『いいえ』と言う。


「あなたは、私も主人も助けたんです。主人は私の声など分かっていなかったでしょう。長年連れ添った私を、殺すくらいなら」


 言葉に詰まった女性は、目にあふれる涙を浮かべて下を向き、『あなたは助けたんです』ともう一度言った。どれほど辛いかとドルドレンも同情する。同時に、この人の感覚から、精霊や妖精に祝福を受けていても変ではないと確信した。



 少し考えて・・・やはり、イーアンを頼ろうと決める。女性を安全な場所に移動させるとしても、その後がどうなるか。地上に戻されたばかりの自分が判断して、間違いに導かないとも限らない。


 これまでの状態を知るイーアンに助言を求めるべきと、ドルドレンが腰袋に手を伸ばし、泣いている女性に『今、()()を呼ぶ』と言いかけた、その時。



()()()いいよ』


 あの、少し嗄れた女の声のような、音がした。ハッとしたドルドレンの灰色の瞳が動き、林の影が重なるそこに、薄く黄色く煙りが揺れる。そしてその後ろに、別の木偶の坊がのそりと現れた。



 *****



 ドルドレンが凝視すると同時に、横にいた女性が倒れる。ハッと振り返ったドルドレンに、黄色く煙る向こうから『運ぶなら手伝う』と聞こえ、ドルドレンは女性を背に隠して立つ。


「この日差しで、よく出て来れるものだ」


 相手に合わせる気はない。脳に話しかける相手へ言葉で返し、ドルドレンは剣を抜く。

 女性はうめき声一つ立てず、死んだように倒れているため、意識を掴まれたと分かるが・・・どうして良いのかドルドレンに分かるはずもなく。とにかく厄介なサブパメントゥを追い払うか、倒す―― 


「ハハッ。俺を?お前に俺が倒せると思って」


 急に声に変えた相手が笑い、現実味を帯びた声はドルドレンの記憶に指を立てるように感じた。このサブパメントゥを恐れる自分の本能を抑え、ドルドレンは深く息を吸い込む。何もしていないのに、例えようのない罪悪感と敗北感がじわじわ湧いてくる面倒・・・・・



「勇者・・・ 今までどこに隠れてたんだ。話してすぐ、逃げやがって」


 近づく相手は下半身が煙に包まれ、腹から上だけが滑るように距離を縮める。辺りを煙に包む黄色に木偶の坊の影が紛れ、そいつもこちらへ近寄った。


 長剣の切っ先を真っ直ぐ、相手へ向けるドルドレン。煙の男は首を大きく左へ傾けて、薄い唇を釣り上げると、片手を背後に示し『あれか?』と木偶の坊への攻撃を確認。


「お前が操っているのか」


「勝手にも動く。お前は知らないんだな。こいつらが飲み込んだ人間を、龍やお前の仲間が容赦なく殺しているのを」


 嫌な情報から入るが、ドルドレンは見当がつく。こんな子供だましの唆しで狼狽えると思われている。だが、本能は狼狽えていそうな感覚も滲み、情けなさで小さく溜息を吐いた。少しずつ、自分と魂の乖離を感じて、別人の自覚に気づくと、調子が戻ってくる。


 答えない勇者に煙は間近まで来て、切っ先に顔を寄せた。


「切れそうだな。堅物のお前らしい、仰々しい剣だ」


「煙など切れまい。切るのは後ろの」


 水平に伸ばした腕は微動だにせず剣を直線で支え、熱を帯びる冠は敵に反応を増す。勇者の冠は、かつての勇者たちに苦痛と裏切りを伝え続けただろう。目の前の相手も、やけに余裕を持って落ち着いているのは、三代目も手の内と思っているからだ。


 ちらと見た灰色の瞳を、しっかり捉えるサブパメントゥ。肌の色も雰囲気も違っていて、それでも同じような顔を持つ相手に嫌悪を改めて抱くドルドレンは切っ先を揺らして相手を下がらせた。


「あれを切る。それからお前と話す」


「俺と話すのに、あれを切る?何を言ってるんだ、あれは俺の味方だ。お前が匿うその女を運んで」


 運んでやれる・・・を言いきらず、煙はぶわっと散る。一瞬でドルドレンが跳躍し、長剣は唸りを立てて木偶の坊へ突き刺さった。刺さった切れ目は、次の一秒で薙ぎ払われて直角に切断。ドルドレンに絶叫を浴びせる中身の人間と共に、木偶の坊が倒れた。


「・・・お前、容赦しないね」


 煙の密度が上がり、背後から聞こえた声にドルドレンが駆け出す。女性を守りに戻るや、さすがにこれは向こうが先。煙のサブパメントゥが女性の真横に姿を出して、倒れた頭に手の平をかざした。


「俺も、()()を壊すことにしようか」


 よせ!とドルドレンが腕を伸ばした時、女性の目がパッと開き、サブパメントゥが微笑み、この瞬間。カッと林を染める光が行き渡る―――


 午前の明るさを遥かにしのぐ光量に、あっという間に煙は消え、光は何十、何百もの柱となってぐんぐん幅を広げ、ものの数秒で周囲を丸ごと包み込んだ。唖然とするドルドレンの脳裏に、テイワグナの記憶が蘇る。


「檻」

お読み頂き有難うございます。


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